38 / 106
中学生編
娘vs運命(2)
しおりを挟む
不思議な声が聴こえなくなった。生まれた時から傍にあった気配なので最初の頃は体の一部を失ったみたいに不安で仕方なかった。
ただ、やっぱり人間慣れていくもので一ヶ月も経つと私もだいぶ落ち着きを取り戻していた。
「あゆゆ、今日は顔色いいね」
「そう?」
「最近ずっと調子悪そうだったじゃん。理由を聞いても教えてくれないし」
「う~ん、教えたくても、自分でもよくわからないんだよね……」
霊か何かの声が聴こえなくなったからだなんて説明できないし、するのも難しい。結局あの声が誰だったのか、はっきりとはわからないままだったし。
「まあ、もう大丈夫だよ、うん」
「ならいいけど、何かあるならちゃんと言ってね? 無理しないでよ」
「うん、ありがとう」
無理してるつもりは無い。自分でもよくわからない不安を抱えてただけで。でも、そう、ママや父さんにも心配かけちゃってるし、そろそろ立ち直らないと。
元気を出すためにも私は話題を切り替える。
「もうすぐクリスマスだけど、正道と柔に何をプレゼントしようかなあ」
「あんたね……」
何故か呆れ顔になるさおちゃん。
「弟と妹のことばっかりじゃなくて、少しは自分のことも考えたら?」
「自分のこと? えっと、受験とか?」
「そうじゃなくて! せっかくのクリスマスなんだからほら、誰かとデートするとか!」
「デートって……」
そんな相手いないしなあ。
「いないって、あの人は? ほら、高校生の」
「通さん? あの人はそういうんじゃないよ」
たしかに話が合うからよくZINEで話してるし、遊びにも連れてってもらったけどさ。
「あの時はさおちゃんと小梅ちゃんも一緒だったじゃん。途中から木村も合流したし」
新しくできた施設でボルダリングして遊んでたら、やっぱり遊びに来た木村が合流して、そこからはずっと通さんとあいつの意地の張り合い。どっちが早く登れるかで何度も競争してた。
「やっぱり男子だよね二人とも。子供っぽい勝負に夢中になっちゃってさ」
「あゆゆが一番子供だよ……」
なんで?
「まあ、らしいっちゃらしいけどね」
「う~ん?」
よくわかんないけど、それが私らしいんなら、それでいいのかな?
ちなみにその勝負の後、通さんと木村の間には友情が芽生えたらしく、私と同じようにZINEでしょっちゅうやり取りしてるみたい。
最近は木村のことばっかり話してるよ、あの人。
オレ、木村 無限は一世一代の決意を固めようとしていた。
(今年こそ歩美に告白する! もうすぐ受験で忙しくなる。その前に、アイツに気持ちを伝えなくては!)
クリスマス! このタイミングを逃す手は無い! 通さんに先を越されてなるものか!
──お盆に歩美と知り合ったという高校生のお兄さん。オレとあの人の出会いは三ヶ月前に遡る。通さんは俺が何年もかけてできなかった“デートに誘う”という行為をいともたやすく成し遂げていた。
様々なスポーツが楽しめる施設“バウンドサン”で年上のイケメンと一緒に遊んでいる歩美を見た瞬間、オレは絶望から天に召されかけた。いや、むしろ奈落に突き落とされた気分だった。
だが、そんなオレを救ってくれたのはやはり歩美。こっちの姿に気付いたあいつが声をかけてくれたおかげでオレの方も気が付けた。
この二人、まだ付き合ってはいない──とな。
実際そこには、よく見たら沙織と内藤先輩もいた。歩美は単純に友達と遊びに来た感覚らしい。
もちろんオレは、初めて会った通さんと挨拶を交わしつつもう一つ見抜いた。
この人、歩美に気があるな。
『よろしく、木村君』
『よろしくおねしゃす、先輩』
握手した手の、その力強さに互いに顔をしかめたもんだ。思いっ切り握りやがってあの野郎。でも柔道で鍛えたオレの握力にも驚いてたな。くくくく。
まあ、そんなこんなで歩美にいいとこを見せようと張り合ったオレ達は一進一退の攻防を繰り返し、結果的に友情が芽生えたのである。
『無限、お前すごいな』
通さんはオレを認めてくれた。何が凄いかって、俺の歩美に対する想いがだそうだ。
『中学生でここまで張り合えるとは思わなかった。しかも素人なんだろ? こっちは一応ボルダリングで国体にも出てるんだぜ。そこまで本気だってことなんだな』
うん、まあ、水着姿を見ただけで数時間座禅を組んでブッダボーイなんて世界中の人に呼ばれるようになってしまったくらいには。
頷いたオレにあの人は言った。
『負けたよ、俺はお前ほど真剣なわけじゃない。ただ、あの子の雰囲気がさ……ちょっと死んだ姉さんに似てるんだ。それで興味を持っただけなんだよ。だから当面俺からは積極的にアプローチしないことにする』
『諦めるわけじゃないんスね?』
『言ったろ、諦めるも何も、まだそこまで本気じゃない。だから本気のお前を出し抜こうとかは考えない。でも、歩美ちゃんの方から告白されたりしたらその時はOKする。結局のところ、あの子の気持ちが一番重要だろ?』
それはその通りだ。言われて初めて気が付いた。歩美のことを好きになってから何年も経つのに、その可能性があることを考えたことも無かったと。
オレがグズグズしてる間に、あいつは別の誰かと結ばれてしまうかもしれないのだ。
(そんなのは嫌だ! 通さんがくれたこのチャンス、逃してなるものか!)
