午前十時を過ぎたなら ―義父との秘密が始まる―

山田さとし

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第一部 恵の選択

第七十二章 二人きりの夜(挿絵付)

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【啓介と同居 六ヶ月目】 
【20●1年5月20日 PM2:00】

郊外のスーパーで。

※※※※※※※※※※※※※※※

籠一杯に詰め込んだショッピング・ワゴンを仲良く押しながら二人は歩いている。
さすがに腕を組む事はしないが品物を取る時等、もたれるように身体を寄せてくる恵であった。

愛し合っている胸のトキメキが二人に新鮮な気分を運んでくる。
ワザワザ遠くのスーパーに夕食の買出しに訪れたのは、近所の目を気にする事無くこうして恋人同士の気分を満喫するためだった。

しかも今日は夫の武が出張で帰ってこないので、まるで新婚初夜の気分であった。
時折、楽しそうに振りかえる天使の笑顔が啓介には眩しかった。

出かける前にリビングで愛し合った余韻がまだ残っている。
結局、恵の願いにより最後まではいかずに我慢したが、今夜の事を想うと益々興奮してくるのであった。

恵と二人きりの夜。
心から幸せを噛み締める啓介であった。

※※※※※※※※※※※※※※※
【啓介と同居 六ヶ月目】 
【20●1年5月20日 PM7:00】

啓介宅の和室で。

※※※※※※※※※※※※※※※

「どーぞ、お義父さん・・・」
恵がそっと差出すビールを嬉しそうにコップに受けとめると一気に飲み干して言った。

「あー、美味いっ・・最高や・・・」
口元に泡を残して笑顔をこぼす義父に、恵は微笑みながら更に注ぎ足している。

天使が隣にいた。

夏物の浴衣に着替えた恵は、湯上りの香りを漂わせ魅力的な色香を振り撒いていた。
想わず押し倒したくなる衝動を押さえて、啓介も女のコップにビールを満たす。

「さっ・・お前もいけや・・・」

はにかむように白い歯をこぼすと、恵も美味しそうに半分程を飲み干した。
細い首にある喉が動いていく。

「ふぅ・・美味しい・・・」
そして男の肩にしだれかかるのだった。

二人は幸せであった。
今夜は二人きり。

誰にも邪魔される事はない。
テーブルの上には今日買ってきたばかりの新鮮な刺身や、手の込んだ料理が並んでいた。

待ちきれない義父の愛撫を巧みに除けながら、恵が心を込めて作ったのである。
いつものダイニングテーブルでは無く、義父の家の一階の和室に綺麗に並べている。

次の間の六畳に敷きつめられた真新しい客用の布団が妙に艶めかしい。
恵はその部屋をチラリと覗くと頬を染めてしまった。

「まぁ・・ふふっ・・・」
「中々ええやろ・・・新婚旅行みたいで?」

啓介も少し照れながら言った。
楽しい時間が過ぎていく。

豪華な料理に舌鼓を打ちながら、幸せの杯に酔いしれていく。
思い出したように交わす口づけが心地良い。
糊の利いた浴衣同士の触れ合う音が風流に感じる。
クーラーを軽く利かせた部屋は雨戸も締め切り、準備に怠りはなかった。

「あぁ、美味いなぁ・・・恵の料理は最高やで」
「ふふっ・・嬉しい・・もっと誉めてぇ・・・」

天使がイタズラな瞳を向ける。

「おぉ、おぉ・・・なんぼでも言うたるで。
お前はええ女や・・最高や、ホンマ・・・」

男の熱い息が首筋をくすぐる。
恵は幸せそうに義父の唇を受けとめる。

「あ・・ん・・だ、だ・・め、感じちゃう・・・」

「フフッ・・何ぼでも声出してもええぞぉ・・・
雨戸も閉切ってあるさかい・・・な?」

「もう・・エッチ・・・」
そう言いながらも義父の唇に自分を重ねると、愛おしそうに舌を絡めていく。

「ふぅ・・ん、んん・・・むぅ・・ふぅ・・・」
男は天使を肴に、ゆっくりと杯を重ねる。

女も口づけを交わす度に酔いが広がる。
幸せな時間を漂う二人は互いの瞳を見詰め合いながら愛を囁いていく。

「恵、好きや・・愛しとるで・・・」
「あぁ・・私も大好き・・お義父さん・・・」

※※※※※※※※※※※※

頃合を見計らって啓介はトイレに立った。
恵も一旦、身支度を整えに洗面所にいった。

鏡に映る自分の顔を眺めている。
ほんのり染めた頬は生気に満ち、幸せそうな笑顔を見せている。

初めて義父のものを見てしまった日の表情と似てはいるのだが、格段に増した美しさと健康そうな肌をしている。

こんなに幸せでいいのだろうか。
ふと湧きあがる不安に一瞬例の眉をひそめる表情になるのだが、直ぐに義父の顔を思い出し化粧を整えていく。

そう、今日は花嫁の気分であった。
新婚初夜のように義父に抱かれるのだ。

恵は鏡の中で大きく息をつくと、再び笑顔を作るのであった。
今夜、義父に抱かれる。

そして寄り添ったまま眠れるのである。
ずっと一緒なのである。

二人で朝を迎えるのだ。

部屋に戻ってくると、啓介が真剣な顔で正座していた。
恵もその雰囲気に飲まれるかのように神妙に座った。

「めぐみ・・これ・・・」

男は懐から小さな箱を取り出して言った。
恵がそれを受け取ると顔を赤くしながら声を出した。

「開けてみい・・・」
恵は何かの期待に胸をときめかせながら蓋を開けると、ため息のような声をあげた。

「まぁ・・・」

プラチナリングの輝きが眩しく瞳に入ってきた。
呆然と眺めていた恵であったが、我に帰ると瞳を潤ませて男を見つめた。

「結婚してくれ・・・」
「えっ・・・?」

恵は驚いた表情で顔を上げた。

「あっ・・い、いやっ・・・。
も、勿論・・武とは、そのままで・・・
ええんやで・・・

ただ・・な・・・
このまま、お前を・・・その・・な、
中途半端にしたぁ・・ないんや・・・」

恵の瞳から、みるみるうちに涙が溢れてくる。

「う、うまい事・・・言えんけど・・・
恵、お前を一生・・・
大事にしていきたいのや・・・」

「お義父・・さん・・・」

恵はケースを握り締めたまま男の胸に飛び込んだ。
小さな肩を震わせながら泣いている。
男は愛おしそうに抱きしめて言った。

「ははっ・・ホンマ泣虫やな、めぐみは・・・
好きや・・愛しとる・・・
もう放さへん・・結婚してくれ、めぐみ・・・」

「ああ・・う、ううっ・・・
お義父さん・・お義父・・さん・・・」

男の胸が暖かった。
女の涙が首筋を伝う。

二人は抱きしめ合いながら愛を感じていた。
踏み込んでしまった禁断の愛は、それでも深く心に入り込み確実に育っていた。

愛している。
その言葉だけで良かった。

二人は今夜、結ばれたのだから。
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