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中学生編
娘vs運命(4)
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「なるほどね」
車で浮草家へ向かう最中、鈴蘭様は突然呟く。気が張っていた私達は耳聡くそれを聞き取った。
「何かわかったのですか?」
「犯人の目星、目的、だいたいわかりました」
「もう!?」
流石だ。まだ歩美ちゃんが失踪した現場しか見ていないのに。
浮草家へ向かっているのも彼女の指示。歩美ちゃんの気配はあちこちを経由して現在はそこにあると言う。
「追体験をさせているのよ」
「追体験?」
「浮草 雨道さん。つまり貴女の弟さんの人生をね」
何故? そんなことをして何の意味が?
私の疑問に彼女は問われる前に返す。
「歩美ちゃんを“器”にするため」
「えっ……」
ぞっとするような想像が脳裏をよぎった。鈴蘭様は無言。けれどそれは、おそらく肯定の意味の沈黙。
運転中の雫さんが眼差しを細める。
「急ぐぞ」
ふざけるな……彼女の口から怒りの声が漏れ出した。
私は見ている。
パパの人生を。双子のお姉さんと引き離されてからの記憶を。
自分に姉がいると知ったのは五歳の時。育ての母が罪悪感から時雨さんを連れ出し浮草家を訪問した。それが再会で二人の交流の始まり。
すぐにお姉ちゃんを好きになった。優しくてまっすぐ。ちょっとドジだけど、いつでも一生懸命。お父さんとお母さんと同じくらい大好きになった。
性別が違うのに本当に瓜二つ。それは二人共が鏡矢家の血を濃く継いでいる証。だから引き取り先の養父も納得してくれたはずだった。どちらでもいいと。
なのに、時雨さんが大きくなるにつれて怪我をしていることが増えていった。幼い頃はきらきら輝いていた瞳もだんだん暗く淀んでいく。虐待を受けているのは明らか。なのに誰も助けてあげられない。
『なんでこの子が、こんな目に遭わなきゃならないんですか!?』
おばあちゃんは会う度に泣く。こんなことなら、どれだけ脅されたって引き渡すんじゃなかったと。何度も時雨さんに謝る。
育てた方のお母さんも、いつもいつも謝り続ける。なのにどうしても旦那さんが厳しく躾けるのを止められない。
そりゃそうだよ。だって、あの人もいつも顔や腕に青アザがあるもん。止めようとしてくれているのはわかる。だからおばあちゃんもおじいちゃんも強く言えない。
直接抗議に行った。鏡矢本家にも助けを求めた。けれど時雨さんの養父の執念は誰にもどうすることもできなかった。彼は、あらゆる手段で妨害を阻止した。
優秀な人だったらしい。でも兄二人はさらに輪をかけて優れていて、努力してようやく結果を出せたと思っても彼等は簡単にその先を行ってしまう。兄弟なのに顔が似ていないことでも理解できた。自分は鏡矢の血が薄い。どうしたって兄達に勝てない。だから時雨さんに賭けた。
せめて親として二人を上回ろうと必死だった。
パパも成長するにしたがい、自分達の境遇を理解していった。
だから何度も時雨さんを説得した。
『姉さん、あんな家、もういなくていいよ。うちに帰って来て』
でも、
『駄目だよ雨道君。私は、私が、本当の鏡矢にならなくちゃ。じゃないと……』
『姉さん……』
やっぱり無力感を味わうばかり。どうしても時雨さんを連れ戻せない。お姉さんが自分のためにがんばり続けていると知っていて、その無茶を止めてあげられない。
向こうの両親のことは憎んでいた。パパは優しくて穏やかな人だったと聞いてきたけど、伝わって来た感情は激しい怒り。
『姉さんばかり酷い目に遭うなんておかしい。こんなの理不尽だ』
だからずっと考えていた。どうしたら時雨さんを助けてあげられるか。鏡矢という強大な権力を持つ一族から引き離し、自由にしてあげられるのか。
そのために、こっそり本家の雫さんとも会っていた。
『教えてください。姉さんが言ってる“本当の鏡矢”ってなんなんですか?』
『それは……』
この頃の雫さんはだいぶ印象が違う。今の時雨さんみたいだ。
