古からの侵略者

久保 倫

文字の大きさ
1 / 95

貝塚駅前

しおりを挟む
 貝塚駅は、福岡市営地下鉄と西鉄貝塚線を接続する駅である。
 それだけに乗降客は多いが、それでも夜遅くなると少なくなる。

 そんな貝塚駅の階段を降りる永倉 有希ながくら ゆきの足取りは軽い。
 
 高校卒業後、漫画家を目指す永倉と反対する両親との間で喧嘩を続けており、居心地の悪い実家暮らしをしていたが、福岡市に住む漫画家の叔母、杉村 妙子が見かねて招いてくれたのだ。
 叔母以外知人もいない福岡に行くのは勇気がいったが、思い切って飛び出すことにした。無論親に福岡行きを反対されたが、今までお年玉などを貯めた貯金で福岡に行くことにしたのだ。

 これからは叔母と同居してアシスタントすることになる。

 それだけではやっていけないのでバイトもしなくてはならないが、反対する親との喧嘩がなくなるだけ、ずっと気が楽な毎日が待つと思うと、足取りも軽くなろうというものである。

 階段を降り切ったところで、バッグからスマホを出すべく足を止める。

 そこを狙われた。

「きゃあっ!!」
 
 正面の駐輪場から猛ダッシュで来た自転車に乗った男にバッグをひったくられた。
 ひったくった犯人は、横断歩道を渡り、公園沿いに右折して逃げていく。

「ドロボウッ!」
 叫ぶが、自転車をこぐ足が止まる気配などない。
 足が遅くリュックをしょってる永倉では追いつけるはずもない速度で自転車は遠ざかろうとしている。

「ドロボウッ!誰か捕まえてぇッ!」
 大声で叫びながら無我夢中で交差点を渡り、追いかけようとする。
 渡って、ひったくり犯の方を向く。
 街灯だけの暗い夜道でもわかる赤い派手なパーカーの背中が見える。
「ひったくり、誰か捕まえてぇ!」
 永倉が叫んだ時、公園の柵に跳び上がって来た人がひったくり犯の頭に飛び蹴りをかました。
 憎きひったくり犯は、無様に自転車ごと転倒する。
 飛び蹴りをかました人は、着地する前に倒れる自転車のカゴからバッグを取り出していた。
「ありがとうございます。」
 永倉は、走り寄りながら、ひったくり犯を蹴り倒した人を見た。

 運動でもしていたのだろうか?ジャージを着ているので、体の細さがよくわかる。
 アタシより細いんじゃないだろうか、などと思ってしまう。
 無意識にウェストに手をやってしまう。

 ここんとこ引きこもりがちで運動不足だから……。

 いやいや、そんなことどうでもいい、どうでもいい。

 意識を助けてくれたイケメンの方に集中させる。
 顔も、細面で小さい。ボリュームが多めの髪はちょっと長い。色は抜いていないが、艶やかな髪だから、むしろドキッとするような色気がある。
 目の保養、などと思いながら近寄る。
 向こうも近寄ってきたのですぐに距離は縮まった。

「これ、君の?」
「はい。」
 近寄った永倉にバッグを渡してくれた。
「さて、犯人は。」
 そう言ってイケメンは後ろを向いた。永倉もつられて視線をイケメンから離す。

 既に逃げたのだろう。転倒した自転車の後輪が止まりかけているのが見えるだけだった。
 永倉が視線を遠くに動かしても誰もいない。
「えらく逃げ足の速いひったくり犯だな。」
 貝塚公園沿いの道路は結構長い。走っていればすぐにわかる。
「こめかみにきれいに決まったと思ったんだけどな。すぐに動くとはタフな奴だ。」
 そう言いながらイケメンは、植木の間から公園の中を覗き込む。
「いない。」
 永倉も覗き込む。派手な赤のパーカーだからいればわかる。

 公園の中には誰もいなかった。

 公園の反対側は西鉄貝塚線であり、公園以上の高さのフェンスとその上に有刺鉄線が張られている。
 少し進めば有刺鉄線は張られていないが、植え込みなどがあり、逃げやすいところではない。
 それに派手な赤のパーカーだ。いればすぐにわかる。

 イケメンは、納得しきれない顔のまま、永倉の方を見た。
「ケガしてません?」
「はい、大丈夫です!」

 改めてイケメンの顔を見る。
 まつ毛長ッ!細い切れ長の目は涼やかだ。
 暗い街灯の下でも色が白く肌もきれいなのがわかる。
 艶やかな黒髪とのコントラストがたまらない。

 ガンプクガンプク。

「一応、警察に届けたほうがいいと思います。」
「この近くに交番あるんですか?」
「交番は無いけど、東警察署があります」

 イケメンはひったくり犯の逃げたのと逆の方向のビルを指差した。

「また、出たらいけないと思うし、行きましょう。もし心細いなら一緒に行きますよ。」
「そうですね、心細いのでお言葉に甘えて付いて来てもらっていいですか。」
「ええ、もちろん。」
 永倉は、イケメンと並んで警察署に向かって歩き始めた。

 来て早々引ったくりに合ったことは災難だったけど、こんなイケメンと歩けるなら悪くないな。
 そう思う永倉だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...