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絶望してもらわないと困ります
しおりを挟む夜会の会場は、金糸のカーテンと水晶のシャンデリアが輝く幻想の空間だった。
リアベル・クローディア──金髪の巻き髪に翠眼、派手なドレスを纏った公爵令嬢は、優雅にグラスを傾けながら、令嬢たちの視線を受け流していた。
「下品な方達ね。人の婚約者に群がるなんて」
その声は冷たく、しかし完璧に調律された音色。
場の空気が一瞬で張り詰める。
カトリーナ・エスヴァン──銀髪に銀の瞳、知的な容姿を持つ侯爵令嬢が1歩前に出る。
「まあまあ、これはクローディア公爵令嬢。あなたこそ、あちこちで浮き名を流していらっしゃるではないですか」
その言葉にエリス・ヴァンルージュ子爵令嬢とカルネ・フォルティア伯爵令嬢が笑う。3人は、第1王子エドガーに執着している。
リアベルは肩をすくめ、唇に冷笑を浮かべた。
「私たち、愛し合ってるわけじゃないし」
「ならば放っておいて。どうせ愛されないからって、強がってるだけでしょう?」
その瞬間、リアベルの瞳が鋭く光った。
「この豚女! これ以上、私にその歪んだ顔を見せないで!」
周囲が息を呑む。だが──
「僕の子猫ちゃん達を、傷つけるのはやめてくれないか」
紫の髪と瞳を持つエドガー・ヴァレンティスが、華やかな笑みを浮かべながら制止に入った。
手袋越しに肩を抱かれたカトリーナは勝ち誇ったように微笑み、エリス・ヴァンルージュ子爵令嬢は声に出さず「ザマアミロ」と口を動かす。
リアベルは一瞬だけ目を伏せた。
そして、静かに言い放つ。
「あなたが何て言ったって、そのうち捨てられるわよ。──ふん」
ドレスの裾が揺れ、リアベルは背を向ける。
夜会の空気に冷たい波紋を残して、彼女はその場を離れた。
リアベルが夜会を抜け静かな回廊を歩いていると、背後から突然腕を引かれた。
振り返る間もなく、壁に押し付けられる。
──ドンッ!
硬い石壁が背中に響き、目の前には紫の瞳が燃えるように迫っていた。
エドガー・ヴァレンティス第1王子。
紫の髪に鋭い目元、華やかな顔立ちに高身長。均整の取れた体躯が威圧感を放つ。
「誰が愛し合ってないって?」
低く囁く声が、耳元を撫でるように落ちる。
「わかってないなら、体に教えてやろうか」
リアベルは息を呑んだ。
金髪の巻き髪が揺れ、翠の瞳が揺らめく。
しかし、すぐに腕を組んで睨みつけた。
「あなたこそ、“僕の子猫ちゃん”って言ってたじゃない」
エドガーはウェーブのかかった自身の髪を、くしゃりとかき混ぜた。
「はあ……俺がお前しか見てないこと、知ってるくせに」
その声には、甘さと苛立ちが混ざっていた。
リアベルが何か言い返そうとしたその時──
窓の外から、鋭い気配が走った。
「下がれ!」
エドガーが叫ぶと同時に、黒衣の刺客が飛び込んできた。
刃が閃き、空気が裂ける。
リアベルは身を伏せ、エドガーが素早く剣を抜いて応戦する。
数合の交錯の末、刺客は床に倒れた。
エドガーが刺客に近寄って、生死を確かめる。
──そして
「……刺青? 何かのマークか」
エドガーが眉をひそめる。倒れた男の腕には、奇妙な紋章が刻まれていた。
リアベルが近付いてくる。
「秘密結社みたいね」
彼はリアベルを振り返り、彼女の安否を確かめると、真剣な瞳で言った。
「調べよう。これは、ただの襲撃じゃない」
エドガーの私室は、王宮の中でもひときわ重厚な空気を纏っていた。
深紅のカーテンが揺れ、燭台の灯りが赤紫の髪を照らす。
彼は窓辺に立ち、手元の書類から目を離さずに言った。
「純血主義組織から分裂した過激派だった」
リアベルはソファに腰を下ろし、翠の瞳を細める。
金の巻き髪が肩に流れ、ドレスの裾が静かに揺れた。
「雇われたのでなく、自発的に襲撃を企てたってこと?」
「それは、まだわからん」
エドガーは書類を机に置き、リアベルの方へと歩み寄る。
「──ロジェ子爵が、本拠地と思われる食堂に頻繁に出入りしている」
「ロジェ子爵? 意外ね」
リアベルは立ち上がり、軽くスカートを払った。
「わかったわ。次の夜会で探りを入れてみる。じゃあ私、行くわね」
「待った」
扉に開けかけた瞬間、背後から伸びた手に閉められる。
振り返ると、エドガーが至近距離でこちらを見下ろしている。
「探るだけだからな」
「わかったってば」
リアベルは肩をすくめる。
