歩美ちゃんは勝ちたい

秋谷イル

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中学生編

娘vs幽霊(1)

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 今日は町内の盆踊り。何年か前に町内会で土地を買い取り、こういう行事やラジオ体操なんかに使ってる広場にやぐらが組まれ、皆が輪になって踊っている。私もその一人。
「いやあ、歩美ちゃんの踊りにはキレがあるね」
「若い子はなかなか参加してくれないし、嬉しいわ」
「あはは」
 町内のおっちゃんやおばちゃん達に褒められ照れながら輪を離れる私。あんまり喜んでくれるから一時間も踊っちゃった。流石にそろそろ休憩。
「やっと出てきた」
「あ、小梅ちゃん」
「リトルプラム!」
 裏の家の小梅ちゃん。本名で呼ばれるなり肩を怒らせ威嚇してくる。可愛いのに、この名前。ちっちゃくてちょっとツンとしてる感じがぴったりだし。
「はい、これ。焼き鳥買いに行ったら、おじさんから預かった。やきそばは親父から」
「わっ、ありがとう」
 二つのパックを手渡され顔を綻ばす。うちの町内の盆踊りでは、町内会のおじさん達が毎年出店を開く。今年は、というか今年もうちの父さんは焼き鳥担当で、吉竹おじさんは焼きそば。二人ともああいうの似合うよね。
「おじさんまだ?」
「焦るな少年。しっかりと火が通っておらん。鶏肉は生では危険だ。しかし焼きすぎても固くなる。重要なのは最適な焼き加減の見極めよ」
「はいよ! 焼きそば三人前、ちょいとお待ちを、ちゃちゃっと作りますんで! いやあ、お姉さん達みたいな綺麗な人達の注文だとやる気が出るなあ!」

 ──と、あんな感じで二人とも頑張ってる。でも吉竹おじさん、それはちょっと不味いんじゃ……ああ、小梅ちゃんの目尻が吊り上がってく。

「あ、あっちに座って食べようか」
「んむ……」
 憮然とした表情の小梅ちゃんの手を引き、腰を下ろしたのは町内会のおじいちゃん達が酒盛りしてるテントの端。下に基礎を組み、その上に板と畳を敷いてある。うちのママと小梅ちゃんのママも端っこに座っていた。正道と柔は二人の腕の中。
「あら歩美、踊りはもういいの?」
「ちょっと休憩」
「小梅、焼き鳥は?」
「はい」
 私の分以外にも二パック抱えていた小梅ちゃんは、焼き鳥の方をおばさんに渡す。おばさんは代わりに、それまで抱いていたうちの柔をママに返した。
「ごめん、ちょっとごはんにするわね」
「どうぞどうぞ」
 一人で双子を抱いたママ。その隣に座って私も食事開始。小梅ちゃんも私とおばさんの間に座って焼きそばを食べ始める。
 うん、美味しい。三人揃って満足顔で頷いた。
「相変わらず豪鉄さんの焼き鳥は絶品ね。安い肉のはずなのにどうやってこんな柔らかくしてるの?」
「あの人、凝り性だから」
 苦笑するママ。そうそう、家で二日前から仕込みをしてるんだよ。私達も手伝わされて大変だった。
「それに比べて、うちの親父の焼きそばは……」
「え? 美味しいよ?」
「普通じゃん」
 唇を尖らせる小梅ちゃん。相変わらず、お父さんに対して厳しいなあ。
「小梅、半分食べた?」
「食べた」
「じゃあほら、交換」
「ん」
 それぞれ半分ずつ食べたところで焼き鳥と焼きそばを交換する二人。焼きそばを啜ったおばさんがやはり辛口の評価を下す。
「五十点」
「焼き鳥は百点」
 むふーと鼻息を吹く小梅ちゃん。うちの父さんには相変わらず甘い。ちっちゃい頃から懐いてるらしい。
「おじさんは流石だね!」
「はは、後で伝えとく。喜ぶよ」
「いい、また自分で買いに行く」
 少食の小梅ちゃんがおかわりだって、珍しい。よっぽど気に入ったんだ。
 私も焼き鳥の一本目に手を伸ばす。うん、なるほど美味しい。
「八十点」
「あら、意外と厳しい」
「だって私、塩よりタレが好きだし」
 娘の好みを把握してない分、マイナスだよ。



