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取り巻き達の言葉の意味は、翌日知ることになりました。
「オラシオ・バルリオスっす。」
「アズナール・カミロです。」
我が家を訪れたバルリオス将軍に連れられた二人の青年が、それぞれ自己紹介します。
私から見て、バルリオス将軍の右に座るのがオラシオさん、左がアズナールさん。
「この二人が貴女に忠誠を誓う護衛となります。」
「忠誠を誓う護衛?」
「これは王室の慣習なのです。」
そう言ってバルリオス将軍は、説明してくれました。
かつて、アンダルス王国と敵対していた勢力の姫君が、和睦のため送られてきました。
この時、姫君の護衛はアンダルス王国ではなく、姫君個人に忠誠を誓ったのだそうです。
「王国にでなく、姫君個人に忠誠を誓った以上、どこまでも姫君に従う。この姫君とは、この場合貴方です、ロザリンド嬢。」
「姫君なんて言われると照れちゃいますね。」
お嬢様、なんて言われますが、それだってどうかと思っているのに、姫君だなんて。
「申し上げておきますが、二人は貴女に忠誠を誓う以上、貴女にどこまでも従います。もし離縁されたり婚約破棄されれば、その日から二人は無位無官の無職です。軍を辞めて貴女に従わねばなりませんので。」
「でっ。」
それは重い。
「そんな役割、どうして二人が任じられたの?」
そんな厳しい役割、どうやって決まるのでしょう。
「無職になるリスクがあるため志願制です。」
「そんな、どうして、お二人は志願したのですか?」
さすがに初めて見る方に志願される理由がわかりません。
「オレはオヤジに言われてっす。」
オラシオが言いました。
「オラシオさん、将軍の息子さんだったの!」
姓が一緒なのは偶然かな、と思ってました。
「はい、軽い性格ですが、戦闘力は保証します。親のひいき目でなく、優れた戦士です。重装歩兵として勤務しておりました。」
「そんな、よろしいのですか。私は婚約破棄されるかもしれませんよ。ただでさえ、国王や貴族から受け入れられているとは言い難い状態なんですから。」
「いいっすよ、役得あるっすから。」
役得?
軽く言うオラシオさんを見れば、私の方を見ていません。
「いや、後ろに控える3人の女性達ってお嬢様の侍女っしょ。一緒に働けるなんて嬉しいっす。軍営ってむさっ苦しいヤローばっかで。」
侍女っていうか、お父様がつけて下さった部下。
男装の麗人のエルゼ・シェーラーは護衛。
巨乳美人のウルファ・サウードは服飾担当。
小柄で童顔のイシドラ・スタージェスは医師。
3人並んで私の後ろに控えていてくれてます。
オラシオさんの視線を追うとウルファに行きつきました。
多分、その胸に視線は行ってんでしょうね。
どこまでも軽そうな人。
「オラシオ、いい加減にしないか。」
対称的にアズナールさんは、真面目そうです。
背は、180センチくらいのオラシオさんより、ちょっと低い。
「あの、姓がカミロって。」
「お察しの通りです。宮廷魔術師ファニート・カミロの息子です。」
「不肖の次男坊です。」
「はは、アズナールは、魔術師としての素質には恵まれせんでしたが、戦士としては一級品です。軽装歩兵として勤務しておりました。」
不肖って、魔術師になれなかったことを卑下してるのかな。
魔術師、特に宮廷魔術師の地位は、親から子に代々受け継ぐものらしいけど。
「どうして護衛に志願されたのですか?」
「オラシオ同様、バルリオス将軍にお願いされました。」
二人ともバルリオス将軍が手配して下さったんだ。
「バルリオス将軍、本当にすいません。そこまでして下さって。」
「メイア家といえど平民。誰もがしりごみしているのです。こうやって先鞭をつければ志願は増えるでしょう。」
そうかな。
婚約披露の日に知ったけど、国王は子供を作ってクルス王子を廃立しようとしてるんだよね。
廃立されれば当然、私は王妃になれないわけで。
志願する人なんているのかな。
「でもよろしいのですか、お二人とも?下手をすれば、私のせいで無職ですよ。」
考え直してもらってもいい。
そう思って言ってみます。
護衛は、お父様がつけてくれたエルゼがいるし。
「オレはいいっす。正直、軍人あんまり向いてねえみたいなんで。もし無職になったら、その時考えるっす。」
「バルリオス将軍の依頼を受けたのは、自分の選択です。男一人、どうにでも生きられますよ。」
私に責任を負わす気は、ないみたいだけど。
「ロザリンド嬢、あまり気にしなくても結構です。廃立されても護衛が不要になるわけではありません。」
そうかもしれないけど。
廃立という事態について調べると、ろくでもない事態になる可能性もあるんだよね。