だが、彼は更に1歩近づき、真剣な瞳で言った。
「──誓いの口づけを」
「大袈裟なこと言わないでよ……きゃっ!」
次の瞬間、リアベルの体は軽々と抱き上げられ、ふかふかのベッドに落とされた。
紫の髪が揺れ、彼の顔がすぐ近くにある。
「ちょ、ちょっと……最後までしちゃだめだからね!」
「はぁ……わかってる」
エドガーは、彼女の唇に唇を落としながらドレスの留め金に手をかけた。
夜会の大広間は燭台の火で揺らめき、絢爛なドレスと銀の会話が渦を巻いていた。
リアベル・クローディアは金の巻き髪を一つにまとめ、翠の瞳に冷ややかな光を灯して優雅に歩く。
公爵令嬢の立ち振る舞いで人々の視線を集めながらも、彼女の目は常に周囲の動きを計っていた。
ロジェ・ディアスはワインを傾ける一方で、どこか吊り橋のように張りつめた空気を纏っている。
穏やかで教養ある紳士の仮面の下に、食堂を根城にする集団との関係を滲ませるものがあった。
リアベルは微笑みを浮かべ、言葉を投げる。
「子爵、今宵のワインは格別ね。お料理の手配はあなたの好みで?」
ロジェは一瞬だけ表情を曇らせ、言葉を選ぶように口を開いた。
「王宮の嗜好は日々変わりますからね。だが、珍しい客が来ると聞けば準備を怠りませんよ」
その言葉に微かな針が隠されていることをリアベルは敏感に感じ取る。
もう少し深く探れそうだ、と後をつけたが、追跡は長く続かなかった。
指先ほどの距離で足が絡まり、リアベルは取り押さえられてしまう。
おっけー!静かな緊張から一気に火花が散る場面、加筆してみるね。
ロシェの仮面が剥がれ、エドガーの怒りが爆発する瞬間──波は立てずとも、空気は確実に震えるよ。
---
指先ほどの距離で足が絡まり、リアベルは取り押さえられてしまう。
──捕まった。
ロジェ・ディアス子爵。
穏やかな紳士の仮面は消え、瞳には冷たい執着が宿っていた。
「探るとは、随分と大胆だな。クローディア公爵令嬢」
彼の声は低く、礼儀の皮を被った毒だった。
リアベルは腕を振りほどこうとするが、ロジェの力は強く、逃れられない。
その時──
「離せ」
低く、鋭い声が闇を裂いた。
紫の瞳が夜の闇よりも鋭く光る。
エドガー・ヴァレンティスが、静かに歩み寄ってくる。
「……エドガー様。これは誤解です。令嬢が偶然──」
ロジェが言い訳を口にするより早く、エドガーの拳が彼の胸元を掴んだ。
「誤解? 俺の婚約者に手を出しておいて、よく言えたな」
その声は冷たく、怒りを押し殺した刃のようだった。
ロジェは顔を強張らせ、リアベルを放すと舌打ちし、マントを翻して逃げ出した。
リアベルは息を整えながら、エドガーの腕に手を添える。
「……来てくれて、ありがとう」
エドガーは彼女を見下ろし、紫の瞳を細めた。
「探るだけっつったろ」
「……それより、子爵が逃げたわ。追わないと」
エドガーは歯を鳴らし、低く呟いた。
「『それより』じゃねーよ、バカ。お前に何かあったら、俺に生きてる意味がないだろ。よし、仕置きだ」
彼は大きく腕を広げると、そのまま抱き上げて静かな廊下へ向かった。
廊下の灯は2人を切り取るように細く伸び、取り巻きの令嬢たちが群れたところへ差しかかる。
カトリーナ・エスヴァン侯爵令嬢は銀の髪を揺らし、驚きと興味を混ぜた声で問う。
「な、何をなさってるのです」
エドガーは、婚約者を横抱きのまま涼やかに答える。
「婚約者殿が体調不良になってしまってね」
「お可哀想に、エドガー様! 婚約者だからと、そのような……衛兵に任せて、私たちと会場に戻りましょう」
エドガーは軽く首を振り、リアベルを抱いたまま目を細める。
「今は早く休ませてあげたいから、失礼するよ」
そのまま彼は足早に去り、カトリーナ達のざわめきだけが残った。
エドガーの寝室に戻ると、リアベルはドレスから抜けバスローブに身を包み、ベッドに腰かけた。
ふわりと肌に触れる生地が、先ほどの刃の気配から守られた安堵と不安を織り交ぜる。
「そっちは何かわかったの?」
エドガーは扉の傍ら、軍服を脱ぎ上半身をさらしている。
紫の髪は乱れており、汗の光が鎖骨を伝っていた。
エドガーはベッドに近づき、軽く彼女を見下ろすように座った。
意味ありげな笑いが胸の奥をくすぐる。
リアベルは冷笑を含んだ微笑を返し、バスローブの襟を掴んだ。
夜会の喧騒は遠く、2人だけの呼吸が部屋を満たしていく。
王都の外れ、古びた街並みに溶け込むように佇む1軒の食堂。
昼は労働者で賑わうその場所も、夜には灯りを落とし、別の顔を見せる。
リアベル・クローディア公爵令嬢は黒いマントのフードを深く被り、エドガーと並んで裏口の扉をそっと押した。
軋む音に神経を尖らせながら、2人は厨房を抜け、地下へと続く階段を降りていく。
そこには、石造りの広間と、低く交わされる男たちの声。
リアベルは壁の陰に身を潜め、翠の瞳を細めた。
「第2王子が儀式を行う」
「これでやっと、他国の血を王にせずに済む」
「クローディア公爵令嬢は途中までは優秀で邪魔だったが、今は」
「着飾って男を追いかけるのに夢中だ」
「消す手間が省けた」
リアベルは微動だにせず、ただ静かにその言葉を聞いていた。
表情は変えず、呼吸も乱さず、まるで最初からそう言われることを知っていたかのように。
──そう、これでいいのよ。
彼女は“悪女”としての仮面を被り続けていた。
誰にも本心を見せず、噂に身を沈め、敵の目を逸らすために。
だが、エドガーの肩越しに見えた彼女の瞳は、確かに怒りに揺れていた。
その怒りは、誰かに向けられたものではない。
自分自身を、ここまで追い込んだ運命に対する、静かな反抗だった。
その時、床板が軋み、男たちの視線がこちらを向いた。
「誰だ!」
刃が抜かれ、空気が張り詰める。
エドガーはリアベルの手を引き、階段を駆け上がった。
「くそっ、出口は──!」
追手の足音が迫る中、リアベルはマントの内側から小瓶を取り出し、振り返りざまに投げつけた。
閃光と煙が広がり、視界を奪う。
二人は裏路地へと飛び出し、夜の闇に紛れて走り抜けた。
息を切らしながら、リアベルは立ち止まりエドガーを見上げる。
「……聞いたわね。第2王子が儀式と。何のことかしら?
そして、私を“消す手間が省けた”と」
エドガーの紫の瞳が、怒りに燃える。
「ふざけやがって……俺の女に、何を言いやがる」
リアベルはふっと笑った。
その笑みは、冷たくも誇り高い。
「いいのよ。噂通りの“悪女”でいてあげる。
その方が、敵は油断するでしょう?」
夜風が2人の間を吹き抜ける。
仮面の奥に潜む真実は、まだ誰にも知られていない。
だが、リアベルの瞳は確かに、次の1手を見据えていた。
昼下がりの王宮は、柔らかな陽光に包まれていた。
リアベル・クローディア公爵令嬢は、白薔薇の刺繍が施されたドレスを纏い、静かに王妃の私室へと向かっていた。
その足取りは優雅で、しかし確かな目的を秘めている。
扉の前で侍女が1礼し、リアベルは軽く頷いて中へ入った。
王妃は窓辺の椅子に腰掛け、紅茶の香りを漂わせながら扇を弄んでいた。
「ご機嫌麗しゅうございます、王妃陛下」
リアベルは礼をとる。
王妃は微笑を浮かべ、扇の影から視線を送る。
「何か面白い話かしら?」
リアベルは一歩近づき、声を落とした。
「セルヴァン殿下が動いております。純血主義の分派と接触し、何らかの儀式の準備を」
王妃の手が止まる。
「セルヴァンが動く? ……それは困るわね」
その言葉は、まるで紅茶の温度が一瞬で下がったような冷たさを帯びていた。
リアベルは王妃の瞳を見つめる。そこには、何かを隠している気配が確かにあった。
「妃陛下も、何かご存知なのでは?」
問いかけに、王妃は扇を閉じ、静かに立ち上がる。
「セルヴァンを止めなさい。あなたなら、できるでしょう?」
リアベルは答えず1礼し、部屋を後にした。
王妃の私室を出たリアベルは、回廊を歩いていた。
昼の光がステンドグラスを通して床に模様を描き、ドレスの裾がその上を滑る。
その時──
「おや、こんなところで会うとは」
低く、柔らかな声が背後から響いた。
振り返ると、銀の装飾を施した軍服を纏う青年が立っていた。
セルヴァン・ヴァレンティス第2王子。若葉色の髪に、冷たい微笑を浮かべた瞳。
「クローディア嬢。王妃と何を話していたのかな?」
リアベルは表情を崩さず、軽く頭を下げる。
「昼下がりの紅茶と、少々の噂話を」
セルヴァンは近づき、壁際にリアベルを追いやるように立つ。
その距離は、礼儀の範囲をわずかに超えていた。
「兄上の婚約者が、王妃と密談。ふふ、面白い構図だ」
彼の瞳が、探るようにリアベルを見つめる。
「殿下こそ、ロジェ子爵と何を話していたのですか?」
リアベルの声は冷たく、しかし完璧に調律された音色。
セルヴァンは1歩、また1歩と近づく。
リアベルは後ずさるが、すぐ背後に壁が迫る。