あの人、恋のライバルだけどすげえいい人だよ。オレの中ではもう心の兄貴だ。兄貴の情けにも報いたい。
だから今年のクリスマスこそ、あいつをデートに誘って、そして告白する! もうプレゼントだって買ってある!
よし、行くぞ! 行くんだ俺!
「……」
「どうした木村?」
何人かのダチが机の周りに集まって話していた。突然立ち上がったオレを見て驚く。
オレは自分を追い込むため「ちょっと歩美のところへ」と言おうとした。そう宣言してしまえば後には引けなくなると考えたのだ。
が──
「……? いや、なんでもない」
座り直すオレ。なんで立ち上がったんだっけ? 思い出せない。
急にアタマの中に靄がかかったみたいだ。何かしようとしていたはずなのに、何をするつもりだったかわからない。
「なんだよ木村、もうボケたのか?」
「お前、最近そんなんばっかりだよな」
「いや、う~ん……?」
大事なことだったはずなんだ。なのに、どうして忘れちまったんだろう。
その時、沙織と会話していた歩美と一瞬だけ目が合った。
「あっ」
途端に蘇って来る記憶。そうだよ、俺はあいつをクリスマスデートに──
あれ?
「なんだっけ?」
「おい、大丈夫かよ」
「なんか顔色悪いぞ、お前」
「うん……」
妙だ。大事な何かをしようと、思い出そうとするほど頭の中の靄が濃くなる。その何かを忘れてしまう。
風邪でも引いたのかな? 馬鹿なので他に可能性が思いつかない。
「ちょっと保健室行ってくるわ」
「一緒に行くよ」
「ありがとな」
友達の一人がついてきてくれた。いいやつだなと思った時、オレの頭から大事な何かは完全に消えてしまった。
ただ、やっぱり人間慣れていくもので一ヶ月も経つと私もだいぶ落ち着きを取り戻していた。
「あゆゆ、今日は顔色いいね」
「そう?」
「最近ずっと調子悪そうだったじゃん。理由を聞いても教えてくれないし」
「う~ん、教えたくても、自分でもよくわからないんだよね……」
霊か何かの声が聴こえなくなったからだなんて説明できないし、するのも難しい。結局あの声が誰だったのか、はっきりとはわからないままだったし。
「まあ、もう大丈夫だよ、うん」
「ならいいけど、何かあるならちゃんと言ってね? 無理しないでよ」
「うん、ありがとう」
無理してるつもりは無い。自分でもよくわからない不安を抱えてただけで。でも、そう、ママや父さんにも心配かけちゃってるし、そろそろ立ち直らないと。
元気を出すためにも私は話題を切り替える。
「もうすぐクリスマスだけど、正道と柔に何をプレゼントしようかなあ」
「あんたね……」
何故か呆れ顔になるさおちゃん。
「弟と妹のことばっかりじゃなくて、少しは自分のことも考えたら?」
「自分のこと? えっと、受験とか?」
「そうじゃなくて! せっかくのクリスマスなんだからほら、誰かとデートするとか!」
「デートって……」
そんな相手いないしなあ。
「いないって、あの人は? ほら、高校生の」
「通さん? あの人はそういうんじゃないよ」
たしかに話が合うからよくZINEで話してるし、遊びにも連れてってもらったけどさ。
「あの時はさおちゃんと小梅ちゃんも一緒だったじゃん。途中から木村も合流したし」
新しくできた施設でボルダリングして遊んでたら、やっぱり遊びに来た木村が合流して、そこからはずっと通さんとあいつの意地の張り合い。どっちが早く登れるかで何度も競争してた。
「やっぱり男子だよね二人とも。子供っぽい勝負に夢中になっちゃってさ」
「あゆゆが一番子供だよ……」
なんで?
「まあ、らしいっちゃらしいけどね」
「う~ん?」
よくわかんないけど、それが私らしいんなら、それでいいのかな?
