午前十時を過ぎたなら ―義父との秘密が始まる―

山田さとし

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第一部 恵の選択

第十章 残像2(挿絵付) 

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【啓介と同居 三ヶ月目】 
【20●1年3月15日 PM0:30】

リビングで。

※※※※※※※※※※※※※※※

スカートの裾を握り締めるようにして恵はソファーに座っていた。

まだ胸がドキドキしている。
さすがに男の裸位で我を無くす程、ウブな訳では無かったが。

あんなに間近に・・・。
しかも、はちきれんばかりに反り返るものを見たのは初めてであった。

夫の武のものでさえ明るい所では見た事が無かったし、一度「口で」してあげた時も終始、目を閉じて見ないようにしていたのだ。
はなからグロテスクなものと興味がなかった。

いや、意地になっていたのかもしれない。
巷に溢れるポルノ・グラフィーでの安易に女が欲情する表現が腹立たしく、自分の心に強いバリヤーを絶えず張っていたのだ。

だが、昨日今日と恵の心は揺れていた。
この数ヶ月にピークに達していたストレスと疲労感が、恵の気持ちに微妙な変化を与えていた。

信頼していた夫の冷たい態度。
嫌悪していた義父の意外な優しさ。

新しく豪華な住まい。
輝くブレスレット。

それらが恵の頭の中で渦を巻いている。

義父の大きく赤黒いものが脳裏から離れなかった。
身体が火照ってくる気がする。

自分の息が微かに聞こえるのが解かる。
頭の中に残像がクッキリと広がっていた。

恵は知らず知らずの内に、その記憶をたどっていく。
バスタオルで身体を拭いていた義父はその分、下半身を剥き出しにしていた。

根元よりも先が太いカリ首が深い影を作っていた。
反り返ったそれは、血管が浮出てコックにらせん状に模様を作っている。

思わず吐息を漏らした。
身体の芯がむず痒い。

恵は自分の頬に手を当ててみた。
火が出たように熱くなっている。

何か切ない思いが込上げてきた。
恵は頬に当てていた手を胸に滑らせると、セーターの上からそっと触ってみた。

ビクンと電流が走った。
胸の鼓動は更に激しく脈打っている。

「いや・・だ・・・?」

無意識に出た声に顔を上げると、ソファーに投げ出されたままの雑誌が目に入った。

官能にむせぶ女性の挿絵が心に迫る。

雑誌を取りページをめくると恵の手が止まった。
その話のヒロインであろうか、口を半開きにした切ない表情のアップになっている。

ハァ、ハァと荒い息の描写と共に指が光るコックを握っている。

「あぁ・・・ほ、欲し・・い・・・」

そのセリフは以前の恵なら、くだらない物と一言で片付けていた筈なのに今は何故か目が釘づけになって動けなかった。

(あぁ・・・ほ、欲し・・い・・・)

恵は心の中でそのセリフを言ってみた。
その瞬間に、再び電流が身体を走った。

(わっ・・な、何・・・?
この・・・感・・じ・・・)

最も嫌悪する言葉であったのに。
身体が反応したのである。

恵は食い入るようにそのシーンを見ている。
光って実体の見えないコックの描写に、まだ頭の中にクッキリと焼き付いている残像を重ねてみた。

大きく逞しい印象が僅か一瞬見ただけであるのに、いやそれだからこそ余計に記憶の中で増幅されていた。
すると徐々にヒロインの切ない表情が自分の顔に見えてくる。

(ああ・・・い、いや・・だ。
わ、私・・・?)

記憶に残る義父のものは太く、大きかった。

(あんなに太・・くて・・・
に、握れるの・・・かし・・ら?)

恵の心が勝手に動き出して、無理に閉じ込めていた淫靡なイメージが膨らんでくる。

(あぁ・・こ、こん・・・な、変・・・)

ページの中の女と同じように息が荒くなる。
鼻からだけでは苦しくて何時しか口は半開きになり、唇から白い歯が零れていた。

「ふぅ・・・はぁ・・んぁ・・はぁ・・・」
本当に微かではあったが、確実に聞き取れるぐらい大きくなっていった。

「う・・ふ、ぅ・・・は・・ぁ・・・」
恵は雑誌を握り締めたまま、とうとうそのセリフを口にしてしまった。

「あぁ・・・ほ、欲し・・い・・・」

その声が余りにも艶めかしく感情がこもっていたため、恵は雑誌を落としてしまった。

「あっ・・・い、いやっ・・・」
我に帰った恵は顔を真っ赤にして雑誌をしまうと、顔を洗いに急いで洗面所に向かった。

うっかり義父の事を忘れていたのだが、人影はもうなかった。
ムッとする程の湯気が充満していた。

さっき義父がシャワーを浴びていたせいだろう。
その暖かさが妙にくすぐったく恵を包む。

鏡に映る自分の顔を見て驚いた。
陶酔した表情で目をトロンとさせている。

「ダ、ダ・・メ・・・」
小さく叫ぶように言うと水を被り始めた。

何度も何度も水を顔に叩き付けながら、恵は必死になって残像を記憶の中から消そうとしていた。
だが、その行為をあざ笑うかの如く、先程のセリフが頭の中で繰り返し何度も囁かれるのであった。

(あぁ・・・ほ、欲し・・い・・・)
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