黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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リオとセナの言葉には、純粋な探求心だけでなく、世界の行く末を案じる真摯な想いが込められていた。彼らが追う「星の民の遺産」が、果たして世界を豊かにするものなのか、それとも新たな災厄を招くものなのか。そして、その背後に蠢く「影」の存在。俺たちの新たな冒険は、いきなり不穏な空気に包まれていた。

「影の存在……。それは、おそらく俺たちが追っている者たちと無関係ではないだろうな」
俺は、険しい表情で言った。ノクスや原初の虚無を倒したとはいえ、その根源となるような、さらに巨大な悪意が存在する可能性は否定できない。

「ウルフルム殿の推測通りかもしれません。サラシエルを操っていた黒幕は、星の民の技術やエネルギーにも目をつけていた可能性があります。この遺跡は、彼らにとって重要な拠点の一つなのかもしれません」
アルドリスが、冷静に分析する。

「だとしたら、のんびりしてる暇はねえな! さっさと遺跡の奥へ行って、そいつらの企みをぶっ潰してやろうぜ!」
ザナックは、逸る気持ちを抑えきれないといった様子で剣の柄を握りしめた。

俺たちは、改めて気を引き締め、星の民の遺跡の奥へと進んでいった。遺跡の内部は、金属と水晶が複雑に組み合わさった、無機質でありながらもどこか神秘的な空間だった。壁には、理解不能な幾何学模様が描かれ、時折、青白い光が明滅している。

「この遺跡……まるで生きているみたいだね……」
ルナが、周囲を見回しながら呟いた。彼女の聖なる光は、この異質な空間の中でも、変わらず俺たちを優しく照らしてくれている。

「古文書によれば、星の民は、遺跡そのものに意思のようなものを与える技術を持っていたそうです。この遺跡全体が、一つの巨大な情報処理装置であり、同時に防衛システムでもあるのかもしれません」
セナが、手にした魔導書を捲りながら説明する。彼女の知識は、この未知の遺跡を攻略する上で、非常に役立ちそうだった。

俺たちは、セナの知識とアルドリスの感知能力を頼りに、慎重に遺跡の奥へと進んでいった。途中、壁からレーザーのような光線が放たれたり、床が突然せり上がってきたりと、様々なトラップが俺たちを襲ったが、リオの俊敏な動きと、ザナックの豪快な剣技、そして俺の的確な指示によって、それらを何とか切り抜けていく。

「くそっ! この遺跡、まるで俺たちの動きを読んでるみたいだぜ!」
ザナックが悪態をつく。

「おそらく、遺跡の深部にあるメインシステムが、我々を侵入者と認識し、防衛プログラムを作動させているのでしょう」
セナが冷静に分析する。

しばらく進むと、ひときわ大きな扉の前に辿り着いた。扉には、複雑なパズルのようなものが描かれており、それを解かなければ先へは進めないようだ。

「これは……星の民が用いたとされる、古代の暗号ですね。解読するには、かなりの知識と時間が必要です……」
セナが、額に汗を浮かべながら言った。

俺たちが途方に暮れかけた、その時。
「……私に、少し試させていただけますか?」
アルドリスが、静かに前に進み出た。彼は、扉に描かれた暗号をじっと見つめ、そして、懐から小さな水晶のようなものを取り出した。
「これは、かつて兄が……サラシエルが、影の教団で使っていた解読用の魔道具です。もしかしたら、星の民の暗号にも通用するかもしれません」

アルドリスは、水晶を扉の暗号にかざし、意識を集中し始めた。すると、水晶から微かな光が放たれ、扉の文様がゆっくりと変化していく。

数分後、カチリ、という小さな音と共に、巨大な扉が静かに開いた。

「やった……! さすがアルドリスさん!」
リオが、歓声を上げる。

「……兄の遺したものが、こんな形で役に立つとは……皮肉なものですね」
アルドリスは、少し複雑な表情を浮かべていた。

扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。そこは、まるで巨大なコンピューターの内部のような場所で、無数の水晶の柱が林立し、それらが複雑な光の回路で結ばれている。そして、その空間の中央には、ひときわ大きな、青白く輝く水晶の球体が浮かんでいた。あれが、この遺跡のメインシステムであり、そして星の民の遺産の中心なのかもしれない。

しかし、その水晶の球体の前には、数人の黒ローブの人物が立ちはだかっていた。その雰囲気は、これまでの影の教団員とは明らかに異なり、より冷酷で、そして機械的な印象を受ける。

「……ようやく辿り着いたか、招かれざる客よ」
その中の一人、リーダー格と思われる、銀色の仮面をつけた人物が、感情の籠らない声で言った。
「我々は、この星の遺産の守護者にして、新たなる秩序の執行者。『サイレント・ガーディアン』。お前たちの侵入は、ここで終わりだ」

「サイレント・ガーディアン……! あなたたちが、セナの言っていた『影』の正体なの!?」
リオが、声を震わせながら尋ねる。

「影……そうだな、我々は、かつて星の民がこの地に残した、自律型の防衛プログラムの末裔だ。そして、我々の使命は、この星の遺産を悪用しようとする者たちから守り、そして、いずれ訪れる『大いなる調律』の時まで、この世界のバランスを監視すること」
銀色の仮面の男は、淡々と語る。

