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140:特別だけど、そうじゃない
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───あぁそうだよ、彼らはそれぞれがハイスペックな人物なのに、どこか満ち足りてない、欠けたところがある人たちなんだ。
それを埋めてくれるヒロインに出会えたからこそ、恋をして、そしてふたりでしあわせになっていくというのがメインシナリオの肝の部分だったんだから。
でもそんなふうに彼らを救ってくれるハズのヒロイン、ベル・パプリカは、この世界にはひとりしか存在しない。
そしておなじように俺だって、この世界にひとりしかいないんだ。
しかも困ったことに、ヒロインは侵食者の改変の影響を大いにを受けてしまったせいで、今現在その存在がどうなっているのかは不明な状態だし、俺にしたってすでにブレイン殿下を選んでしまっている。
しあわせになってもらいたい人たちばかりなのに、どうしてうまく行かないんだろう?
思わず、そんなことを嘆きそうになる。
「……ところで、ホントに助けルのが間に合ってよかったヨネ?」
そんな俺の気まずさを察したのか、深い笑みになったセラーノ先生は、急に話題を変えてきた。
「なにしろ君に万が一のことがあったらイケナイからって、今朝も登校前のブレインから、すンごい念押しされタからネェ」
「え……ブレイン殿下から?!」
あらためて相手の顔を見れば、想定外のかえしが来る。
「ウン、僕のいる保健室が校内では、いちばん寮に近いからネ。知らせがあッタラ、なにをおいても駆けつけろってサ。君にナニかあッタラ、絶対にゆるさないって脅されタヨ」
「……………なんと言うか、それは大変申し訳ないことを……」
なるほど、だから俺はセラーノ先生によって保護されて、こうして保健室で寝かされてたのか。
「それは気にしナイでいいヨ、僕も心配してるッテのはホントのことダカラ」
「……はい」
そう言ってくれるセラーノ先生は、大人の余裕を感じさせるほほえみを浮かべていた。
いつもはこちらをからかってきたり油断ならないところがあって、『さすがブレイン殿下の古くからの顔なじみだけある』って思ってたけど。
なんだろう、今日はやけに落ちついて見えるせいで、『頼れる大人』って感じがする。
……ちょっとだけ、カッコいいかも、なんて思わなくもない。
なんて、うっかり見とれそうになってしまったら。
「だからネ、君も、気をつけないとイケナイヨ?」
「えっ?」
そのすきを突くように、セラーノ先生は一気に距離をつめてきた。
「こんなふうに、悪い大人がつけ入るすきを狙ッテいるかもしれないしネ?」
「え、セラーノ、先生……?」
スッと背中にまわされた腕によって支えられ、身を起こされたものの、そのまま相手の顔が近づいてくる。
「っ、いや、あの……??」
うん、相手がセラーノ先生だとわかっているから、別に怖いという気持ちはわかなかったけれど、ふとした拍子に相手のくちびるがほっぺたに触れてしまいそうなほど近い位置にある。
「君はさ、はじめて会ッタときには、なんてつまらなさそうにしてる子なンだろうって思ってタケド、いつの間に……こんなに色気をつけタンだろうね?」
そう耳もとでささやくように言いながら、もう片方の手で、包み込むように俺のほっぺたに触れてきた。
「そりゃ、ブレインも心配になルヨネ。よく『恋すル乙女は美しい』なンて言うケド、アレ、たぶン性別は関係ナイと思うンだヨネ」
なんだよこれ、めちゃくちゃはずかしいんだけど?!