 なんて、平和なままに今年の盆踊りも終わるのかと思っていたら、事件は残り一時間というタイミングで起きた。

「肝試ししようぜ」

 どこにでも悪ガキってのはいるもんで、高橋さん家の兄弟が何人かの子供を集め、そう誘った。小梅ちゃんと同じ中三なんだけど、やることがことごとくガキっぽい。
「お墓にでも行くつもり? やめなよ」
 私が諫めると、兄の方の笑流えるは肩を竦める。
「はっ、そんなんじゃねえよ。お前、知らないのか? 三丁目の空き地」
「空き地?」
 そんなところで肝試し?
「ずっと昔、あそこで火事があったんだよ。建物はもう無くなったけど、それ以来、夜にあの空き地の前を通りがかると女の泣き声が聞こえるんだってさ。当時暮らしてた家族の娘が逃げ遅れて死んじゃって、その霊らしいぜ」
「そんなところで遊ぶのやめな!」
「そうだよ」
 不謹慎だ。小梅ちゃんの意見に同意する私。他の子達も怖がって逃げてった。ほとんど私より小さい子達だから当たり前。
 せっかく集めたメンバーが散り散りになって焦ったのだろう、私と同い年の弟・明人らいとが安っぽい挑発を繰り出してきた。
「なんだよお前ら、怖いのか? 情けねえ」
 うわあ、見え見え。
 あのね、そんなんで乗せられるわけが──
「なんだとこのヤロウ!」
 あった。
「いいよ、行ってやんよ! でもアタシがその空き地一周したら、オメーら土下座させてやっかんな!」
「小梅ちゃん、待った、ちょっと」
「大丈夫! 行って来る!」
「よし、行こうぜ!」
「ひゃっはー!」
 走り出した小梅ちゃんを追いかけてく高橋兄弟。ああもうしかたない。私も三人の後についてった。馬鹿兄弟はともかく小梅ちゃんは放っとけない。

 で、後悔した。

「っ!?」
 例の空き地の前まで来た私は足を止める。到着したからではなく、怯んだから。途中で三人の姿を見失って別の道に入ったせいで追いつくのが遅れちゃった。三人はもう空き地の中を内周に沿って歩き始めている。
 そんな三人の背後に──

(な、なんだあれ?)

「こ、こわくない、こわくない……」
「なんだ、本当にただの空き地じゃん」
「つまんねえな」
『……』
 ぶつぶつ呟きながら歩く小梅ちゃんと、退屈そうに辺りを見回す高橋兄弟。どう見ても三人とも気付いていない。明らかにもう一人、後ろを歩いていることに。
 やがて四人は空き地の入口まで戻って来た。
「あ、あれ? 歩美?」
「お前、一緒に歩いてたんじゃ?」
「後ろから足音がしたのに……」
 青ざめた顔で振り返る三人。けれど、やっぱり見つけられていない。
 すぐそこにいる“彼女”に焦点が合わない。
「……」
 私が無言で見つめているのが怖かったんだろう、高橋兄弟は「なんなんだよ!」「お前こえーよ!」と言って逃げ出した。
 そして、私にしか見えていない“彼女”が小梅ちゃんに向かって手を伸ばす。
「だっ」
 駄目と言う間も無く、小梅ちゃんの肩が掴まれた。
 次の瞬間──
「……探さなきゃ」
 表情が変わり、すたすた歩き始める。もう一人の姿は見えない。どうやら小梅ちゃんの体に入ってしまったらしい。

 全身焼け爛れた、女の子の霊が。

「……どうしよう」
 こんな時どうしたらいいのかなんて知らない。でも、やっぱり放っておくことはできず、私は後を追いかけて行った。
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