婚約破棄から始まる嘘と本気の恋

フェレット

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3話 決断

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 静寂に包まれた部屋。
大きな窓の外には月が輝き、その柔らかな光がアリアの金髪に降り注いでいた。
彼女は椅子に腰掛け、深く息を吐く。

「偽装婚約……。」

 レオンからの提案を何度も頭の中で反芻していた。
 その響きは合理的で、危機的状況にあるシュタインベルク家を救う方法として理にかなっている。
 だが、それが本当に自分にとって最善なのか――。

 アリアは視線を手元に落とす。
小さく握った手には、微かな震えが残っていた。
 婚約破棄を告げられたあの瞬間、自分がどれだけ傷つき、無力さを感じたのか。
それを思い出すたび、心が軋むような痛みを覚える。

「私は、本当にこの方法を選ぶべきなの……?」

 胸の中に浮かぶ問い。
カスパーとの婚約が終わった今、自分にはもう「選ぶ自由」など残されていないのではないかと、ふと弱気になる瞬間があった。
 だが、すぐに頭を振る。

「そんなはず、ありませんわ。」

 自らを奮い立たせるように呟く。
アリアは、カスパーからの婚約破棄に屈して終わる存在ではない。
 シュタインベルク家の公爵令嬢として、どのような状況においても気高さを保ち続ける。
それが彼女の誇りだった。

 翌朝、アリアはレオンを訪ねた。
彼の滞在する屋敷の応接室で、彼女はきらびやかなドレスに身を包みながらも、背筋をピンと伸ばして座っていた。

「お待たせしました。」

 レオンが部屋に入ってくると、アリアは静かに彼を見上げた。
 その瞳には、昨夜までの迷いが消え去り、強い意志が宿っていた。

「いえ、私こそ急な提案を押し付けるような形になり、失礼しました。」

 レオンは穏やかな声で謝罪しながら席に着く。
彼の瞳もまた、真剣な光を宿していた。

「昨日のお話、考えさせていただきました。」

 アリアは丁寧に切り出した。
 彼の提案を受け入れると決めてはいたが、それを伝えるには慎重さが必要だと思ったからだ。

「そして、結論を出しました。――お受けいたします、ヴァレンシア様。」

 その言葉に、レオンの表情が少しだけ和らいだ。
 だが、それ以上に彼は冷静さを保ちながら頷く。

「ありがとうございます。お互いにとって最善の結果を目指すため、共に協力しましょう。」

 アリアはその言葉に静かに頷いた。
そして、レオンの提案に対する彼女自身の条件を口にする。

「ただし、私たちが偽装婚約を結ぶ以上、私はシュタインベルク家の名誉を守ることを最優先に考えます。それが叶わないと判断した場合、この契約は無効とさせていただきますわ。」

 レオンはその言葉を聞いてから、深く頷いた。その態度には、一切の迷いが感じられない。

「分かりました。私も、貴女が納得のいく形で進めることを第一に考えます。」

 話が一段落し、部屋に静寂が戻る。
アリアは一息ついた後、ふと視線をテーブルに落とした。
 彼女の胸の中には、まだ消えない小さな疑問が残っていた。

「ヴァレンシア様。」

「はい。」

「どうして……そこまでして私に手を差し伸べてくださるのですか?私たちは、ただの知り合いに過ぎないはずですのに。」

 その問いに、レオンは少しだけ沈黙した。まるで、自分自身に確認するように。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。

「私自身、余計な婚約話を断ち切るためには、今回の提案が最善だと判断しました。それが一番の理由です。」

 冷静な言葉に、アリアは頷く。
彼の言葉には計算が含まれていたが、それだけではないことを感じさせる何かがあった。
 だが、彼女はそれを深く追求しなかった。

「分かりました。それならば、互いにとって公平な契約を結びましょう。」

 その日、アリアとレオンの間に新たな「契約」が結ばれた。
 表面的には冷静に進んだ話し合いだったが、その裏ではお互いの胸の中で小さな感情が生まれ始めていた。
 それがどのような形で変化していくのか、二人はまだ知らない――。
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