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中学生編
父vs最新ゲーム
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「歩美よ」
俺は今、ゲーム機のコントローラーを手に娘と並んで座っている。
「大人げないぞ」
「子供だもん」
そう言うと、娘は容赦無く俺の操るキャラクターにトドメの一撃を食らわした。おのれ、かれこれ十戦ほどしているのに全く勝てん。
──事の始まりは一時間ほど前。こやつ日曜だというのに午前中からどこかへ出かけて行ったと思ったら今日発売の対戦格闘ゲームを買ってきた。相も変わらずおなごらしさに欠けるチョイスよ。
まあそれはいい。趣味など人それぞれだ。問題はそのゲームが学生時代に吉竹や当間とよく遊んでいたシリーズの新作だったこと。ゆえに思わず言ってしまった。
『ほう、レクレス・ファイターズか……まさかお前も遊んでいたとは』
『へえ……父さん、知ってるの?』
『うむ、若き日には数々の猛者と鎬を削りあったものよ』
『なら対戦しようよ。ママは落ちゲーじゃないと相手してくれないし』
『よかろう、まだまだ若者には負けぬというところを見せてくれる。かかって来い!』
そしてこうなった。連戦連敗である。ブランクがあるとはいえ全く歯が立たん。やはり俺の反射神経も衰えているらしい。
いや、それだけではないな。言い訳がましいがシステムも全く違う。コマンドが簡略化されていたり設定次第ではボタンを二つ同時に押すだけで必殺技が出せたり、俺が遊んでいた頃とはまるで別物だ。
「格闘ゲームも変わったものだな……」
「そうなの? 昔からこうだったけど」
「お前の言う昔は、俺にとっては最近なのだ」
昔はもっとごちゃごちゃした長いコマンド入力が必要だったり、反面コントローラーのボタンは少なかったことなどを話すと、歩美は「へえ~」と興味があるのか無いのかわからん顔で頷いた。
「じゃあさ、他のゲームやってみる? 対戦じゃなくて協力して遊ぶようなやつとか」
「そんなものがあるのか?」
問うてから、昔も二人で力を合わせて攻略していくアクションゲームがいくつかあったなと思い出す俺。ヤンキー運動会や魂のトラ……なるほど、ああいうタイプだな?
「よし、共に戦おう」
「オッケ~。そのコントローラーでの操作に慣れたら、また対戦してみよう」
「そうだな」
言ってる間に新たなゲームが始まった。ディスクを入れ替えていないのにだ。やはり俺の時代とは違う。
「実写のような画面だな」
凄い映像だ。さっきのレクレス・ファイターズは昔とさほど変わらなかったのに、こちらは一見して時代の差を感じる。
「じゃあ父さん、まずは父さんのキャラを作って」
「キャラを作る?」
なんだそれは、そんなことからやらねばならんのか?
「キャラクタークリエイトって、もしかして昔は無かった?」
「初耳だ」
あったのかもしれんが、少なくとも俺が遊んでいたタイトルではお目にかかったことはない。
「じゃあ、まず性別を選んで」
「わかった」
俺は男だからな、男……と。
「顔を作ろう」
「顔を……」
なんだこの項目の細かさは。どんな顔でも作れるのではないか? とりあえずなるべく自分に似せてみる。
「おお、上手い。でも本物より美形」
ケラケラ笑う歩美。しかたなかろう、俺の顔の完全再現は無理だった。特にこのごつい顎がどうしようもない。
「体型はこんなものか」
無駄にでかい図体はほぼそのままに再現できた。声も不思議と俺のものに良く似た声があったので選択する。口調まで同じだ。
そしてゲームをスタートすると、なんと今しがた作ったリアルなキャラがそのまま動き始めた。
「おお……」
感動を覚える。大したものだ。ゲーム制作の技術がこんなに進んでいたとは。
「じゃあ次はチュートリアルね」
歩美の言葉に応えるように画面に指示が表示された。それに従っていくうち自然とシステムや操作方法が頭に入って来る。
「なるほど……」
昔は説明書を読みながら覚えたものだったが、今はこんな親切設計になっておるのだな。たしかに実際体験しながらの方が覚えやすい。
「よし、じゃあ私も」
もう一つのコントローラーを持ち上げ、スタート、もといオプションボタンを押す歩美。ボタンの名称も一部は昔と違う。
画面に歩美のキャラも出現した。何やら騎士の甲冑のようなものを身に着けておる。
「まずは軽くハリトカゲ討伐からやってみよう。大丈夫、私DA二○八を装備してるから。武器だってMW二一○だし」
「待て待て」
いきなり専門用語を連発するな。なんのことだかさっぱりわからん。
「正道、柔」
俺はいつもの座敷であぐらを組み、まだ幼き息子と娘に向かい合っていた。
「お前達に頼みがある」
「あう?」
「たー?」
「あやつは強い……」
歩美とわいわい言いながら例のジンリュー戦記なるゲームで遊び、現代のゲームに多少慣れたところで改めて格闘ゲームで戦ってみたが、やはり連戦連敗に終わった。おかげでやっと気が付けたのだが、単純にあやつは反射神経が並外れている。動きの先を読んでも反応速度の差で強引にねじ伏せて来るのだ。
──昔、柔道をしていた頃にもああいう天才に出くわしたことがあった。高校に入ってから始めたそうなのに圧倒的な強さで並みいる強豪を投げ飛ばし、一年生でいきなり全国三位に入っていたぞ。
(最近勉強ばかりしておるせいで忘れかけていたが、歩美もスポーツ万能だった。あれも鏡矢の血とやらの為せる技なのか?)
