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13話 市場
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市場の喧騒が周囲に広がる中、レオンは隣を歩くアリアの表情を密かに伺っていた。
彼女の視線は忙しなく動き回る庶民の営みに向けられている。
その横顔は、どこか不安げで落ち着かない。
(こうした場所に連れ出すのは、正しい選択だったのだろうか……。)
宮廷や屋敷に閉じこもり、噂や圧力に晒され続けている彼女を少しでも休ませたい。
その一心でこの市場への訪問を提案したのだが、アリアが真に楽しめているのかどうかが気にかかっていた。
「こういった場所、少し苦手かもしれませんわ。」
ふと彼女が漏らした言葉に、レオンは内心ぎくりとする。
しかし、表情には出さず、穏やかな声を保った。
「少し賑やかすぎましたか?ですが、ここでは宮廷のような厳しい視線はありません。貴女が肩の力を抜ける場所になればと思ったのですが……。」
彼女は一瞬驚いたようにレオンを見つめ、それから小さく笑った。
「お気遣い、ありがとうございます。でも、少しずつ慣れてきましたわ。」
レオンは彼女の微笑みを見て、胸の中にわずかな安堵を覚えた。
しかしその一方で、彼自身の中で渦巻く感情が言葉を飲み込ませる。
(私は、本当に彼女を支えられているのだろうか……。)
彼女が背負う家の名誉と重責。
その苦しみを、どれほど自分が軽減できているのか。
偽装婚約という関係の中で、自分の言葉や行動がどこまで彼女を救えているのか。答えはまだ見つからない。
ふと、アリアが立ち止まり、ある露店を指差した。
「レオン様、この果物は何ですの?」
彼が視線を向けると、そこには鮮やかな赤い果実が並べられていた。
「これはツァリチェですね。南の地方から運ばれてきたもので、甘みと酸味が特徴です。」
「まあ、そうですの。美味しそうですわね。」
アリアの瞳が微かに輝くのを見て、レオンは自然と店主に声をかけていた。
そして、一つを買い求めると、彼女に手渡した。
「どうぞ、召し上がってみてください。」
「こんなことまでしていただかなくても……。」
アリアがためらいがちに受け取る様子を見て、レオンは優しく微笑んだ。
「せっかくの機会です。味わっていただければ、それだけで十分です。」
彼女はしばらく迷っていたが、そっと果実を口に運んだ。
途端に、その顔が驚きと喜びに変わる。
「……とても美味しいですわね。少し感動してしまいました。」
その無邪気な表情に、レオンは思わず見入ってしまう。
普段、毅然とした態度を崩さない彼女が、こうして素直な感情を見せる瞬間は、滅多にない。
(これほど美しい笑顔を見せる方を、どうしてカスパー殿下は手放せたのだろうか……。)
二人は市場を歩き続け、小さな広場にたどり着いた。
喧騒から離れた静かな場所で、噴水の涼しげな音が響いている。
「ここなら静かに過ごせますね。」
レオンが言うと、アリアはベンチに腰を下ろしながら頷いた。
「こんな場所も良いものですね。ですが……こうして落ち着いていると、どうしてもあの噂が頭をよぎりますの。」
レオンはその言葉に少し眉を寄せた。
「噂のことですか?」
「ええ。私たちの婚約が偽装だという話もそうですし、私が家のために貴方を利用していると言われていることも……。」
アリアの声はかすかに震えていた。彼女の不安が、その言葉から伝わってくる。
「アリア様。」
レオンは真剣な表情で彼女を見つめた。
そして、自分の中にある迷いを振り払うように、静かに言葉を紡いだ。
「私たちの関係がどのように見られていようと、私は貴女を信じています。そして、どんな状況でも貴女の支えになるつもりです。」
その言葉に、アリアは目を見開いた。
驚きの中にも、どこか安堵の表情が浮かぶ。
「……ありがとうございます。レオン様のそのお言葉、とても心強いですわ。」
その瞬間、レオンは自分の胸の中に生まれた感情に気づいた。
それはただの責任感や義務感ではない。
もっと深い何か――彼女を守りたいという強い思いだった。
(この思いを伝えるべきか……。しかし、今の彼女にとって、それは負担にしかならないだろう。)
自分の感情を押し殺し、レオンは静かに微笑んだ。
