真実の愛を守るため、悪役令息に婚約破棄を突き付けた【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)

文字の大きさ
12 / 12

卒業パーティーで婚約破棄

しおりを挟む

 学園の大広間には卒業生たちが、そのパートナーと思い思いに過ごしていた。

 壇上に立ち、私は声を張った。

「皆に聞いて貰いたいことがある。  
 クラウス・フォン・ヴァレンシュタイン公爵令息──」

 ざわめきが走る中、クラウスが前へ進み出る。  
 その表情は、覚悟と諦念が入り混じったような、静かなものだった。

 私のドレスが紅ではなくピンクであることで、観念したのだろう。

「そちは、このルネ・フィリップス男爵令息に嫉妬して、教科書やノートを破るなど陰湿な嫌がらせを繰り返した挙げ句、寒空の下、噴水に突き落とした。  
 これら全て犯罪である。  
 このような者を王配にはできない。  
 よってここに、そちとの婚約を破棄する」

 会場が凍りついた。

 クラウスはゆっくりと目を閉じ、そして開いた。

「……それが殿下の答えなのですね。  
 8年間尽くしてきた私より、その者を信じると」

「何を言う? 証拠は上がっている」

「……わかりました。婚約破棄を受け入れます」

 その声は震えていなかった。  
 ただ、深い痛みを押し殺したような静けさがあった。

「そちには修道院に行ってもらう」

 その瞬間──

「ちょっと待った!」

 会場の扉が勢いよく開き、鮮やかなドレスを翻して少女が現れた。

 隣国の王女、リリアン・トルネイト。
 離婚後、我が国に留学していた。

 彼女は金髪を揺らしながら、堂々と前へ進む。

「彼は、私の婿にいただきます」

 会場がどよめいた。

 クラウスが驚愕に目を見開く。

 リリアンは微笑み、クラウスの腕を取った。

「あなたほどの男を修道院に閉じ込めるなんて、もったいないわ。  
 うちの国に来て。
 あなたの誇りも努力も全部、無駄にしない」

 クラウスは言葉を失い、ただリリアンを見つめた。

「突然、何を?
 その者には、修道院で反省させなければならないのですよ」

 私の叱責にリリアンは、まったく怯まず、むしろ楽しげに微笑んだ。

「その点は取引しましょう。
 彼をくれるなら、我が国の鉄を相場より安くお譲りします」

「……それはありがたい申し出だが、あなたの一存で決めていいことなのか」

「主要な鉱山を持ってるのは、私なので」

 あまりにも堂々とした返答に、会場がざわつく。

「……わかりました。
 手続きに数日かかりますが、父王には私から話します」

「では、彼はもう私のものですね。
 さあ、いらっしゃい。私が買ったのよ」

 リリアンは上機嫌で、クラウスを強引に引き寄せた。

「……承りました」

 クラウスは静かに頭を下げたが、その表情は複雑だった。  
 リリアンは、そんな彼を見て明るく笑う。

「暗い顔しないでよ。ちゃんと幸せにしてあげるから。あはは」

 2人が去っていくのを、会場全体が唖然と見送った。

「騒がせてしまって悪かった。
 気を取り直して、パーティーの続きをしよう」

 私の合図で、音楽が再び流れ始めた。
 ルネの手をとると、彼は嬉しそうに微笑む。

 フロアの中心へ躍り出て、身を寄せ合う。

「随分と上達したな」

 子供の方がマシなぐらい下手だった ルネのワルツは、形になっていた。

「ありがとうございます。
 ベレッタ様が、練習に付き合ってくださったからです……」

 彼が哀しげに目を伏せる。
 褒めてるのに、何故?

「どうした?」

「クラウス様がいなくなっても……またベレッタ様は、誰かと結婚するんですよね?  
 そしたら僕は……ずっと苦しまないといけない……。
 また、この場所を誰かに譲らなきゃいけない……」

 私は、繋いだ手を強く握った。

「ルネが王配教育を終わらせて、世の中に認められれば──  
 高位貴族の養子にして、正式な夫にできる」

 ルネは息を呑んだ。

「本当ですか? 頑張ります!」

「わらわも夫は、ルネだけがいい。
 これからも、ずっと一緒だ」

「はい!」

 ルネが、勢いよく抱きついてきた。  
 その瞬間、会場のあちこちから拍手が起きる。

「真実の愛が身分を越えた!」  
「お似合いだわ!」  
「殿下が幸せそうで何より!」

 祝福の声が響き渡り、2人は照れながらも笑い合った。

 これからは、この国をルネと共に──



□完


※こちらは第1部の予定でしたが、続きは別の作品として投稿し、こちらは削除させていただきます。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

愛人の生活費も、お願いします 〜ATM様、本日もよろしくてよ〜【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
政略結婚で結ばれた王子ザコットと、氷のように美しい公爵令嬢ビアンカ。だが、ザコットにはすでに愛する男爵令嬢エイミーがいた。 結婚初夜、彼はビアンカに冷酷な宣言を突きつける。 「お前を愛することはない。俺には愛する人がいる。このエイミーだ」 だが、ビアンカは静かに微笑み、こう返す。 「では、私の愛人の生活費も、お願いします」 ──始まったのは、王子と王子妃の熾烈な政略バトル。 愛人を連れて食卓に現れるビアンカ。次々と辞表を出す重臣たち、そしてエイミーの暴走と破滅……。 果たして、王子ザコットの運命やいかに!? 氷の王子妃と炎の愛人が織りなす、痛快逆転宮廷劇! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 コメディーです。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

王妃教育の謎~婚約破棄?大歓迎です!

柚屋志宇
恋愛
王太子の婚約者となった公爵令嬢フェリシアは王妃教育を受けることになった。 厳しい王妃教育にフェリシアはすり減る。 しかしある日、フェリシアは気付いてしまった。 王妃教育の正体に。 真実に気付いたフェリシアは、王子と婚約を解消するために王子妃にふさわしくない行動をとると決めた。 ※小説家になろうにも掲載しています。

殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?

なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。 干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。 舞踏会の夜。 聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。 反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。 落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。 水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。 レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。 やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。 支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。 呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。 ――公開監査。 記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。 この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。 これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。

ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」 婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。 わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。 実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。 そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり―― そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね? ※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

自称病弱ないとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき
恋愛
令嬢エルアナは、ヴィンセントという婚約者がいた。 しかし彼は虚言癖のあるいとこ、リリアンの嘘に騙されてエルアナとの大切な約束を破り続ける。 「すまない、リリアンが風邪を引いたらしくて……」 エルアナが過労で倒れても、彼はリリアンの元へ走り去る始末。 ついに重大な婚約披露パーティまでも欠席した彼に、エルアナは婚約者への見切りをつけた。 「さようなら、ヴィンセント」 縋りつかれてももう遅いのです。

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

処理中です...