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中学生編
少年vs合宿
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「強化合宿……!?」
「そうだ、二泊三日でやってみないか!」
いつもの道場。いつも通り笑顔で提案する当間師範。だからこそ嫌な予感を覚えたオレは問い返す。
「それはまさか、また女子大のお姉さん達と一緒なのでは!?」
「はっはっはっ! 安心しろ! 彼女達の強化合宿はすでに先日済ませた! 今回は君と俺の二人だけだ!」
なんだ、そうなのか。そういうことなら参加してもいいかもしれない。今日は道場にもあの人達来てないし、ひょっとして、ようやくオレとお姉さん達の練習時間がずれるよう気を遣ってくれたのだろうか?
「あの、先生」
「合宿の場所だな? 神住マリーナのすぐそばにある宿だ。なんと練習場隣接! 友人が経営していて格安で泊めてもらえるし、俺の車で連れて行くから交通費は不要! 集合は明後日の午前九時、ここの前! 他に質問はあるかな?」
一気に説明され、勢いに圧倒されたオレは「いえ」と思わず頭を振ってしまった。この人いつも笑顔だけど表情が全く変わらなくてちょっと怖い。
まあいいか、とにかく今回はオレと師範だけらしい。それに神住マリーナと聞いたことで先日のあの屈辱を思い出す。
学校で“ブッダボーイ”と呼ばれるようになってしまった一件、たしかに最高だったが、しかし歩美の水着姿一つで前後不覚になってしまうなど今になって考えてみれば情けなさ過ぎる。この道場でお姉さん達の色香に耐えるうちドキッとしたら反射的に悟りモードに入れる体になったが、これでは恋愛もままならんじゃないか。
そもそもあんなもの逃げだ。オレはもっと成長して歩美の水着、じゃない、水着の歩美を直視できるくらいになる必要がある。でなければこれからさらに綺麗になってくアイツと付き合うなど夢のまた夢。あの豪傑感丸出しな親父さんくらい動じない男になりたい。
合宿で根性を叩き直してもらおう。今度こそ歩美に相応しい男へ成長するのだ。
「先生、オレをビシバシ鍛えてやってください!」
「おお、気合が入ってるな! 任せてくれ、世界最強の柔道家にしてやるぞ!」
そして合宿当日。騙されたことを知った。
「あー、木村君だ!」
「当間センセと合宿に来たの?」
「昼はお仕事があるから無理だけど、夜になったら私達も組手したげるね~」
「しはんっ!?」
宿泊先の宿でいつもの女子大生のお姉さん達に出くわしたオレは師範の方に振り返った。師範はやっぱり全く変わらない顔で「はっはっはっ」と笑う。
「まさか、彼女達がここでバイトを始めていたとはなあ!」
「知らなかったんスか!? 本っ当に知らなかったんですかっ!?」
「アルバイトで一週間ほど練習を休むとは聞いてた!」
「どこでやるかも聞いといてくださいよ!」
いや、この人ならお姉さん達のバイト先を知っていてもここで合宿をすると言っていただろうな。
「いつもの仲間が一緒にいて楽しいじゃないか! ようし、荷物を置いて着替えたら早速特訓開始だぞ! 世界最強の柔道家になろう!」
ほら、この調子だ。
「えっ、木村君、世界一を目指してるの?」
「すご~い、意識高い」
「かっこい~」
「れ、練習行って来ます!」
宿にいたら危険だ。そう思ったオレは素早く着替え、当間先生の腕を引っ張って海岸に向かった。
「はっはっはっ、待て待て。俺はまだ着替え終わっていない」
だが、海は海で罠だらけだった。
「ミッチ達の言った通りだ、木村君来たよ。頑張れ~」
「当間先生~! 木村くーん! ファイトー!」
「なんで海にまでお姉さん達が!?」
「海の家でバイトしてたり、普通に遊びに来てたりのようだな」
「くっそう!」
こんなことなら山での合宿にしてもらえば良かった。
「木村くーん、かっこいー」
「頑張れよ木村ー」
「なに、あの子? なんかすっごい応援されてるんだけど」
「ジャージ姿で走ってる。部活かなんかかな? 頑張れー」
お姉さん達の声援が他の海水浴客の注目まで集める結果となり、真夏の砂浜でひたすらランニングするオレにさらに多くの声がかけられた。
三十分走って休憩に入ったら、今度はお姉さん達が集まって来てちやほや世話を焼いてくれる。
「木村君大丈夫? ちゃんと水分補給しなよ」
「ほらスポドリ。おごりだから飲んで飲んで」
「汗拭いてあげる」
「ツンツン頭かわいー」
「あ、ありがとうございます……」
なんだよ、なんなんだよこの羞恥プレイ! いつものよりきついよ!!
