人外さんと恋をする〜狼さんは怖くない〜

鈴屋埜猫

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「ビル。今、話したことを自警団の人にも話せる?」
「話、せる……」

 まだ嗚咽を漏らしながらも、ビルはしっかりと頷いた。その頭を撫でてやりながら、メイベルはシャロンを見た。

「シャロンさん、ビルについて行って頂けますか?」
「それはいいけど、アンタはどうするんだい?」
「先に孤児院へ向かいます。子供たちだけで不安でしょうから」

 シャロンはまだ何か言いたげだったが、メイベルの目を見てため息を吐く。

「分かった。旦那に他の男たちにもすぐ向かってもらうよう頼んどくよ」
「ありがとうございます」
「いいかい、メイベル。無理すんじゃないよ?」
「はい。ビルをよろしくお願いします」

 今は少しでも時間が惜しい。辺りはすでに薄暗く、雨の臭いは濃くなってきた。

 まるであの日のようだ、とメイベルはズキズキと痛み出した胸を押さえた。孤児院の子供たちにとってかけがえのない存在だったシスター・モリー。彼女が亡くなったという知らせを受けた日も雨だった。

 草花や農作物にとっては恵みの雨でも、メイベルにとって雨は嫌な記憶を呼び覚ますものだ。足先から這い上ってくる冷たい空気に、懸命に動かす足が絡め取られるようだった。なんとか孤児院の姿を眼前に捕らえた頃、ポツポツと雨が降り出した。数人の子供たちがクラリアの名前を呼ぶ声がする。

「メイ!」

 最初に気付いたのはミーナで、他の子供たちも駆け寄ってくる。不安に顔を歪める彼らを抱き寄せ、メイベルは無理矢理笑顔を作った。

「みんな、家の中に入って」
「でも、クラリアが……」
「クラリアは私が探す。あとで村の人たちも来てくれるわ。だから大丈夫」

 一人ずつの目を見つめ返し、しっかりと言葉を紡ぐ。ここで不安を見せてはいけない。小さな頭を撫で、メイベルは彼らの背中を押した。

「もう暗くなるし、雨もこれから酷くなるわ。風邪ひくわよ」
「メイ姉ちゃんも風邪ひくわ」
「うん、だからちゃんと外套を着て行くわ。あと、ランプも持って行かないと」
「俺、取ってくるよ」

 言うなり、エドが走り出す。他の子もそれに続き、家の中へと入って行く。きっとじっとしていられないのだ。

「ビルは?」
「シャロンさんと一緒に自警団に行ってるわ」
「じゃあ、クロ兄もすぐ来てくれるね」

 クロードの名前が出たことで、不安げだった子供たちの表情が僅かに和らぐ。半年という短い期間ではあるが、彼らにとってもクロードの存在は大きなものになっている。メイベルの中でかけがえのない存在になっているのと同じくらいに。

「ええ、だから大丈夫。みんな、戸締りしっかりね!」

 外套を着てフードを被ったメイベルは、エドが持ってきてくれたランプを手に外へ出た。雨足はだんだんと強くなっている。それに応じて周囲の暗さが増したようだ。

 ランプの灯りを頼りに、クラリアの名前を呼びながらメイベルは進んだ。いつも遊んでいる教会の裏手、雑木林の方も見る。だが、この辺りでクラリアが迷子になるとは考えにくい。彼女が帰って来れない事態を想定するならば、怪我をしているか、あるいは……。

「しっかりしなさい、メイベル……」

 頭に浮かんだ嫌な想像を打ち払い、自分自身を叱咤する。同時に今は亡きシスターに、クラリアを守ってと祈った。
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