gimmick-天遣騎士団-

秋谷イル

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私という世界の全て(2)

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 パチン。指ではなく髪を使って音を鳴らすアイズ。再び光の刃が伸びてラウラガを斬り裂く。

『ひ、ひいっ!?』

 ラウラガは攻撃の手を止め防御と再生に注力し始めた。再生速度を加速させ斬られた端から肉を繋げていく。少しでもダメージを減らそうと魔素障壁も展開して光刃を弾く。何枚も重ね合わせたなりふり構わない分厚い防御。
 ならばとアイズは髪を伸ばし、それを全て剣に変えた。手数には手数で対抗する。

『なっ!?』
「防げるものなら、防いでみせろ!」

 パチン。無数の髪の剣、その全てから光が放出されて文字通りラウラガの巨体を微塵に刻む。
 さらに追撃をかける彼女。

「ライトレイル、使え!」
「!」
 空から無数のきらめきが降って来る。見覚えのある輝きでダイヤモンドだと理解するライトレイル。魔素を使って再現したか、あるいはこの戦場に落ちていた残弾を拾い上げサウザンドの加護で複製したか。
 どちらにせよ、あれは彼のための弾丸。
「はいっ!」
 死した相棒の顔を脳裏に浮かべ無数の光の軌道を作り出す。その軌道に触れたダイヤは加速されてラウラガの肉片に次々に命中した。途端に天士フェアウェルの『縮』の力を再現した効果が発動し無に帰すまで空間ごと圧縮して消し去っていく。

『ま、まずい――まずい――』

 ここまでしてなお死なないラウラガ。ギリギリで体内に障壁を展開して守った魔素結晶へ縋り付くように残りの肉片が集合する。
 それは鳥のような姿に変わった。

『逃げなくては!』

 彼は戦士でなく学者。合理的に考えても、ここで撤退することは恥ではない。自分にそう言い聞かせて逃亡を図る。
 ところが、空中へ駆け上がったアイズが頭上に回り込んで叩き落とした。
「逃がすか!」
『ぐうっ!?』
 地面にめり込んだラウラガは覚悟を決める。たしかにアイズから逃げることは出来そうにない。
 ならば、なりふり構わずどんな手段を使ってでも倒す。

『馬鹿め! 儂を本気にさせおって!』

 再び人型になった彼は『破壊』のイメージを入力した魔素弾を四方八方に無差別に放出する。さらにオクノクの力で巨大な竜巻を生み出して自分もろともアイズたちを閉じ込めた。
 これなら回避されようが無い。さっき聖都を破壊したのと同等の爆発を連鎖させ竜巻の中の閉鎖空間内を埋め尽くせば絶対に当たる。この数なら防御もしきれまい。同じ魔素で構築された肉体と言えど神と融合している分だけ自分の方が耐久力は上のはず。
 計算上、生き残れるのは自分だけ。
『これな――……ら?』
 突然彼の周囲に複数の箱が現れ、その中から放出したばかりの魔素弾が吐き出された。予想外の至近距離から予想よりも早く爆発の連鎖が始まる。
『う、ああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
 聖都は再び光に飲まれた。



 同時刻、大陸北方の鉱山の麓にある街へ一通の手紙が届いていた。
 受け取ったのは街の領主。彼は内容に目を通した後、いったい何事かと考え込む。
 知己しりあいからの要請だ。とても簡単なことを頼まれている。ただし、それを軽々に行うことは出来ない。場合によってはやっと復興の道を歩み始めた祖国の立場を危うくしてしまう。

 だが、しかし――

「アイズ殿とリリティア嬢のため……か」
 どういうことかはわからないが、クラリオ壊滅後に行方不明になったとされる彼女たちのためにも力を貸して欲しいと書かれている。
 あの二人には恩がある。気に入ってもいた。二人が生きていて、そして助けを求めているのなら、やはり助けたい。
 手紙の差出人に対しても一定の信頼を置いている。熟慮の末に決断した彼、かつて連合軍を率いて帝国軍と戦った猛将ザラトスは、ただ一言だけその場で言葉を発する。
「許可します」



 大爆発直後、会話を交わすアイズとノウブル。
「助かった」
「お互い様だ」

 未来視でラウラガの行動を予知したアイズは髪を使って味方全員を引き寄せ、元の自分の体の近くへ降下した。そしてこちらを狙って放出された魔素弾を天士マジシャンの加護の再現でラウラガの目の前に転移させると同時にノウブルの『盾』の力で守ってもらったのである。
 爆発のエネルギーが上手く相殺し合うよう位置調整もしたので、最初の爆発よりむしろこちら側への被害は小さかった。