その表情がどこか切ないものに見えたことに、アリアは気づかなかった。
彼女の視線は忙しなく動き回る庶民の営みに向けられている。
その横顔は、どこか不安げで落ち着かない。
(こうした場所に連れ出すのは、正しい選択だったのだろうか……。)
宮廷や屋敷に閉じこもり、噂や圧力に晒され続けている彼女を少しでも休ませたい。
その一心でこの市場への訪問を提案したのだが、アリアが真に楽しめているのかどうかが気にかかっていた。
「こういった場所、少し苦手かもしれませんわ。」
ふと彼女が漏らした言葉に、レオンは内心ぎくりとする。
しかし、表情には出さず、穏やかな声を保った。
「少し賑やかすぎましたか?ですが、ここでは宮廷のような厳しい視線はありません。貴女が肩の力を抜ける場所になればと思ったのですが……。」
彼女は一瞬驚いたようにレオンを見つめ、それから小さく笑った。
「お気遣い、ありがとうございます。でも、少しずつ慣れてきましたわ。」
レオンは彼女の微笑みを見て、胸の中にわずかな安堵を覚えた。
しかしその一方で、彼自身の中で渦巻く感情が言葉を飲み込ませる。
(私は、本当に彼女を支えられているのだろうか……。)
彼女が背負う家の名誉と重責。
その苦しみを、どれほど自分が軽減できているのか。
偽装婚約という関係の中で、自分の言葉や行動がどこまで彼女を救えているのか。答えはまだ見つからない。
ふと、アリアが立ち止まり、ある露店を指差した。
「レオン様、この果物は何ですの?」
彼が視線を向けると、そこには鮮やかな赤い果実が並べられていた。
「これはツァリチェですね。南の地方から運ばれてきたもので、甘みと酸味が特徴です。」
「まあ、そうですの。美味しそうですわね。」
アリアの瞳が微かに輝くのを見て、レオンは自然と店主に声をかけていた。
そして、一つを買い求めると、彼女に手渡した。
「どうぞ、召し上がってみてください。」
「こんなことまでしていただかなくても……。」
アリアがためらいがちに受け取る様子を見て、レオンは優しく微笑んだ。
「せっかくの機会です。味わっていただければ、それだけで十分です。」
彼女はしばらく迷っていたが、そっと果実を口に運んだ。
途端に、その顔が驚きと喜びに変わる。
「……とても美味しいですわね。少し感動してしまいました。」
その無邪気な表情に、レオンは思わず見入ってしまう。
普段、毅然とした態度を崩さない彼女が、こうして素直な感情を見せる瞬間は、滅多にない。
(これほど美しい笑顔を見せる方を、どうしてカスパー殿下は手放せたのだろうか……。)
二人は市場を歩き続け、小さな広場にたどり着いた。
喧騒から離れた静かな場所で、噴水の涼しげな音が響いている。
「ここなら静かに過ごせますね。」
レオンが言うと、アリアはベンチに腰を下ろしながら頷いた。
「こんな場所も良いものですね。ですが……こうして落ち着いていると、どうしてもあの噂が頭をよぎりますの。」
レオンはその言葉に少し眉を寄せた。
「噂のことですか?」
「ええ。私たちの婚約が偽装だという話もそうですし、私が家のために貴方を利用していると言われていることも……。」
アリアの声はかすかに震えていた。彼女の不安が、その言葉から伝わってくる。
「アリア様。」
レオンは真剣な表情で彼女を見つめた。
そして、自分の中にある迷いを振り払うように、静かに言葉を紡いだ。
「私たちの関係がどのように見られていようと、私は貴女を信じています。そして、どんな状況でも貴女の支えになるつもりです。」
その言葉に、アリアは目を見開いた。
驚きの中にも、どこか安堵の表情が浮かぶ。
「……ありがとうございます。レオン様のそのお言葉、とても心強いですわ。」
その瞬間、レオンは自分の胸の中に生まれた感情に気づいた。
それはただの責任感や義務感ではない。
もっと深い何か――彼女を守りたいという強い思いだった。
(この思いを伝えるべきか……。しかし、今の彼女にとって、それは負担にしかならないだろう。)
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その表情がどこか切ないものに見えたことに、アリアは気づかなかった。
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