見えない君と恋をする。

きーち

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「勿体無くない??」
何回繰り返されたか知れない言葉。
こんなものにいちいち反応もしていられない。何が"勿体無い"かって、口にしたくはないが容姿である。自覚はある。 つまり美人だという事。クラスが変わるたび、環境が変わるたびにその言葉は降りかかる。私にとって恒例行事みたいなもので、初回限定で良い気を少し覚えたが3回を超えたところで鬱陶しくなった。ちなみに何故、"容姿が勿体無い"って、「性格」とは言い難いがそれで表せるならそれでもいい。私はキラキラしている女の子のようには出来ない。可愛い服を着ようとも思わない。メイクをして飾ろうとも思わない。つまりは女を磨く意思がない。
みんな、初見でかわいいという入り口に入るからその先で目にする予想外に疑問を覚える。勝手に予想されて、それを外されて、いやそれは間違っているんじゃないかなんて、ふざけている。
しかし周りの、身を飾る人々を見て自分はこれでもいいのだろうかと少々の心配をすることもないことはない。明らかに地味な格好に綺麗な顔立ちであれば、勿体ないと思われるのも無理はない。
ああ、自分は駄目だなぁ。人とは少し作りが違うのだな、とそれを受け入れた上、17年という時間を過ごしてきた。
そんな自分は、これらの理由から「かわいいね」と言われるのも苦だった。裏でどうせ勿体無いなんて思っているのでしょう?。大袈裟な言い方をすると、「自分を否定されたような気がしてならない」のである。では、可愛い洋服でも着ればいいじゃないか。しかしそうはならなかった。可愛い洋服を着て、街を歩く自分というのにも寒気すら覚える。"こんな自分"がそんなことしてはいけないだろうとそれを拒む。そんな綺麗な顔を持っているのだから自信持って着飾ればいいのになんて言ってはくれるが顔立ちは自分にとってそこまで重要でもなくて、ああ結局自分は何に自信が無いんだろうという「?」にたどり着く。
だらだらと綴った文章を一言でまとめると、マイナス思考ってつらい、という事。
まぁ陰気にはならないし。嫌なのは冒頭の一言だけだ。そんなに今の自分を悪く思う必要はない、と思う。けど…………恋でもすれば、変わるだろうかなんて、時に思う。

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「ねぇ、愛奈?、大阪に今超人気のタピオカの店あるから行こ」
愛奈はやり忘れた宿題をするのに必死だった。
「待って現代文のプリント終わってない!今日現代文は……1時間目!あああ」
高校生といえばこれだ。別に何も、望んでこの状況を作っているのではないのだけれど。
「またやってないのー。もうこの光景見飽きましたけど」
愛奈は宿題をする。美嘉は愛奈の隣に椅子を持ってきてそれを見ている。それがいつもの朝だ。美嘉とは1年生の時も同じクラスだったから、このシーンが何百回と繰り返された。これからもどんどんその数は増えるだろう。それはいけない事だけど、1年生の終わりに、それが自分の中では大きな思い出として残ったからそれはそれで良いのかななんて思ったりして。3年生になっても同じクラスになれたら良いのに。
「随分と寒くなったなぁ。スカートやだ」
そう言って開きっぱなしの教室の戸をガラガラと閉めた。
11月に入った頃、街は一気に冷え込んだ。緑だった葉もお爺さんのようになって、やがてそれは風に煽られ、ついに枝に捕まる力もなくなって落ちてしまった。今朝登校してきた時、数え切れない程の落ち葉を見た。道は、紅葉に数倍劣る茶色いカーペットだった。踏むたびにクシャッと落ち葉が鳴く。それを聞くと何故か悲しくなる。
 「終わったぁ!字がちょっと雑、かな?。でもまぁいいやっ」
まだ朝礼も始まっていない。意外と早く済んだ、と一息ついた。
「んー、で、カピバラの店って何」
終わらせた宿題のプリントをクリアファイルに閉じながら美嘉を横目に言った。
「カピバラの店って何」
美嘉は顔一面にハテナが表れていた。そう言われた愛奈も同じくハテナでいっぱいだった。
「さっき言ってたじゃん。大阪?の」
「はぁ?馬鹿じゃないの。タ・ピ・オ・カ」
愛奈はサッパリだった。それで正解なのかさえ疑った。
「・・・・とは?」
「それ、マジで言ってるの・・・?」
やれやれ、また愛奈の無知が発動したと美嘉は軽く絶句した。
「アンタそれはヤバイよ。本当に女子なの???」
美嘉は笑い混じりに言った。流石の愛奈もこの一言には黙ってはいられない。机の下に手元を隠し、周りから見られないようにスマホをつけてブラウザを開いた。
「もうちょっとで担任来るよ?」
「いいもん気になるもん」
検索ページで、タピオカと打った。すると候補にずらずらといろんな店の名前らしきワードが羅列されているではないか。もしかしてタピオカというのを知らないのはこのクラス、いやこの学校で私だけなのではないかとさえ思った。候補欄のうちの「タピオカ とは」をタップした。あぁ、飲み物なのか。ミルクティー?。画像・・・何これ。気持ち悪。何この粒々・・・・あ、イモなの?
「ねえ、美嘉、何なのこれ」
「何なのって見たんでしょう?。ね、飲みに行こ」
「いいけど・・・気持ち悪くない?この粒々」
「はー?もちもちしてて美味しいんだってば」
「そこまで推すなら飲むよ」
「ほんとなんにも知らないんだから・・・」
やれやれという表情も何回見ただろう。私も私で情報量が皆無だ。まるで流行の最先端が蔓延する都会とかなり遅れてやってくる田舎だ。担任が入ってきて、美嘉は少し離れた元の席についた。
今日は金曜日。今日を乗り越えれば明日は休みだ。今日も早く時間が流れればいいのに。勉強に手がつかないこの頃、勉強もしなければ、スマートフォンに依存しているわけでもなく、家に帰っても本を読んでいた。1年生の頃は医療系の小説ばかりを読み漁ったが、今年はミステリーに走った。去年の春に読んだ初の医療ミステリーを読んで、ミステリーに心が持っていかれてしまった。まだ読みたい医療系もあったのに。また読まないと。
しかし今日の時間割をみて愛奈はうんざりしていた。いつもうんざりしているが。今日は特に「うんざり」した日だ。時間割変更を恨む。


