歩美ちゃんは勝ちたい

秋谷イル

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中学生編

娘vs運命(2)

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 不思議な声が聴こえなくなった。生まれた時から傍にあった気配なので最初の頃は体の一部を失ったみたいに不安で仕方なかった。
 ただ、やっぱり人間慣れていくもので一ヶ月も経つと私もだいぶ落ち着きを取り戻していた。
「あゆゆ、今日は顔色いいね」
「そう?」
「最近ずっと調子悪そうだったじゃん。理由を聞いても教えてくれないし」
「う~ん、教えたくても、自分でもよくわからないんだよね……」
 霊か何かの声が聴こえなくなったからだなんて説明できないし、するのも難しい。結局あの声が誰だったのか、はっきりとはわからないままだったし。
「まあ、もう大丈夫だよ、うん」
「ならいいけど、何かあるならちゃんと言ってね? 無理しないでよ」
「うん、ありがとう」
 無理してるつもりは無い。自分でもよくわからない不安を抱えてただけで。でも、そう、ママや父さんにも心配かけちゃってるし、そろそろ立ち直らないと。
 元気を出すためにも私は話題を切り替える。
「もうすぐクリスマスだけど、正道と柔に何をプレゼントしようかなあ」
「あんたね……」
 何故か呆れ顔になるさおちゃん。
「弟と妹のことばっかりじゃなくて、少しは自分のことも考えたら?」
「自分のこと? えっと、受験とか?」
「そうじゃなくて! せっかくのクリスマスなんだからほら、誰かとデートするとか!」
「デートって……」
 そんな相手いないしなあ。
「いないって、あの人は? ほら、高校生の」
「通さん? あの人はそういうんじゃないよ」
 たしかに話が合うからよくZINEで話してるし、遊びにも連れてってもらったけどさ。
「あの時はさおちゃんと小梅ちゃんも一緒だったじゃん。途中から木村も合流したし」
 新しくできた施設でボルダリングして遊んでたら、やっぱり遊びに来た木村が合流して、そこからはずっと通さんとあいつの意地の張り合い。どっちが早く登れるかで何度も競争してた。
「やっぱり男子だよね二人とも。子供っぽい勝負に夢中になっちゃってさ」
「あゆゆが一番子供だよ……」
 なんで?
「まあ、らしいっちゃらしいけどね」
「う~ん?」
 よくわかんないけど、それが私らしいんなら、それでいいのかな?
 ちなみにその勝負の後、通さんと木村の間には友情が芽生えたらしく、私と同じようにZINEでしょっちゅうやり取りしてるみたい。
 最近は木村のことばっかり話してるよ、あの人。



 オレ、木村 無限は一世一代の決意を固めようとしていた。
(今年こそ歩美に告白する! もうすぐ受験で忙しくなる。その前に、アイツに気持ちを伝えなくては!)
 クリスマス! このタイミングを逃す手は無い! 通さんに先を越されてなるものか!

 ──お盆に歩美と知り合ったという高校生のお兄さん。オレとあの人の出会いは三ヶ月前に遡る。通さんは俺が何年もかけてできなかった“デートに誘う”という行為をいともたやすく成し遂げていた。
 様々なスポーツが楽しめる施設“バウンドサン”で年上のイケメンと一緒に遊んでいる歩美を見た瞬間、オレは絶望から天に召されかけた。いや、むしろ奈落に突き落とされた気分だった。
 だが、そんなオレを救ってくれたのはやはり歩美。こっちの姿に気付いたあいつが声をかけてくれたおかげでオレの方も気が付けた。
 この二人、まだ付き合ってはいない──とな。
 実際そこには、よく見たら沙織と内藤先輩もいた。歩美は単純に友達と遊びに来た感覚らしい。
 もちろんオレは、初めて会った通さんと挨拶を交わしつつもう一つ見抜いた。

 この人、歩美に気があるな。

『よろしく、木村君』
『よろしくおねしゃす、先輩』
 握手した手の、その力強さに互いに顔をしかめたもんだ。思いっ切り握りやがってあの野郎。でも柔道で鍛えたオレの握力にも驚いてたな。くくくく。
 まあ、そんなこんなで歩美にいいとこを見せようと張り合ったオレ達は一進一退の攻防を繰り返し、結果的に友情が芽生えたのである。
『無限、お前すごいな』
 通さんはオレを認めてくれた。何が凄いかって、俺の歩美に対する想いがだそうだ。
『中学生でここまで張り合えるとは思わなかった。しかも素人なんだろ? こっちは一応ボルダリングで国体にも出てるんだぜ。そこまで本気だってことなんだな』
 うん、まあ、水着姿を見ただけで数時間座禅を組んでブッダボーイなんて世界中の人に呼ばれるようになってしまったくらいには。
 頷いたオレにあの人は言った。
『負けたよ、俺はお前ほど真剣なわけじゃない。ただ、あの子の雰囲気がさ……ちょっと死んだ姉さんに似てるんだ。それで興味を持っただけなんだよ。だから当面俺からは積極的にアプローチしないことにする』
『諦めるわけじゃないんスね?』
『言ったろ、諦めるも何も、まだそこまで本気じゃない。だから本気のお前を出し抜こうとかは考えない。でも、歩美ちゃんの方から告白されたりしたらその時はOKする。結局のところ、あの子の気持ちが一番重要だろ?』
 それはその通りだ。言われて初めて気が付いた。歩美のことを好きになってから何年も経つのに、その可能性があることを考えたことも無かったと。
 オレがグズグズしてる間に、あいつは別の誰かと結ばれてしまうかもしれないのだ。
(そんなのは嫌だ! 通さんがくれたこのチャンス、逃してなるものか!)
 あの人、恋のライバルだけどすげえいい人だよ。オレの中ではもう心の兄貴だ。兄貴の情けにも報いたい。
 だから今年のクリスマスこそ、あいつをデートに誘って、そして告白する! もうプレゼントだって買ってある!
 よし、行くぞ! 行くんだ俺!
「……」
「どうした木村?」
 何人かのダチが机の周りに集まって話していた。突然立ち上がったオレを見て驚く。
 オレは自分を追い込むため「ちょっと歩美のところへ」と言おうとした。そう宣言してしまえば後には引けなくなると考えたのだ。
 が──

「……? いや、なんでもない」

 座り直すオレ。なんで立ち上がったんだっけ? 思い出せない。
 急にアタマの中に靄がかかったみたいだ。何かしようとしていたはずなのに、何をするつもりだったかわからない。
「なんだよ木村、もうボケたのか?」
「お前、最近そんなんばっかりだよな」
「いや、う~ん……?」
 大事なことだったはずなんだ。なのに、どうして忘れちまったんだろう。
 その時、沙織と会話していた歩美と一瞬だけ目が合った。
「あっ」
 途端に蘇って来る記憶。そうだよ、俺はあいつをクリスマスデートに──

 あれ?

「なんだっけ?」
「おい、大丈夫かよ」
「なんか顔色悪いぞ、お前」
「うん……」
 妙だ。大事な何かをしようと、思い出そうとするほど頭の中の靄が濃くなる。その何かを忘れてしまう。
 風邪でも引いたのかな? 馬鹿なので他に可能性が思いつかない。
「ちょっと保健室行ってくるわ」
「一緒に行くよ」
「ありがとな」
 友達の一人がついてきてくれた。いいやつだなと思った時、オレの頭から大事な何かは完全に消えてしまった。
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