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エピローグ/リュシアンヌside
錯乱した元婚約者アランが兵に両腕を掴まれ、引きずられていく。
その背中は、もはや貴族のそれではなく、ただの迷子のようだった。
王が軽く手を振る。
「見世物は、ここまでだ。舞踏会を再開する」
音楽が再び流れ、ざわめきがゆっくりと消えていく。
王族が中央へ進み出ると、空気が一瞬で整った。
ノラ──いえ、エーファと本物のノラは、静かに奥へ下がっていった。
その時、隣から声がした。
「リュシアンヌ、踊ってくれるか」
黒髪に銀の瞳を持つ王弟にして従兄──シリルが手を差し出していた。
軍服の黒が、白銀の会場に映える。
「もちろんよ」
私は、その手を取った。
音楽に合わせてステップを踏む。
シリルの手は温かく、動きは迷いがない。
彼と踊ると、世界が静かになる。
「よく頑張ったな」
「これと言って、何もしてないわ」
「しかし精神的に辛かったろ」
「どうして? 平民になるつもりで17まで生きてきた伯爵令息など、結婚しても”お飾り”にしかならないと初めから分かっていたじゃない」
シリルが小さく笑う。
「うん、だからこそのケネシー侯爵夫人、大臣、トーシハン、マルチダだものな」
「そうよ。彼が、いかに無能かを社交界に知らしめるための時間だったのよ。
彼は分かってないみたいだけど」
「こちらに落ち度が1つもないと、社交界にアピールしないとならないからな」
シリルは視線を横に流す。
少し遠くに、4歳下の甥エドモンドの姿があった。
「アランは、貴族に生まれたのが運の尽きだったな。
そして──エドモンドが”仲間になりたそうに、こちらを見ている”が、どうする?」
「そうね。
彼にも、そろそろ隠居してもらいましょう。
証拠は揃ってるわ」
「なぜ”王が誰になろうと、オルフェリア家が権勢を保持する”と分からないのだろうな」
「さあ? それだけ“真実の愛”が、魅力的なのでしょう?」
シリルが鼻で笑う。
「そんなもの幻想だ」
「そうね」
銀の瞳は、私だけに向けられる時だけ、ほんの少し柔らかくなる。
「これから、よろしくね。旦那様」
「ああ。もう外交官はやめて、君の傍にいると約束するよ」
音楽が終わり、私たちは優雅に一礼した。
──舞踏会は続く。
だが、今日でひとつの物語は終わった。
そして、私とシリルの物語が始まる。
□完結□
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