Je veux t'aimer

☆甘宮リンゴ☆

文字の大きさ
5 / 7

#5 影と深刻な事態

しおりを挟む
-side:Haine-

明るみを増してきた街に、咀嚼音が響く。
バラバラに引き裂かれた羽根が、ふわふわと宙を舞っている。
エーヌは、天使の羽根を全て飲み込み、その味を楽しむ。
甘く、ふわふわしていて、まるで綿菓子の様に。いや、マシュマロの様に、弾力があった。
そして、大量の聖気が変換され、魔気が体内に蓄積された。
男はその光景をずっと見ていたが、エーヌが食べ終わる頃を見計らって話しかけてきた。
「なぁ、あんた……。その、ありがとうな。」
男は照れくさそうにしているが、エーヌは動じず。
「いいえ、あなたの復讐心に惹かれただけよ。私の力の源は憎しみ。復讐心が、私の好きな物だから。」
血に濡れた口を拭って言った。
「あなたのその復讐心思い、まだまだ食べたりないわ。さぁ、あなたの住む街に戻りましょう?」
「あ、あぁ。」
男は縛り上げた娘の遺体を抱え、そそくさと隣街へと向かった。
この騒動がこの街にバレれば、住民は警戒を高めるだろう。
そうでなくても、町長の娘が帰ってきてないことで、さらに怪しまれてしまうだろう。

男が走りながら、不意にエーヌに話しかけた。
「なぁ、その……、いつまでもあんたじゃ不便だからさ、な、名前、教えてくれないか?」
エーヌは急な質問に、半ば呆れた。
「(こいつ……、さっきの見てなかったのか。)」
天使もそうだが、悪魔も『真名』を知られれば不利な状況浄化に繋がる。
名を教えれば、他の天使の前でうっかり言われてしまいそうである。
「悪いけど、『真名』は教えられないわ。ルヴァンシュと呼びなさい。」
「あぁ、わかった。ルヴァンシュ復讐心。俺はオンブル、よろしくな。」
「(こいつ、単純だな……。)」
エーヌは少しばかり不安に思った。



-side:Sagesse-

空が透き通るような青さを取り戻した頃、サジェスは目を覚ました。
「……ふわあぁぁぁ。」
小鳥のさえずりを聞きながら、大きく欠伸をした。
部屋から出ると、祭壇で神父とシスターが祈りを捧げている最中だった。
サジェスは邪魔しないように教会を静かに出て、泉へ向かう。
木々が生い茂る森は、風になびかれてお話している。
小鳥や光の精霊達が誘うように、サジェスの周りに集まってくる。
「おはよう。今日から頑張るよ。」
小鳥達に挨拶するように、サジェスは1人呟いた。

昨日の夜、少し不思議な感覚があった。
人間の欲が、闇に溶け込んでいって、強く大きな魔気が、さらに膨らんで、遠くへ消えた。
そんな感じだ。
「(この街に、悪魔が入ってきたのか?)」
この街は、町長の娘と契約している天使と、3つの泉の女神に護られているという。
サジェスが知る限り、この街に悪魔がいるとは考え難い。
「(……まさか、昨日見た悪魔かなぁ。)」
サジェスが首を傾げていると、女神がいる泉が見えてきた。
泉の上に、既に1人立っているようだ。
サジェスは女神を待たせないように少し急いだ。

「女神さま。ただいま参りました。」
サジェスが深くお辞儀をすると、女神は微笑んで。
だが、すぐにその微笑みを消し、深刻な顔をした。
「サジェスよ。昨日、何か感じ取りましたか?」
不意に、言った。
「えっ?昨日……ですか。」
嫌な予感がした。
何か、昨夜に起こったのか。
「闇夜の中に、人間の欲が溶け込むのを感じました。それと、大きく膨らんで消えた魔気も。」
「そうですか、そなたも感じたのですね。」
女神は少し寂しそうな顔をした。
「町長の娘と契約している天使の気配が消えました。おそらく、そなたが感じたのは、悪魔とその契約者でしょう。」

「なっ……。」
言葉が、喉の奥に詰まるのを感じた。
この街にいた天使が死んだ。
それも、新たに現れた悪魔とその契約者が殺した。
サジェスが知る限り、あの日に現れた悪魔は、しか考えられない。
「この街に天使がいないのは少し問題になります。我ら3人の女神と、それのサポートをする天使とで、護っていたのですが、それがいない今、抑えきれなくなった人間の欲が、我らを潰してしまうかもしれません。」
女神が、光の精霊を集め、羽根と十字架を象ったピアスを作る。
それを、サジェスに渡して。
「これを常に身に着け、この街の人間と契約なさい。今は天国でも、少しごたごたがあったようで、代わりの天使も、呼ぶ事が出来ないようですので。」

サジェスは、何も言えなかった。
あまりにも早急だった。
「で、ですが、僕はまだ未熟者です!そんな大役など……。」
「大丈夫ですよ。そなたには契約を結んでもらい、時間のある時に、ここに来て修行を積むという形にします。」
人間との『契約』。
それさえすれば、いいと言う。
「わ、わかりました…。」
サジェスは少し安心した。
だが、時間が無いことに変わりはない。
「町長には、あと1人の娘と、息子がいます。そこの長男と契約なさい。」
女神が、池にその絵を映す。
「彼は、クラージュ・アルベール。とても優しく、熱心な信者でもあります。彼なら、きっとそなたの力となってくれるでしょう。」
「はい。」
サジェスはピアスを耳に着け、すぐに街へ向かった。
事は重大だが、少しわくわくしていた。
あの街の人間達と、話すことが出来るのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※「なろう」にも重複投稿しています。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

マリアンヌ皇女の策略

宵森みなと
恋愛
異国の地シンホニア国に、帝国から輿入れした若き王妃セリーヌの死。 王妃としての務めを果たし、民との交流に心を尽くしてきた、優しき王妃の裏の顔は誰も知らなかった。セリーヌ王妃の死は、なぜ起こったのか。なぜ、シンホニア国は帝国の手に落ちたのか、そこには一人の少女の静かなる策略があった。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...