「兄上の婚約者として、君は惜しい。あんな男に抱かれて、仮面を被って生きるなんて──君には似合わない」
彼の声は甘く、だがその奥にあるのは欲望と支配欲だ。
「……何が言いたいの?」
リアベルの翠の瞳が、警戒に細められる。
「僕の婚約者になれ。君の価値を、僕なら正しく扱える」
セルヴァンの手が、リアベルの頬に触れようと伸びる。
その瞬間──
「その手を離せ」
低く、鋭い声が廊下に響いた。
紫の髪が風を切り、エドガー・ヴァレンティスが現れる。
その瞳は怒りに燃え、剣のような視線が弟を貫いた。
「兄上。これは僕と彼女の問題だ」
セルヴァンは手を引かず、挑発的に言い放つ。
「違う。これは“俺の婚約者”の問題だ」
エドガーはリアベルの腕を引き寄せ、彼女を背にかばう。
セルヴァンはふっと笑い、肩をすくめた。
「ふふ……兄上はいつも、最後の一線で感情に流される。それが致命傷になるのですよ」
「お前が知った口をきくな。消えろ」
「兄上は昔からリアベル嬢のこととなると、見境がなくなる」
セルヴァンは、肩を竦めて撤退した。
ふうっと、リアベルが息つく間もなく──ドンッ!
硬い石壁に背を押し付けられ、紫の瞳が燃えるように迫っていた。
その瞳には、怒りと嫉妬が混ざり合っている。
「何を口説かれてんだ、バカ」
低く、鋭い声が耳元に落ちる。
リアベルは眉をひそめ、冷静に言い返す。
「口説かれたというより……政治的に我が家を取り込みたいだけでしょう」
「いいや、それだけじゃない。お前は男の欲望、わかってない」
「そんな……不可抗力じゃない」
「隙が多いんだよ、まったく」
彼は苛立ちを隠さず、唇を歪めた。
「課外授業でもするか」
そのままリアベルの腕を引き、近くの扉を乱暴に開ける。
空き部屋の中へと引き込まれ、リアベルは抵抗する間もなく壁際に押し込まれた。
「え、ここで──」
残りの言葉は、彼の唇によって塞がれた。
紫の髪が揺れ、熱を帯びた吐息が肌を撫でる。
リアベルの瞳が見開かれ、次の瞬間には、彼女の体が彼の腕の中に沈んでいた。
夕暮れの街角。
リアベル・クローディアは書店を出た瞬間、背筋に微かな違和感を覚えた。
振り返ると、控えめなドレスに身を包んだ若い女性が、静かに佇んでいた。
女性は1礼し、柔らかな声を響かせた。
「ヴァレンティス公爵令嬢に、ご挨拶申し上げます」
その名乗りに、リアベルの眉がわずかに動く。
「あなたは確か……」
女性は視線を伏せながら、静かに続けた。
「ロジェ・ディアスの妹です。兄のことで……話したいことが」
リアベルは一瞬だけ沈黙し、やがて頷いた。
そして2人は、街の片隅にある小さな喫茶店へと足を運んだ。
店内は静かで、カップの音だけが空気を満たしていた。
クラリスと名乗った女性は、紅茶の香りに包まれながら口を開いた。
「兄が最近、地図を見ていました。王宮の下に何かがあるみたいで……」
リアベルはカップを置き、身を乗り出す。
「地下? それって……何の話?」
クラリスは小さく息を吸い、言葉を選ぶように続けた。
「“純血の回廊”って書かれていました。あと、“選定の間”という場所も」
その言葉に、リアベルの瞳が鋭く光る。
彼女は声を潜め、問いかけた。
「その地図、見せてもらえない?」
クラリスはしばらく黙っていた。
そして、カップの縁に指を添えたまま、静かに言った。
「……兄を止めてくださるなら」
その声には、切実な願いと、どこか諦めにも似た響きがあった。
リアベルはその瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。
エドガー・ヴァレンティスの私室は、重厚な空気と甘い香りが混ざり合う、まるで秘密の温室のような空間だった。
その中央、机の上に広げられた1枚の地図。
リアベル・クローディアはその前に立ち、翠の瞳を細めて唸っていた。
「こんな場所があるなんて……知らなかった」
指先が地図の一角をなぞる。
「“選定の間”──何を選定するのかしら」
その問いに、部屋の奥から返事はない。
代わりに、背後からふわりと腕が回される。
エドガーがリアベルの背にぴたりと寄り添っていた。
彼の指先が金の巻き髪を弄び、唇には気だるげな笑みが浮かんでいる。
「“純血の回廊”は、王妃の実家が管理していたと記録されてるわ」
リアベルは地図を見つめたまま、言葉を続ける。
「王妃陛下はアルミナ国の出身なのに、なぜ?
