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教会と天使
夢、ではないのでしょう。
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自分が寝ているのだと分かる。
そう、これは夢、……夢なのかもしれない。
頭はハッキリとしていて、身体も何時だって動かせそうな感覚。夢なのかもしれないけど自由に動ける。いっそ空だって飛べちゃいそうなそんな全能感を感じる。
「ご主人様」
そして、あの少年の声がまた聞こえる。ああ、思い出した。アス……と名乗ったのはこの子だ。いつも私を食べて、その、気持ち良くしてくれる子。
「天使に会ったんだね」
「……うん。会ったよ。三神先輩が天使様だった」
「そ。まぁ、それは別に良いよ。でも、嫌な奴だったでしょ?」
「や、嫌ってほどじゃないけど。でも、少し強引だなとは……」
「大昔から天使は融通が利かないことで有名なんだよ。いっつも悪魔は悪い、滅しなければいけないってさ」
そう言いながら、何の脈絡もなく私に抱きついてくる。
「ん~、怖かったよね。ごめんね?」
そうして抱きついたままで頭を撫でてくれる。
「でも、三神先輩は悪い悪魔じゃなさそうだから払わないって」
「うん。それは俺も驚いた。何時でも表に出られるように準備していたのに、肩透かしも良いところだよ」
「……え? 表って――
「ん~、それはまだ知らなくて良いよ。何にせよ、ご主人様の事は何時も見守っているってこと。なんてったってご主人様の騎士だからね!」
悪魔がどんな存在なのかいまいち理解できないが、少なくともこの少年は私の騎士様のつもりでいるのだろう。
「変なの、悪魔が騎士様なんて」
プッと思わず吹き出してしまう。見た目の女性っぽいこともあって、とてもこの少年が私のことを守れるとは思えない。年だって私と同じくらい、それで頼れという方がおかしいだろう。
「でも、騎士様ならいい加減お名前くらい教えて欲しいな? 君の名前はアス、何?」
「あ、そうだよね。うん、分かった。俺の名前はアスモデウス。これでも、けっこう有名な悪魔だったんだよ? まぁ、もう4000年も前の話だから人間の記録でどう書かれているかは知らないけどね」
「アスモ、デウス?」
「うん!」
私に名前を呼ばれたのが嬉しいのか、今までで一番いい笑顔を向けてくる。その笑顔はひだまりのような温かさでとても悪魔とは思えない。
「ね、あー君って呼んでいい?」
「え、あー君? ん~、まぁ、良いけど」
少し、年頃の少年には子供っぽ過ぎただろうか。でも、特に気にするそぶりも無くあー君は受け入れてくれる。
「あー君はさ――
「その前に! ご主人様忘れていることがあるよ?」
「え? な、何?」
「俺の知っているルールだと、女主人は自分の騎士を任命した時、祝福を与える掟なんだ」
「掟?」
「そ、祝福のキス」
「なっ!?」
「まぁ、もう何回もしちゃっているけどね。でも、今回はご主人様からしてもらいたいな?」
そう言ってあー君は私に近づき覗き込んでくる。互いの息がかかるほど近くまで、でも、体は動かせるのに、私はそれを拒めない。拒みたくない。
「む、無理だよ」
「大丈夫。この距離ならもうほんの少し近づけるだけだよ?」
あー君は私の首に腕を回し、より体を密着させて来る。まるで互いの体が混ざってしまいそうな距離。私があー君で、あー君が私。
「ほら、今ならご主人様にも出来るよ」
「んっ」
その混ざるような感覚が心地良く、もっともっと深く混ざりたいと、まるで吸い込まれるように、だけど確かに自分から唇を進め、あー君と口づけを交わした……。
目が覚めると、真横にとら君の顔があった。今日は珍しく寝相が良かったのか、寝た時と同じところにいられたようだ。
「……あー君」
でも、今日はとら君の魔頬ではなく、自分の唇と触ってしまう。そうすると自然と記憶にない名前まで脳裏に浮かび上がってくる。そして、突然耳まで真っ赤になるくらいに恥ずかしさを感じる。
「わ、私、なんで?」
何となく、身体も火照っているのが分かる。……こんなこと、初めてだ。
「ねこちゃ?」
どのくらいそうしていたのだろう。珍しく早く目覚めたとら君が心配そうに私を見つめてくる。
「だ、大丈夫大丈夫」
実際、身体の方はすごぶる調子がいい。
クキュ~
そして、とら君のお腹の虫も今日も元気な様だ。
「さ、朝ご飯作るよぉ!」
