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#5 影と深刻な事態
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-side:Haine-
明るみを増してきた街に、咀嚼音が響く。
バラバラに引き裂かれた羽根が、ふわふわと宙を舞っている。
エーヌは、天使の羽根を全て飲み込み、その味を楽しむ。
甘く、ふわふわしていて、まるで綿菓子の様に。いや、マシュマロの様に、弾力があった。
そして、大量の聖気が変換され、魔気が体内に蓄積された。
男はその光景をずっと見ていたが、エーヌが食べ終わる頃を見計らって話しかけてきた。
「なぁ、あんた……。その、ありがとうな。」
男は照れくさそうにしているが、エーヌは動じず。
「いいえ、あなたの復讐心に惹かれただけよ。私の力の源は憎しみ。復讐心が、私の好きな物だから。」
血に濡れた口を拭って言った。
「あなたのその復讐心、まだまだ食べたりないわ。さぁ、あなたの住む街に戻りましょう?」
「あ、あぁ。」
男は縛り上げた娘の遺体を抱え、そそくさと隣街へと向かった。
この騒動がこの街にバレれば、住民は警戒を高めるだろう。
そうでなくても、町長の娘が帰ってきてないことで、さらに怪しまれてしまうだろう。
男が走りながら、不意にエーヌに話しかけた。
「なぁ、その……、いつまでもあんたじゃ不便だからさ、な、名前、教えてくれないか?」
エーヌは急な質問に、半ば呆れた。
「(こいつ……、さっきの見てなかったのか。)」
天使もそうだが、悪魔も『真名』を知られれば不利な状況に繋がる。
名を教えれば、他の天使の前でうっかり言われてしまいそうである。
「悪いけど、『真名』は教えられないわ。ルヴァンシュと呼びなさい。」
「あぁ、わかった。ルヴァンシュ。俺はオンブル、よろしくな。」
「(こいつ、単純だな……。)」
エーヌは少しばかり不安に思った。
-side:Sagesse-
空が透き通るような青さを取り戻した頃、サジェスは目を覚ました。
「……ふわあぁぁぁ。」
小鳥のさえずりを聞きながら、大きく欠伸をした。
部屋から出ると、祭壇で神父とシスターが祈りを捧げている最中だった。
サジェスは邪魔しないように教会を静かに出て、泉へ向かう。
木々が生い茂る森は、風になびかれてお話している。
小鳥や光の精霊達が誘うように、サジェスの周りに集まってくる。
「おはよう。今日から頑張るよ。」
小鳥達に挨拶するように、サジェスは1人呟いた。
昨日の夜、少し不思議な感覚があった。
人間の欲が、闇に溶け込んでいって、強く大きな魔気が、さらに膨らんで、遠くへ消えた。
そんな感じだ。
「(この街に、悪魔が入ってきたのか?)」
この街は、町長の娘と契約している天使と、3つの泉の女神に護られているという。
サジェスが知る限り、この街に悪魔がいるとは考え難い。
「(……まさか、昨日見た悪魔かなぁ。)」
サジェスが首を傾げていると、女神がいる泉が見えてきた。
泉の上に、既に1人立っているようだ。
サジェスは女神を待たせないように少し急いだ。
「女神さま。ただいま参りました。」
サジェスが深くお辞儀をすると、女神は微笑んで。
だが、すぐにその微笑みを消し、深刻な顔をした。
「サジェスよ。昨日、何か感じ取りましたか?」
不意に、言った。
「えっ?昨日……ですか。」
嫌な予感がした。
何か、昨夜に起こったのか。
「闇夜の中に、人間の欲が溶け込むのを感じました。それと、大きく膨らんで消えた魔気も。」
「そうですか、そなたも感じたのですね。」
女神は少し寂しそうな顔をした。
「町長の娘と契約している天使の気配が消えました。おそらく、そなたが感じたのは、悪魔とその契約者でしょう。」
「なっ……。」
言葉が、喉の奥に詰まるのを感じた。
この街にいた天使が死んだ。
それも、新たに現れた悪魔とその契約者が殺した。
サジェスが知る限り、あの日に現れた悪魔は、あの悪魔しか考えられない。
「この街に天使がいないのは少し問題になります。我ら3人の女神と、それのサポートをする天使とで、護っていたのですが、それがいない今、抑えきれなくなった人間の欲が、我らを潰してしまうかもしれません。」
女神が、光の精霊を集め、羽根と十字架を象ったピアスを作る。
それを、サジェスに渡して。
「これを常に身に着け、この街の人間と契約なさい。今は天国でも、少しごたごたがあったようで、代わりの天使も、呼ぶ事が出来ないようですので。」
サジェスは、何も言えなかった。
あまりにも早急だった。
「で、ですが、僕はまだ未熟者です!そんな大役など……。」
「大丈夫ですよ。そなたには契約を結んでもらい、時間のある時に、ここに来て修行を積むという形にします。」
人間との『契約』。
それさえすれば、いいと言う。
「わ、わかりました…。」
サジェスは少し安心した。
だが、時間が無いことに変わりはない。
「町長には、あと1人の娘と、息子がいます。そこの長男と契約なさい。」
女神が、池にその絵を映す。
「彼は、クラージュ・アルベール。とても優しく、熱心な信者でもあります。彼なら、きっとそなたの力となってくれるでしょう。」
「はい。」
サジェスはピアスを耳に着け、すぐに街へ向かった。
