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中学生編
娘vs告白
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それは二学期が始まってから、しばらく経った頃のこと。手紙で呼び出され、放課後になってすぐに校庭の大きな木の下まで行くと──
「好きです! 付き合ってください!」
「私の方が先輩のことを好きです! 私と付き合ってください!」
「え、ええ……?」
生まれて初めて告白された──男子と女子から、同時に。
元々知り合いではあったんだけど、翌日から二人はさらに積極的にアプローチしてくるようになった。学校の手前、寝不足であくびしていた私にまずは一年の男子、音海 風我君が駆け寄って来る。キリッとした顔つきの真面目な子。去年から所属してる文化委員会繋がりの後輩。九月の文化祭に向けて今から準備をしてるんだけど、その関係で夏休み中からよく顔を合わせていた。
「大塚先輩、カバンお持ちします!」
「な、なんで? 別に重くないよ?」
「そうですか……では、困ったことがあったらいつでも言ってください! また後で会いましょう!」
「うん……」
情けないことにはっきりとは断れなかった。彼は玄関で靴を履き替えるとすぐに一年の教室の方へ歩き出す。颯爽としてるし名前の通り風みたいな子だな。
すると、今度は入れ替わりでポニーテールの女子が近付いて来る。
「あゆゆ先輩! おはようございます!」
「あっ、お、おはよう」
この子は日ノ打 鼓拍。同じ部活の後輩で昨日告白してきたもう一人の相手。部活仲間はコハちゃんて呼んでる。
隣に立っていたさおちゃんがジロっと睨みつけた。
「コハ、あたしは?」
「いたんですか、バミさん」
睨み返したコハちゃんとさおちゃんの間で激しく散る火花。この二人は毎度こんな感じなので今度は動じない。仲が悪いわけじゃないんだけど、何故かいつも張り合うんだよね。
「先輩、一緒に教室まで行きましょう」
「あんたは一年でしょうが」
「一年が二年の教室へ行っちゃいけない決まりでも?」
「いや、もうそんなに時間無いよ。寄り道してたら遅刻するんじゃない?」
「それもそうですね」
私が言うといつも素直に納得してくれる。その理由は昨日やっと理解できた。
「はあ……どうしよ」
教室に入り、一通りクラスメート達に挨拶した私は机に突っ伏しながら嘆息。
「どうしよって、その気が無いなら断るしかないでしょ」
さおちゃんには昨夜の時点で相談済み。その時、一応の結論は出した。音海君のことはまだよく知らないし、コハちゃんのことは好きだけど、それは部活の後輩としてであって、やっぱり恋愛対象としては見られない。
断る。その一点はもう決断したんだ。
問題はどう断ったらいいのか。
「二人とも委員会や部活で顔を合わせるし……」
今後気まずくなりそうで怖い。いい子なのも知ってるから傷付けたくも無い。そもそもなんで私なんだ? これまで一回もモテたことなんか無いぞ?
「いいのよ、どうせ本気じゃないし」
「え?」
さおちゃんの断言に眉をひそめる私。
彼女は窓の外を見ながら続けた。
「あの二人はね、あゆゆに恋してるんじゃないの」
「どういうこと?」
もしかして罰ゲームか何か? 答えを聞きたがる私に、けれどさおちゃんは振り返って手の平を向けた。
「これ以上は言わない。こんな場所だし、あゆゆにも考えて欲しい」
自分で考えるべきってことか……まあ、うん、そうだね。告白されたのは私なんだから私が考えなきゃ。
といっても結論はもう出てる。よし、後は勢い。
「決めた、放課後に断る」
いつまでも待たせてちゃ悪い。ちゃんと私なりに考えた答えを伝えよう。その結果どうなったとしても、先延ばしにして逃げ続けるよりはいい──と思う。
「ふふ、あゆゆのそういう思い切りの良さが好き」
「さおちゃんまで告白?」
「違うわよ……そういうこと言われると、その気になりそうだからやめてよね」
「え、何?」
「ん?」
何か小声で言ってた気がするんだけど笑顔で誤魔化された。なんだったんだろ?
そういえば、あいつもどうした?