「くそっ、なんなんだあのガキ……」
「腹立つな……」
男共からは余計なヘイトを買ってるし! 俺だってこんな状況嫌だよ!
「はっはっはっ! 走った後のスポドリは美味いな木村君! はっはっはっ!」
「そんでアンタはいつもマイペースだな!?」
「はっはっはっ!」
夜は夜で宿に隣接している練習場でお姉さん達相手にたっぷり絞られる。組手になると容赦しないんだ、この人達。
「ほらほらきむりん、早く抜け出さないと一本取られちゃうよー」
「ふごごごご……」
「どうした木村? 今日こそアタシから一本取ってみせろよ……!」
「うぎぎぎぎ……」
「合法的に男子中学生を床に押さえつけられるの楽しいなー」
「なんでみんな寝技ばっかりなんスか!?」
「あっ、逃げられた」
「防御だけは上手くなったよなー」
「よーし、じゃあ次はウチが相手したるで」
「うむ、実力の近い者同士の方が良い練習になるだろう! じゃあ俺は宿に戻って友人と飲んでるから、皆、木村君をよろしくな!」
「は~い!」
「助けてえええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
親父さん あなたの高み まだ遠し
──というわけで夏の合宿では散々な目に遭った。次に歩美と会った時、またドキッとした瞬間に意識を飛ばしてしまったため修行の成果は出なかったと思ったのだが、二学期の大会では三位という好成績を修めた。
一応、強くはなっていたらしい。オレが望んだ方向とは違うけれど。
サッカーの方では、歩美が応援に来た二回戦で敗退した。
「そうだ、二泊三日でやってみないか!」
いつもの道場。いつも通り笑顔で提案する当間師範。だからこそ嫌な予感を覚えたオレは問い返す。
「それはまさか、また女子大のお姉さん達と一緒なのでは!?」
「はっはっはっ! 安心しろ! 彼女達の強化合宿はすでに先日済ませた! 今回は君と俺の二人だけだ!」
なんだ、そうなのか。そういうことなら参加してもいいかもしれない。今日は道場にもあの人達来てないし、ひょっとして、ようやくオレとお姉さん達の練習時間がずれるよう気を遣ってくれたのだろうか?
「あの、先生」
「合宿の場所だな? 神住マリーナのすぐそばにある宿だ。なんと練習場隣接! 友人が経営していて格安で泊めてもらえるし、俺の車で連れて行くから交通費は不要! 集合は明後日の午前九時、ここの前! 他に質問はあるかな?」
一気に説明され、勢いに圧倒されたオレは「いえ」と思わず頭を振ってしまった。この人いつも笑顔だけど表情が全く変わらなくてちょっと怖い。
まあいいか、とにかく今回はオレと師範だけらしい。それに神住マリーナと聞いたことで先日のあの屈辱を思い出す。
学校で“ブッダボーイ”と呼ばれるようになってしまった一件、たしかに最高だったが、しかし歩美の水着姿一つで前後不覚になってしまうなど今になって考えてみれば情けなさ過ぎる。この道場でお姉さん達の色香に耐えるうちドキッとしたら反射的に悟りモードに入れる体になったが、これでは恋愛もままならんじゃないか。
そもそもあんなもの逃げだ。オレはもっと成長して歩美の水着、じゃない、水着の歩美を直視できるくらいになる必要がある。でなければこれからさらに綺麗になってくアイツと付き合うなど夢のまた夢。あの豪傑感丸出しな親父さんくらい動じない男になりたい。
合宿で根性を叩き直してもらおう。今度こそ歩美に相応しい男へ成長するのだ。
「先生、オレをビシバシ鍛えてやってください!」
「おお、気合が入ってるな! 任せてくれ、世界最強の柔道家にしてやるぞ!」
そして合宿当日。騙されたことを知った。
「あー、木村君だ!」
「当間センセと合宿に来たの?」
「昼はお仕事があるから無理だけど、夜になったら私達も組手したげるね~」