彼女は迷いながらも一族の秘密を教えてくれた。
──鏡矢家は元々別の世界の人間。代々特別な力を受け継いでいて、平安時代からその能力で魔を退ける仕事をしてきた。
真の鏡矢とは一族が受け継いで来た中でも特に恐ろしい力に目覚めた者のこと。それに選ばれた時、その人間は他の全ての条件を無視して一族の当主となる。
時雨さんは考えていた。養父同様、自分も全てにおいて雫さんと雨道に劣る。なら自分が当主になるには“真の鏡矢”として覚醒する以外に方法は無いと。
そしてそのために、自分を追い込んで覚醒させようと──使ってはいけない術を使ってしまった。
『姉さん、が……異界渡り……を……?』
『ああ、どうやらそうらしい。私達が調べた文献を、あいつも知らないうちに読んでいたんだ』
『じゃあ、僕のせいで……』
『そうじゃない。そうとは決まっていない。少なくともお前に責任は無い。我々の管理が杜撰だったせいだ。時雨が今回しでかしたことの咎は全て私達鏡矢にある』
パパは透明なカプセルの中に寝かされていた。未知のウイルスに感染して、他の誰にも伝染させないよう隔離されてしまった。
ウイルスを持ち込んだのは時雨さん。真の鏡矢になるために別の世界へ渡る術を使った。危険の中に飛び込んで自分の中に眠っている力を引き出そうとした。
でも、その結果、双子の弟を死に追いやるなんて結果は想像もしていなかった。
『……ああ』
雫さんが帰った後、パパは悟った。自分は助からない、死ぬんだと。
『ごめん、姉さん……父さん、母さん……麻由美さん』
みんなを残して行くのが気がかりだった。幸せになって欲しい。自分がいなくなっても、気に病まず生き続けて欲しい。
鏡矢に対する怒りも、その瞬間に消え去った。古い文献を読み、雫さんから話を聞いた事でそれまで知らなかった事情を知ってしまったから。あの人達も可哀想なのだと思った。特別な力を与えられたせいで常に自身を異端だと認識していなければならない。そうあるべきだと思い込んでいる。
『きっと、そんなことはないのに』
特別だからって普通の幸せを諦める必要は無い。誰にだって平凡で平穏な夢を掴む権利がある。
『──ええ、その通りです』
えっ? 記憶の中のパパと私は同時に振り返る。医師や看護師以外に誰もいないはずの集中治療室。
その場所に突然メガネをかけた金髪のメイドさんが現れていた。彼女はどこか人間離れした表情で滑らかに唇を動かす。
『浮草 雨道様。ようこそ、レインボウ・ネットワークへ』
「もう、ここにはいませんね」
時雨の実家。浮草の家の前に辿り着いたところで断定する鈴蘭様。
「一足違いでまた移動しています。少し待ってくださいね」
そう言って瞼を閉じ、意識を集中した彼女は数秒後に別の方向を指差した。
「こちらですね。病院かしら? 大きな白い建物」
「それは……」
「まさか……」
私と時雨には思い当たる場所があった。
この方角の病院と言えば──
「鏡矢大学付属病院」
「雨道君が、亡くなった場所です」
「……パパ」
長い夢を見ていた。パパの人生の記憶。でもさ、まだ完全に夢から覚めたわけじゃないらしい。
浮草の家にいたはずなのに、いつの間にか病室の中。それも色んな機械が設置されてる集中治療室ってやつ。
真ん中には夢で見たのと同じ透明なカプセルがあり、中にはとっくに火葬されたはずのパパが病衣姿で横たわっていた。
「やっと会えた……」
生まれて初めて写真や動画以外で目にするパパの姿。本当に時雨さんにそっくり。でも身体つきはちゃんと男の人なんだね。
眠っていたパパは私の声を聞いて目を覚ます。
そして苦しげに顔を歪めた。
「歩美……、逃げ……!」
この声、やっぱり──そう思った私の首筋に不意に衝撃が走る。
「うあっ!?」
一瞬、意識が飛んだ。
目を覚ますと、すでに私はパパが横たわっていたカプセルの中に入れられていた。
「えっ!? な、なんで? パパ! パパ!?」
内側からカプセルを叩く。でもビクともしない。周囲にはパパでなく別の人影が次々に姿を現す。
【時は来た】
【ついに降臨する】
【新たな神子】
【混沌の時代の導き手が】
な、なんなのこのおじいさん達!?