ちなみにその勝負の後、通さんと木村の間には友情が芽生えたらしく、私と同じようにZINEでしょっちゅうやり取りしてるみたい。
最近は木村のことばっかり話してるよ、あの人。
オレ、木村 無限は一世一代の決意を固めようとしていた。
(今年こそ歩美に告白する! もうすぐ受験で忙しくなる。その前に、アイツに気持ちを伝えなくては!)
クリスマス! このタイミングを逃す手は無い! 通さんに先を越されてなるものか!
──お盆に歩美と知り合ったという高校生のお兄さん。オレとあの人の出会いは三ヶ月前に遡る。通さんは俺が何年もかけてできなかった“デートに誘う”という行為をいともたやすく成し遂げていた。
様々なスポーツが楽しめる施設“バウンドサン”で年上のイケメンと一緒に遊んでいる歩美を見た瞬間、オレは絶望から天に召されかけた。いや、むしろ奈落に突き落とされた気分だった。
だが、そんなオレを救ってくれたのはやはり歩美。こっちの姿に気付いたあいつが声をかけてくれたおかげでオレの方も気が付けた。
この二人、まだ付き合ってはいない──とな。
実際そこには、よく見たら沙織と内藤先輩もいた。歩美は単純に友達と遊びに来た感覚らしい。
もちろんオレは、初めて会った通さんと挨拶を交わしつつもう一つ見抜いた。
この人、歩美に気があるな。
『よろしく、木村君』
『よろしくおねしゃす、先輩』
握手した手の、その力強さに互いに顔をしかめたもんだ。思いっ切り握りやがってあの野郎。でも柔道で鍛えたオレの握力にも驚いてたな。くくくく。
まあ、そんなこんなで歩美にいいとこを見せようと張り合ったオレ達は一進一退の攻防を繰り返し、結果的に友情が芽生えたのである。
『無限、お前すごいな』
通さんはオレを認めてくれた。何が凄いかって、俺の歩美に対する想いがだそうだ。
『中学生でここまで張り合えるとは思わなかった。しかも素人なんだろ? こっちは一応ボルダリングで国体にも出てるんだぜ。そこまで本気だってことなんだな』
うん、まあ、水着姿を見ただけで数時間座禅を組んでブッダボーイなんて世界中の人に呼ばれるようになってしまったくらいには。
頷いたオレにあの人は言った。
『負けたよ、俺はお前ほど真剣なわけじゃない。ただ、あの子の雰囲気がさ……ちょっと死んだ姉さんに似てるんだ。それで興味を持っただけなんだよ。だから当面俺からは積極的にアプローチしないことにする』
『諦めるわけじゃないんスね?』
『言ったろ、諦めるも何も、まだそこまで本気じゃない。だから本気のお前を出し抜こうとかは考えない。でも、歩美ちゃんの方から告白されたりしたらその時はOKする。結局のところ、あの子の気持ちが一番重要だろ?』
それはその通りだ。言われて初めて気が付いた。歩美のことを好きになってから何年も経つのに、その可能性があることを考えたことも無かったと。
オレがグズグズしてる間に、あいつは別の誰かと結ばれてしまうかもしれないのだ。
(そんなのは嫌だ! 通さんがくれたこのチャンス、逃してなるものか!)
あの人、恋のライバルだけどすげえいい人だよ。オレの中ではもう心の兄貴だ。兄貴の情けにも報いたい。
だから今年のクリスマスこそ、あいつをデートに誘って、そして告白する! もうプレゼントだって買ってある!
よし、行くぞ! 行くんだ俺!
「……」
「どうした木村?」
何人かのダチが机の周りに集まって話していた。突然立ち上がったオレを見て驚く。
オレは自分を追い込むため「ちょっと歩美のところへ」と言おうとした。そう宣言してしまえば後には引けなくなると考えたのだ。
が──
「……? いや、なんでもない」
座り直すオレ。なんで立ち上がったんだっけ? 思い出せない。
急にアタマの中に靄がかかったみたいだ。何かしようとしていたはずなのに、何をするつもりだったかわからない。
「なんだよ木村、もうボケたのか?」
「お前、最近そんなんばっかりだよな」
「いや、う~ん……?」
大事なことだったはずなんだ。なのに、どうして忘れちまったんだろう。
その時、沙織と会話していた歩美と一瞬だけ目が合った。
「あっ」
途端に蘇って来る記憶。そうだよ、俺はあいつをクリスマスデートに──
あれ?
「なんだっけ?」
「おい、大丈夫かよ」
「なんか顔色悪いぞ、お前」
「うん……」
妙だ。大事な何かをしようと、思い出そうとするほど頭の中の靄が濃くなる。その何かを忘れてしまう。
風邪でも引いたのかな? 馬鹿なので他に可能性が思いつかない。
「ちょっと保健室行ってくるわ」
「一緒に行くよ」
「ありがとな」
友達の一人がついてきてくれた。いいやつだなと思った時、オレの頭から大事な何かは完全に消えてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる