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課題6:僕とボク、俺と私
幕間:彼女への感謝と、できるだけ頑張るべきこと
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あの少女を追い出してから。
「……あの。しきちゃん?」
しきちゃんは僕にしがみついて離れなかった。
血だらけの部屋に座り込んだ、血だらけで冷たい僕に。
血が少なくなって寒い身体には嬉しい暖かさ。それを抜きにしても、純粋に嬉しいと思っている自分が居る。それが非常に落ち着かない。
あいつの気配は薄いと分かるのに、この感情がそのまま残っているのは何故だろう?
「服。汚れるよ……?」
それを言うのがやっとだったけど。彼女はこくりと頷いただけで動かなかった。
その小さな身体と灰色の髪にこびりついた赤黒い塊を見ると、なんだか胸が痛む。
彼女にこんな傷を負わせてしまった。綺麗な髪も、頬も、服も。血で汚れてしまっている。あの少女の言葉からするに、恨まれていたのは僕なのに。巻き込んでしまった。
空いた手で頭をそっと頭を撫でる。相変わらず彼女の髪はさらさらしていた。
そのまま抱き寄せたい衝動を堪えて僕は言う。
「しきちゃん。ごめんね」
「……」
彼女は答えない。ただ、僕の服を掴む手にぎゅっと力が入ったのが分かった。
「……した」
「?」
たっぷりと沈黙してから、しきちゃんはぽつりと言った。
「謝らないって、言いました」
「え。あ……うん」
それ。ここでも有効なんだ。と思いながら頷く。
「謝らなくてはならないのは、ボクの方です」
「……しきちゃんも、謝らないって言ってたのに」
「……いいえ。いいえ。これだけは、座敷童として。です」
そして彼女はようやく僕から離れた。
胸の傷を見て。腕を見て。血だらけになった服に、長いまつげを伏せた。
服を掴んでいた指が名残惜しそうに離れて、膝の上で結ばれる。
「ボクが謝らないと言ったのは、お兄さんに呪いを渡してしまったことです。今から謝るのは、お兄さんをこんな目にあわせてしまったこと、です」
それは、僕が彼女に出会って初めて聞く、悔しそうな声だった。
「ボクは、座敷童になりたいんです」
彼女の言葉は、僕の首を傾けさせた。
「しきちゃんは、座敷童だよね?」
そう言うと、ためらうような間の後、首を小さく横に振った。
「きっと、違います」
「違う……?」
「ボクは、確かに座敷童と言われてきました。そう在るように作られて、たくさんの家を転々として。幸せにしてきた、と。思います」
けれども、と彼女は言う。
「ボク自身が見限って出て行った家は、ひとつもないんです」
「それは……」
それは。座敷童が居なくなったから没落した家がないと言うこと。
それは。家がなくなったから出て行かざるを得なかったと言うこと。
僕の考えを肯定するように、彼女は頷く。
「ボクが居た家は、確かに幸せそうでした。でも、ボクがそれを感じると……必ずみんな居なくなるんです」
事故。事件。家庭事情の悪化。その他諸々。
理由は様々だけれど、必ず最後に自分ひとりだけが残るのだと、彼女は言った。
「だから、お兄さんが吸血鬼だって聞いた時、少し嬉しかったんです」
彼女はぽつりぽつりと言う。
「吸血鬼なら。人でないなら。死なないかもしれない。ボクがひとりぼっちになって出て行くこと、ないかもしれないって。思ってしまいました」
利用してごめんなさい、と。彼女はまた謝る。
なるほど、彼女が思った以上にあっさりと僕の家に住むと決めたのは、そこが大きかったのだろう。
勧めたのは僕だし別に良いんだけど。と挟む間もなく、「なのに」と言葉が続いた。
「今のお兄さんは傷だらけです」