車で浮草家へ向かう最中、鈴蘭様は突然呟く。気が張っていた私達は耳聡くそれを聞き取った。
「何かわかったのですか?」
「犯人の目星、目的、だいたいわかりました」
「もう!?」
流石だ。まだ歩美ちゃんが失踪した現場しか見ていないのに。
浮草家へ向かっているのも彼女の指示。歩美ちゃんの気配はあちこちを経由して現在はそこにあると言う。
「追体験をさせているのよ」
「追体験?」
「浮草 雨道さん。つまり貴女の弟さんの人生をね」
何故? そんなことをして何の意味が?
私の疑問に彼女は問われる前に返す。
「歩美ちゃんを“器”にするため」
「えっ……」
ぞっとするような想像が脳裏をよぎった。鈴蘭様は無言。けれどそれは、おそらく肯定の意味の沈黙。
運転中の雫さんが眼差しを細める。
「急ぐぞ」
ふざけるな……彼女の口から怒りの声が漏れ出した。
私は見ている。
パパの人生を。双子のお姉さんと引き離されてからの記憶を。
自分に姉がいると知ったのは五歳の時。育ての母が罪悪感から時雨さんを連れ出し浮草家を訪問した。それが再会で二人の交流の始まり。
すぐにお姉ちゃんを好きになった。優しくてまっすぐ。ちょっとドジだけど、いつでも一生懸命。お父さんとお母さんと同じくらい大好きになった。
性別が違うのに本当に瓜二つ。それは二人共が鏡矢家の血を濃く継いでいる証。だから引き取り先の養父も納得してくれたはずだった。どちらでもいいと。
なのに、時雨さんが大きくなるにつれて怪我をしていることが増えていった。幼い頃はきらきら輝いていた瞳もだんだん暗く淀んでいく。虐待を受けているのは明らか。なのに誰も助けてあげられない。
『なんでこの子が、こんな目に遭わなきゃならないんですか!?』
おばあちゃんは会う度に泣く。こんなことなら、どれだけ脅されたって引き渡すんじゃなかったと。何度も時雨さんに謝る。
育てた方のお母さんも、いつもいつも謝り続ける。なのにどうしても旦那さんが厳しく躾けるのを止められない。
そりゃそうだよ。だって、あの人もいつも顔や腕に青アザがあるもん。止めようとしてくれているのはわかる。だからおばあちゃんもおじいちゃんも強く言えない。
直接抗議に行った。鏡矢本家にも助けを求めた。けれど時雨さんの養父の執念は誰にもどうすることもできなかった。彼は、あらゆる手段で妨害を阻止した。
優秀な人だったらしい。でも兄二人はさらに輪をかけて優れていて、努力してようやく結果を出せたと思っても彼等は簡単にその先を行ってしまう。兄弟なのに顔が似ていないことでも理解できた。自分は鏡矢の血が薄い。どうしたって兄達に勝てない。だから時雨さんに賭けた。
せめて親として二人を上回ろうと必死だった。
パパも成長するにしたがい、自分達の境遇を理解していった。
だから何度も時雨さんを説得した。
『姉さん、あんな家、もういなくていいよ。うちに帰って来て』
でも、
『駄目だよ雨道君。私は、私が、本当の鏡矢にならなくちゃ。じゃないと……』
『姉さん……』
やっぱり無力感を味わうばかり。どうしても時雨さんを連れ戻せない。お姉さんが自分のためにがんばり続けていると知っていて、その無茶を止めてあげられない。
向こうの両親のことは憎んでいた。パパは優しくて穏やかな人だったと聞いてきたけど、伝わって来た感情は激しい怒り。
『姉さんばかり酷い目に遭うなんておかしい。こんなの理不尽だ』
だからずっと考えていた。どうしたら時雨さんを助けてあげられるか。鏡矢という強大な権力を持つ一族から引き離し、自由にしてあげられるのか。
そのために、こっそり本家の雫さんとも会っていた。
『教えてください。姉さんが言ってる“本当の鏡矢”ってなんなんですか?』
『それは……』
この頃の雫さんはだいぶ印象が違う。今の時雨さんみたいだ。
彼女は迷いながらも一族の秘密を教えてくれた。
──鏡矢家は元々別の世界の人間。代々特別な力を受け継いでいて、平安時代からその能力で魔を退ける仕事をしてきた。