「はーーっ」
「どうしたの、長いため息ですけど」
「いや、なんか今日疲れたなぁって・・・」
今日の秒針は重かった。美嘉はもう帰る用意はすんで、カバンを背負っている。まだ愛奈は机に突っ伏している。
「今日きつかったもんねー。先生もうざいのばっかだったし」
美嘉もそれには同意見だったようだ。
しかしどちらかというと先生はどうでも良くて、ただただ勉強が苦痛だった。まぁ、明日は土曜だし。
「あ、愛奈、明日空いてるよね?」
「なんだよその言い方ー。私が常に暇みたいな」
「そーでしょーが。アンタも本当、もう少し女の子らしくいたら直ぐに彼氏なんかできるだろうに」
美嘉に"女の子らしく"と言われてもあまり何も思わない。まぁ、痛いところを突かれて「うっ」とはなるけど。私のことも然程知らないくせにそういう事を言う人が嫌なんだ。
「興味ないんだってー。運命の出会いっていつなんだろうなぁ」
また愛奈は突っ伏した。
「アンタ、5組の山川クンから告られたんでしょ?。オッケーすれば良かったのに。私ならするよ?あんなイケメンで人気の人と付き合えたらこれ以上ないよ」
そう、つい数週間前、他クラスの男子から告白された。人気者とクラスでも噂はされていたから知ってはいた。
「あり得ないよ。山川クンって人間を知らないもん」
「友達からってことにすればよかったのに・・・。なにあの振り方」
「あぁ・・・」
振り方というのも、「興味ないんです」である。確かに、もう少し言葉を選ぶ余地はあったかもしれない。これまでの数回の告白も、この言葉で受け流してきたから、無意識に出たのだ。
その後も話し込み、教室には2人が残った。もうみんなは帰るか部活に行ってしまった。
「鍵返して帰ろう」
「うん、で、話だいぶそれたけど明日行けるよね」
「行けますよ。所詮暇人ですので」
たまには女の子らしく流行りに乗ってみよう。
職員室に鍵を返し、校門を出た。
「明日、服装頼んだよー」
美嘉は遊びに行く時いつも言う。愛奈は「ほーい」と一言返すが、いつも通り地味な格好で来るのだ。
「ねぇ、本当、教室で言ってた運命の出会いが明日だったらどうするつもりなのよ」
愛奈はそれにやれやれといった表情を返す。来ないのが現実なのだから。そして素朴な疑問が1つ浮上した。彼氏やらに特に興味のない私が運命の出会いに遭遇しても気づくのか。
「ねぇ、愛奈?。恋に興味ないアンタに運命の出会いなんか必要あるの?」
うーん、と考えに詰まった。
「変われるかなって・・・。ほら、恋人ができたら私も流石に女の子らしくなりたくなるものじゃないかってさ」
すると、美嘉は一言で返してくれた。
「なるよ」
2人は駅に着き、2つのホームに別れた。愛奈の電車が一足先に到着したので、乗り込んだ。窓から美嘉が見えたので、小さく手を振った。
明日が楽しみだ。
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