周囲に散らばる食器や調理器具に視線を落とした声は、悲しそうだった。
「傷は、ほら。もうほとんど塞がりそうだから、大丈夫だよ」
「ごめんなさい……」
ごめんなさい。と彼女は繰り返す。
「ボクは、お兄さんに幸せをあげたいです。平和で、平穏で。お兄さんが望む、穏やかな日常がここにあると、言って欲しいです」
それなのに。と僕の腕に残った傷痕に視線を向けて。俯いて。言葉は続く。
「呪いを渡して、体調を悪くして。こんなに、傷だらけにしてしまって。これでは……」
声に涙がにじむ。
「しきちゃん」
「これでは、ボクは……っ」
「しきちゃん」
両手で頬を包み込んで顔を上げさせる。
涙の溜まった赤い目が、僕を真っ直ぐ見上げる。瞬きで零れた涙が指を濡らす。
こうして彼女の目を見るのは久しぶりで。なんかくすぐったい気持ちが湧いた。
「しきちゃん。考えてみてよ」
「かん、がえ……?」
「僕は確かに平穏を望んでる。君に出会って、血をもらって、吸血鬼としての充足も得た」
そう。彼女の血を吸ったことで、吸血鬼特有の喉の渇きは随分とマシになっていた。何かは分からないけど、彼女の血には、人間とは違う充足感が確かにあった。
「その代償は……確かにちょっと大きめだけど。今はね。少し楽なんだ」
こうして君に触れられるくらいには、という言葉は飲み込んだ。
一瞬、あいつに聞かれるのではと警戒したけど、夢の中で黒い影になっていたのを思い出した。あの姿は、彼の力が僕の中で薄れたことの現れだろう。つまり。
「多分、血を流しすぎて呪いが薄れたんだ」
呪いを物理的に弱めてしまうほどに。寒気がするのは出血多量。そういう事だ。
「これだけの血を流すってのはそう無いことだよ。その為に、この出来事は必要だった。そうすると……テオが日本に来てるってのも、君の力の一端なのかもしれない」
きょとんとした表情の彼女から手を離す。指に付いた薄赤の雫は見なかったことにして、話を続ける。
「僕の望む幸せの中に、君が居てくれたら嬉しいって言ったよね」
「はい……」
「そのために、この呪いは邪魔だ。もし、そこに君の力が働いてるとしたら。君の呪いが僕に移って。それが彼女の襲撃でこれだけ薄まった。つまり、僕と君にあった呪いは」
完全に、とは言い難いけど。
「僕が頑張ったらなんとかできるくらいには、薄まっているかもしれない」
ね、と彼女に言い聞かせると。しきちゃんはその言葉を懸命に飲み込もうとしているようで。頷くように、考え込むように、小さく首を動かしていた。
「あと、これは推測だけどさ」
彼女の視線がこっちを向く。
「しきちゃんがこれまで居た家の結末は、多分あいつのせいだと思うよ。君の力は、確かに家を幸せにするもので。彼の力が、君を家から解放するものなんだと思う」
「ボクの、解放……」
「そう。その元凶が僕の中に居るって事は、君が恐れているような事は二度と起きないはず。……実を言うと僕は不死じゃないんだけど、まあ、人並み以上に生命力はあるから」
それにね、と続けた言葉は、僕自身にも嬉しいものだったのだろう。
声が浮かれているのが自分でも分かった。
「百年ぶりに友人が訪ねてくるなんて、しきちゃんが居なかったら実現しなかったよ」
「は、はい……」
しきちゃんの声は戸惑っていたけど。
ね、ともう一度だけ念を押すと、こくりと頷いた。
「さて」
ぽんぽんと頭を軽く撫でて、立ち上がる。
部屋は散々たる有様だ。
あちこちに調理器具や食器の破片が散らばっていて。
床は血でべたべたに濡れていて。
僕としきちゃんも同様に汚れている。
「どれくらいで二人が戻ってくるかは知らないけど、もてなしの準備をしよう」
「おもて、なし……ですか」
不思議そうに繰り返された言葉に頷き返す。
「だから、まずはその血を流しておいで。その間にこの部屋は何とかしとくから」
「え。えっ……あの、お片付けは……」
「いいから」
ほらほら、と彼女を立たせる。
彼女は少々戸惑いながらも、僕の「行っておいで」という言葉に押されて浴室へと姿を消した。
□ ■ □
「さて、と……」
どこから手を着けたものか。と悩むが。まずはまだ液体の状態をなんとか保ってるこの血溜まりからなんとかしてしまおう。
台所から洗ってあったペットボトルを持ってくる。
それからカーテンをぴったり閉める。
真っ暗になった部屋に、血がついたままの指を差し出す。
意識を集中させて、暗闇に触れて。
「よい――しょっと!」
影ごと掬い上げるように指を振り、ペットボトルの縁を叩く。
瞬間。ペットボトルの中の質量が腕を引いた。
そのまま蓋をして、カーテンを開ける。
振り返ると、床の血痕はほとんど消えていた。残ってるのは、完全に乾いてしまって剥がせなかった分が少しと、調理器具類。
うん、上々。と頷いてペットボトルに視線を落とす。
「うわ。これ二リットルなのに」
ペットボトルは九割方埋まっていた。
「そりゃあクラクラする訳だ……」
これは人間なら致死量だ。もちろん自分だって、この出血量で動くには少々無理があるし、これは後々喉が渇くに違いない。
「どっかで調達できるかなあ」
ぽつりと呟くと、あの甘くて美味しかった味が思い出された。
「……いやいや」
首を横に振る。
頼めばきっと、彼女はいいと言うだろう。呪いも、染みついてはいるかもしれないけど、薄まっているだろうから心配はしなくていい。
けど。何というか。ほら。色々とアウトのような気もするし。
前回みたいに、飲み過ぎてしまう可能性も否定できないし。
それで、辛い思いさせるのは嫌、だし。
「うん……できるだけがんばろう」
その時はその時だと、指に残った血を舐める。
「……」
そしてちょっとだけ後悔する。
血の味というのは、やみつきになる。
美味しいのは特に。
そして、座敷童の血は甘くて美味しいのだ。
ああ。頑張れ僕。
「……あの。しきちゃん?」
しきちゃんは僕にしがみついて離れなかった。
血だらけの部屋に座り込んだ、血だらけで冷たい僕に。
血が少なくなって寒い身体には嬉しい暖かさ。それを抜きにしても、純粋に嬉しいと思っている自分が居る。それが非常に落ち着かない。
あいつの気配は薄いと分かるのに、この感情がそのまま残っているのは何故だろう?
「服。汚れるよ……?」
それを言うのがやっとだったけど。彼女はこくりと頷いただけで動かなかった。
その小さな身体と灰色の髪にこびりついた赤黒い塊を見ると、なんだか胸が痛む。
彼女にこんな傷を負わせてしまった。綺麗な髪も、頬も、服も。血で汚れてしまっている。あの少女の言葉からするに、恨まれていたのは僕なのに。巻き込んでしまった。
空いた手で頭をそっと頭を撫でる。相変わらず彼女の髪はさらさらしていた。
そのまま抱き寄せたい衝動を堪えて僕は言う。
「しきちゃん。ごめんね」
「……」
彼女は答えない。ただ、僕の服を掴む手にぎゅっと力が入ったのが分かった。
「……した」
「?」
たっぷりと沈黙してから、しきちゃんはぽつりと言った。
「謝らないって、言いました」
「え。あ……うん」
それ。ここでも有効なんだ。と思いながら頷く。
「謝らなくてはならないのは、ボクの方です」
「……しきちゃんも、謝らないって言ってたのに」
「……いいえ。いいえ。これだけは、座敷童として。です」
そして彼女はようやく僕から離れた。
胸の傷を見て。腕を見て。血だらけになった服に、長いまつげを伏せた。
服を掴んでいた指が名残惜しそうに離れて、膝の上で結ばれる。
「ボクが謝らないと言ったのは、お兄さんに呪いを渡してしまったことです。今から謝るのは、お兄さんをこんな目にあわせてしまったこと、です」