あまりにも艶をまとう声色で、耳に息がかかりそうな距離からささやかれ、思わず赤面してしまいそうになる。
「や、やだなぁ……もしかして俺、口説かれてたりします?」
「もし『そうだ』と言ッタラ?」
あまりのことに冗談で流してしまおうとしたのに、しかし相手は逃がしてくれなかった。
「僕なら、君をこンな危険にさらしたりはしナイ。僕もそれなりに強いつもりダからネ、君のことを守ッテあげられるヨ?」
……それはもちろん、ゲームの設定で知っているけど。
一般的な貴族の子女のつどうこの学校において、この世界の平和のために祈りを捧げる大事な役目を背負った『星華の乙女』の護衛にえらばれる攻略対象キャラクターたちは、それぞれが別のジャンルで抜きん出て強いメンバーなんだってこと。
たとえばパレルモ様は攻撃魔法、カイエンは両手剣、ブレイン殿下とリオン殿下は剣と魔法の合わせ技、セブンは全般が強くて若干反則級だけど。
あとは、まだ俺は出会っていないけれど、もうひとりの攻略対象であるフィリウス・ブルーだって、やはり魔法が得意だったっけ……。
そのなかでセラーノ先生は、魔法が使えない代わりに自らで調合した薬品を武器に戦える。
それこそ攻撃系から補助系、回復系にいたるまで多種多様な薬のエキスパートだった。
「セラーノ先生のことは、もちろん信頼してますけど……」
強いのは知っているとしても、だからといって『ハイそうですか』とそう簡単に乗り換えられるほど、俺のなかのブレイン殿下への想いは軽いもんじゃない。
───だから、どうして俺なんだろう?
セブンやブレイン殿下、そしてパレルモ様とはそれぞれちがった意味ではあるけれど、『星華の刻』のメインキャラクターたちには、ひとかたならぬ特別な思いをいだいているのは事実だけど。
そんな大切な存在である彼らに、報われない恋に身を焦がすなんて不毛なこと、させたいわけじゃないんだ。
でも、かといってその気持ちに応じるわけにはいかないし……。
こんなの、八方ふさがりだろ!
「~~~っ!ごめ…」
「なンてね、それこそ冗談ダヨ!」
結局、気の利いたセリフひとつひねり出せず、ストレートにあやまろうとした俺にかぶせるように、ことさら大きな声でセラーノ先生が言う。
「……好きダカラこそ、君を困らせたいわけじゃナイからサ」
「~~~っ!!」
その直後のささやきは、あまりにも真剣みをおびていて、結局───迷って俺は、下くちびるを噛みしめて耐えるしかなかったのだった。
それを埋めてくれるヒロインに出会えたからこそ、恋をして、そしてふたりでしあわせになっていくというのがメインシナリオの肝の部分だったんだから。
でもそんなふうに彼らを救ってくれるハズのヒロイン、ベル・パプリカは、この世界にはひとりしか存在しない。
そしておなじように俺だって、この世界にひとりしかいないんだ。
しかも困ったことに、ヒロインは侵食者の改変の影響を大いにを受けてしまったせいで、今現在その存在がどうなっているのかは不明な状態だし、俺にしたってすでにブレイン殿下を選んでしまっている。
しあわせになってもらいたい人たちばかりなのに、どうしてうまく行かないんだろう?
思わず、そんなことを嘆きそうになる。
「……ところで、ホントに助けルのが間に合ってよかったヨネ?」
そんな俺の気まずさを察したのか、深い笑みになったセラーノ先生は、急に話題を変えてきた。
「なにしろ君に万が一のことがあったらイケナイからって、今朝も登校前のブレインから、すンごい念押しされタからネェ」
「え……ブレイン殿下から?!」
あらためて相手の顔を見れば、想定外のかえしが来る。
「ウン、僕のいる保健室が校内では、いちばん寮に近いからネ。知らせがあッタラ、なにをおいても駆けつけろってサ。君にナニかあッタラ、絶対にゆるさないって脅されタヨ」
「……………なんと言うか、それは大変申し訳ないことを……」
なるほど、だから俺はセラーノ先生によって保護されて、こうして保健室で寝かされてたのか。
「それは気にしナイでいいヨ、僕も心配してるッテのはホントのことダカラ」
「……はい」
