僕はまだ、彼女のこと

チャイティー

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秋1

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秋は、他の季節に比べて目立ったイベントが少なく、読書や食欲、運動など季節を問わないものが押しつけがましく詰め込まれている。でも僕はそんな秋が好きだ。
輝いていた夏が終わった物悲しさに浸りながら、段々と肌寒くなり冬が訪れるまでの束の間の季節。暑すぎず寒すぎず、季節の休みのような秋は僕にとってもゆっくり過ごせる。今年もそうだろうと当たり前のように思っていた。
僕は学校に来て早々、読書をしていた。
「おっはよー」
今日は琉夏が一番最初に声をかけてきた。
「おはよー、今日も元気だねえ」
「夏が終わってしんみりしてると思ってな」
「秋は最高だよ、何てったって読書の秋だからね」
「せっかく気持ちいい天気だし、読書なんかしてないで散歩しに行こーぜ」
僕らは朝から外に出た。出させられたと行った方が正しい。
「あれ、何してんの?」丁度玄関で美桜と糸に会う。
「ちょっくら散歩だよー、一緒に行く?」
「いくいくー、今日気持ちいいもんねー」美桜は今日も機嫌がいい。
「こうちゃん、琉夏くんに無理やり連れてこられたでしょ」
「え、何でわかんの?」
「ふふっ、顔に書いてあるもん」糸はふたりに聞こえないように控えめに笑った。
僕らは、琉夏が言い出して近くの公園まで散歩しに行った。
途中、すれ違う同じ高校の学生に不思議そうな目で見られる。
「こーゆーのって何かいいよねー、いけないことしてるみたーい」
「ねー」美桜と糸は楽しそうだ。
その公園がこの前来た場所だということに、向かっている途中で気づき、着く頃には確信していた。思い出して少し恥ずかしくなる余裕さえあった。
三人はその小さな公園で一番大きな遊具ではしゃぎ始めた。それでも高校生が遊ぼうとすると、本来大きな遊具が小さなおもちゃに見える。
僕はそれを見ている方が楽しいと思ったので、とりあえずブランコに座る。
しばらくして一番はしゃいでいた美桜が、遊具を降りて隣のブランコに座ってきた。この前と同じ光景。今日はハンカチを貸す必要がないと思って気づいた。同時に、隣でも同じような反応があった。
「あ、ハンカチ持ったままだった」美桜が独り言なのか、僕に言ったのか分からないような声量で呟いた。
「いいよ、いつでもいいって言ってたし」
「ごめんごめんー、すぐ返すね」真面目な顔をして謝られたのは初めてかもしれない。逆に申し訳なく感じた。
「いや、全然ゆっくりでいいよ」
「そっかそっか」
少し時間が空いてから美桜が口を開いた。
「んじゃさ、あのハンカチもらってもいい?」
「え、、いいけどただのハンカチだよ。しかも結構前のだし」
「いいの、無理には言わないけど欲しいの」
「んー、あれでいいなら全然あげるけど」
「ほんとに?ありがとう」彼女は穏やかな笑顔を僕に向けてきた。いつもとは違う、優しい笑顔。
こんな笑い方もできるのかと少し見入っていたら、彼女は不思議そうな顔になって「なに?」と聞いてきた。
「いや、何でもない」
僕は少しづつ、美桜への想いが変わってきていることに気づき始めていた。
でもその気持ちが何なのかまではわからなかった。
僕はまだ、彼女のことが好きではない、のか。

結局、僕らは学校を遅刻した。
時間が迫っていることにそれぞれが気づきながらも、未知とも言える不思議な背徳感を味わってしまったことで、朝のホームルームはその犠牲となった。
遅刻してきた四人が同時に登校し、僕と琉夏は荷物を教室に置いていっていたので、先生やクラスメイトにはもはや正直に話さざるを得なかった。そのおかげか特に深くも聞かれなかった。
僕は楽しかった。でも、僕は僕のことがわからなかった。
だから僕は次の日、学校を休んだ。
親には体調が悪いと人生何度目かの嘘をつき、家に誰もいなくなった平日の朝、僕は唐突に家を飛び出した。
僕は、自分の想像を超えてしまう何かがあったとき、突発的にその現実から逃げようとしてしまう。
誰しも自分の未来に不安があるなかで、今までなかった楽しいことまでも僕には抱える余裕がなかった。その幸せが僕の未来へのプレッシャーになってしまった。楽しいだけでいいのか、楽しいままでいいのか、そんなことを思う自分のことを何とかして知りたかった。変わりたかった。楽しいことに疑問を待たず、ただ純粋に楽しみたかった。
半ばパニックになった状態で電車に乗り、とにかく遠くに行った。誰にも連絡を返さなかった。
琉夏だけには正直に伝えた。早く帰って来いとだけ言われた。
途中で美桜から電話が来たことに気づいたけど、変な心配をかけたくなくて出なかった。それが間違いだったことに僕はこれっぽっちも気づいていなかった。
知らない土地に降り、街を歩き、疲れたら河川敷に座り、何時間もただどこかを見ていた。
結局、漠然と肥大化した不安は、時間が経つにつれどうにもならない現実を突きつけられ、夜中にあっさり帰ってくることになった。
心配をかけた親には叱られた。琉夏には明日迎えに行くとだけ言われた。それ以外には言ってもいなかったので何か言われることもなかった。
ただ一人を除いては。
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