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「君! どこへ行くんだ?」
孤児院周辺にいないと判断し、次に国境へと続く道に目を向けた時だった。背後から声をかけられ、振り返ると外套を羽織った人影が駆け寄ってくる。フードを深く被っているため顔は分からないが、着ているのはどうやら自警団の制服のようだ。
「子供を探しているのだろう? この先は国境だ。さすがにそこまで行ったとは……」
「途中に納屋があるんです。もしかしたら、そこで雨宿りしているかも……」
メイベルの言葉に僅かにフードを上げた相手の顔がチラリと見えた。一瞬、女性と見紛うほど整った相貌の男性だ。
「じゃあ、私が見てくるから。君は……」
「いいえ。私が」
「分かった。ならば、一緒に行こう。一人では危険だ」
全く引くつもりのないメイベルに、男性は先立って歩き出す。
国境へと続く道は一本だけ。その途中に納屋があることは、孤児院の子供なら誰もが知っている。もし、クラリアが何らかの理由で孤児院に戻れずにいるなら、雨宿りのために納屋に向かうかもしれない。
「あそこ、何か落ちてます……」
「え?」
クラリアの名前を呼びながら、周囲の物音や僅かな変化も見逃さないよう目を凝らしていたメイベルは、道のはずれに何かが転がっているのを見た。男性を追い越し、落ちていたそれを拾う。追いついた彼が照らしてくれたことで、メイベルはああ、と呻いた。
「これ……クラリアのです」
ランプの灯りに浮かび上がった靴は、履き古され所々に修繕した跡がある。昔はメイベルも使っていたものだから、その特徴はよく分かる。
「あの子、この道を行ったんだわ」
「急ごう」
男性の言葉に頷き、再び歩き出そうとして、メイベルはふと思い立った。近くに聳える巨木の根本に拾ったクラリアの靴を置き、髪を結えていた赤いリボンを解く。目線の高さにあった枝にそれを結び付け、目印を残す。そして先を行く男性の後を追いかけた。
「あそこだな……」
ひっそりと佇む納屋は、雨と風に晒されて今にも朽ちてしまいそうだ。中には古びた農機具などが収められているだけで、ランプのようなものはなかったはず。もちろん、暖を取れるものなどもありはしない。
「辺りに人の気配はないみたいだ」
周囲を警戒し、視線を走らせていた男性がメイベルに頷く。それを合図に駆け出したメイベルは、納屋のドアを開け中を覗き見た。
「クラリア……!」
寒々しい納屋の中、積み上げられた木箱に保たれるようにしてクラリアが座っている。白い肌はさらに白く、ぐったりとした様子にメイベルは慌てて駆け寄った。
抱き寄せた身体は冷たい。眠っているだけなのか寝息は聞こえるが、このままここにいてはどうなるか分からない。とにかく温めなくてはと外套を脱ぎ、クラリアの身体を包み込む。そして助けを求めようと背後を振り返ったメイベルは、その姿勢のまま固まった。
「俺は優しいから、あのまま帰ってくれてたら、見逃してあげようと思ったんだけどね」
「ん……っ?!」
メイベルが立ち上がるより早く、フードの男性の脇をすり抜けて、小柄な男が納屋に入ってきた。素早くメイベルの背後に回った男が、口元に布が押し当ててくる。
「子供を助けたいという志は立派だけど、要らぬ正義感は自分を危険に晒すよ、お嬢さん?」
背後から押さえつけてくる男から逃れようともがくが、女の力で敵うはずがない。せめて息を止めていようとしても、結局我慢できず酸素を求めて息を吸い込んだと同時に鼻を刺したツンとした痛み。霞がかかる視線の先でフードの男性がニヤリと笑ったのを最後に、メイベルの意識は途絶えてしまった。
孤児院周辺にいないと判断し、次に国境へと続く道に目を向けた時だった。背後から声をかけられ、振り返ると外套を羽織った人影が駆け寄ってくる。フードを深く被っているため顔は分からないが、着ているのはどうやら自警団の制服のようだ。
「子供を探しているのだろう? この先は国境だ。さすがにそこまで行ったとは……」
「途中に納屋があるんです。もしかしたら、そこで雨宿りしているかも……」
メイベルの言葉に僅かにフードを上げた相手の顔がチラリと見えた。一瞬、女性と見紛うほど整った相貌の男性だ。
「じゃあ、私が見てくるから。君は……」
「いいえ。私が」
「分かった。ならば、一緒に行こう。一人では危険だ」
全く引くつもりのないメイベルに、男性は先立って歩き出す。
国境へと続く道は一本だけ。その途中に納屋があることは、孤児院の子供なら誰もが知っている。もし、クラリアが何らかの理由で孤児院に戻れずにいるなら、雨宿りのために納屋に向かうかもしれない。
「あそこ、何か落ちてます……」
「え?」
クラリアの名前を呼びながら、周囲の物音や僅かな変化も見逃さないよう目を凝らしていたメイベルは、道のはずれに何かが転がっているのを見た。男性を追い越し、落ちていたそれを拾う。追いついた彼が照らしてくれたことで、メイベルはああ、と呻いた。
「これ……クラリアのです」
ランプの灯りに浮かび上がった靴は、履き古され所々に修繕した跡がある。昔はメイベルも使っていたものだから、その特徴はよく分かる。
「あの子、この道を行ったんだわ」
「急ごう」
男性の言葉に頷き、再び歩き出そうとして、メイベルはふと思い立った。近くに聳える巨木の根本に拾ったクラリアの靴を置き、髪を結えていた赤いリボンを解く。目線の高さにあった枝にそれを結び付け、目印を残す。そして先を行く男性の後を追いかけた。
「あそこだな……」
ひっそりと佇む納屋は、雨と風に晒されて今にも朽ちてしまいそうだ。中には古びた農機具などが収められているだけで、ランプのようなものはなかったはず。もちろん、暖を取れるものなどもありはしない。
「辺りに人の気配はないみたいだ」
周囲を警戒し、視線を走らせていた男性がメイベルに頷く。それを合図に駆け出したメイベルは、納屋のドアを開け中を覗き見た。
「クラリア……!」
寒々しい納屋の中、積み上げられた木箱に保たれるようにしてクラリアが座っている。白い肌はさらに白く、ぐったりとした様子にメイベルは慌てて駆け寄った。
抱き寄せた身体は冷たい。眠っているだけなのか寝息は聞こえるが、このままここにいてはどうなるか分からない。とにかく温めなくてはと外套を脱ぎ、クラリアの身体を包み込む。そして助けを求めようと背後を振り返ったメイベルは、その姿勢のまま固まった。
「俺は優しいから、あのまま帰ってくれてたら、見逃してあげようと思ったんだけどね」
「ん……っ?!」
メイベルが立ち上がるより早く、フードの男性の脇をすり抜けて、小柄な男が納屋に入ってきた。素早くメイベルの背後に回った男が、口元に布が押し当ててくる。
「子供を助けたいという志は立派だけど、要らぬ正義感は自分を危険に晒すよ、お嬢さん?」
背後から押さえつけてくる男から逃れようともがくが、女の力で敵うはずがない。せめて息を止めていようとしても、結局我慢できず酸素を求めて息を吸い込んだと同時に鼻を刺したツンとした痛み。霞がかかる視線の先でフードの男性がニヤリと笑ったのを最後に、メイベルの意識は途絶えてしまった。
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