午前十時を過ぎたなら ―義父との秘密が始まる―

山田さとし

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第一部 恵の選択

第三十九章 始まり

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【啓介と同居 四ヶ月目】 
【20●1年4月3日 AM8:40】

翌日の朝。
庭で。

※※※※※※※※※※※※※※※

恵は漂っていた。
白い海の中で。

昨日、義父に抱かれた時のように。
同じ匂いがする。

頭が痺れてくる。
何も見えない。

目の前には、ただ白い世界が広がっていた。
このまま、今はこのまま漂っていたい。

義父に抱かれた日の翌朝。
昨日の大雨は嘘のように太陽が顔を出していた。

青い空が広がっている。
色とりどりの布がそれを縁取っている。

恵は幸せを噛み締めていた。
二人の愛の中に包まれている。

洗い立ての洗剤の匂いは以前から大好きだったけど。
今は違う興奮を呼んでくる。

昨日、義父に抱かれた。
夫の父とセックスをしたのだ。

あれほどの絶頂は夫の時とは比べ物にならなかった。
禁断を破る不条理な想いが快感を増幅させる。

同時に義父への恋心も確実に認めたのだ。
眠っていた想いを呼び覚まし、新しい愛に震えている。

だが、それとは別の感情にも戸惑っていた。
昨夜、夫と寄り添うようにして眠った。

武は予期しなかった「ご褒美」に満足そうな寝息を立てていた。
妻の懺悔の行為とも知らずに。

そんな夫に恵は今までに無い愛情を感じている。
自分の犯した罪に何も気付かずにいる夫がイジらしく、この愛を大切にしていこうと思った。

夫のために一生懸命尽くしていこうと心に誓う。
そして新しい愛にも真正面から向かい合い、自分の気持ちに素直に生きていく事も。

恵は両腕を一杯に伸ばして深呼吸してみた。
洗い物の香りが心地良かった。

昨日の愛の余韻が蘇ってくる。
恵は禁断の果実を口にしてしまった。

それは切なくも不思議な味がした。
自分の心に閉じ込めていたものが全て弾けて、官能の嵐となって身体中を襲った。

もう、戻れないと思った。
これからもこの白い海の中で漂い、新しい愛を育てていこうと思うのだ。

悪い女だ、と思った。
夫の浮気を責めておきながら遥かに重い罪を自分は犯している。

だが、それでもいいと思う。
例えズルイ女と呼ばれても二つの愛に生きていこうと決めたのだ。

どちらも捨てたくは無い。
昨日、熱い愛を飲み干した恵の唇を優しく男達は味わってくれた。
愛おしそうに舌を絡ませながら言ってくれた言葉は、一生忘れないであろう。

【愛している・・めぐみ・・・】

二人の想いが同じフレーズとして恵の心に刻まれた。
恵は二人の男達に、それぞれ心を込めて言葉を返した。

「私も・・愛しています・・・」

それは心に一点の曇りもない真実の言葉だ。
恵は支えきれない程の愛を背負っていく。

自分の全てをかけて。

恵はもう一度伸びをすると澄切った青空を眩しそうに見つめた。
そしてこれから始まる新しい生活に、心を震わせるのであった。

今朝、夫への愛を唇に託して見送った。
出勤前の玄関で新婚当時よりも、気持ちをこめて夫は返してくれた。

優しく、激しいキスであった。
まだ余韻が残る唇に指を当てながら、恵は新しい恋人の事を想っていた。

※※※※※※※※※※※※※※※

【啓介と同居 四ヶ月目】 
【20●1年4月2日 PM4:00】

昨日、二人が結ばれた後。
リビングで。

※※※※※※※※※※※※※※※

『えっ、出かけるんですか?』
義父の逞しい腕の中から顔を上げて、恵が残念そうな声を出した。

『そや・・今夜は帰らんから・・・』
『そんな・・・』

天使が作る例の眉をひそめる表情に戸惑いながらも、照れくさそうに男が言った。

『堪忍や・・・
さすがに武と今日は目を合わせられんからな。
どこぞのホテルにでも泊まってくるわ・・・』

『ず、ずるいわ。
私一人に・・・』

口を尖らせて抗議する恵を、もう一度腕の中に抱きしめ返すと愛おしそうに言った。

『好きや、恵・・愛しとる・・・
もう、離さへん・・・
俺の残りの人生を全部、お前にやるわ・・・』

義父の言葉に瞳を潤ませて恵も言った。

『うれしい・・私も、私も大好き・・・
愛している、お義父さん・・・』

その言葉に男は唇でお礼をした。
愛の誓いのキスを暫らく味わった後に、ようやくさっきの続きを話し出した。

『そやけど、武は俺の息子や・・・
ものすごぉ勝手な話やけど・・・
お前ら夫婦の幸せを壊すんはイヤなんや・・・』

『お義父・・さん・・・』

『お前は・・・何も、悪うない。
俺一人、地獄にでも何でも落ちやええ・・・
そんでも、お前だけは絶対放さへんでぇ・・・』

『お義父さん・・お義父さん・・・』

涙が溢れてくる。
啓介の腕の中で肩を震わせている。

男は優しく髪を撫でながら続けた。

『俺は今、物凄ぉ幸せや・・・
いつ死んでもええ・・・

せやけど自分の立場はわきまえとる・・・
お前の夫は武なんや、俺と違う・・・

俺とお前はそう・・・
夕方までの恋人なんや・・・』

『夕方までの・・・恋・・人?』

涙で塗れた瞳を向けて恵は言い返した。
男は愛しい天使の涙を指で拭いながら繰り返した。

『そや、夕方までや。そんでええ・・・
そんで十分なんや・・・』

そして貪るように天使の唇を味わうのであった。
義父に唇を預けながら、恵は心の中で何度もその言葉を繰り返すのであった。

(夕方までの・・恋人・・・)

※※※※※※※※※※※※※※※

そして、翌日の朝。

漂っていた白い海の一角が崩れたかと思うと、弾ける笑顔が現れた。
義父の啓介であった。

「おはようさん・・・」
嬉しい驚きに、天使は零れる白い歯を新しい恋人にプレゼントするのであった。

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