「木村さ、昨日から心ここにあらずじゃない? 口開けてぽかんとしちゃって。いつもの悟りを開いたみたいな感じでもないし、どうしたんだろ?」
「一応、あいつにも教えてやったから」
「何を?」
「あゆ……み……こく……はく、され……」
うわあ、何があったか知らないけど今にも灰になりそう。後でちょっと励ましてやるか。そう思ったところで、先生が教室に入って来た。
放課後、昨日と同じ場所に音海君を呼び出して返事を伝えところ、その場にコハちゃんまで現れた。隠れて見ていたらしい。
「やった! 私と付き合ってくれるんですね!」
「コハちゃん!? い、いや、コハちゃんにはこの後、部活で合った時に返事を伝えようと思って……」
「オーケーですよね!」
「ごめんなさい」
「そんな!?」
ショックで固まるコハちゃん。その横で一足先に失恋した事実を受け止めた音海君は顔を上げる。
「わかりました……たしかに、まだ知り合って間も無い身で軽率でした。次こそ大塚先輩に認めてもらえるよう、自分を磨いて出直してきます!」
「えっ……」
トゥンク──気のせいか、そんな音がコハちゃんの方から響いた気がする。
泣いていた彼女はハッと目を見開き、音海君の顔を見上げる。
そしてぽつりと呟いた。
「男らしい……好き」
「え?」
「え?」
同時に聞き返す私と彼。コハちゃんは構わず手を握る。音海君の左手を。
「好きです、私と付き合ってください!」
「ええっ!?」
ちょ、まっ、私のことが好きだったんじゃないの!?
一方、手を握られ潤んだ瞳で見つめられた音海君も──
「俺で良ければ!」
そう言って空いていた右手をコハちゃんの両手に重ねた。
「先輩、ありがとうございます! きっぱり振っていただいたおかげで早くも新しい恋を見つけられました!」
「まるでキューピッドですね!」
「えええ……っ」
こっちが呆然としている間にあっという間に結ばれてしまった二人は、あははうふふと笑いながら立ち去ってしまう。
私はしばらく、その場から動けなかった。
「なんだったんだよ、もう……」
学校から帰って来るなりちゃぶ台に突っ伏して愚痴をこぼす娘。対面で話を聞いていた私は、おかしくてくすくす笑う。
「それは災難だったわね」
「まったくだよ」
ふてくされてる。でも二人を振ったのはあなたでしょ。なのに納得いかない? それはそれで勝手な話だと思う。
まあ、しかたないか。この子達はまだ中学生なのだから。
「きっと、その二人は歩美に恋をしていたわけじゃないのよ」
「えっ……それ、さおちゃんにも言われた。どういうこと?」
あら流石ね沙織ちゃん。精神的にはうちの子より一歩も二歩も先を行ってるみたい。
「恋に恋するお年頃って言うでしょ。その子達は多分、恋愛の真似をしてみたかっただけなんじゃないかな? おままごと……なんて言ったら失礼かしら。恋ってどんなものかを知りたかったんだと思う」
歩美を選んだのは、自分が恋するとしたらこういう人だっていう思い込みがあったから。でも失恋したことで先入観が払拭され、すぐ傍にいる本当に理想的な相手を見つけられたのかもしれない。
もちろん、まだ“おままごと”を続けているだけの可能性もある。
私に説明された娘は、やっぱり納得いかない表情。
「そんなことあるのかな……」
「去年の自分を思い出したら? 中学生になったばかりの頃、少し大人になったって思わなかった? だから大人っぽいことがしたいって」
毎朝制服を着て、小学校の頃より厳しく指導され、勉強も難しくなった。自分も含めて皆どんどん背が伸びて声や体つきも変わっていく。
たしかに大人に少しずつ近付きつつある。でも、まだまだ子供だという事実を忘れがちになる、そんな年頃。
恋に恋焦がれることも別に珍しくは無い。むしろ未だに初恋の話すら聞かないこの子が特殊なの。
「う~ん、そういうもんか……」
理屈はわかったけれど、顔はまだ納得できないと語っている。この調子じゃ歩美がそういう経験をするのは、きっとまだまだ先だわ。
直後、そんな娘から思いがけない質問を投げかけられた。
「ママは? 父さんと出会ったのって中一の時だったって言ってたよね?」
「私? そうね……」
いじめっ子達に囲まれていたところを救われ、センパイに一目惚れしたのは、たしかに中一の時の出来事だった。
思い返せば──
「最初は、そうだったのかもね」
疎外されていた私に優しくしてくれた人。顔が怖くて、そのせいでやっぱり周囲に避けられてしまう。そんな彼ならわかりあえる。自分には、そういう人としか恋はできないと、チャンスは無いのだと思い込んでいた。
でも、追いかけていくうちにわかった。あの人は最初の印象とは全く違う。顔は怖いし、言葉遣いも変だけれど、避けて通るのは彼をよく知らない人間だけ。知ればそんなことはできなくなる。
センパイは当時からたくさん友達がいた。後輩に慕われていたし、年長者を敬っていた。あの人を追いかけるうち、私は自分が嫌われる理由を周りのせいにばかりしていることに気が付いた。
センパイは自分を嫌う人間にだって優しくできる。怖がる相手にも必要なら迷わず手を差し伸べる。そういう人だから相手も気が付けば心を許してしまっているし、そんな彼が困っていたら助けたくなる。
私は結局、中学でも高校でも告白できなかった。それは臆病だったからで、そして臆病になってしまった理由は──
「知れば知るほど本当に好きになっていったから。センパイと一緒にいられなくなるかもと思うと怖くてしかたなかった」
「……そ、そう」
あらあら、歩美ったら照れてるわ。迂闊な質問だったわね。親の惚気話なんか聞くものじゃないでしょ?
