婚約破棄から始まる嘘と本気の恋

フェレット

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14話 疑惑の糸

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 レオンは広げた地図に目を落としながら、情報を整理していた。
彼の視線は冷静だが、その中には確かな緊張感が漂っている。
シュタインベルク家の一室で、アリアがそっと紅茶を差し出した。

「レオン様、ここ数日間、随分と忙しく動かれているようですわね。」

「ええ。どうしても掴みたいものがあって。」

 レオンは地図の端を指で軽く叩きながら、ゆっくりと口を開いた。

「ここ数日の間に、ミラナ・エヴァンズが訪問したとされる家がいくつかあります。その中で、特に影響力を持つ人物を探し出すことが鍵になります。」

「それが分かれば、噂の出所を特定できるのですね。」

 レオンは頷いたが、その表情には険しさが残っていた。

「ただし、その人物が自ら動いたという証拠が必要です。それがなければ、私たちの反撃は効果を持たない。」

 アリアは少し考え込むようにして口を開いた。

「では、次の王室の晩餐会で……その人物を探し出すことは可能でしょうか?」

「それが私の狙いです。」

 レオンは地図を畳み、アリアを真っ直ぐに見つめた。

「晩餐会は、王室内外の影響力を持つ者たちが集まる場です。ミラナが接触した人物も、その場にいる可能性が高い。」

「つまり、私たちはその場で相手の出方を探る必要があるのですね。」

「ええ。そして、必要があればこちらから仕掛ける。」

 レオンの声には確固たる決意が宿っていた。
それを聞いたアリアもまた、自分の立場を改めて意識する。

「分かりましたわ。私も、その場でできる限りのことをいたします。」

 晩餐会当日、煌びやかな会場には貴族たちの賑やかな声が響いていた。
アリアとレオンが会場に足を踏み入れると、すぐに周囲の視線が二人に集まる。

「どうやら注目の的ですわね。」

 アリアは小声でそう呟き、軽く微笑みを浮かべた。
その表情の裏には、堂々とした態度を見せようとする彼女の気丈さが垣間見える。

「堂々としていれば、それで十分です。」

 レオンの落ち着いた声に、アリアは小さく頷いた。

 会場内では、貴族たちが各々のグループに分かれて談笑していた。
その中に、レオンが事前に目を付けていた人物――ミラナが最近接触したという貴族の姿があった。

「彼がその一人ですね。」

 レオンが小声で指差したのは、中年の男爵だった。
その男爵は周囲と談笑しながらも、時折こちらに視線を送ってくる。

「私が話を聞いてきます。貴女は、他の方と軽く挨拶を交わしておいてください。」

「……分かりましたわ。」

 アリアは短く返事をし、別のグループへと向かった。レオンは男爵の方に近づき、声をかける。

「男爵殿、お久しぶりです。」

「おや、ヴァレンシア殿。お目にかかれて光栄です。」

 男爵は朗らかな笑顔を浮かべたが、その視線にはどこか警戒心が見え隠れしていた。
レオンは軽く笑みを浮かべたまま、話題を切り出す。

「最近、エヴァンズ様とはお会いになられましたか?」

 その問いに、男爵の顔が一瞬だけ引きつるのをレオンは見逃さなかった。

「……ええ、少し前に。彼女は王子の婚約者として、非常に魅力的な女性です。」

「確かに。その才気は宮廷でも評判です。しかし……噂話が多いのが少し気になりましてね。」

 レオンの穏やかな口調に、男爵は微かに焦りの色を見せた。

「噂、ですか。いや、それは……。」

 その場の空気が一瞬だけ張り詰めた。

 一方、アリアもまた、別の貴族たちと談笑を交わしていた。
その中で、ちらりと耳に入った会話があった。

「最近の噂、聞きましたか?ヴァレンシア様とシュタインベルク嬢が……。」

 話の内容を正確には聞き取れなかったが、それが自分たちの婚約に関するものであることは明らかだった。

(この状況を、何としてでも打開しなければなりませんわ……。)
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