スパダリ改悪計画 ~結城家の愛され方改革

イシュタル

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 咲舞は久しぶりにホストクラブへ足を運んだ。  

 匠との生活は安定していた。優しさも、安心も、満たされていた。

 でも──物足りなかった。

 店内の隅で、若いホスト・ルカがスタッフに詰められていた。

「今月の売上、どうすんだよ。あと10万足りないって言ったろ?」

「……すみません。姫が来なくて……」

 ルカは俯き、声を震わせながら涙をこぼす。

 咲舞はその姿に、心がざわついた。

 匠の「ありがとう」よりも、ルカの「助けて」の方が、咲舞の心を強く揺らした。

 咲舞は静かにルカの隣に座り、財布を開く。

「……いくら足りないの?」

 ルカが顔を上げる。

「えっ…姫?」

「いいから。今だけ、私が“姫”でいてあげる」

 その瞬間、咲舞の中で何かが切り替わった。









 帰宅した匠は、いつものように玄関で待っていた。

「今日もいてくれて──」

 しかし、咲舞の姿はなかった。

 スマホのGPSはオフ。SNSも更新なし。  

 冷蔵庫には、咲舞の好きなプリンが残っている。

 匠は静かにリビングに座り、咲舞の置き手紙を見つける。



**置き手紙**

「ごめんなさい。  
あなたが優しいほど、苦しい。  
私は自分が汚れてる気がして、  
どこにも居場所がなくなるの。  
だから、逃げます。  
あなたが悪いんじゃない。  
私が、愛されるに値しないだけ。」



 匠は手紙を握りしめ、目を閉じる。

「……そうか。君にとって俺の誠実さは、ただの“恐怖”だったんだね」

 その夜、匠は何も食べず、何も投稿せず、ただ静かに部屋の隅で座り続けた。













 それから1年が経過する。













 会社のイベントで久しぶりに2人は、顔を合わせる。

「久しぶり」

「うん」

「来てくれて、ありがとう」

「あなたのそういうところ、嫌い」

「……ごめん」

「だから、あなたのそういうところ嫌いだって!」

 匠は強引にキスする。

 短い悲鳴や息を飲む音と共に、周囲から様々な視線が注がれる。

 体を離した咲舞は、驚きの表情で呟く。

「バカじゃないの、こんなとこで!
あんたハイスペエリートでしょうよ。出世のために私と結婚したくせに!」

「そうだ! そうだった!
だけど今は君に夢中だ!
四六時中、君が頭から離れなくて、仕事でもミス連発して、このままじゃ左遷されそうだ!
365日24時間、君のことしか考えられない!
こうなったら君が責任とって俺を養え! 俺はヒモになる!」

 咲舞は目を見開き、そして──

「あなたって最高」

 匠に抱きつき、深い熱烈なキスを交わす。




 完璧だった男は、愛されるために“ダメ”を学び、奔放だった女は、必要とされることで“帰る場所”を見つけた。

 2人は、愛の形を逆流させながら、ようやく“夫婦”となった。


  ~スパダリ改悪計画、成功~









□完結□














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