真の鏡矢とは一族が受け継いで来た中でも特に恐ろしい力に目覚めた者のこと。それに選ばれた時、その人間は他の全ての条件を無視して一族の当主となる。
時雨さんは考えていた。養父同様、自分も全てにおいて雫さんと雨道に劣る。なら自分が当主になるには“真の鏡矢”として覚醒する以外に方法は無いと。
そしてそのために、自分を追い込んで覚醒させようと──使ってはいけない術を使ってしまった。
『姉さん、が……異界渡り……を……?』
『ああ、どうやらそうらしい。私達が調べた文献を、あいつも知らないうちに読んでいたんだ』
『じゃあ、僕のせいで……』
『そうじゃない。そうとは決まっていない。少なくともお前に責任は無い。我々の管理が杜撰だったせいだ。時雨が今回しでかしたことの咎は全て私達鏡矢にある』
パパは透明なカプセルの中に寝かされていた。未知のウイルスに感染して、他の誰にも伝染させないよう隔離されてしまった。
ウイルスを持ち込んだのは時雨さん。真の鏡矢になるために別の世界へ渡る術を使った。危険の中に飛び込んで自分の中に眠っている力を引き出そうとした。
でも、その結果、双子の弟を死に追いやるなんて結果は想像もしていなかった。
『……ああ』
雫さんが帰った後、パパは悟った。自分は助からない、死ぬんだと。
『ごめん、姉さん……父さん、母さん……麻由美さん』
みんなを残して行くのが気がかりだった。幸せになって欲しい。自分がいなくなっても、気に病まず生き続けて欲しい。
鏡矢に対する怒りも、その瞬間に消え去った。古い文献を読み、雫さんから話を聞いた事でそれまで知らなかった事情を知ってしまったから。あの人達も可哀想なのだと思った。特別な力を与えられたせいで常に自身を異端だと認識していなければならない。そうあるべきだと思い込んでいる。
『きっと、そんなことはないのに』
特別だからって普通の幸せを諦める必要は無い。誰にだって平凡で平穏な夢を掴む権利がある。
『──ええ、その通りです』
えっ? 記憶の中のパパと私は同時に振り返る。医師や看護師以外に誰もいないはずの集中治療室。
その場所に突然メガネをかけた金髪のメイドさんが現れていた。彼女はどこか人間離れした表情で滑らかに唇を動かす。
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時雨の実家。浮草の家の前に辿り着いたところで断定する鈴蘭様。
「一足違いでまた移動しています。少し待ってくださいね」
そう言って瞼を閉じ、意識を集中した彼女は数秒後に別の方向を指差した。
「こちらですね。病院かしら? 大きな白い建物」
「それは……」
「まさか……」
私と時雨には思い当たる場所があった。
この方角の病院と言えば──
「鏡矢大学付属病院」
「雨道君が、亡くなった場所です」
「……パパ」
長い夢を見ていた。パパの人生の記憶。でもさ、まだ完全に夢から覚めたわけじゃないらしい。
浮草の家にいたはずなのに、いつの間にか病室の中。それも色んな機械が設置されてる集中治療室ってやつ。
真ん中には夢で見たのと同じ透明なカプセルがあり、中にはとっくに火葬されたはずのパパが病衣姿で横たわっていた。
「やっと会えた……」
生まれて初めて写真や動画以外で目にするパパの姿。本当に時雨さんにそっくり。でも身体つきはちゃんと男の人なんだね。
眠っていたパパは私の声を聞いて目を覚ます。
そして苦しげに顔を歪めた。
「歩美……、逃げ……!」
この声、やっぱり──そう思った私の首筋に不意に衝撃が走る。
「うあっ!?」
一瞬、意識が飛んだ。
目を覚ますと、すでに私はパパが横たわっていたカプセルの中に入れられていた。
「えっ!? な、なんで? パパ! パパ!?」
内側からカプセルを叩く。でもビクともしない。周囲にはパパでなく別の人影が次々に姿を現す。
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