「今の話、お父さんには内緒ね」
「うん」
娘が頷いたのを確認して、私は腕の中の赤ちゃん達に視線を落とす。
「ふふ、歩美やこの子達が本当の恋をする時が今から楽しみ。その時はちゃんと教えてね、私もお父さんには秘密にしておいてあげる」
母と子の 秘密の恋バナ 父知らず
「教えるのは婚約してから。でないとあの人、そわそわして何も手につかなくなるわよ」
「ふあ……だろうね」
あくびをする娘。今日は朝からやけに眠そう。
「昨夜眠れなかったの?」
「ちょっとね……」
「というわけで、今夜はちゃんと寝たいから静かにしてね」
ベッドに仰向けになり、天井に向かって話しかける私。昨夜はさ、もちろんあの二人の告白にどう答えたらいいかってのも考えてたんだけど、それ以上に見えない人のそわそわする気配が伝わって来てなかなか寝られなかったんだ。
やっぱり、この人ってパパなのかな?
まあ、とにかく今は眠りたい。
「おやすみ」
幸いにも、この夜はとても静かでぐっすり眠ることができた。
父さんも見えない人も心配しすぎなんだよ、まったく。
「好きです! 付き合ってください!」
「私の方が先輩のことを好きです! 私と付き合ってください!」
「え、ええ……?」
生まれて初めて告白された──男子と女子から、同時に。
元々知り合いではあったんだけど、翌日から二人はさらに積極的にアプローチしてくるようになった。学校の手前、寝不足であくびしていた私にまずは一年の男子、音海 風我君が駆け寄って来る。キリッとした顔つきの真面目な子。去年から所属してる文化委員会繋がりの後輩。九月の文化祭に向けて今から準備をしてるんだけど、その関係で夏休み中からよく顔を合わせていた。
「大塚先輩、カバンお持ちします!」
「な、なんで? 別に重くないよ?」
「そうですか……では、困ったことがあったらいつでも言ってください! また後で会いましょう!」
「うん……」
情けないことにはっきりとは断れなかった。彼は玄関で靴を履き替えるとすぐに一年の教室の方へ歩き出す。颯爽としてるし名前の通り風みたいな子だな。
すると、今度は入れ替わりでポニーテールの女子が近付いて来る。
「あゆゆ先輩! おはようございます!」
「あっ、お、おはよう」
この子は日ノ打 鼓拍。同じ部活の後輩で昨日告白してきたもう一人の相手。部活仲間はコハちゃんて呼んでる。
隣に立っていたさおちゃんがジロっと睨みつけた。
「コハ、あたしは?」
「いたんですか、バミさん」
睨み返したコハちゃんとさおちゃんの間で激しく散る火花。この二人は毎度こんな感じなので今度は動じない。仲が悪いわけじゃないんだけど、何故かいつも張り合うんだよね。
「先輩、一緒に教室まで行きましょう」
「あんたは一年でしょうが」
「一年が二年の教室へ行っちゃいけない決まりでも?」
「いや、もうそんなに時間無いよ。寄り道してたら遅刻するんじゃない?」
「それもそうですね」
私が言うといつも素直に納得してくれる。その理由は昨日やっと理解できた。
「はあ……どうしよ」
教室に入り、一通りクラスメート達に挨拶した私は机に突っ伏しながら嘆息。
「どうしよって、その気が無いなら断るしかないでしょ」
さおちゃんには昨夜の時点で相談済み。その時、一応の結論は出した。音海君のことはまだよく知らないし、コハちゃんのことは好きだけど、それは部活の後輩としてであって、やっぱり恋愛対象としては見られない。
断る。その一点はもう決断したんだ。
問題はどう断ったらいいのか。
「二人とも委員会や部活で顔を合わせるし……」
今後気まずくなりそうで怖い。いい子なのも知ってるから傷付けたくも無い。そもそもなんで私なんだ? これまで一回もモテたことなんか無いぞ?
