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三章【限りなき獣】
第七大陸へ
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「邪魔じゃ!」
長い階段からテアドラスに通じる扉。重く強靭な鉄製のそれをアイムは蹴り破って開けた。彼にしては珍しく本気で焦った表情。視線を素早く村全体に巡らせ、やがて一点で止める。
歯噛みして再び走り出した。
「キシャアアアアアアアアアッ!」
「消え失せろ!」
野生動物ではありえない造形の醜悪な獣達が彼に気付き、襲いかかって来たため鎧袖一触で殲滅する。殴られ、蹴られ、地面に叩きつけられて砕ける獣達。その姿を見ただけで彼には誰の仕業か理解できた。
目の前で蹲って背中から血を流している老人達に近付く。彼等は一か所に集まって何かを守っていた。
「おい! 生きておるか!?」
返事は無い。すでに全員が事切れている。
そう思ったが、少し間を置いて一人だけが声を発した。
「アイ……ム、様……」
「モルパジ、息があるのだな? ならば良い、もう喋るな。体力を温存せよ」
背中を深く切り裂かれ大量に出血している。この深手では手当てしても助かるまい。だとしても必要以上に苦しむことはない。
しかしモルパジという名のその老人には、言わねばならないことがあった。
「アリ……アリ、スラ……マッパギ……」
「そうか……」
アイムにはもうわかっていた。けれどモルパジはこれを伝えるために必死で意識を繋いでいたのだろう。そう察したアイムは頷いて肩に手を置く。
「よく教えてくれた。ニャーンが連れ去られたのだな?」
「は、い……もうしわけ、ありません……」
「良い、お主等のせいではない。あやつは必ず助ける。だから安心して休め」
「スワレ、も、おねがい……します」
「任せよ」
そう答えると、安心したように呼吸が浅くなっていき、やがて息を引き取るモルパジ。
彼等が、老人達がここに集まっていたのはスワレのため。あの獣達から倒れた彼女を守るために自分達の身を盾にして守ったらしい。息絶えている老人達の下で彼女はまだ辛うじて息をしていた。こちらはおそらく助けられる。
「皆、もう安全だ! 出て来い!」
「アイム様! アイム様が戻って来られた!」
閉ざされていた家々の扉が開き、村人達が外へ出て来る。危険を察して隠れていたのだ。賢明な判断である。
うちの一人が息絶えたばかりのモルパジに駆け寄った。
「じいちゃん!」
村の子供の一人、ルッパ。彼はモルパジの孫だった。
「そんな……なんてことだ……」
「八人も……」
そう、八人も殺された。これを九人にしないためには素早く対処しなければならない。
「ナホリ、ホルクス、スワレがここにおる! まだ息があるのだ手当てを!」
「は、はい!」
「スワレ!」
医術の知識を持つ二人がやって来た。アイムも多少の心得ならあるので応急処置を手伝う。傷は深いが致命傷ではない。助かるだろう。
(わざとだな)
あの男は能力者にも興味を抱く。スワレのように優秀ならばなおさらに。だからあえて殺さないよう手加減したのだ。
「そんな! そんなっ!?」
ズウラも戻って来た。アイムの全速力には流石に追いつけず、かなり遅れながら長い階段を駆け下り終えた。
そして惨状を目の当たりにし、パニックに陥る。
「誰だ!? 誰がこんなことを!」
「わ、わかんない! 私らはじいさま達が大声で外に出るなと叫んだんで中に隠れてたんだよ!」
手近な村民を捕まえて詰問するズウラ。頭に血が上った彼を一瞥したアイムは叱責する。
「落ち着け!」
「!」
「今まで何度も教えたはずじゃ、窮地の時ほど冷静になれ」
「……はい……!」
歯を食いしばって近付いて来るズウラ。だが、瀕死の重傷を負った妹の姿を見てまた怒りの炎を激しく燃やす。
「こんな……こんなことをした奴を……絶対に許さない……許せません……!」
「それでええ。犯人を許す必要など無い。見つけ次第にぶち殺してやれ、ワシもそうする」
