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四章 散らばった真実をかき集めて
26-1 同じ部屋、別の布団
しおりを挟む「それじゃあ、電気消しますね」
「うん」
俺は小さなリモコンの丸いボタンを押す。
途端に室内は暗くなり、常夜灯の明かりだけが残される。
カーテンの隙間から、冬の月の明かりが僅かに差し込んで来ている。
買ってきた夕食を食べ終え、更に蜜希さんおススメの映画を一本見た俺たち。
ふと時計を見れば、十二時を回りそうなことに気付いて、慌てて就寝することになった。
仕事はなくなったが、大学はある。
こっそり休もうとする俺に「暁月くんがそんな不真面目だとは思わなかったなぁ」と蜜希さんが謎の圧をかけて来た。
そんなことを言われたら、大学に行くための準備をするしかない。
俺は渋々大学に行く準備を進めた。
そしてついさっき。
俺たちは『どっちがベッドで寝るか』という言い争いをしていた。
「暁月くんの家なんだから、暁月くんが使いなよ」
「いえ。蜜希さんはお客さんなんですから、ベッド使ってください」
「押しかけて来た奴に何言ってるの。僕は布団で大丈夫だから」
最初は単なる譲り合いだった。
しかし、お互い引かない姿勢にだんだんもどかしくなってくる。
ヒートアップしていく会話に、折れたのは蜜希さんだった。
「わかった。それじゃあ、じゃんけんしよう」
俺は頷いた。
じゃんけんで勝った方が寝る場所を決めることが出来る。
負けた方はその決定に何があっても逆らわない。
二つの約束をして、いざじゃんけん。
「じゃんけん――」
勝利を収めたのは、蜜希さんだった。
「ちょっと。いつまで拗ねてるのさ」
「別に、拗ねてないです」
ベッドを前にしながら、俺は不服さを隠さないで答える。
蜜希さんは「拗ねてるじゃん」と笑い飛ばした。何とも清々しい笑顔である。
(普通、俺が勝つところだろ……)
格好悪い。
俺は大きく肩を落とした。
蜜希さんが選んだのは、案の定布団の方だった。
畳とは違う、床に敷いた布団の寝心地のよさなんて大体想像がつく。
(せっかく来てくれたんだから、いい方で寝て欲しかったのに)
無駄に金の掛かっている寝具は、俺が選んだわけじゃないが寝心地は良いはずだ。
蜜希さんにも、この感覚を体験して欲しかった。
あわよくば、ここでの寝心地が忘れられなくて、何度も家に来るように仕向けたかった。
「離れ難い」と思ってた蜜希さんが、帰りたく無くなればいいのに、とも。
「暁月くん、今何かとんでもないこと考えてなかった?」
「いえ、そんなことは」
「そう? それならいいけど」
そうして各々布団に入ったところで、俺はベッドサイドにあるリモコンで電気を落としたのだ。
暗い中、蜜希さんの気配だけがする。
身じろぎする布擦れの音や、息遣いが自棄に大きく聞こえて、緊張に心臓が張り裂けそうだった。
同時に、自分の中のアルファが、自分の好きな人間を疎かにしているような状況に、全力で違和感を叫んでいた。
アルファが意中の相手への執着が強いのは有名な話だが、まさか自分が体験することになるなんて。
「蜜希さん、やっぱり……――」
「ダーメ。じゃんけんする前に約束したでしょ」
俺は唸る。
確かに、そうだけれども。
納得できないまま、俺は起き上りかけた上半身を静かにベッドに戻した。
じっと蜜希さんの背中を見る。
せめて、と貸した枕は、蜜希さんの頭の下に置いてある。
……運命の番とはいえ、番がいる人間に他のアルファのフェロモンは効かないらしい。
悔しいような、嬉しいような。複雑な感覚だった。
(全然眠くならない……)
冴えた目で、室内を見回す。
常夜灯に照らされた室内は、我ながら質素なものだと思う。
リビングも、キッチンも、寝室も。
必要最低限しか物がない家は、蜜希さんにとって退屈だったんじゃないだろうか。
今更ながらにそう思い始める。
(もっと本を用意しておいた方がよかったか? いや、どうせなら二人で出来る物がいいな)
ゲームとか、映画も持っておいた方がよさそうだ。
蜜希さん、結構真面目な顔で見ていたし。
(スクリーンは今のうちに買っておくとして……他は明日買いに行くか?)
大学は三コマだけだ。その後のゼミは休めばいいし、意外と時間もある。
ちょっと先まで買い物に行っても、夕食までには帰って来れるだろう。
そう考えて、はたと止まる。
(そうか。俺、一週間も蜜希さんとこの家で二人になるのか)
今更ながらに実感した事実に、頭の奥がじりじりと焼かれていく。
ヤバい。嬉しい。心臓が飛び出そうだ。
ああいや、それよりも、変なところを見せないようにしないと。
(やっぱり、明日全部買いに行こう)
スクリーンは仕方ないにしても、投影機やゲームは入手できるだろう。
あと、ソファが味気ないのは良くない気がする。触り心地のいいクッションもいくつか買っておこう。
(蜜希さんに一分一秒でも退屈だと思わせたくない)
「暁月くーん?」
ビクッと体が震える。
思考の海に入っていた意識が一気に引き戻された。
いつの間にか振り返っていた蜜希さんの瞳が、暗がりに俺を見つめている。
「そんなに熱心に見つめられたら、寝れないんだけど」
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毎日楽しみに読んでました。初恋は檸檬の味ぐらいのLOVEシーンなら最後までついてきます。
ブロマンスヲタなのですが、この作品も楽しいです。お身体ご自愛して、復活してくださいね。
ご感想ありがとうございます……!!✨️✨️
毎日読んでくださってるとの事で、本当に嬉しいです…!最近更新がまちまちになってしまい、すみません💦
ブロマンス好きなんですね!
いちゃいちゃの度合いはどうかわかりませんが、少しでも楽しんで頂けていれば嬉しいです✨
これからもよろしくお願いします!
可哀想な攻めにワクワクしてしまうタイプの人間なので、暁月くんには申し訳ないですがわー❗️❗️❗️最高❗️と思いながら読ませていただいてます🤫
ですが、これから2人がどうなっていくのか凄く楽しみです!幸せな暁月くんが見れるのが楽しみです(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
感想、ありがとうございます……!!!
とてもとても嬉しいです😭😭
特大の秘密が、暁月くんに明らかになりましたね…!✨️
この後、暁月くんがどうしていくのか、2人は幸せになるのか、ぜひ見守ってくださると嬉しいです!