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ラスト/現実を突き付けられて……
「地面から1ミリ浮くとかさ、あれ目の錯覚だし。
100年先の予言? 宇宙の真理?
そんなの誰が確かめるの? でたらめに決まってるじゃん」
「嘘だろ……? なんで今更、そんな嘘つくんだよ。
国教になるプレッシャーが怖いんだろ? 逃げたいんだろ?」
「逃げたいのは、君の方だろ」
「え……?」
ザッパーは、真っ直ぐに俺を見た。
その目に、かつての浮遊も、神秘もなかった。
ただ、現実を見据える人間の目だった。
「結婚にも恋愛にも失敗して……普通なら、もう子供も大きくなって、幸せな家庭を持ってる頃だよ。
君だけが、ずっと時間が止まってる。
逃げてるのは君じゃないの? 自分の失敗した人生から」
ザッパーの子供が、無邪気に笑いながら部屋を駆け回る。
その足音が、やけに大きく響いた。
「君が信じてた“宇宙の真理”ってさ、本当は自分の過去を正当化するための言い訳だったんじゃないの?
王子としても、男としても、全部失って、それでも“俺には使命がある”って思わなきゃ、立っていられなかったんじゃないの?」
その言葉が、胸に突き刺さる。
俺は、何も言えなかった。
ザッパーは、静かに言った。
「君も、そろそろ目を覚ましたら、どう?」
どうやって帰ってきたのか、思い出せなかった。
気がつけば、いつもの何もない部屋にいた。
白い壁、冷たい床、無音の空間。
まるで世界から切り離されたような場所だった。
今まで、何かのフィルター越しに現実を見ていた。
夢、信仰、希望──それらが曇りガラスのように、俺を守っていた。
だが、そのガラスが砕けた。
現実が、むき出しのまま、鋭く突き刺さってきた。
「ああああああああああああああああ!!」
俺は叫び、暴れた。
ベッドを蹴り、壁を殴り、床に拳を叩きつけた。
何かを壊さなければ、自分が壊れてしまいそうだった。
目を覚ますと、療養室のベッドにいた。
手には包帯が巻かれていた。
白い天井が、じっと俺を見下ろしていた。
扉が開き、ビアンカ一家が入ってきた。
ビアンカは相変わらず冷ややかで、完璧な笑みを浮かべていた。
「体調は、どうかしら? もう2日も仕事サボってるんだけど」
俺は、視線を天井に向けたまま、呟いた。
「俺は……もう、何のために生きてるのかわからない。全て失った」
「『働くため』に生きてるに決まってるじゃない」
ビアンカはさらりと言った。
「もう少しすれば、上の子が結婚して王位を継ぐのよ。
あなたは伯父として、この子たちを支えなきゃならないの。
王族に生まれて税金で育ったんだから、王と国に尽くすのは当たり前じゃない」
「……俺は、働くために生まれたのか?
働くために生きるのか?」
「そうよ」
ビアンカの末っ子が、無邪気に笑いながら言った。
「伯父様のこと、今日から“社畜様”って呼んであげるー!」
「シャチク……?」
聞き慣れない言葉に、俺は目を細めた。
「仕事に命をかける戦士よ。
寝食忘れて、ひたすら働き続けるの。
かっこいいでしょ?」
ビアンカが、まるで誇らしげに言った。
「シャチク……かっこいい……?」
「社畜兄さん、頼りにしてるよ」
ウィリアムが、にこやかに言った。
「社畜様ー!」
これは、また末っ子。
「社畜伯父様、新しいドレスが欲しいの。もっと働いて」
これは中間子。16歳だ。
そうか、社交界デビューの時期か。
確かにドレスが必要だ。
「婚約者とデートに行くから、社畜様、僕の分の執務をやって欲しいんだ」
長男も哀願してくる。
未来の王か……。
「社畜様、頑張って!」
ビアンカの声が、部屋に響く。
俺は、ゆっくりと起き上がった。
包帯の巻かれた手を見つめ、呟いた。
「そうか……それが、俺の生きる道だったのか。わかった」
「良かった。では早速、書類を運んでもらうわね。
もうサボらないでね」
ビアンカは、変わらぬ笑顔で言った。
俺は、頷いた。
ようやく、俺は自分の生きる道を見つけた。
王でも、総長でもない。
ただの労働者として、王家の歯車として黙々と働く日々。
そして──働き続けて、3年。
俺は、過労で倒れた。
療養室の天井は、あの時と同じ白だった。
だが、今度は誰も見舞いに来なかった。
ビアンカも、ウィリアムも、子供たちも。
自分のことを振り返る時間もないくらい、働いた。
朝も夜もなく、命を削って、ただ働いた。
それが、俺の人生だった。
──これはこれで、幸せだったと思う。
だが、もし──もう1度、人生をやり直せるなら。
今度は、エイミーともビアンカとも結婚はしない。
……そうして孤独のまま、俺は静かに息を引き取った。
享年41歳。
□完結□
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