アイムとて冷静であるよう努めてはいるが怒りを御しきれてはいない。スワレの生存がかかっているこの状況でなければ今すぐ暴れ出してしまいそうだ。
そんな二人にルッパとニッチェルが近付いて来て涙目で謝罪する。
「ごめん、ごめんアイム様……」
「私たち、すぐ近くにいたのに、何もできなかった……じいちゃんに家の中に逃げろって言われて、隠れることしかできなかった……」
「それでええんじゃ」
むしろ、あの男に遭遇してよく生き延びてくれた。立ち上がって二人の頭を撫でるアイム。でも子供達はそんな彼を怯えた眼差しで見上げた。
怒りが漏れ出している。抑え切れない憎しみが元々鋭い眦を吊り上げてしまう。
そう、他の誰よりも彼こそがあの男を憎んでいる。殺したいと願っている。
だから今度は、今度こそは必ず決着を付ける。
「待っていろ、ワシが仇を取る。あの外道を葬ってやる。ワシの我慢も、ここが限界じゃ……!」
「なんとか峠は越えた」
額の汗を拭い、ほっと一息つくホルクス。薬師のナホリばあもその隣で頷く。スワレは死なずに済んだ。このまま安静にしていればじきに回復するだろう。
「ありがとう、じっちゃん、ばっちゃん」
ズウラは辛うじて一命を取り留めた妹を自宅に連れて行き、つい数時間前までニャーンが休んでいた場所に横たえた。少しでも彼女の助けが得られるのではと、そう期待して。
そして直後にそんな自分を恥じる。
(何を考えてるんだオレは……オレが助ける側だろ!)
ニャーンは連れ去られてしまった。しかも、よりにもよって悪名高いアリアリ・スラマッパギに。今頃どんな目に遭っているかわからない。一刻も早く救出に向かわないと。
しかしテアドラスの守り人としての責任感が躊躇させる。
(スワレが戦えないのに、オレがここを離れていいのか?)
この村を存続させることも彼にとっては大事な使命。それを忘れてはいない。
そんな思い悩む青年に意外な人物が声をかけた。
「なに……してるんだ、兄……」
「スワレ!?」
妹がうっすら目を開き、こちらを認識して語りかけて来る。
「おいおい、まだ麻酔が効いとるはずだろ婆さん!」
「普通はそうだよ!」
慌てるホルクスとナホリ。今はまだ無理させられる状態ではない。
それでもスワレは兄に向かって語りかけた。彼女とて自分の状態はわかっている。これ以上無茶するつもりは無い。それでも伝えておきたいことがある。だから目が覚めたのだろう。彼女の意思に応じて精霊が助けてくれた。
「早く……行け! あの人を、助けろ……!」
「……ああ」
双子の兄妹だ、多くの言葉を交わす必要は無い。怒りに燃える妹の目を見たズウラは使命よりも己の心を優先することに決めた。
「助けに行く。だから、お前はここで待ってろ。しっかり怪我を直せ」
「そうする……もたもたして、たら……私が、代わりに、行く……ぞ」
「わかってる」
スワレならそうするだろう。自分がスワレの立場でもそうしただろう。
ニャーンを助けたいし助けなければならない。あの人は自分の想い人で妹の友人で、そしてこの星の希望なのだから。他の何よりも優先すべきである。
ただ、どうやって第七大陸まで行ったものか。テアドラス以外の世界を知らない彼にはどっちへ進めば辿り着けるかさえわからない。肝心のアイムもスワレの治療をホルクスとナホリに任せた後、どこかへ行ってしまった。
それから一時間ほど待っていると、ようやく彼は戻って来た。見知らぬ男と共に。
「お、驚いた……本当に地下に村がある。とんでもねえとこだな……」
「アイム様、その人は?」
赤毛でヒゲもじゃの男。もしやと思った人物はいるが一応訊ねる。
予想通りの答えが返って来た。
「こやつはビサック、何度か話したことがあるだろう。第一大陸の住民でワシの友、そしてお主等と同じ『祝福されし者』だ」
「よろしく。お前さんがズウラかい?」
「よ、よろしくお願いします」
歴史上、テアドラスに踏み入った三人目の来客。しかも噂に聞いていた影の精霊に祝福されし者だと知ってズウラは少しばかり緊張した。彼の話は何度もアイムから聞かされている。
でも、どうしてここに?