──聞いてるの?」
彼女が振り返ると、エドガーは髪に顔を埋めながら、ちらりと地図を見た。
そして、気の抜けたような声で言う。
「母上に直接聞くのが早いだろ」
リアベルは肩をすくめ、少しだけ唇を尖らせた。
「そうだけど……。命を狙われてるのは、あなたなのに」
エドガーは答えず、ただ彼女の髪を指に絡めながら耳元に囁いた。
「ベル。俺は、お前にこうして触れられさえすれば、王位も命もどうでもいい」
その声は、愛をねだっていた。
リアベルは呆れ、タメ息を小さくついた。
王妃の私室は、昼の光に包まれていた。
窓辺には白薔薇が咲き、銀のティーセットが静かに並ぶ。
リアベル・クローディア公爵令嬢は、刺繍のドレスを纏い、ゆっくりと王妃の前に歩み寄った。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
礼をとると、王妃アナスタシアは扇を軽く揺らしながら微笑んだ。
「楽にして」
リアベルは一礼のまま、声を落とした。
「“選定の間”について、教えていただきたいのです」
その言葉に、王妃の手が止まる。
扇の影から覗く紫の瞳が、静かにリアベルを見つめた。
「……もう、そこまで辿り着いたのね」
アナスタシアはゆっくりと立ち上がり、窓辺へと歩いた。
白薔薇の香りが揺れ、彼女のドレスが床を滑るように動く。
「“選定の儀式”は、王家の血統を見極めるためのもの。
魔力と意志、そして血の記憶が円環に触れた者を選ぶの」
リアベルは息を呑み、問いを重ねた。
「では、“純血の回廊”は……なぜ、アルミナ国の王家が守っていたのですか?」
アナスタシアは窓の外を見つめながら、静かに答えた。
「アルミナの王家は、かつて“選定の間”の管理者だった。
王を選ぶのではなく、“選ばれる者”を見極める役目。
だからこそ、私がこの国に嫁いだのは偶然ではないのよ」
その声には、運命を受け入れた者の静かな覚悟が滲んでいた。
「セルヴァンが儀式を行おうとしているのなら──止めなさい」
リアベルは目を伏せ、深く頷いた。
王妃の言葉は、命令ではなく、祈りのように響いていた。
──王家の秘密は、静かにリアベルの胸に刻まれた。
喫茶店の奥、カーテンで仕切られた小さな個室。
蝋燭の灯りが揺れ、クラリス・ディアスは両手を膝の上に揃えたまま、静かに口を開いた。
「兄は、“選定の間”に入るための準備を進めていました」
その声は震えていたが、言葉には確かな意志が宿っていた。
「でも、あの場所は……ただの遺跡じゃない。選定に弾かれれば、記憶を奪われると聞いています」
リアベルは黙って頷き、地図の一角に視線を落とす。
そこには、王宮の地下へと続く複雑な通路が描かれていた。
「ここです」
クラリスが指差したのは、地図の端に小さく記された印。
王宮の西翼、かつて使われていた古い礼拝堂の地下。
「“鍵”は、その礼拝堂の祭壇の裏に隠されています。兄がそう言っていました」
彼女は懐から小さな包みを取り出し、リアベルの前に差し出した。
包みを開くと、中には銀の鍵がひとつ。
古びているが、柄の部分には王家の紋章が刻まれていた。
「これが、扉を開く鍵です。兄が持っていたものを……こっそり、持ち出しました」
リアベルは鍵を手に取り、じっと見つめた。
その瞳には、迷いも恐れもなかった。ただ、静かな決意だけが宿っていた。
「ありがとう、クラリス。あなたの勇気、無駄にはしないわ」
クラリスは小さく頷き、目を伏せた。
蝋燭の炎が揺れ、2人の影を壁に映し出す。
──運命の扉は、静かに開かれようとしていた。
石造りの階段を駆け下りる足音が、地下に響く。
リアベルとエドガーは、重たい扉を押し開けた。
──その先に広がっていたのは、魔力の渦巻く異空間だった。
“選定の間”。
円環の紋章が床に刻まれ、中央にはセルヴァン・ヴァレンティス第2王子が立っていた。
若葉色の髪が風に揺れ、彼の周囲には淡い光が集まり始めている。
その傍ら、ロジェ・ディアス子爵が振り返り、冷笑を浮かべた。
「今さら来ても遅い。次代の王はセルヴァン様だ」
リアベルの翠の瞳が鋭く光る。
エドガーは剣に手をかけながら、低く呟いた。
「……ふざけた茶番だな」
だがその瞬間、円環が激しく脈動し、空気が震えた。
セルヴァンの身体が光に包まれ、魔力が暴走を始める──
「俺こそが純血の王だ!」