「やたー」
まだ赤いままの顔をとら君に見せないために、逃げるようにしてキッチンに向かった。
そう、これは夢、……夢なのかもしれない。
頭はハッキリとしていて、身体も何時だって動かせそうな感覚。夢なのかもしれないけど自由に動ける。いっそ空だって飛べちゃいそうなそんな全能感を感じる。
「ご主人様」
そして、あの少年の声がまた聞こえる。ああ、思い出した。アス……と名乗ったのはこの子だ。いつも私を食べて、その、気持ち良くしてくれる子。
「天使に会ったんだね」
「……うん。会ったよ。三神先輩が天使様だった」
「そ。まぁ、それは別に良いよ。でも、嫌な奴だったでしょ?」
「や、嫌ってほどじゃないけど。でも、少し強引だなとは……」
「大昔から天使は融通が利かないことで有名なんだよ。いっつも悪魔は悪い、滅しなければいけないってさ」
そう言いながら、何の脈絡もなく私に抱きついてくる。
「ん~、怖かったよね。ごめんね?」
そうして抱きついたままで頭を撫でてくれる。
「でも、三神先輩は悪い悪魔じゃなさそうだから払わないって」
「うん。それは俺も驚いた。何時でも表に出られるように準備していたのに、肩透かしも良いところだよ」
「……え? 表って――
「ん~、それはまだ知らなくて良いよ。何にせよ、ご主人様の事は何時も見守っているってこと。なんてったってご主人様の騎士だからね!」
悪魔がどんな存在なのかいまいち理解できないが、少なくともこの少年は私の騎士様のつもりでいるのだろう。
「変なの、悪魔が騎士様なんて」
プッと思わず吹き出してしまう。見た目の女性っぽいこともあって、とてもこの少年が私のことを守れるとは思えない。年だって私と同じくらい、それで頼れという方がおかしいだろう。
「でも、騎士様ならいい加減お名前くらい教えて欲しいな? 君の名前はアス、何?」
「あ、そうだよね。うん、分かった。俺の名前はアスモデウス。これでも、けっこう有名な悪魔だったんだよ? まぁ、もう4000年も前の話だから人間の記録でどう書かれているかは知らないけどね」
「アスモ、デウス?」
「うん!」
私に名前を呼ばれたのが嬉しいのか、今までで一番いい笑顔を向けてくる。その笑顔はひだまりのような温かさでとても悪魔とは思えない。
「ね、あー君って呼んでいい?」
「え、あー君? ん~、まぁ、良いけど」
少し、年頃の少年には子供っぽ過ぎただろうか。でも、特に気にするそぶりも無くあー君は受け入れてくれる。
「あー君はさ――
「その前に! ご主人様忘れていることがあるよ?」
「え? な、何?」
「俺の知っているルールだと、女主人は自分の騎士を任命した時、祝福を与える掟なんだ」
「掟?」
「そ、祝福のキス」
「なっ!?」
「まぁ、もう何回もしちゃっているけどね。でも、今回はご主人様からしてもらいたいな?」
そう言ってあー君は私に近づき覗き込んでくる。互いの息がかかるほど近くまで、でも、体は動かせるのに、私はそれを拒めない。拒みたくない。
「む、無理だよ」
「大丈夫。この距離ならもうほんの少し近づけるだけだよ?」
あー君は私の首に腕を回し、より体を密着させて来る。まるで互いの体が混ざってしまいそうな距離。私があー君で、あー君が私。
「ほら、今ならご主人様にも出来るよ」
「んっ」
その混ざるような感覚が心地良く、もっともっと深く混ざりたいと、まるで吸い込まれるように、だけど確かに自分から唇を進め、あー君と口づけを交わした……。
目が覚めると、真横にとら君の顔があった。今日は珍しく寝相が良かったのか、寝た時と同じところにいられたようだ。
「……あー君」
でも、今日はとら君の魔頬ではなく、自分の唇と触ってしまう。そうすると自然と記憶にない名前まで脳裏に浮かび上がってくる。そして、突然耳まで真っ赤になるくらいに恥ずかしさを感じる。
「わ、私、なんで?」
何となく、身体も火照っているのが分かる。……こんなこと、初めてだ。
「ねこちゃ?」
どのくらいそうしていたのだろう。珍しく早く目覚めたとら君が心配そうに私を見つめてくる。
「だ、大丈夫大丈夫」
実際、身体の方はすごぶる調子がいい。
クキュ~
そして、とら君のお腹の虫も今日も元気な様だ。
「さ、朝ご飯作るよぉ!」
「やたー」
まだ赤いままの顔をとら君に見せないために、逃げるようにしてキッチンに向かった。
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