「大いなる調律……? それは、一体何なんだ?」
俺は、警戒しながら尋ねた。

「それは、お前たちが知る必要のないことだ。ただ一つ言えるのは、お前たちの存在は、その調律を乱すノイズでしかないということだ」
銀色の仮面の男は、そう言うと、その両手から青白いエネルギーの刃を生成した。他のガーディアンたちも、同様に武器を構える。

「どうやら、話しても無駄みたいだな……!」
ザナックが、剣を抜いた。

「ウルフルムさん、彼らは、おそらく感情を持たない純粋な戦闘プログラムです。通常の説得は通用しないでしょう」
セナが、冷静に分析する。

「ならば、力ずくで止めるまでだ!」
俺は、レプリカの力を解放し、仲間たちと共にサイレント・ガーディアンに立ち向かった。

サイレント・ガーディアンたちの動きは、極めて正確で、一切の無駄がない。彼らは、まるで一つの意思で動いているかのように、完璧な連携攻撃を仕掛けてくる。そして、彼らが操る青白いエネルギーは、俺たちの魔力やオーラを中和するような、特殊な性質を持っているようだった。

「くそっ……! こいつら、思った以上に厄介だぜ!」
ザナックの剣撃も、ガーディアンたちの素早い動きに翻弄され、なかなか捉えきれない。

アルドリスの闇の力も、彼らの特殊なエネルギーフィールドによって効果が半減してしまう。

「みんな、気をつけて! 彼らのエネルギーは、私たちの力を弱める効果があるみたい!」
ルナが叫び、聖なる光で仲間たちを庇う。

俺は、レプリカの属性を様々に変化させながら戦うが、ガーディアンたちは即座に対応し、俺の攻撃パターンを分析しているかのようだった。

(こいつら……ただの機械じゃない……! 高度な学習能力を持っている……!)

その時、銀色の仮面の男が、中央の水晶の球体に手をかざした。すると、球体からさらに強大なエネルギーが放たれ、ガーディアンたちの力が一段と増した。

「まずい……! あの水晶が、彼らの力の源になっているんだ!」
俺は叫んだ。

「ウルフルム! あの水晶を破壊するしかない!」
リオが、決死の表情で言った。

「しかし、あれを破壊すれば、この遺跡全体がどうなるか……!」
セナが、懸念を示す。

「それでも、やるしかない! このままでは、俺たちがやられる!」
俺は、決断した。
「ザナックさん、アルドリスさん、リオ! 俺とルナであの水晶を狙う! その間、ガーディアンたちを食い止めてくれ!」

「任せろ!」
三人は、力強く頷いた。

俺とルナは、仲間たちが作り出してくれた僅かな隙を突き、中央の水晶の球体へと向かって駆け出した。銀色の仮面の男が、それを阻止しようと強力なエネルギー弾を放ってくるが、俺はそれをレプリカの力で弾き返し、ルナは聖なるバリアで俺を守る。

そして、ついに俺の剣が、青白く輝く水晶の球体を捉えた!

「うおおおおおおっ!」
俺は、渾身の力を込めて、剣を振り下ろした。

しかし、その瞬間。
水晶の球体から、想像を絶するほどの強大なエネルギーが逆流し、俺の体を激しく打ち据えた。

「ぐあああああああっ!」
俺は、強烈な衝撃と共に吹き飛ばされ、意識を失いかけた。
愛剣の柄頭にはめ込まれたレプリカも、その衝撃で砕け散ってしまったかのようだ。

(ダメだ……! これほどの力とは……!)

絶望が、俺の心を覆い尽くそうとした、その時。
俺の体の中から、温かく、そして力強い光が溢れ出した。それは、かつて森の賢者から授かった「精霊の護符」と、そして、サラシエルの形見として受け取った、あの古びた剣の柄頭から放たれる光だった。

サラシエルの柄頭……。それは、呪われた道具ではなかったのか……?
いや、違う。その奥底には、サラシエルが最後に残した、ほんのわずかな「善の心」と、そしてドラゴンたちへの「贖罪の念」が込められていたのかもしれない。

二つの光は、俺の体の中で融合し、そして、砕け散ったはずの邪神の宝石のレプリカを、新たな形で再構築していく。それは、もはや黒曜石ではなく、虹色に輝く、美しい結晶体だった。

「これは……!?」
俺は、自分の身に起こっている奇跡に、言葉を失った。

そして、俺の魂の奥底から、声が聞こえてきた。
『ウルフルム……。お前の真の力は、邪神でも精霊でもない……。仲間を信じ、未来を諦めない……その『心』の力だ……』

その声は、どこかサラシエルに似ているような気もしたし、あるいは、これまでに俺が出会ってきた全ての人々の想いが重なったものなのかもしれない。

俺は、ゆっくりと立ち上がった。
手には、虹色に輝く新たな剣が握られている。それは、もはやレプリカではない。俺自身の魂が具現化した、真の力だった。

「さあ……始めようか。本当の戦いを」
俺は、銀色の仮面の男と、そしてその背後にいるかもしれない、さらなる黒幕に向かって、静かに、しかし力強く宣言した。
星の民の遺跡を巡る戦いは、まだ終わらない。
そして、俺たちの絆の力が、今、真の輝きを放とうとしていた――。
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