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しおりを挟む煌びやかな店内。
咲舞はソファに座り、メニューを見ながらスタッフに言う。
「指名、匠で。あと、そうね、ソウメイと。コール要らないから」
スタッフが一瞬固まる。
「あ、りがといございます」
匠が現れる。
スーツ姿のまま、少しぎこちない笑顔で咲舞の隣に座る。
「何なのこれ? なんで、あんたがホストやってんの?」
匠は静かに答える。
「君が行きたい場所と、“ダメな男は貢がせる”を合わせると、こうなった」
咲舞は笑いながらグラスを傾ける。
「バカみたい。でも…ちょっと面白い」
匠は咲舞の髪に軽く触れ「今日も綺麗だね、姫」と囁く。
咲舞は吹き出す。
「似合わない! でも、悪くない」
匠は嬉しそうに、はにかんで咲舞の指先に少し触れた。
そして名残惜しそうに立ち上がる。
「他の席にも呼ばれてる。少しだけ、行ってくる」
咲舞は黙って頷くが、目は匠の背中を追った。
夫が別の女性客の隣に座り、笑顔で接客している。
女性客が匠の腕に触れ、耳元で何か囁く。
咲舞はグラスを強く握りしめる。ついでにギリギリ歯ぎしりもする。
ヘルプホストが咲舞に声をかける。
「姫、そんな顔しないで。シャンパン追加いかがですか?」
「いらない。あいつが戻ってくるまで、何もいらない」
その瞬間、咲舞は立ち上がり、匠の前に歩み出る。
周囲の視線が集まる。何が起きるのか、誰もが息を呑む。
──次の瞬間、グラスの中身を匠の胸元にぶちまけた。
「……っ!」
匠はびしょ濡れになりながらも、冷静にスタッフへ一礼し、着替えのために奥へ向かう。
店内はざわつき、客たちがヒソヒソと話し始める。
「え、あれって新人じゃなかった?」
「修羅場? でも、彼…怒ってない?」
匠が更衣室の扉を開けようとした瞬間、咲舞が現れる。
その足取りは迷いなく、鍵の位置も動線も完璧に把握している。
匠は驚きながらも、言葉を発する前に咲舞が一歩踏み出す。
その手が、匠の胸元に伸びる。
反射的に構えた瞬間──咲舞は匠のネクタイを掴み、ぐいっと引き寄せて、唇を重ねた。
強く、そして一瞬で離れる。
匠は目を見開いたまま、何も言えずに立ち尽くす。
咲舞はくるりと背を向け、ヒールの音を響かせながら裏口から去っていった。
残された匠は、濡れたシャツのまま、そっと唇に指を添えた。
自宅リビング。
匠はケーキを買って帰宅。
ソファでふてくされる咲舞を覗き込む。
「怒らないの? 舐められるよ」
「君は動物じゃない」
「……」
「その代わり、髪洗ってくれ。君が酒かけたから」
「……自分で洗えば?」
「ダメンズって、こういう時に『君がやってくれなきゃ嫌だ』って言うんだろ?」
匠は、さっさとシャツのボタンに指をかける。
咲舞は、ため息混じりにバスルームに移動する。
「……座って」
腰にタオルを巻いただけの匠が椅子に腰かけると、咲舞はシャワーを出し、泡立つシャンプーで静かに髪を濡らす。
指先は優しく、匠の髪を撫でるように動く。
匠は目を閉じ、咲舞の手の温もりを感じた。
シャンプーが終わると、匠は咲舞の腕を掴み、深くキスをする。
「ホストクラブでキスされた、お返し」
不敵に笑うと意外にも咲舞は、濡れた瞳で見つめ返した。
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