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ミラ・イース
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壬生の軽自動車は、今時の軽自動車としては、小型の部類に属する。
「お金ないんで、これが精一杯ですよ。狭くてすいません。」
「いや、文句なんかありませんよ。」
実際文句は無い。小型だが、その分助手席と運転席の間は近い。
つまり、壬生の顔をそれだけ近距離で見られるということだ。
壬生さん、髪キレイだなぁ。
シートベルトしめながら壬生の横顔に見入ってしまう。
髪が一房頬にかかっているが、色が白いから黒と白のコントラストで色気すら感じてしまう。
「今日は中洲の上川端商店街の方に行こうかと思ってます。」
「キャナルシティ近くの商店街ですよね。」
妙子に連れられて行ったことくらいはある。
「そうです、今日は日曜だから川端ぜんざいがあるんで。」
「甘いもの好きなんですか?」
壬生は、そういうふうに見えない。
「いや、永倉さん女の子だから甘いものがいいかなと。」
単純に「女の子=甘いもの好き」の方程式に従っただけらしい。
「スイーツの方がいいですか?博多駅の方か天神に行きますけど?」
「いえ、甘いものならなんでも好きです。チョコレートケーキも饅頭も等しく愛しています。」
これは嘘ではない。永倉の魂の叫びだ。
「でも、川端ぜんざいって初めて聞きます。」
「金土日、後商店街のイベントの日だけしか営業しないぜんざい屋です。」
それなら知らない。永倉が妙子の所に遊びに来て観光するのは、たいてい平日だった。
長期休みに来て、土日はどうせ混んでるんだからと家に引きこもって妙子を手伝い、平日ご褒美にと遊びに連れ出してもらうのがここ最近の永倉の福岡での過ごし方だった。
「商店街のイベントって?」
「山笠のある時は毎日ですね。」
「確か、7月前半でしたっけ?」
うろ覚えの知識を引っ張り出す。
「そうです。追い山が14日。それまでは中洲はお祭りですよ。会社の人の中には、帰ってすぐに参加できるように、と水法被に締め込みに着替えて帰る人もいるくらいです。」
「壬生さんも参加するんですか?」
そう言いながら、参加する男達の恰好を思い起こす。
上半身は胸元の見える法被で、下半身はお尻丸見えのふんどし……。
あれだけ細くしまった体をしてるんだから、お尻だってきゅっとしまっているんだろうなぁ。
一瞬、そんな恰好をした壬生を妄想してにやけてしまう。
いけないいけない!
慌てて誤魔化すべく、車外を見る。見るふりをする。
車は国道三号線を石堂大橋で右折し、御笠川を渡って昭和通りに入っていた。
顔、赤くなってないよね。
淡く窓ガラスに映る自分の顔を見ながら必死に落ち着こうとする。
幸い運転に集中している壬生は、そんな永倉に気が付かなかったようだ。
「僕は、香椎花園近く、香住ヶ丘ですから参加できませんよ。」
永倉も名前だけは知っている福岡市東区の小さな遊園地の名前を壬生は出した。
「地元の人しか参加できないんでしたっけ。」
妙子からそう説明されたことはある……ような。TVからの情報かもしれないが。
「えぇ、博多区の人が中心。ただ、地元の人と仲良くなって紹介してもらえばOKだそうです。」
「そうなんですか。」
「はい。職場の人に誘われたことがあります。」
あぁいう格好をするチャンスはあったんだ。
法被から見える肌はキレイだろうな……。
胸板薄いのかな。
いや、空手やってるから細マッチョだよね。
ぶんぶん。
頭を振って妄想の壬生を頭から追い出す。
「どうしました?」
「いえ、ちょっと。」
あなたの山笠を担ぐ姿を妄想してました、などと言えるはずもなく、適当に誤魔化した。
車は、西町筋に入る。
壬生は、路地を少し入った軽専用のコインパーキングに車を停めた。
「お金ないんで、これが精一杯ですよ。狭くてすいません。」
「いや、文句なんかありませんよ。」
実際文句は無い。小型だが、その分助手席と運転席の間は近い。
つまり、壬生の顔をそれだけ近距離で見られるということだ。
壬生さん、髪キレイだなぁ。
シートベルトしめながら壬生の横顔に見入ってしまう。
髪が一房頬にかかっているが、色が白いから黒と白のコントラストで色気すら感じてしまう。
「今日は中洲の上川端商店街の方に行こうかと思ってます。」
「キャナルシティ近くの商店街ですよね。」
妙子に連れられて行ったことくらいはある。
「そうです、今日は日曜だから川端ぜんざいがあるんで。」
「甘いもの好きなんですか?」
壬生は、そういうふうに見えない。
「いや、永倉さん女の子だから甘いものがいいかなと。」
単純に「女の子=甘いもの好き」の方程式に従っただけらしい。
「スイーツの方がいいですか?博多駅の方か天神に行きますけど?」
「いえ、甘いものならなんでも好きです。チョコレートケーキも饅頭も等しく愛しています。」
これは嘘ではない。永倉の魂の叫びだ。
「でも、川端ぜんざいって初めて聞きます。」
「金土日、後商店街のイベントの日だけしか営業しないぜんざい屋です。」
それなら知らない。永倉が妙子の所に遊びに来て観光するのは、たいてい平日だった。
長期休みに来て、土日はどうせ混んでるんだからと家に引きこもって妙子を手伝い、平日ご褒美にと遊びに連れ出してもらうのがここ最近の永倉の福岡での過ごし方だった。
「商店街のイベントって?」
「山笠のある時は毎日ですね。」
「確か、7月前半でしたっけ?」
うろ覚えの知識を引っ張り出す。
「そうです。追い山が14日。それまでは中洲はお祭りですよ。会社の人の中には、帰ってすぐに参加できるように、と水法被に締め込みに着替えて帰る人もいるくらいです。」
「壬生さんも参加するんですか?」
そう言いながら、参加する男達の恰好を思い起こす。
上半身は胸元の見える法被で、下半身はお尻丸見えのふんどし……。
あれだけ細くしまった体をしてるんだから、お尻だってきゅっとしまっているんだろうなぁ。
一瞬、そんな恰好をした壬生を妄想してにやけてしまう。
いけないいけない!
慌てて誤魔化すべく、車外を見る。見るふりをする。
車は国道三号線を石堂大橋で右折し、御笠川を渡って昭和通りに入っていた。
顔、赤くなってないよね。
淡く窓ガラスに映る自分の顔を見ながら必死に落ち着こうとする。
幸い運転に集中している壬生は、そんな永倉に気が付かなかったようだ。
「僕は、香椎花園近く、香住ヶ丘ですから参加できませんよ。」
永倉も名前だけは知っている福岡市東区の小さな遊園地の名前を壬生は出した。
「地元の人しか参加できないんでしたっけ。」
妙子からそう説明されたことはある……ような。TVからの情報かもしれないが。
「えぇ、博多区の人が中心。ただ、地元の人と仲良くなって紹介してもらえばOKだそうです。」
「そうなんですか。」
「はい。職場の人に誘われたことがあります。」
あぁいう格好をするチャンスはあったんだ。
法被から見える肌はキレイだろうな……。
胸板薄いのかな。
いや、空手やってるから細マッチョだよね。
ぶんぶん。
頭を振って妄想の壬生を頭から追い出す。
「どうしました?」
「いえ、ちょっと。」
あなたの山笠を担ぐ姿を妄想してました、などと言えるはずもなく、適当に誤魔化した。
車は、西町筋に入る。
壬生は、路地を少し入った軽専用のコインパーキングに車を停めた。
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