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第一部 恵の選択
第六十二章 紳士と野獣2
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【啓介と同居 四ヶ月目】
【20●1年4月7日 AM11:00】
三時間後。
リビングで。
※※※※※※※※※※※※※※※
イタズラな風が恵の前髪を揺らしていた。
くすぐったさに目が覚める。
気が付くと暗い部屋の中にいた。
何時の間にか毛布がかけられていた。
美味しそうな匂いがする。
ソファーから起きあがって、ダイニングを見ると鍋を持つ義父の目と合った。
「おぉ、起きたか?
おはよう・・・いや、遅ようや・・・
もう、昼やもんな・・・」
「わ、私・・・?」
「可愛らしい寝顔やったでぇ・・・
まるで女神さんや・・・」
義父の言葉に頬を染めた恵は恥ずかしそうに言った。
「やだ、私・・寝ちゃったのね・・・?」
そしてテーブルに食器を並べる義父に気付くと、慌てて声を出した。
「あっ、お義父さん・・私、やります」
「ええて、もう出来たさかい・・・」
「で、でも・・・」
「ええから早よおいで・・冷めてまうわ・・・」
恵がすまなそうな表情で席につくと、鍋から良い匂いと共に熱い湯気が立ち昇っていた。
急にお腹の虫が鳴った。
そう言えば昨日から何も口にしていなかったのである。
男が鍋の蓋を開けると思わず声が出た。
「うわー、美味しそう・・・」
まだグツグツと泡が立つ雑炊は恵の食欲を刺激するのだった。
「残りもんやけどな・・・
まー、熱いのだけが取柄や・・・
さっ、食べてみっ・・・」
照れくさそうに笑いながら差し出されたお椀には様々な具が入っていた。
恵が一口啜ってみると身体中に栄養が染み込んでくるようであった。
「おい・・しい・・・」
「そーか、よかった・・口に合って・・・」
啓介は嬉しそうに言うと自分も箸をつけた。
「おー、ホンマや・・中々いけるでぇ?」
二人は顔を見合わせると楽しそうに笑った。
数時間眠った恵の身体は嘘のように軽くなっていた。
そして義父の作ってくれた雑炊が暖かく、身体ごと心も包んでくれる気がした。
「本当、美味しい。
お義父さん・・・料理上手なんだ?」
「雑炊ぐらいで大袈裟なやっちゃ・・・
そやけど二年も一人暮しやったからなぁ・・・」
恵は可笑しかった。
つくづく不思議な男である。
昨日、野獣のように恵の身体を陵辱したかと思うと今朝のように優しく肩を抱いたまま眠らせてくれた。
以前は口も聞きたくない程、無愛想であったのに今は優しい心使いで料理までつくってくれる。
まるでジキルとハイド氏のようだ。
そう、紳士と野獣である。
含み笑いを浮かべる天使に男は明るい声で言った。
「どや、メシ食ったら散歩にでも行こか?」
男の言葉が恵を優しく包む。
子供のような笑顔が嬉しかった。
恵も心から愛おしさを込めた眼差しを送ると、笑顔のまま小さく頷いた。
少女とメス犬。
紳士と野獣。
どちらも二人の本当の姿なのであろう。
今日は紳士と少女になって過ごすつもりであった。
明日はどちらの自分になるのであろうか。
二人の生活が徐々にではあるが、形作られていくのであった。
【20●1年4月7日 AM11:00】
三時間後。
リビングで。
※※※※※※※※※※※※※※※
イタズラな風が恵の前髪を揺らしていた。
くすぐったさに目が覚める。
気が付くと暗い部屋の中にいた。
何時の間にか毛布がかけられていた。
美味しそうな匂いがする。
ソファーから起きあがって、ダイニングを見ると鍋を持つ義父の目と合った。
「おぉ、起きたか?
おはよう・・・いや、遅ようや・・・
もう、昼やもんな・・・」
「わ、私・・・?」
「可愛らしい寝顔やったでぇ・・・
まるで女神さんや・・・」
義父の言葉に頬を染めた恵は恥ずかしそうに言った。
「やだ、私・・寝ちゃったのね・・・?」
そしてテーブルに食器を並べる義父に気付くと、慌てて声を出した。
「あっ、お義父さん・・私、やります」
「ええて、もう出来たさかい・・・」
「で、でも・・・」
「ええから早よおいで・・冷めてまうわ・・・」
恵がすまなそうな表情で席につくと、鍋から良い匂いと共に熱い湯気が立ち昇っていた。
急にお腹の虫が鳴った。
そう言えば昨日から何も口にしていなかったのである。
男が鍋の蓋を開けると思わず声が出た。
「うわー、美味しそう・・・」
まだグツグツと泡が立つ雑炊は恵の食欲を刺激するのだった。
「残りもんやけどな・・・
まー、熱いのだけが取柄や・・・
さっ、食べてみっ・・・」
照れくさそうに笑いながら差し出されたお椀には様々な具が入っていた。
恵が一口啜ってみると身体中に栄養が染み込んでくるようであった。
「おい・・しい・・・」
「そーか、よかった・・口に合って・・・」
啓介は嬉しそうに言うと自分も箸をつけた。
「おー、ホンマや・・中々いけるでぇ?」
二人は顔を見合わせると楽しそうに笑った。
数時間眠った恵の身体は嘘のように軽くなっていた。
そして義父の作ってくれた雑炊が暖かく、身体ごと心も包んでくれる気がした。
「本当、美味しい。
お義父さん・・・料理上手なんだ?」
「雑炊ぐらいで大袈裟なやっちゃ・・・
そやけど二年も一人暮しやったからなぁ・・・」
恵は可笑しかった。
つくづく不思議な男である。
昨日、野獣のように恵の身体を陵辱したかと思うと今朝のように優しく肩を抱いたまま眠らせてくれた。
以前は口も聞きたくない程、無愛想であったのに今は優しい心使いで料理までつくってくれる。
まるでジキルとハイド氏のようだ。
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「どや、メシ食ったら散歩にでも行こか?」
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恵も心から愛おしさを込めた眼差しを送ると、笑顔のまま小さく頷いた。
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今日は紳士と少女になって過ごすつもりであった。
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