「ワシらが不在の間、こやつがここを守る。怪物相手では頼りない能力だが怪塵狂いの獣やさっきの気味の悪い獣低度なら容易く倒せる腕前じゃ。頼りにして良い」
「怪物相手でも今なら少しは戦えるぞ」
そう言ってビサックが人差し指をクイッと曲げると、なんと彼の足下の影が隆起して刃となった。初めて見る能力の使い方にアイムですら驚く。
「なんだ、どうした?」
「嬢ちゃんの力の使い方を見て、オイラにも似たようなことができるんじゃねえかと思って色々と試してみたのよ。で、隠れるばかりの能力じゃないと今さらわかった。多分、猟師としての自分にどっかでこだわってたんだろうな」
なるほど、ズウラには即座に理解できた。彼とスワレも亡き両親の雄姿に憧れ、同じようにその記憶に囚われてしまい能力を上手く扱えずにいた時期があった。ビサックは長年あの頃の自分達と同じ状態にあったのだろう。
そこから抜け出せたきっかけも同じ、ニャーン・アクラタカという少女の存在。
やはり一刻も早く助け出さねば。太陽のように眩い彼女の存在は、その光を浴びた者達にも良い影響を与え、成長を促してくれる。きっとそういう役割を持った人なのだ。
決意を固め、アイムに申し出る。
「オレも連れて行ってください! 必ずお役に立ちます!」
「当たり前じゃ! 何のためにビサックを連れて来たと思っとる!」
「はい!」
信頼してもらえていた。こんな時だが嬉しそうに頷いて、もう一度スワレを見るズウラ。背中を押してくれた妹はナホリに薬を処方され、また眠ってしまった。でも起きていたら何を言うかなどわかっている。双子の兄なのだから。
「任せろ」
必ず助け出す、この世界で最も大切な人を。次こそは絶対に、この胸のうちの想いを打ち明けるために。
長い階段からテアドラスに通じる扉。重く強靭な鉄製のそれをアイムは蹴り破って開けた。彼にしては珍しく本気で焦った表情。視線を素早く村全体に巡らせ、やがて一点で止める。
歯噛みして再び走り出した。
「キシャアアアアアアアアアッ!」
「消え失せろ!」
野生動物ではありえない造形の醜悪な獣達が彼に気付き、襲いかかって来たため鎧袖一触で殲滅する。殴られ、蹴られ、地面に叩きつけられて砕ける獣達。その姿を見ただけで彼には誰の仕業か理解できた。
目の前で蹲って背中から血を流している老人達に近付く。彼等は一か所に集まって何かを守っていた。
「おい! 生きておるか!?」
返事は無い。すでに全員が事切れている。
そう思ったが、少し間を置いて一人だけが声を発した。
「アイ……ム、様……」
「モルパジ、息があるのだな? ならば良い、もう喋るな。体力を温存せよ」
背中を深く切り裂かれ大量に出血している。この深手では手当てしても助かるまい。だとしても必要以上に苦しむことはない。
しかしモルパジという名のその老人には、言わねばならないことがあった。
「アリ……アリ、スラ……マッパギ……」
「そうか……」
アイムにはもうわかっていた。けれどモルパジはこれを伝えるために必死で意識を繋いでいたのだろう。そう察したアイムは頷いて肩に手を置く。
「よく教えてくれた。ニャーンが連れ去られたのだな?」
「は、い……もうしわけ、ありません……」
「良い、お主等のせいではない。あやつは必ず助ける。だから安心して休め」
「スワレ、も、おねがい……します」
「任せよ」
そう答えると、安心したように呼吸が浅くなっていき、やがて息を引き取るモルパジ。
彼等が、老人達がここに集まっていたのはスワレのため。あの獣達から倒れた彼女を守るために自分達の身を盾にして守ったらしい。息絶えている老人達の下で彼女はまだ辛うじて息をしていた。こちらはおそらく助けられる。
