ヒロイン王子は負けたくない!

マツヲ。

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Ep.19 次なる仲間を引き入れろ

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 はじまりの街を出て、次なる町から村へと移動しながら、オレの記憶にあるとおりのダンジョンを攻略していく。
 今のところは、ダンジョンの構造も、なかの宝箱から見つかるものも、そしてモンスターの分布や弱点なども、オレの持つゲーム知識とは矛盾していない。

 よし、これなら大丈夫だ。
 次の大きな港町の酒場で、ならず者に絡まれるノアを助ければ、仲間に引き入れることができるだろう。

 ───って、なんなんだろうな?
 やっぱり物語に出てくるヒロインたちは、なにかしらのピンチに陥っては勇者に助けられて、惚れるパターンが多すぎないか!?
 ある意味でお約束というか、顔が好みだった以外に主人公がモテる一番わかりやすい理由になるのはたしかだけど、それにしたってワンパターンすぎる……なんて思ってしまったのはここだけの話だ。

 そんなことをひそかに考えているうちに、オレとジェイクは目的の港町へと到着した。
 この街は、他の大陸との定期的な交易船の出入りがある港を持つことから、物語的には次なる大陸へ移動するために必要なポイントとなっている。

「それじゃ、夕食がてら酒場で情報収集と行きますか!」
「えぇっ、本当に行くんですか!?」
 意気揚々と酒場に向けて歩みを進めるオレの後ろを少し遅れてジェイクがついてくる。

「なに渋ってんだよ、別にジェイクだって酒が嫌いなわけじゃないだろ?」
「それはそうですけど……でも夜しかやってない酒場なんて、めちゃくちゃ怖い場所なんじゃないですか……?」
「そういう一面があるのは否定できないけど、でもそっちのほうがギルドの食堂よりもいろんな情報が手に入るんだからしょうがないだろ?」

 なんというか、ジェイクのその発言は、少し意外な気がした。
 ゲームのなかの主人公は、プレイヤーのあやつるとおり、どんな場所でも物おじせずに行動していたのもあって、そんなことを考えていたなんてみじんも気づかなかった。

 だけどたしかに、こういう港町にある夜営業しかしていない酒場というのは、お客のガラは悪くても健全な感じのするギルド併設のそれとはちがって、どことなくアンダーグラウンドの香りがする。
 これまで平和な農村で暮らしていたなら、本当はそんなふうに思ってもおかしくはないんだよな……。

 ひとことで『酒場』といっても、居酒屋といった感じはしない。
 それはむしろ、冒険者ギルドの食堂のほうが近いだろう。

 この世界における酒場には、ムーディなバーのようなところもあれば、スナックみたいな場末感のあるところもあるし、なかにはショーを楽しむキャバレー的なところだって存在する。
 酒を飲みつつ食事をするだけならギルドの食堂でも事足りてしまうことが多いものの、こういう場所ではほかにも賭博が行われていたり、非合法な品物の売買がされていたりするのもあって、治安は少々悪いものの、情報が多く転がっているのもたしかだった。

 まぁ、情報に関してだけならば、この世界においてオレの持つゲーム知識を上まわる識者はそうそういないとは思うのだけど。
 渋るジェイクを説き伏せてでも来たのは、ひとえにノアを仲間に入れたいが一心だった。

「いらっしゃいませ、おふたり様ですね?あちらのテーブルへどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
 店員に提示されたのは唯一の残席で、宵の口だというのに、店内はごった返すほどのお客で埋まっている。
 おかげでその席にたどりつくまでは、混雑する客席内をすり抜けていかなければならないのだけど。

「ひゅ~、いいなぁ色男!とんでもねぇ美人連れてんじゃねぇか!」
 声をかけてきたのはいかにも陽気そうで、すでにたくさん飲んでいるのか顔を真っ赤に染めたオッサンだった。

「え??あ、そうですよね、ルーイ…さんはたしかにキレイな顔をしていると思います」
 ジェイクはいつものクセでオレのことを『ルーイ王子』と呼びそうになったところで、あわててごまかしつつ、いたってマジメにこたえている。

 いやいや、そういうのは笑ってごまかすとか、適当にあしらっていいんだぞ?
 思った以上にマジメに対応しているジェイクは、なんだかオレが知るゲームのなかの主人公よりも少々幼さが見える気がする。
 こういうのも、ヒロインが不在でオレしかいないことの影響だったりするんだろうか?

「なっ!?」
 複雑な気持ちのまま、そのオッサンの横を通ろうとしたそのとき、オレの尻がなでまわされた。
 しかもこちらが反応をしたのがうれしいのか、あわててふりむいた先ではいやらしい笑みを浮かべたそのオッサンと目が合った。

 あぁクソ!
 ひょっとして、これもオレにかかっている『ヒロイン属性の呪い(推定)』のせいなのか?!
 男が男の尻なんてなでまわしたところで、おもしろくもなんともないだろうに!!