「いいのよ、どうせ本気じゃないし」
「え?」
さおちゃんの断言に眉をひそめる私。
彼女は窓の外を見ながら続けた。
「あの二人はね、あゆゆに恋してるんじゃないの」
「どういうこと?」
もしかして罰ゲームか何か? 答えを聞きたがる私に、けれどさおちゃんは振り返って手の平を向けた。
「これ以上は言わない。こんな場所だし、あゆゆにも考えて欲しい」
自分で考えるべきってことか……まあ、うん、そうだね。告白されたのは私なんだから私が考えなきゃ。
といっても結論はもう出てる。よし、後は勢い。
「決めた、放課後に断る」
いつまでも待たせてちゃ悪い。ちゃんと私なりに考えた答えを伝えよう。その結果どうなったとしても、先延ばしにして逃げ続けるよりはいい──と思う。
「ふふ、あゆゆのそういう思い切りの良さが好き」
「さおちゃんまで告白?」
「違うわよ……そういうこと言われると、その気になりそうだからやめてよね」
「え、何?」
「ん?」
何か小声で言ってた気がするんだけど笑顔で誤魔化された。なんだったんだろ?
そういえば、あいつもどうした?
「木村さ、昨日から心ここにあらずじゃない? 口開けてぽかんとしちゃって。いつもの悟りを開いたみたいな感じでもないし、どうしたんだろ?」
「一応、あいつにも教えてやったから」
「何を?」
「あゆ……み……こく……はく、され……」
うわあ、何があったか知らないけど今にも灰になりそう。後でちょっと励ましてやるか。そう思ったところで、先生が教室に入って来た。
放課後、昨日と同じ場所に音海君を呼び出して返事を伝えところ、その場にコハちゃんまで現れた。隠れて見ていたらしい。
「やった! 私と付き合ってくれるんですね!」
「コハちゃん!? い、いや、コハちゃんにはこの後、部活で合った時に返事を伝えようと思って……」
「オーケーですよね!」
「ごめんなさい」
「そんな!?」
ショックで固まるコハちゃん。その横で一足先に失恋した事実を受け止めた音海君は顔を上げる。
「わかりました……たしかに、まだ知り合って間も無い身で軽率でした。次こそ大塚先輩に認めてもらえるよう、自分を磨いて出直してきます!」
「えっ……」
トゥンク──気のせいか、そんな音がコハちゃんの方から響いた気がする。
泣いていた彼女はハッと目を見開き、音海君の顔を見上げる。
そしてぽつりと呟いた。
「男らしい……好き」
「え?」
「え?」
同時に聞き返す私と彼。コハちゃんは構わず手を握る。音海君の左手を。
「好きです、私と付き合ってください!」
「ええっ!?」
ちょ、まっ、私のことが好きだったんじゃないの!?