「皆、もう安全だ! 出て来い!」
「アイム様! アイム様が戻って来られた!」
閉ざされていた家々の扉が開き、村人達が外へ出て来る。危険を察して隠れていたのだ。賢明な判断である。
うちの一人が息絶えたばかりのモルパジに駆け寄った。
「じいちゃん!」
村の子供の一人、ルッパ。彼はモルパジの孫だった。
「そんな……なんてことだ……」
「八人も……」
そう、八人も殺された。これを九人にしないためには素早く対処しなければならない。
「ナホリ、ホルクス、スワレがここにおる! まだ息があるのだ手当てを!」
「は、はい!」
「スワレ!」
医術の知識を持つ二人がやって来た。アイムも多少の心得ならあるので応急処置を手伝う。傷は深いが致命傷ではない。助かるだろう。
(わざとだな)
あの男は能力者にも興味を抱く。スワレのように優秀ならばなおさらに。だからあえて殺さないよう手加減したのだ。
「そんな! そんなっ!?」
ズウラも戻って来た。アイムの全速力には流石に追いつけず、かなり遅れながら長い階段を駆け下り終えた。
そして惨状を目の当たりにし、パニックに陥る。
「誰だ!? 誰がこんなことを!」
「わ、わかんない! 私らはじいさま達が大声で外に出るなと叫んだんで中に隠れてたんだよ!」
手近な村民を捕まえて詰問するズウラ。頭に血が上った彼を一瞥したアイムは叱責する。
「落ち着け!」
「!」
「今まで何度も教えたはずじゃ、窮地の時ほど冷静になれ」
「……はい……!」
歯を食いしばって近付いて来るズウラ。だが、瀕死の重傷を負った妹の姿を見てまた怒りの炎を激しく燃やす。
「こんな……こんなことをした奴を……絶対に許さない……許せません……!」
「それでええ。犯人を許す必要など無い。見つけ次第にぶち殺してやれ、ワシもそうする」
アイムとて冷静であるよう努めてはいるが怒りを御しきれてはいない。スワレの生存がかかっているこの状況でなければ今すぐ暴れ出してしまいそうだ。
そんな二人にルッパとニッチェルが近付いて来て涙目で謝罪する。
「ごめん、ごめんアイム様……」
「私たち、すぐ近くにいたのに、何もできなかった……じいちゃんに家の中に逃げろって言われて、隠れることしかできなかった……」
「それでええんじゃ」
むしろ、あの男に遭遇してよく生き延びてくれた。立ち上がって二人の頭を撫でるアイム。でも子供達はそんな彼を怯えた眼差しで見上げた。
怒りが漏れ出している。抑え切れない憎しみが元々鋭い眦を吊り上げてしまう。
そう、他の誰よりも彼こそがあの男を憎んでいる。殺したいと願っている。
だから今度は、今度こそは必ず決着を付ける。
「待っていろ、ワシが仇を取る。あの外道を葬ってやる。ワシの我慢も、ここが限界じゃ……!」
「なんとか峠は越えた」
額の汗を拭い、ほっと一息つくホルクス。薬師のナホリばあもその隣で頷く。スワレは死なずに済んだ。このまま安静にしていればじきに回復するだろう。
「ありがとう、じっちゃん、ばっちゃん」
ズウラは辛うじて一命を取り留めた妹を自宅に連れて行き、つい数時間前までニャーンが休んでいた場所に横たえた。少しでも彼女の助けが得られるのではと、そう期待して。
そして直後にそんな自分を恥じる。
(何を考えてるんだオレは……オレが助ける側だろ!)
ニャーンは連れ去られてしまった。しかも、よりにもよって悪名高いアリアリ・スラマッパギに。今頃どんな目に遭っているかわからない。一刻も早く救出に向かわないと。
しかしテアドラスの守り人としての責任感が躊躇させる。
(スワレが戦えないのに、オレがここを離れていいのか?)