ともかく、そんなわけで俺はあやつに勝てそうにない。一心不乱にゲームに打ち込めばまた違うかもしれんが、当然そんなわけにもいかん。俺は一家の大黒柱。仕事をするのが本分よ。
だがしかし、歩美より若ければ可能性があるのではないか?
「そこで、お前達に夢を託そうと思う。大きくなったらゲーム機を買ってやるから父の仇を討ってくれ」
「ぶー」
「やあ~」
「……」
全く話を聞いておらん。ケンカを始めておる。まだ一歳にもなっておらんしな。
「あと十年は先のことか」
幼子の 未来に託す 仇討ち
「十年後となると、ゲームもまた大きく様変わりしているかもしれん」
空間に立体映像が浮かび上がるとか、本物と見紛うような世界に飛び込めるとか、SFじみたものになっているかもしれんな。その時こやつらと一緒に遊ぶのも楽しそうだ。
それが対戦ありのゲームだったら、また俺の負け戦になるのだろうがな。その場合、次は歩美の子にでもリベンジを頼むか。生まれているかわからんが。
「十年後……いや、やはりまだ早い。せめて十五年……しかし、あまり婚期が遅れるのも問題が……」
「あなた、遠い未来に思いを馳せてないで歩美を呼んで来てください。そろそろ晩ごはんですよ」
俺は今、ゲーム機のコントローラーを手に娘と並んで座っている。
「大人げないぞ」
「子供だもん」
そう言うと、娘は容赦無く俺の操るキャラクターにトドメの一撃を食らわした。おのれ、かれこれ十戦ほどしているのに全く勝てん。
──事の始まりは一時間ほど前。こやつ日曜だというのに午前中からどこかへ出かけて行ったと思ったら今日発売の対戦格闘ゲームを買ってきた。相も変わらずおなごらしさに欠けるチョイスよ。
まあそれはいい。趣味など人それぞれだ。問題はそのゲームが学生時代に吉竹や当間とよく遊んでいたシリーズの新作だったこと。ゆえに思わず言ってしまった。
『ほう、レクレス・ファイターズか……まさかお前も遊んでいたとは』
『へえ……父さん、知ってるの?』
『うむ、若き日には数々の猛者と鎬を削りあったものよ』
『なら対戦しようよ。ママは落ちゲーじゃないと相手してくれないし』
『よかろう、まだまだ若者には負けぬというところを見せてくれる。かかって来い!』
そしてこうなった。連戦連敗である。ブランクがあるとはいえ全く歯が立たん。やはり俺の反射神経も衰えているらしい。
いや、それだけではないな。言い訳がましいがシステムも全く違う。コマンドが簡略化されていたり設定次第ではボタンを二つ同時に押すだけで必殺技が出せたり、俺が遊んでいた頃とはまるで別物だ。
「格闘ゲームも変わったものだな……」
「そうなの? 昔からこうだったけど」
「お前の言う昔は、俺にとっては最近なのだ」
昔はもっとごちゃごちゃした長いコマンド入力が必要だったり、反面コントローラーのボタンは少なかったことなどを話すと、歩美は「へえ~」と興味があるのか無いのかわからん顔で頷いた。
「じゃあさ、他のゲームやってみる? 対戦じゃなくて協力して遊ぶようなやつとか」
「そんなものがあるのか?」
問うてから、昔も二人で力を合わせて攻略していくアクションゲームがいくつかあったなと思い出す俺。ヤンキー運動会や魂のトラ……なるほど、ああいうタイプだな?