それは、僕が彼女に出会って初めて聞く、悔しそうな声だった。
「ボクは、座敷童になりたいんです」
彼女の言葉は、僕の首を傾けさせた。
「しきちゃんは、座敷童だよね?」
そう言うと、ためらうような間の後、首を小さく横に振った。
「きっと、違います」
「違う……?」
「ボクは、確かに座敷童と言われてきました。そう在るように作られて、たくさんの家を転々として。幸せにしてきた、と。思います」
けれども、と彼女は言う。
「ボク自身が見限って出て行った家は、ひとつもないんです」
「それは……」
それは。座敷童が居なくなったから没落した家がないと言うこと。
それは。家がなくなったから出て行かざるを得なかったと言うこと。
僕の考えを肯定するように、彼女は頷く。
「ボクが居た家は、確かに幸せそうでした。でも、ボクがそれを感じると……必ずみんな居なくなるんです」
事故。事件。家庭事情の悪化。その他諸々。
理由は様々だけれど、必ず最後に自分ひとりだけが残るのだと、彼女は言った。
「だから、お兄さんが吸血鬼だって聞いた時、少し嬉しかったんです」
彼女はぽつりぽつりと言う。
「吸血鬼なら。人でないなら。死なないかもしれない。ボクがひとりぼっちになって出て行くこと、ないかもしれないって。思ってしまいました」
利用してごめんなさい、と。彼女はまた謝る。
なるほど、彼女が思った以上にあっさりと僕の家に住むと決めたのは、そこが大きかったのだろう。
勧めたのは僕だし別に良いんだけど。と挟む間もなく、「なのに」と言葉が続いた。
「今のお兄さんは傷だらけです」
周囲に散らばる食器や調理器具に視線を落とした声は、悲しそうだった。
「傷は、ほら。もうほとんど塞がりそうだから、大丈夫だよ」
「ごめんなさい……」
ごめんなさい。と彼女は繰り返す。
「ボクは、お兄さんに幸せをあげたいです。平和で、平穏で。お兄さんが望む、穏やかな日常がここにあると、言って欲しいです」
それなのに。と僕の腕に残った傷痕に視線を向けて。俯いて。言葉は続く。
「呪いを渡して、体調を悪くして。こんなに、傷だらけにしてしまって。これでは……」
声に涙がにじむ。
「しきちゃん」
「これでは、ボクは……っ」
「しきちゃん」
両手で頬を包み込んで顔を上げさせる。
涙の溜まった赤い目が、僕を真っ直ぐ見上げる。瞬きで零れた涙が指を濡らす。
こうして彼女の目を見るのは久しぶりで。なんかくすぐったい気持ちが湧いた。
「しきちゃん。考えてみてよ」
「かん、がえ……?」
「僕は確かに平穏を望んでる。君に出会って、血をもらって、吸血鬼としての充足も得た」
そう。彼女の血を吸ったことで、吸血鬼特有の喉の渇きは随分とマシになっていた。何かは分からないけど、彼女の血には、人間とは違う充足感が確かにあった。
「その代償は……確かにちょっと大きめだけど。今はね。少し楽なんだ」
こうして君に触れられるくらいには、という言葉は飲み込んだ。
一瞬、あいつに聞かれるのではと警戒したけど、夢の中で黒い影になっていたのを思い出した。あの姿は、彼の力が僕の中で薄れたことの現れだろう。つまり。
「多分、血を流しすぎて呪いが薄れたんだ」
呪いを物理的に弱めてしまうほどに。寒気がするのは出血多量。そういう事だ。
「これだけの血を流すってのはそう無いことだよ。その為に、この出来事は必要だった。そうすると……テオが日本に来てるってのも、君の力の一端なのかもしれない」
きょとんとした表情の彼女から手を離す。指に付いた薄赤の雫は見なかったことにして、話を続ける。
「僕の望む幸せの中に、君が居てくれたら嬉しいって言ったよね」
「はい……」
「そのために、この呪いは邪魔だ。もし、そこに君の力が働いてるとしたら。君の呪いが僕に移って。それが彼女の襲撃でこれだけ薄まった。つまり、僕と君にあった呪いは」