そう言ってくれるセラーノ先生は、大人の余裕を感じさせるほほえみを浮かべていた。
いつもはこちらをからかってきたり油断ならないところがあって、『さすがブレイン殿下の古くからの顔なじみだけある』って思ってたけど。
なんだろう、今日はやけに落ちついて見えるせいで、『頼れる大人』って感じがする。
……ちょっとだけ、カッコいいかも、なんて思わなくもない。
なんて、うっかり見とれそうになってしまったら。
「だからネ、君も、気をつけないとイケナイヨ?」
「えっ?」
そのすきを突くように、セラーノ先生は一気に距離をつめてきた。
「こんなふうに、悪い大人がつけ入るすきを狙ッテいるかもしれないしネ?」
「え、セラーノ、先生……?」
スッと背中にまわされた腕によって支えられ、身を起こされたものの、そのまま相手の顔が近づいてくる。
「っ、いや、あの……??」
うん、相手がセラーノ先生だとわかっているから、別に怖いという気持ちはわかなかったけれど、ふとした拍子に相手のくちびるがほっぺたに触れてしまいそうなほど近い位置にある。
「君はさ、はじめて会ッタときには、なんてつまらなさそうにしてる子なンだろうって思ってタケド、いつの間に……こんなに色気をつけタンだろうね?」
そう耳もとでささやくように言いながら、もう片方の手で、包み込むように俺のほっぺたに触れてきた。
「そりゃ、ブレインも心配になルヨネ。よく『恋すル乙女は美しい』なンて言うケド、アレ、たぶン性別は関係ナイと思うンだヨネ」
なんだよこれ、めちゃくちゃはずかしいんだけど?!
あまりにも艶をまとう声色で、耳に息がかかりそうな距離からささやかれ、思わず赤面してしまいそうになる。
「や、やだなぁ……もしかして俺、口説かれてたりします?」
「もし『そうだ』と言ッタラ?」
あまりのことに冗談で流してしまおうとしたのに、しかし相手は逃がしてくれなかった。
「僕なら、君をこンな危険にさらしたりはしナイ。僕もそれなりに強いつもりダからネ、君のことを守ッテあげられるヨ?」
……それはもちろん、ゲームの設定で知っているけど。
一般的な貴族の子女のつどうこの学校において、この世界の平和のために祈りを捧げる大事な役目を背負った『星華の乙女』の護衛にえらばれる攻略対象キャラクターたちは、それぞれが別のジャンルで抜きん出て強いメンバーなんだってこと。
たとえばパレルモ様は攻撃魔法、カイエンは両手剣、ブレイン殿下とリオン殿下は剣と魔法の合わせ技、セブンは全般が強くて若干反則級だけど。
あとは、まだ俺は出会っていないけれど、もうひとりの攻略対象であるフィリウス・ブルーだって、やはり魔法が得意だったっけ……。
そのなかでセラーノ先生は、魔法が使えない代わりに自らで調合した薬品を武器に戦える。
それこそ攻撃系から補助系、回復系にいたるまで多種多様な薬のエキスパートだった。
「セラーノ先生のことは、もちろん信頼してますけど……」
強いのは知っているとしても、だからといって『ハイそうですか』とそう簡単に乗り換えられるほど、俺のなかのブレイン殿下への想いは軽いもんじゃない。
───だから、どうして俺なんだろう?
セブンやブレイン殿下、そしてパレルモ様とはそれぞれちがった意味ではあるけれど、『星華の刻』のメインキャラクターたちには、ひとかたならぬ特別な思いをいだいているのは事実だけど。
そんな大切な存在である彼らに、報われない恋に身を焦がすなんて不毛なこと、させたいわけじゃないんだ。
でも、かといってその気持ちに応じるわけにはいかないし……。
こんなの、八方ふさがりだろ!
「~~~っ!ごめ…」
「なンてね、それこそ冗談ダヨ!」
結局、気の利いたセリフひとつひねり出せず、ストレートにあやまろうとした俺にかぶせるように、ことさら大きな声でセラーノ先生が言う。
「……好きダカラこそ、君を困らせたいわけじゃナイからサ」
「~~~っ!!」
その直後のささやきは、あまりにも真剣みをおびていて、結局───迷って俺は、下くちびるを噛みしめて耐えるしかなかったのだった。
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