「よし、共に戦おう」
「オッケ~。そのコントローラーでの操作に慣れたら、また対戦してみよう」
「そうだな」
言ってる間に新たなゲームが始まった。ディスクを入れ替えていないのにだ。やはり俺の時代とは違う。
「実写のような画面だな」
凄い映像だ。さっきのレクレス・ファイターズは昔とさほど変わらなかったのに、こちらは一見して時代の差を感じる。
「じゃあ父さん、まずは父さんのキャラを作って」
「キャラを作る?」
なんだそれは、そんなことからやらねばならんのか?
「キャラクタークリエイトって、もしかして昔は無かった?」
「初耳だ」
あったのかもしれんが、少なくとも俺が遊んでいたタイトルではお目にかかったことはない。
「じゃあ、まず性別を選んで」
「わかった」
俺は男だからな、男……と。
「顔を作ろう」
「顔を……」
なんだこの項目の細かさは。どんな顔でも作れるのではないか? とりあえずなるべく自分に似せてみる。
「おお、上手い。でも本物より美形」
ケラケラ笑う歩美。しかたなかろう、俺の顔の完全再現は無理だった。特にこのごつい顎がどうしようもない。
「体型はこんなものか」
無駄にでかい図体はほぼそのままに再現できた。声も不思議と俺のものに良く似た声があったので選択する。口調まで同じだ。
そしてゲームをスタートすると、なんと今しがた作ったリアルなキャラがそのまま動き始めた。
「おお……」
感動を覚える。大したものだ。ゲーム制作の技術がこんなに進んでいたとは。
「じゃあ次はチュートリアルね」
歩美の言葉に応えるように画面に指示が表示された。それに従っていくうち自然とシステムや操作方法が頭に入って来る。
「なるほど……」
昔は説明書を読みながら覚えたものだったが、今はこんな親切設計になっておるのだな。たしかに実際体験しながらの方が覚えやすい。
「よし、じゃあ私も」
もう一つのコントローラーを持ち上げ、スタート、もといオプションボタンを押す歩美。ボタンの名称も一部は昔と違う。
画面に歩美のキャラも出現した。何やら騎士の甲冑のようなものを身に着けておる。
「まずは軽くハリトカゲ討伐からやってみよう。大丈夫、私DA二○八を装備してるから。武器だってMW二一○だし」
「待て待て」
いきなり専門用語を連発するな。なんのことだかさっぱりわからん。
「正道、柔」
俺はいつもの座敷であぐらを組み、まだ幼き息子と娘に向かい合っていた。
「お前達に頼みがある」
「あう?」
「たー?」
「あやつは強い……」
歩美とわいわい言いながら例のジンリュー戦記なるゲームで遊び、現代のゲームに多少慣れたところで改めて格闘ゲームで戦ってみたが、やはり連戦連敗に終わった。おかげでやっと気が付けたのだが、単純にあやつは反射神経が並外れている。動きの先を読んでも反応速度の差で強引にねじ伏せて来るのだ。
──昔、柔道をしていた頃にもああいう天才に出くわしたことがあった。高校に入ってから始めたそうなのに圧倒的な強さで並みいる強豪を投げ飛ばし、一年生でいきなり全国三位に入っていたぞ。
(最近勉強ばかりしておるせいで忘れかけていたが、歩美もスポーツ万能だった。あれも鏡矢の血とやらの為せる技なのか?)
ともかく、そんなわけで俺はあやつに勝てそうにない。一心不乱にゲームに打ち込めばまた違うかもしれんが、当然そんなわけにもいかん。俺は一家の大黒柱。仕事をするのが本分よ。
だがしかし、歩美より若ければ可能性があるのではないか?
「そこで、お前達に夢を託そうと思う。大きくなったらゲーム機を買ってやるから父の仇を討ってくれ」
「ぶー」
「やあ~」
「……」
全く話を聞いておらん。ケンカを始めておる。まだ一歳にもなっておらんしな。
「あと十年は先のことか」
幼子の 未来に託す 仇討ち
「十年後となると、ゲームもまた大きく様変わりしているかもしれん」
空間に立体映像が浮かび上がるとか、本物と見紛うような世界に飛び込めるとか、SFじみたものになっているかもしれんな。その時こやつらと一緒に遊ぶのも楽しそうだ。
それが対戦ありのゲームだったら、また俺の負け戦になるのだろうがな。その場合、次は歩美の子にでもリベンジを頼むか。生まれているかわからんが。
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