「悪いけどオレ、男だから」
「これだけの美人なら、性別なんて二の次さ」
 怒りをこらえつつ、これまた定番になりつつある断りのセリフを口にすれば、オレの知りをなでまわしていたオッサンはニヤニヤと笑うだけだった。

「ほぉ、たしかにとんでもねぇ上玉だ」
「どうだい、今夜一晩お相手願えないか?」
「冗談じゃない!」
 それだけじゃない、最初に声をかけてきたオッサンのせいでこちらに気づいたほかの酔客たちまでもが、次々とオレに声をかけてくることになるなんて!

「は~~……こういうことになるから、やめとこうって言ったんですよ、僕は」
 さらには、ジェイクまでもが呆れたような声を出してくる。
 オレだって好きで声かけられてるわけじゃないのに、もう泣いていいか??

「そうは言ってもな、ここに来るにはそれなりに理由ってものがあってだな……」
 魔法使いのノアを仲間に引き入れるための、大事なイベントがあるんだよ!
 そこまで明言するわけにはいかないからこそ、お茶を濁した言い方になってしまうのだけど。

「はいはい、それじゃしばらくはあなたのわがままに付き合ってあげますから」
 ため息まじりに返されたセリフは、あきらめにも似た色がにじんでいた。
 これ、絶対にオレが『ただ背伸びをしたいだけのわがまま王子』あつかいされてるヤツだろ!!

 でも口ではそう言いつつも、席に着くまでジェイクはさりげなくオレのななめ後ろに位置取り、ほかの酔漢たちからのお触りがないように守ってくれている。
 本当に、そういうところ!!
 だからモテるんだ、この色男がっ!!

 ようやくたどり着いた席に座ると、すぐにウェイターが注文を取りにくる。
 エールと適当なおすすめの料理をいくつか注文したところで、ついに待ちかねていたイベントがはじまった。

「キャー!」
 オレたちが座った席のすぐ近く、いわゆる酒だけを飲みに来る客向けのバーカウンターのほうから甲高い悲鳴が上がった。

「えっ?!」
 その声に、ジェイクは即座に反応して立ち上がる。
 案の定、バーカウンターの前では酔っぱらったお客のひとりから腕をつかまれたノアの姿があった。

 どうしてもストーリー的には主人公が助けたヒロインの姫と結ばれるからか、ファンのあいだでも当て馬的な存在に思われがちではあるけれど、ノアだって十分にかわいらしい少女だ。
 少々背は低くて実年齢よりも幼く見えるところがあるけれど、ふわふわの赤くて長い髪は腰まであり、いかにも魔法使いとわかる三角の帽子に長い黒のローブを羽織っている。

 釣り目気味のきれいなアーモンド形の目は、どことなく猫を思わせた。
 それを受けてファンからは『ノアにゃん』なんてあだ名で呼ばれていたりもする。
 まぁ、好きな人にはたまらないキャラクターだとは思う。

 そんなかわいらしい少女が、お供もつけずにこんな夜の酒場にひとりであらわれたらどうなると思う?
 たいていの良識ある大人は、あやまって子どもが酒場に迷い込んできてしまったのかと、保護者はいないのかと心配をすることだろう。
 ……でもなかには、女と見れば見境なしのやたらとストライクゾーンが広い男もいるわけで。

 こんなファンタジーの世界でも性癖を持った人種は存在していて、そういうところは妙にリアリティがあって、あたまが痛くなる問題でもあるのだけど。
 ───まぁ、それを言ったらこの世界は、顔さえ好みならば性別なんて気にしない男がやけに多いことのほうが、オレ的にはよっぽど気になるんだけどな?! 

「いいじゃねぇかよ、お嬢ちゃん!俺はあんたが知りたがってた情報を持ってるんだぜ?ちょっとくらい愛想をふりまいたって、バチはあたらねぇだろ」
「いやっ!放して!!」
 おそらくは、お酌のひとつもしてくれと腕をつかまれたけど、ノアは拒否したってところなんだろうけども。

「その子、嫌がってるじゃないですか、放してあげたらどうですか?」
 そして物語で見たとおり、ジェイクは立ち上がるとすぐにノアの腕をつかむ男のところへ、仲裁に行った。
 よし、いいぞ!
 そこでカッコよくノアを助け出すんだ!

「いっしょに飲む相手が欲しかったら、僕でよければご一緒しますよ?」
 もちろんこんな提案に相手が乗るはずもなく、怒った酔客は暴漢と化してこちらに襲いかかってくるというのがゲーム内での展開だったはずのに……。

「はあ?なに言ってやがる、てめぇ!バカにすんのも、いい加減に……って、へぇ?じゃあ、そっちのべっぴんさんが相手してくれるっつーなら、こんなガキのことなんざどうでもいいぜ?」
 沸点が低いはずの酔漢は、しかしどういうことかオレと目が合ったとたんに怒りをおさめると、急にニヤニヤと笑いはじめた。
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