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卒業パーティーで婚約破棄
しおりを挟む学園の大広間には卒業生たちが、そのパートナーと思い思いに過ごしていた。
壇上に立ち、私は声を張った。
「皆に聞いて貰いたいことがある。
クラウス・フォン・ヴァレンシュタイン公爵令息──」
ざわめきが走る中、クラウスが前へ進み出る。
その表情は、覚悟と諦念が入り混じったような、静かなものだった。
私のドレスが紅ではなくピンクであることで、観念したのだろう。
「そちは、このルネ・フィリップス男爵令息に嫉妬して、教科書やノートを破るなど陰湿な嫌がらせを繰り返した挙げ句、寒空の下、噴水に突き落とした。
これら全て犯罪である。
このような者を王配にはできない。
よってここに、そちとの婚約を破棄する」
会場が凍りついた。
クラウスはゆっくりと目を閉じ、そして開いた。
「……それが殿下の答えなのですね。
8年間尽くしてきた私より、その者を信じると」
「何を言う? 証拠は上がっている」
「……わかりました。婚約破棄を受け入れます」
その声は震えていなかった。
ただ、深い痛みを押し殺したような静けさがあった。
「そちには修道院に行ってもらう」
その瞬間──
「ちょっと待った!」
会場の扉が勢いよく開き、鮮やかなドレスを翻して少女が現れた。
隣国の王女、リリアン・トルネイト。
離婚後、我が国に留学していた。
彼女は金髪を揺らしながら、堂々と前へ進む。
「彼は、私の婿にいただきます」
会場がどよめいた。
クラウスが驚愕に目を見開く。
リリアンは微笑み、クラウスの腕を取った。
「あなたほどの男を修道院に閉じ込めるなんて、もったいないわ。
うちの国に来て。
あなたの誇りも努力も全部、無駄にしない」
クラウスは言葉を失い、ただリリアンを見つめた。
「突然、何を?
その者には、修道院で反省させなければならないのですよ」
私の叱責にリリアンは、まったく怯まず、むしろ楽しげに微笑んだ。
「その点は取引しましょう。
彼をくれるなら、我が国の鉄を相場より安くお譲りします」
「……それはありがたい申し出だが、あなたの一存で決めていいことなのか」
「主要な鉱山を持ってるのは、私なので」
あまりにも堂々とした返答に、会場がざわつく。
「……わかりました。
手続きに数日かかりますが、父王には私から話します」
「では、彼はもう私のものですね。
さあ、いらっしゃい。私が買ったのよ」
リリアンは上機嫌で、クラウスを強引に引き寄せた。
「……承りました」
クラウスは静かに頭を下げたが、その表情は複雑だった。
リリアンは、そんな彼を見て明るく笑う。
「暗い顔しないでよ。ちゃんと幸せにしてあげるから。あはは」
2人が去っていくのを、会場全体が唖然と見送った。
「騒がせてしまって悪かった。
気を取り直して、パーティーの続きをしよう」
私の合図で、音楽が再び流れ始めた。
ルネの手をとると、彼は嬉しそうに微笑む。
フロアの中心へ躍り出て、身を寄せ合う。
「随分と上達したな」
子供の方がマシなぐらい下手だった ルネのワルツは、形になっていた。
「ありがとうございます。
ベレッタ様が、練習に付き合ってくださったからです……」
彼が哀しげに目を伏せる。
褒めてるのに、何故?
「どうした?」
「クラウス様がいなくなっても……またベレッタ様は、誰かと結婚するんですよね?
そしたら僕は……ずっと苦しまないといけない……。
また、この場所を誰かに譲らなきゃいけない……」
私は、繋いだ手を強く握った。
「ルネが王配教育を終わらせて、世の中に認められれば──
高位貴族の養子にして、正式な夫にできる」
ルネは息を呑んだ。
「本当ですか? 頑張ります!」
「わらわも夫は、ルネだけがいい。
これからも、ずっと一緒だ」
「はい!」
ルネが、勢いよく抱きついてきた。
その瞬間、会場のあちこちから拍手が起きる。
「真実の愛が身分を越えた!」
「お似合いだわ!」
「殿下が幸せそうで何より!」
祝福の声が響き渡り、2人は照れながらも笑い合った。
これからは、この国をルネと共に──
□完
※こちらは第1部の予定でしたが、続きは別の作品として投稿し、こちらは削除させていただきます。
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