完全に、とは言い難いけど。
「僕が頑張ったらなんとかできるくらいには、薄まっているかもしれない」
ね、と彼女に言い聞かせると。しきちゃんはその言葉を懸命に飲み込もうとしているようで。頷くように、考え込むように、小さく首を動かしていた。
「あと、これは推測だけどさ」
彼女の視線がこっちを向く。
「しきちゃんがこれまで居た家の結末は、多分あいつのせいだと思うよ。君の力は、確かに家を幸せにするもので。彼の力が、君を家から解放するものなんだと思う」
「ボクの、解放……」
「そう。その元凶が僕の中に居るって事は、君が恐れているような事は二度と起きないはず。……実を言うと僕は不死じゃないんだけど、まあ、人並み以上に生命力はあるから」
それにね、と続けた言葉は、僕自身にも嬉しいものだったのだろう。
声が浮かれているのが自分でも分かった。
「百年ぶりに友人が訪ねてくるなんて、しきちゃんが居なかったら実現しなかったよ」
「は、はい……」
しきちゃんの声は戸惑っていたけど。
ね、ともう一度だけ念を押すと、こくりと頷いた。
「さて」
ぽんぽんと頭を軽く撫でて、立ち上がる。
部屋は散々たる有様だ。
あちこちに調理器具や食器の破片が散らばっていて。
床は血でべたべたに濡れていて。
僕としきちゃんも同様に汚れている。
「どれくらいで二人が戻ってくるかは知らないけど、もてなしの準備をしよう」
「おもて、なし……ですか」
不思議そうに繰り返された言葉に頷き返す。
「だから、まずはその血を流しておいで。その間にこの部屋は何とかしとくから」
「え。えっ……あの、お片付けは……」
「いいから」
ほらほら、と彼女を立たせる。
彼女は少々戸惑いながらも、僕の「行っておいで」という言葉に押されて浴室へと姿を消した。
□ ■ □
「さて、と……」
どこから手を着けたものか。と悩むが。まずはまだ液体の状態をなんとか保ってるこの血溜まりからなんとかしてしまおう。
台所から洗ってあったペットボトルを持ってくる。
それからカーテンをぴったり閉める。
真っ暗になった部屋に、血がついたままの指を差し出す。
意識を集中させて、暗闇に触れて。
「よい――しょっと!」
影ごと掬い上げるように指を振り、ペットボトルの縁を叩く。
瞬間。ペットボトルの中の質量が腕を引いた。
そのまま蓋をして、カーテンを開ける。
振り返ると、床の血痕はほとんど消えていた。残ってるのは、完全に乾いてしまって剥がせなかった分が少しと、調理器具類。
うん、上々。と頷いてペットボトルに視線を落とす。
「うわ。これ二リットルなのに」
ペットボトルは九割方埋まっていた。
「そりゃあクラクラする訳だ……」
これは人間なら致死量だ。もちろん自分だって、この出血量で動くには少々無理があるし、これは後々喉が渇くに違いない。
「どっかで調達できるかなあ」
ぽつりと呟くと、あの甘くて美味しかった味が思い出された。
「……いやいや」
首を横に振る。
頼めばきっと、彼女はいいと言うだろう。呪いも、染みついてはいるかもしれないけど、薄まっているだろうから心配はしなくていい。
けど。何というか。ほら。色々とアウトのような気もするし。
前回みたいに、飲み過ぎてしまう可能性も否定できないし。
それで、辛い思いさせるのは嫌、だし。
「うん……できるだけがんばろう」
その時はその時だと、指に残った血を舐める。
「……」
そしてちょっとだけ後悔する。
血の味というのは、やみつきになる。
美味しいのは特に。
そして、座敷童の血は甘くて美味しいのだ。
ああ。頑張れ僕。
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