古からの侵略者

久保 倫

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指定暴力団士道会事務所②

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 防犯カメラの設置位置などの説明を受けてから本体を渡され、呼び出した鑑識を引き連れて刑事が帰るのを確認して、春吉は部屋に戻った。
 フェンスなどから指紋も採取している。
 もっともフェンスだけで事務所内はさすがに取らせていない。
 
 なお事務所の者の指紋も参考までに提出して欲しいと言われたが断った。

「俺や小倉を始めとするここのもんの指紋は県警で保管してるはずだ。」

 との春吉の一言で、さすがに赤面して退がった。懲役経験者の指紋を残してないはずは無い。

「小倉、困った顔するな。どうせここ最近この本部に顔を出したのは、うちの身内や付き合いのある連中、せいぜい宅配の業者くれえだ。サツも把握してるような連中だけだし、誰かがアゲられるような事にゃならねえよ。」
「はい。」
 そう答えながら小倉は、別のことを考えていた。

「ヨドバシで買えたかな。」
 防犯カメラの記録装置はしばらく帰って来ないのは確実である。それでも防犯カメラ無し、と言うわけにはいかない。
 よって新しいものを大至急手配しなければならず、小倉は若い者に大急ぎで買ってくるよう命じている。

「それにしても佐々木の名前をデカから聞かされるたぁ、世の中何があるかわからん。」

 佐々木は、ヤクザになってからもなぜか付き合いは途切れない、春吉にとって貴重な堅気の友人である。

「佐々木さんのところから米買ってる関係でしょうか?」
「ここの住所のメモが軽トラに残ってたって話だったが。」

 春吉は腕を組んだ。

「あいつも孫のために新調した軽トラを盗まれたのは災難だな。」
「農機具なんかは全部下ろされていたって話でしたね。」
 小倉も刑事の事情聴取を一緒に受けていたので、佐々木の被害に関してもある程度理解している。 
 なんでも所用で家を空けていた時に被害にあった、という話だった。
「しかし、盗まれた品がよく理解できないですな。」
「軽トラはわかるがな。干していた服や靴、小銭入れだのは理解できん。」
 しかも小銭入れの横に置いていた財布は無事だったと言う。
「ましてや鶏だ。血痕が鶏のもんだとすると、軽トラの荷台で鶏をしめたってのか。それなら、羽だの骨だのが残りそうなもんだが、血痕しか残ってねえようだしな。」 
「うちの被害も似てますね。若い奴のパーカーが盗まれたりしてるところとか。」
「あの真っ赤なパーカーか。そんなのより自分のことを考えろ。おまえも靴や服をやられただろう。」
「はい、普段着用のニット帽もやられました。買ったばかりだったのですが。」

 実は警察のにらんだ通り、士道会の事務所も被害にあっている。
 飾っていた日本刀や、服や靴、他にやはり小銭入れ。
 だが、最大の被害は隠していた拳銃だ。
 そんなものを真っ正直に届けることなどできようはずもなく、隠蔽することに決めたのだ。

「しかし、防犯カメラには何も映っていなかった。」

 あれが無いこれが無いと騒ぎになり、防犯カメラの映像をチェックしたのだが、侵入した者などいなかった。
 だからこそ警察に提出できたのだが。

「誰が盗んだのかはわからねえ。最近うちに来たのは信用できる奴らばかりだ。今更チャカを盗むやつなどいない。金ならわからねえでもないが。」
「財布も金庫の札束も残ってますし。」
「俺を陥れるためか。」

 拳銃には組員の指紋が付いているのは間違いない。それを警察に届ければ確実に組員は逮捕され、そこから春吉の逮捕に持ち込むこともできるだろう。

「心配すんな。俺を陥れるなら、とっくにやってる。サツも事情聴取じゃなくて逮捕状もってきてるだろうよ。」
「オヤジが逮捕されるのは自分としてはツライものがあります。正直年齢のこともありますし、下手をすればム所の中で……。」
 春吉は71歳。近年のヤクザへの重罰化を考えると、拳銃の所持だけでかなりの量刑を科されること間違いない。
 いまだ壮健な春吉だが、加齢による衰えは免れるはずもない。刑務所の中で衰える可能性は十二分にある。
「この稼業、どこで死のうが覚悟はしている。ム所だろうが死ねば仏になるだけだ。おめえが渡世に入った時からそう言ってきたつもりだがな。」
「ですが……。」
「朗のことか。3年前に福岡に戻ってきているのを知った時は驚いたな。」
「自分は、オヤジのお側でお嬢様とのことを見ております。もう20年以上になりますが、未だによく覚えております。」
「……何が言いたい。」
「やはり、お気にされていると思います。」
「してねえと言えば嘘になるがな。」

 春吉は、机の上の写真立てに目をやった。

「小倉、そろそろてめえの組に戻れ。仕事もあるだろ。」

 小倉の縄張りは、中洲の歓楽街である。士道会のシノギにおいて、そこからのアガリは大きなウェイトを占めている。
 その管理は、極めて重大な仕事であった。

「かしこまりました。」
 小倉は一礼して部屋を出た。

 春吉は、小倉が出てから写真立てを手にした。
 写真立てには隠し撮りされたとおぼしき壬生の写真があった。
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