事は重大だが、少しわくわくしていた。
あの街の人間達と、話すことが出来るのだから。
明るみを増してきた街に、咀嚼音が響く。
バラバラに引き裂かれた羽根が、ふわふわと宙を舞っている。
エーヌは、天使の羽根を全て飲み込み、その味を楽しむ。
甘く、ふわふわしていて、まるで綿菓子の様に。いや、マシュマロの様に、弾力があった。
そして、大量の聖気が変換され、魔気が体内に蓄積された。
男はその光景をずっと見ていたが、エーヌが食べ終わる頃を見計らって話しかけてきた。
「なぁ、あんた……。その、ありがとうな。」
男は照れくさそうにしているが、エーヌは動じず。
「いいえ、あなたの復讐心に惹かれただけよ。私の力の源は憎しみ。復讐心が、私の好きな物だから。」
血に濡れた口を拭って言った。
「あなたのその復讐心、まだまだ食べたりないわ。さぁ、あなたの住む街に戻りましょう?」
「あ、あぁ。」
男は縛り上げた娘の遺体を抱え、そそくさと隣街へと向かった。
この騒動がこの街にバレれば、住民は警戒を高めるだろう。
そうでなくても、町長の娘が帰ってきてないことで、さらに怪しまれてしまうだろう。
男が走りながら、不意にエーヌに話しかけた。
「なぁ、その……、いつまでもあんたじゃ不便だからさ、な、名前、教えてくれないか?」
エーヌは急な質問に、半ば呆れた。
「(こいつ……、さっきの見てなかったのか。)」
天使もそうだが、悪魔も『真名』を知られれば不利な状況に繋がる。
名を教えれば、他の天使の前でうっかり言われてしまいそうである。
「悪いけど、『真名』は教えられないわ。ルヴァンシュと呼びなさい。」
「あぁ、わかった。ルヴァンシュ。俺はオンブル、よろしくな。」
「(こいつ、単純だな……。)」
エーヌは少しばかり不安に思った。
-side:Sagesse-
空が透き通るような青さを取り戻した頃、サジェスは目を覚ました。
「……ふわあぁぁぁ。」
小鳥のさえずりを聞きながら、大きく欠伸をした。
部屋から出ると、祭壇で神父とシスターが祈りを捧げている最中だった。
サジェスは邪魔しないように教会を静かに出て、泉へ向かう。
木々が生い茂る森は、風になびかれてお話している。
小鳥や光の精霊達が誘うように、サジェスの周りに集まってくる。
「おはよう。今日から頑張るよ。」
小鳥達に挨拶するように、サジェスは1人呟いた。
昨日の夜、少し不思議な感覚があった。
人間の欲が、闇に溶け込んでいって、強く大きな魔気が、さらに膨らんで、遠くへ消えた。
そんな感じだ。
「(この街に、悪魔が入ってきたのか?)」
この街は、町長の娘と契約している天使と、3つの泉の女神に護られているという。
サジェスが知る限り、この街に悪魔がいるとは考え難い。
「(……まさか、昨日見た悪魔かなぁ。)」
サジェスが首を傾げていると、女神がいる泉が見えてきた。
泉の上に、既に1人立っているようだ。
サジェスは女神を待たせないように少し急いだ。
「女神さま。ただいま参りました。」
サジェスが深くお辞儀をすると、女神は微笑んで。
だが、すぐにその微笑みを消し、深刻な顔をした。
「サジェスよ。昨日、何か感じ取りましたか?」
不意に、言った。
「えっ?昨日……ですか。」
嫌な予感がした。
何か、昨夜に起こったのか。
「闇夜の中に、人間の欲が溶け込むのを感じました。それと、大きく膨らんで消えた魔気も。」
「そうですか、そなたも感じたのですね。」
女神は少し寂しそうな顔をした。
「町長の娘と契約している天使の気配が消えました。おそらく、そなたが感じたのは、悪魔とその契約者でしょう。」
「なっ……。」
言葉が、喉の奥に詰まるのを感じた。
この街にいた天使が死んだ。
それも、新たに現れた悪魔とその契約者が殺した。
サジェスが知る限り、あの日に現れた悪魔は、あの悪魔しか考えられない。
「この街に天使がいないのは少し問題になります。我ら3人の女神と、それのサポートをする天使とで、護っていたのですが、それがいない今、抑えきれなくなった人間の欲が、我らを潰してしまうかもしれません。」
女神が、光の精霊を集め、羽根と十字架を象ったピアスを作る。
それを、サジェスに渡して。
「これを常に身に着け、この街の人間と契約なさい。今は天国でも、少しごたごたがあったようで、代わりの天使も、呼ぶ事が出来ないようですので。」
サジェスは、何も言えなかった。
あまりにも早急だった。
「で、ですが、僕はまだ未熟者です!そんな大役など……。」
「大丈夫ですよ。そなたには契約を結んでもらい、時間のある時に、ここに来て修行を積むという形にします。」
人間との『契約』。
それさえすれば、いいと言う。
「わ、わかりました…。」
サジェスは少し安心した。
だが、時間が無いことに変わりはない。
「町長には、あと1人の娘と、息子がいます。そこの長男と契約なさい。」
女神が、池にその絵を映す。
「彼は、クラージュ・アルベール。とても優しく、熱心な信者でもあります。彼なら、きっとそなたの力となってくれるでしょう。」
「はい。」
サジェスはピアスを耳に着け、すぐに街へ向かった。
事は重大だが、少しわくわくしていた。
あの街の人間達と、話すことが出来るのだから。
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