一方、手を握られ潤んだ瞳で見つめられた音海君も──
「俺で良ければ!」
そう言って空いていた右手をコハちゃんの両手に重ねた。
「先輩、ありがとうございます! きっぱり振っていただいたおかげで早くも新しい恋を見つけられました!」
「まるでキューピッドですね!」
「えええ……っ」
こっちが呆然としている間にあっという間に結ばれてしまった二人は、あははうふふと笑いながら立ち去ってしまう。
私はしばらく、その場から動けなかった。
「なんだったんだよ、もう……」
学校から帰って来るなりちゃぶ台に突っ伏して愚痴をこぼす娘。対面で話を聞いていた私は、おかしくてくすくす笑う。
「それは災難だったわね」
「まったくだよ」
ふてくされてる。でも二人を振ったのはあなたでしょ。なのに納得いかない? それはそれで勝手な話だと思う。
まあ、しかたないか。この子達はまだ中学生なのだから。
「きっと、その二人は歩美に恋をしていたわけじゃないのよ」
「えっ……それ、さおちゃんにも言われた。どういうこと?」
あら流石ね沙織ちゃん。精神的にはうちの子より一歩も二歩も先を行ってるみたい。
「恋に恋するお年頃って言うでしょ。その子達は多分、恋愛の真似をしてみたかっただけなんじゃないかな? おままごと……なんて言ったら失礼かしら。恋ってどんなものかを知りたかったんだと思う」
歩美を選んだのは、自分が恋するとしたらこういう人だっていう思い込みがあったから。でも失恋したことで先入観が払拭され、すぐ傍にいる本当に理想的な相手を見つけられたのかもしれない。
もちろん、まだ“おままごと”を続けているだけの可能性もある。
私に説明された娘は、やっぱり納得いかない表情。
「そんなことあるのかな……」
「去年の自分を思い出したら? 中学生になったばかりの頃、少し大人になったって思わなかった? だから大人っぽいことがしたいって」
毎朝制服を着て、小学校の頃より厳しく指導され、勉強も難しくなった。自分も含めて皆どんどん背が伸びて声や体つきも変わっていく。
たしかに大人に少しずつ近付きつつある。でも、まだまだ子供だという事実を忘れがちになる、そんな年頃。
恋に恋焦がれることも別に珍しくは無い。むしろ未だに初恋の話すら聞かないこの子が特殊なの。
「う~ん、そういうもんか……」
理屈はわかったけれど、顔はまだ納得できないと語っている。この調子じゃ歩美がそういう経験をするのは、きっとまだまだ先だわ。
直後、そんな娘から思いがけない質問を投げかけられた。
「ママは? 父さんと出会ったのって中一の時だったって言ってたよね?」
「私? そうね……」
いじめっ子達に囲まれていたところを救われ、センパイに一目惚れしたのは、たしかに中一の時の出来事だった。
思い返せば──
「最初は、そうだったのかもね」
疎外されていた私に優しくしてくれた人。顔が怖くて、そのせいでやっぱり周囲に避けられてしまう。そんな彼ならわかりあえる。自分には、そういう人としか恋はできないと、チャンスは無いのだと思い込んでいた。
でも、追いかけていくうちにわかった。あの人は最初の印象とは全く違う。顔は怖いし、言葉遣いも変だけれど、避けて通るのは彼をよく知らない人間だけ。知ればそんなことはできなくなる。
センパイは当時からたくさん友達がいた。後輩に慕われていたし、年長者を敬っていた。あの人を追いかけるうち、私は自分が嫌われる理由を周りのせいにばかりしていることに気が付いた。
センパイは自分を嫌う人間にだって優しくできる。怖がる相手にも必要なら迷わず手を差し伸べる。そういう人だから相手も気が付けば心を許してしまっているし、そんな彼が困っていたら助けたくなる。
私は結局、中学でも高校でも告白できなかった。それは臆病だったからで、そして臆病になってしまった理由は──
「知れば知るほど本当に好きになっていったから。センパイと一緒にいられなくなるかもと思うと怖くてしかたなかった」
「……そ、そう」
あらあら、歩美ったら照れてるわ。迂闊な質問だったわね。親の惚気話なんか聞くものじゃないでしょ?
「今の話、お父さんには内緒ね」
「うん」
娘が頷いたのを確認して、私は腕の中の赤ちゃん達に視線を落とす。
「ふふ、歩美やこの子達が本当の恋をする時が今から楽しみ。その時はちゃんと教えてね、私もお父さんには秘密にしておいてあげる」
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「教えるのは婚約してから。でないとあの人、そわそわして何も手につかなくなるわよ」
「ふあ……だろうね」
あくびをする娘。今日は朝からやけに眠そう。
「昨夜眠れなかったの?」
「ちょっとね……」
「というわけで、今夜はちゃんと寝たいから静かにしてね」
ベッドに仰向けになり、天井に向かって話しかける私。昨夜はさ、もちろんあの二人の告白にどう答えたらいいかってのも考えてたんだけど、それ以上に見えない人のそわそわする気配が伝わって来てなかなか寝られなかったんだ。
やっぱり、この人ってパパなのかな?
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