この村を存続させることも彼にとっては大事な使命。それを忘れてはいない。
そんな思い悩む青年に意外な人物が声をかけた。
「なに……してるんだ、兄……」
「スワレ!?」
妹がうっすら目を開き、こちらを認識して語りかけて来る。
「おいおい、まだ麻酔が効いとるはずだろ婆さん!」
「普通はそうだよ!」
慌てるホルクスとナホリ。今はまだ無理させられる状態ではない。
それでもスワレは兄に向かって語りかけた。彼女とて自分の状態はわかっている。これ以上無茶するつもりは無い。それでも伝えておきたいことがある。だから目が覚めたのだろう。彼女の意思に応じて精霊が助けてくれた。
「早く……行け! あの人を、助けろ……!」
「……ああ」
双子の兄妹だ、多くの言葉を交わす必要は無い。怒りに燃える妹の目を見たズウラは使命よりも己の心を優先することに決めた。
「助けに行く。だから、お前はここで待ってろ。しっかり怪我を直せ」
「そうする……もたもたして、たら……私が、代わりに、行く……ぞ」
「わかってる」
スワレならそうするだろう。自分がスワレの立場でもそうしただろう。
ニャーンを助けたいし助けなければならない。あの人は自分の想い人で妹の友人で、そしてこの星の希望なのだから。他の何よりも優先すべきである。
ただ、どうやって第七大陸まで行ったものか。テアドラス以外の世界を知らない彼にはどっちへ進めば辿り着けるかさえわからない。肝心のアイムもスワレの治療をホルクスとナホリに任せた後、どこかへ行ってしまった。
それから一時間ほど待っていると、ようやく彼は戻って来た。見知らぬ男と共に。
「お、驚いた……本当に地下に村がある。とんでもねえとこだな……」
「アイム様、その人は?」
赤毛でヒゲもじゃの男。もしやと思った人物はいるが一応訊ねる。
予想通りの答えが返って来た。
「こやつはビサック、何度か話したことがあるだろう。第一大陸の住民でワシの友、そしてお主等と同じ『祝福されし者』だ」
「よろしく。お前さんがズウラかい?」
「よ、よろしくお願いします」
歴史上、テアドラスに踏み入った三人目の来客。しかも噂に聞いていた影の精霊に祝福されし者だと知ってズウラは少しばかり緊張した。彼の話は何度もアイムから聞かされている。
でも、どうしてここに?
「ワシらが不在の間、こやつがここを守る。怪物相手では頼りない能力だが怪塵狂いの獣やさっきの気味の悪い獣低度なら容易く倒せる腕前じゃ。頼りにして良い」
「怪物相手でも今なら少しは戦えるぞ」
そう言ってビサックが人差し指をクイッと曲げると、なんと彼の足下の影が隆起して刃となった。初めて見る能力の使い方にアイムですら驚く。
「なんだ、どうした?」
「嬢ちゃんの力の使い方を見て、オイラにも似たようなことができるんじゃねえかと思って色々と試してみたのよ。で、隠れるばかりの能力じゃないと今さらわかった。多分、猟師としての自分にどっかでこだわってたんだろうな」
なるほど、ズウラには即座に理解できた。彼とスワレも亡き両親の雄姿に憧れ、同じようにその記憶に囚われてしまい能力を上手く扱えずにいた時期があった。ビサックは長年あの頃の自分達と同じ状態にあったのだろう。
そこから抜け出せたきっかけも同じ、ニャーン・アクラタカという少女の存在。
やはり一刻も早く助け出さねば。太陽のように眩い彼女の存在は、その光を浴びた者達にも良い影響を与え、成長を促してくれる。きっとそういう役割を持った人なのだ。
決意を固め、アイムに申し出る。
「オレも連れて行ってください! 必ずお役に立ちます!」
「当たり前じゃ! 何のためにビサックを連れて来たと思っとる!」
「はい!」
信頼してもらえていた。こんな時だが嬉しそうに頷いて、もう一度スワレを見るズウラ。背中を押してくれた妹はナホリに薬を処方され、また眠ってしまった。でも起きていたら何を言うかなどわかっている。双子の兄なのだから。
「任せろ」
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