彼の声が空間に響き渡ると、円環が淡く光を帯び始めた。
だが──
次の瞬間、魔力が暴走した。
光が歪み、円環が震え、空気が裂けるような音を立てる。
「ぐっ……!」
セルヴァンの体が弾き飛ばされ、床に叩きつけられた。
彼の腕には、何の印も刻まれていない。
円環は、彼を拒絶した。
沈黙が落ちる。
誰もが言葉を失い、ただその場に立ち尽くしていた。
そして──
円環が、静かに光を放ち始める。
その光は、近くに立っていたエドガー・ヴァレンティスへと向かって伸びていく。
紫の瞳が揺れ、彼は一歩、円環へと踏み出した。
だがその時、リアベル・クローディアが前に出た。
金の巻き髪が揺れ、翠の瞳が真っ直ぐに円環を見つめる。
「選ばれるより、選びたい」
その声は静かで、しかし確かな意志を帯びていた。
彼女が円環に触れた瞬間、光が爆ぜるように広がった。
空間が震え、魔力が優しく彼女を包み込む。
リアベルの腕に、淡い紋章が刻まれていく。
それは、王家の記憶と意志が彼女を受け入れた証。
儀式は、完了した。
選ばれたのは、血ではなく意志だった。
空間に沈黙が落ちた。
だが、その静寂は長くは続かなかった。
「なぜ俺じゃない!?」
セルヴァン・ヴァレンティスが叫ぶ。
若葉色の瞳が怒りに燃え、魔力の残滓が彼の周囲で暴れ始める。
「俺の血は純粋だ! エドガーは異物だ、混ざりものだ!」
彼の声は、嫉妬と絶望に濁っていた。
ロジェ・ディアス子爵が、一歩前に出る。
ワインの香りを纏ったその男の瞳は冷たく、計算を失った者の焦りが滲んでいた。
「計画が崩れた……なら、力で奪うまでだ」
彼が指を鳴らすと、暗がりから複数の影が現れる。
ロジェの仲間たち──純血至上派の過激分派。
剣を抜きながら、出てくる。
エドガーは、すぐさま剣を抜きリアベルの前に立った。
紫の瞳が鋭く光り、彼の体が敵の刃を受け止める。
「下がってろ、ベル。お前には触れさせない」
剣が閃き、敵の1人を弾き飛ばす。
だが、数が多い。
リアベルは背を壁に預けながら、紋章に手を添えた。
その瞬間──
紋章が強く光を放つ。
翠の瞳が輝き、彼女の周囲に魔力の波が広がった。
「──退いて」
その声と同時に、光が爆ぜる。
敵の魔力が弾かれ、数人が吹き飛ばされる。
ロジェが目を見開いた。
「紋章が……攻撃を!? そんなはずは……!」
セルヴァンは歯を食いしばり、叫ぶ。
「閉じ込めろ! あいつらを、ここに!」
彼が拳を地に叩きつけると、円環の外周が震え、石壁が動き始める。
出口が塞がれ、天井から岩が崩れ落ちる。
エドガーはリアベルの腕を引き、身を伏せながら叫ぶ。
「くそっ、罠か……!」
ロジェとセルヴァンは、残った仲間と共に階段を駆け上がっていく。
扉が閉まり、重たい音が地下に響いた。
残されたのは、崩れかけた“選定の間”と、2人の呼吸だけ。
リアベルは肩で息をしながら、エドガーを見上げた。
「……逃げられたわね」
エドガーは剣を床に突き立て、低く呻いた。
リアベルは、岩の欠片を避けながらエドガーの傍に膝をついた。
「血が出てる。見せて」
翠の瞳が鋭く光り、彼の腕に手を添える。
エドガーは眉をひそめ、紫の瞳で彼女を見下ろした。
「こんなもん、たいしたことない」
そして、彼女の足元に視線を落とす。
「お前こそ、足を挫いたろ。見せろ」
「きゃっ……何ともないよ!」
リアベルが慌ててスカートを押さえるが、エドガーは容赦なく裾を持ち上げる。
「どうしてすぐ、私のこととなると気付くの……」
リアベルの声は、少しだけ震えていた。
エドガーは唇を歪めて笑う。
「それは俺に“好きだから”って言わせたいのか?」
リアベルは目を逸らしながら、そっけなく言い返す。
「だったら、何よ」
その瞬間、エドガーの瞳が鋭く光り、リアベルを抱き寄せた。
「興奮した」
「こんなところで何するのよ」
「婚約者なんだから、どこで何したっていいだろう」
その声は低く、熱を帯びていた。
「バカじゃないの……」
リアベルが呟くと、エドガーは彼女の頬に手を添え、囁いた。
「お前は俺のだぞ。
──ここから出たら、抱かせろ。もう結婚式まで待てない」
リアベルは目を見開き、壁に手をついた。
「出られるわけない。大声出しても、誰にも聴こえないわ」
「ここだ」
低く呟くと同時に、彼はその壁を思い切り蹴りつけた。
──ガンッ!