「しはんっ!?」
宿泊先の宿でいつもの女子大生のお姉さん達に出くわしたオレは師範の方に振り返った。師範はやっぱり全く変わらない顔で「はっはっはっ」と笑う。
「まさか、彼女達がここでバイトを始めていたとはなあ!」
「知らなかったんスか!? 本っ当に知らなかったんですかっ!?」
「アルバイトで一週間ほど練習を休むとは聞いてた!」
「どこでやるかも聞いといてくださいよ!」
いや、この人ならお姉さん達のバイト先を知っていてもここで合宿をすると言っていただろうな。
「いつもの仲間が一緒にいて楽しいじゃないか! ようし、荷物を置いて着替えたら早速特訓開始だぞ! 世界最強の柔道家になろう!」
ほら、この調子だ。
「えっ、木村君、世界一を目指してるの?」
「すご~い、意識高い」
「かっこい~」
「れ、練習行って来ます!」
宿にいたら危険だ。そう思ったオレは素早く着替え、当間先生の腕を引っ張って海岸に向かった。
「はっはっはっ、待て待て。俺はまだ着替え終わっていない」
だが、海は海で罠だらけだった。
「ミッチ達の言った通りだ、木村君来たよ。頑張れ~」
「当間先生~! 木村くーん! ファイトー!」
「なんで海にまでお姉さん達が!?」
「海の家でバイトしてたり、普通に遊びに来てたりのようだな」
「くっそう!」
こんなことなら山での合宿にしてもらえば良かった。
「木村くーん、かっこいー」
「頑張れよ木村ー」
「なに、あの子? なんかすっごい応援されてるんだけど」
「ジャージ姿で走ってる。部活かなんかかな? 頑張れー」
お姉さん達の声援が他の海水浴客の注目まで集める結果となり、真夏の砂浜でひたすらランニングするオレにさらに多くの声がかけられた。
三十分走って休憩に入ったら、今度はお姉さん達が集まって来てちやほや世話を焼いてくれる。
「木村君大丈夫? ちゃんと水分補給しなよ」
「ほらスポドリ。おごりだから飲んで飲んで」
「汗拭いてあげる」
「ツンツン頭かわいー」
「あ、ありがとうございます……」
なんだよ、なんなんだよこの羞恥プレイ! いつものよりきついよ!!
「くそっ、なんなんだあのガキ……」
「腹立つな……」
男共からは余計なヘイトを買ってるし! 俺だってこんな状況嫌だよ!
「はっはっはっ! 走った後のスポドリは美味いな木村君! はっはっはっ!」
「そんでアンタはいつもマイペースだな!?」
「はっはっはっ!」
夜は夜で宿に隣接している練習場でお姉さん達相手にたっぷり絞られる。組手になると容赦しないんだ、この人達。
「ほらほらきむりん、早く抜け出さないと一本取られちゃうよー」
「ふごごごご……」
「どうした木村? 今日こそアタシから一本取ってみせろよ……!」
「うぎぎぎぎ……」
「合法的に男子中学生を床に押さえつけられるの楽しいなー」
「なんでみんな寝技ばっかりなんスか!?」
「あっ、逃げられた」
「防御だけは上手くなったよなー」
「よーし、じゃあ次はウチが相手したるで」
「うむ、実力の近い者同士の方が良い練習になるだろう! じゃあ俺は宿に戻って友人と飲んでるから、皆、木村君をよろしくな!」
「は~い!」
「助けてえええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
親父さん あなたの高み まだ遠し
──というわけで夏の合宿では散々な目に遭った。次に歩美と会った時、またドキッとした瞬間に意識を飛ばしてしまったため修行の成果は出なかったと思ったのだが、二学期の大会では三位という好成績を修めた。
一応、強くはなっていたらしい。オレが望んだ方向とは違うけれど。
サッカーの方では、歩美が応援に来た二回戦で敗退した。
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