 こういうことをしてくるかもしれないと思って事前に髪を伸ばし、ノウブルから優先的に治療を施したのも正解だった。治癒の力を持つ天士メイディの加護の再現。今はブレイブとライトレイルにも治療を実行中。
 さらに天士ライジングサンの加護の再現も併用して体力まで回復させた。応急手当に過ぎないが、これで短時間なら全力での戦闘が可能なはず。

 兄ブレイブは安心したような嘆いているような複雑な表情で呟く。
「まさか、アリスに取り込まれて蘇るとは……」
「だ、大丈夫なんですか?」
「問題無い。むしろ調子は良くなった」
 この体にはアルトルの力が宿っておらず、それゆえに彼女にかけられた呪いの効力も及んでいない。
 神ではなくなったが、アルトルの超視力と仲間たちの加護を再現できるおかげであの化け物とも戦える。
「しかし今の攻防で理解できた。私の力だけでは不足だ。今のラウラガを完全に殺し切るには手数が足りない」

 流石に二柱の神と同化した魔素適合体である。まだ使いこなせていないだけで地力はこちらより上。あの力を完全にものにされる前にここで確実に仕留めなければならない。逃がせばもう勝ち目は無くなる。

「ライトレイル、お前はここから奴を削れ」
 再び大量のダイヤモンドを生み出して地面に撒くアイズ。全てにフェアウェルの力を再現して込めておいた。敵に命中した時だけ発動する。
「ノウブルは私と共に突撃。共に防御をこじ開けてくれ」
「わかった」
「ブレイブはライトレイルを守りつつ中距離から援護を」
「いや」

 素直に頷いた巨漢とは逆に左右に頭を振るブレイブ。
 その瞬間アイズも気付く。

「兄さん……封印が……」
「ああ、解けた」
 この時のために彼はあらかじめ手紙を出しておいたのだ。あのザラトス将軍に。
 彼の封印の最終段階を解除するには天遣騎士団副長アイズとノウブルの他に、もう一人契約の場に同席した人間の許可がいる。
 候補者は数名いたが、やはり一番信頼できるのは彼だった。共に前線で肩を並べて戦った仲間で仁と義を重んじる老将。アイズとリリティアにも恩義を感じている彼なら理由も定かでないのにブレイブの封を解くというリスクの大きい要請にも応じてくれると思っていた。

 期待通り将軍は応えてくれた。この身には今、かつてない力が漲りつつある。今にも溢れ出しそうなほどに。

「見せてやる。最強の天士の本領を」
「おお……」
 興奮するライトレイル。クラリオの戦いではアリスが先に皇帝ジニヤとイリアムを倒していたためブレイブが本気を出す機会は無かった。彼の力が完全開放されたのはあれ以来二度目。どうやら今度こそ天遣騎士団長の全開戦闘を見られそうである。
 アイズやノウブルでさえブレイブの全力がどれほどのものかは知らない。それでも彼がやれると言うなら信じる。
「わかった、一緒に来てもらう。ノウブルはやはり盾になってくれ。ブレイブが防御を切り崩し、私がトドメを刺す。無論状況に応じて臨機応変に対応」
「だそうだ。ライトレイル、悪いが自力で身を守ってくれ」
「大丈夫です。こっちは気にしないで副長たちはあのクソったれジジイを潰すことに専念してください」

 どのみち、ここであの怪物を倒せなければガナン大陸は終わりだ。胸を叩いてから敬礼するライトレイル。
 アイズたちも敬礼で返し、それから先の爆発の中心点へと振り返る。

「そもそもな」
 剣を握り、獰猛な犬のように犬歯を剥き出しにして笑うブレイブ。
「一発くらい、この手でやり返してやりたい」
「それもそうだな」
 アイズも微笑み、深く息を吸う。準備は万端。自分たち四人がこの大陸を守る最後の砦。その事実を特に気負うこともなく再確認する。

 向こうも再生を終えたようだ。煙が晴れ、元の大きさまで戻った巨体が姿を現す。

『愚かな……やはりお前は愚かだノーラ。爆発で手傷を負った儂に即座に追撃をかけていれば良かった。それなら倒せていただろう。足手まといの兄や仲間を守る必要は無かった』
「お前と私では価値観が違う。私にとっては彼らを失った上での勝利より、彼らと共に掴む勝利の方が心地良い」
『それが愚かだと言っている。感情より理を優先すべきなのだ。おかげで貴様は最大の勝機を失ったぞ』
「そうか。だとしても次の勝機を掴むさ」

 剣を構えるアイズ。その左右でノウブルとブレイブが、背後ではライトレイルがやはり構えを取る。

『ふん……』
 さっきの狼狽ぶりが嘘のように落ち着き払って見えるラウラガ。回復の間に何かを掴んだのかもしれない。
『理解せよノーラ! 貴様らに勝ち目など無い!』
「やってみなければわからん。それと、いい加減覚えろ爺。私はノーラでなくアイズだ!」
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