鈍い音と共に、壁がわずかに沈む。
続いて、ガタガタと石が動き、重たい空気を切り裂くように隠し通路が現れた。
リアベル・クローディアは目を見開き、思わず声を上げる。
「何で? まさか、あのとき部屋で一瞬見た地図、覚えてたの?」
エドガーは肩をすくめ、紫の瞳を細めた。
「どーだか」
彼は惚ける婚約者を抱き上げると、歩き出した。
王宮の大広間は、水晶のシャンデリアが輝き、金糸のカーテンが風に揺れていた。
夜会の空気は華やかで、しかしどこか張り詰めていた。
王グラディウスが壇上に立ち、重々しい声を響かせる。
「第1王子エドガーが行方不明になった。残念ではあるが、国民を不安に曝すわけにはいかぬ。
よって、第2王子セルヴァンを王太子と定める」
ざわめきが広がる。
セルヴァン・ヴァレンティスは若葉色の髪を揺らし、静かに一礼した。
だが──
その瞬間、扉が開く。
リアベル・クローディア公爵令嬢は、金の巻き髪を揺らしながら堂々と歩みを進める。
その隣には、紫の瞳を鋭く光らせた婚約者エドガー・ヴァレンティス。
「兄上!? なぜ……閉じ込めたはず……」
セルヴァンの声が震える。
セルヴァンの母であり、王の側室であるヴェロニカが顔を強張らせ、息子を扇子で叩く。
王が眉をひそめる。
「どういうことだ?」
ヴェロニカは、笑みを作りながら言い逃れようとする。
「子供たちが、ふざけあったようです。よくあることですわ」
だが、王の瞳は冷静だった。
「そうは見えない」
その時、リアベルが一歩前に出る。
翠の瞳が会場を見渡し、静かに腕を上げた。
──その手には、紋章が刻まれていた。
“選定の間”で刻まれた、王家の意志が選んだ証。
その印が、燭台の光を受けて輝く。
会場がどよめく。
貴族たちがざわめき、令嬢たちが息を呑む。
王はゆっくりと立ち上がり、リアベルの紋章を見つめながら問う。
「念のために聞くが、リアベル・クローディア公爵令嬢。そなたは誰を夫に選ぶ?」
リアベルは頷き、しっかりと答えた。
「第1王子エドガー・ヴァレンティス殿下と、添い遂げとうございます」
「選ばれし者が示した印──正統な王位継承者は、エドガー・ヴァレンティスだ」
王の宣言が響いた直後、会場の空気が張り詰めた。
セルヴァンは顔を歪め、叫ぶ。
「ふざけるな! 俺の方が純血だ! あいつは異物だ!」
その声は、敗北を認められない者の絶叫だった。
彼は剣を抜き、リアベルへと向かって突き進む。
エドガーがすぐに前へ出て、刃を受け止める。
「……やめとけよ、弟」
紫の瞳が冷たく光る。
剣が交差し、火花が散る。
貴族たちが悲鳴を上げ、会場は一時騒然となった。
リアベルが腕の紋章を撫で、セルヴァンの足元に光の波を走らせる。
その隙にセルヴァンは窓際へと跳び、外へ逃げ出した。
「逃げたわ! 追いましょう!」
リアベルが叫ぶ。
だが、エドガーは剣を収め、肩をすくめた。
「まあまあ、いいから」
その声は妙に落ち着いていた。
「え……?」
リアベルが振り返る。
──その瞬間、外から悲鳴が響く。
庭へ逃げ出したセルヴァンの足が、ふらつき膝をついた。
「う……ぐっ……あ、ああ……!」
苦しげな声が漏れ、彼の体が震え始める。
リアベル・クローディアは窓辺に駆け寄り、目を見開いた。
「何が……起きたの?」
エドガーは腕を組み、静かに言った。
「選定に弾かれたら、どうなるって聞いた?」
リアベルの瞳が揺れる。
「……あっ! え? まさか……」
その時、セルヴァンが顔を上げた。
瞳は虚ろで、口元からよだれが垂れている。
「バブー……バブーバブー……」
リアベルは絶句した。
彼の体の大きさはそのまま、だが言葉も表情も、完全に幼児化していた。
「えええええええええええええええええええええええええ!?」
会場が凍りつく。
貴族たちは言葉を失い、王は椅子から立ち上がる。
エドガーはため息をつきながら、リアベルの肩をぽんと叩いた。
「まあ、選ばれなかったってことだ。わかりやすいだろ?」
リアベルは震える声で呟いた。
「……わかりやすすぎる……」
セルヴァンの「バブー」は夜会の余韻をすべて吹き飛ばした。
リアベルが、指をしゃぶる未来の義弟へと思わず1歩踏み出す。
だが、エドガーが彼女の腕を掴んだ。
「同情するなよ。
ヤツらには、絶望してもらわないと困るからな」
その声は冷たく、静かに怒りを滲ませていた。
「俺の大事なフィアンセ傷つけやがって」
リアベルはその言葉に、胸が高鳴るのを感じながらも、目を逸らせなかった。
大聖堂。
ステンドグラスから溢れる光と、百合の香りが静かに漂う中、牧師の声が響く。
「健やかなる時も、病める時も──」
リアベルは純白のドレスを纏い、エドガーの手を取る。
紫の瞳が彼女を見つめ、唇がそっと近づいて──
「お待ちになって!!」
その声が、空気を裂いた。
カトリーナ・エスヴァン侯爵令嬢を先頭に、取り巻き令嬢たちが壇上へと駆け込む。
ドレスの裾を翻しながら、彼女たちは声を重ねる。
「こんな結婚、あんまりですわ!」
「嫌いな相手と、それも贅沢・派手・男好きの三拍子揃った悪女と結婚させられるなんて!」
「私たち、この結婚に反対します!」
リアベルの翠の瞳が冷たく光り、声は静かに、けれど鋭く響いた。
「人の婚約者に群がるでは飽き足らず、結婚式まで壊すなんて──とんでもないバカ集団ね」
令嬢たちが息を呑む。
──しかし
「大丈夫よ。エドガー様は、いつもみたいに“やれやれ”って笑ってくれるわ」
「そうよ、きっと“嫉妬して可愛いね”って言ってくれるはず!」
会場がざわめく中、取り巻き令嬢達が期待を込めた目で新郎を見上げる。
エドガーがリアベルの隣に立ち、紫の瞳を細めた。
「ふざけんな。俺の妻に悪態つくヤツは、女でも容赦しねえ」
静寂。
空気が凍り、令嬢たちの顔から血の気が引く。
「え……えええええええええええええええええええええええ!?」
会場が、どよめく。
カトリーナが震える声で言う。
「エ、エドガー様……?」
彼は新婦の手を取り、はっきりと告げた。
「俺達が不仲を装ってたのは、側妃から身を守るためだ。しかしその側妃が失脚した今、俺は表でもベルを全力で愛す」
リアベルは耳まで赤くなりながら、そっぽを向く。
「もう……本当に仕方ない人」
牧師が咳払いをひとつ。
「では、改めて──誓いのキスを」
エドガーはリアベルの頬に手を添え、囁く。
「生涯唯一だ。愛してる」
リアベルは小さく微笑み、目を閉じた。
そして、2人の唇が静かに重なる。
──鐘の音が鳴り響く。
聖堂の大階段を、リアベルとエドガーが並んで降りていく。
純白のドレスと礼装。
祝福の声と、舞い散るフラワーシャワーが2人を包み込む。
「おめでとうございます!」
「リアベル様、最高に綺麗ですわ!」
「エドガー様、末永くお幸せに!」
花びらが風に舞い、陽光がきらめく中、馬車へと乗り込む。
扉が閉まり、静寂が訪れる。
エドガーはリアベルの手を取り、にやりと笑った。
「これから3日3晩寝かさないからな。疲れたなんて泣き言、言うなよ」
リアベルはため息をつきながらも、口元に笑みを浮かべる。
「今後は、じゃんけんで勝った日だけ抱かせてあげる」
「バカやろう。そんなもん、無視して毎日するに決まってんだろ」
そして、彼は彼女の手を引き寄せ、そっと唇を重ねた。
「知ってるんだぞ、俺は。お前が口では嫌がっても、キスされてるうちにその気になること。
──早速、今夜から証明してやるよ」
自信満々に笑う夫にリアベルは、目をぱちくりながら頬を染めた。
馬車がゆっくりと走り出す。
花びらが舞い、祝福の声が遠ざかっていく。
──こうして、悪女とプレイボーイ王子の物語は、誰にも邪魔されない“ふたりだけの王国”へと続いていくのだった。
□完結□
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