「すいません、もし無職になるようなことがあれば、お父様に頼んで雇ってもらいます。商会の隊商に護衛は必要ですから。そこならお二人の力を生かせるでしょう。」
「護衛ですか。それはありがたいお話ですね。」
「待って、護衛を甘く見ないで。」
無口であんまりしゃべらないエルゼが、珍しく口をはさんできました。
「貴方に護衛ができるの。」
「オヤジが戦闘力は保証してるぜ。」
「それは単純な戦闘の話。護衛はまた違う。」
もともと隊商の護衛をしていたエルゼは、護衛に誇りを持っています。
「軍人は敵を倒す。護衛は対象を護る。わかってる?」
「わかってるつもりだよ、ええと……。」
「名前教えて。話しにくいっす。」
名前を知らないので、口ごもったアズナールさんをオラシオさんがフォローします。
「エルゼ・シェーラー。」
「エルゼさんか、いい名前だね。」
「ありがとう。でも話は別。」
「それなら模擬戦でもやってみるかね。」
バルリオス将軍が提案してきました。
「それで君らが満足しなければ、彼らの志願を取り消そう。」
「いいのですか?」
将軍が志願させてくれた人を、追い返すのはちょっと。
「このお嬢さん達を、納得させられない二人ではありません。」
「お嬢さんじゃない、エルゼ。」
エルゼって女性であることをバカにされた過去があるから、お嬢さんとか言われるの嫌うんだよね。
「わかった。エルゼさん。この二人を貴女達と戦わせる。それでよろしいかな。」
「了解。」
「ここではなんだな。外に出ては?」
妙に「ここ」という言葉を強調しながら、バルリオス将軍は立ち上がり扉近くに立ちます。
「いや、ここでやる。」
そう言うや、エルゼはダッシュしながら、流れるような動きでレイピアを抜刀し、アズナールさんに突きかかるのでした。
「オラシオ・バルリオスっす。」
「アズナール・カミロです。」
我が家を訪れたバルリオス将軍に連れられた二人の青年が、それぞれ自己紹介します。
私から見て、バルリオス将軍の右に座るのがオラシオさん、左がアズナールさん。
「この二人が貴女に忠誠を誓う護衛となります。」
「忠誠を誓う護衛?」
「これは王室の慣習なのです。」
そう言ってバルリオス将軍は、説明してくれました。
かつて、アンダルス王国と敵対していた勢力の姫君が、和睦のため送られてきました。
この時、姫君の護衛はアンダルス王国ではなく、姫君個人に忠誠を誓ったのだそうです。
「王国にでなく、姫君個人に忠誠を誓った以上、どこまでも姫君に従う。この姫君とは、この場合貴方です、ロザリンド嬢。」
「姫君なんて言われると照れちゃいますね。」
お嬢様、なんて言われますが、それだってどうかと思っているのに、姫君だなんて。
「申し上げておきますが、二人は貴女に忠誠を誓う以上、貴女にどこまでも従います。もし離縁されたり婚約破棄されれば、その日から二人は無位無官の無職です。軍を辞めて貴女に従わねばなりませんので。」
「でっ。」
それは重い。
「そんな役割、どうして二人が任じられたの?」
そんな厳しい役割、どうやって決まるのでしょう。
「無職になるリスクがあるため志願制です。」
「そんな、どうして、お二人は志願したのですか?」
さすがに初めて見る方に志願される理由がわかりません。
「オレはオヤジに言われてっす。」
オラシオが言いました。
「オラシオさん、将軍の息子さんだったの!」
姓が一緒なのは偶然かな、と思ってました。
「はい、軽い性格ですが、戦闘力は保証します。親のひいき目でなく、優れた戦士です。重装歩兵として勤務しておりました。」
「そんな、よろしいのですか。私は婚約破棄されるかもしれませんよ。ただでさえ、国王や貴族から受け入れられているとは言い難い状態なんですから。」
「いいっすよ、役得あるっすから。」
役得?
軽く言うオラシオさんを見れば、私の方を見ていません。
「いや、後ろに控える3人の女性達ってお嬢様の侍女っしょ。一緒に働けるなんて嬉しいっす。軍営ってむさっ苦しいヤローばっかで。」
侍女っていうか、お父様がつけて下さった部下。
男装の麗人のエルゼ・シェーラーは護衛。
巨乳美人のウルファ・サウードは服飾担当。
小柄で童顔のイシドラ・スタージェスは医師。
3人並んで私の後ろに控えていてくれてます。
オラシオさんの視線を追うとウルファに行きつきました。
多分、その胸に視線は行ってんでしょうね。
どこまでも軽そうな人。
「オラシオ、いい加減にしないか。」
対称的にアズナールさんは、真面目そうです。
背は、180センチくらいのオラシオさんより、ちょっと低い。
「あの、姓がカミロって。」
「お察しの通りです。宮廷魔術師ファニート・カミロの息子です。」
「不肖の次男坊です。」
「はは、アズナールは、魔術師としての素質には恵まれせんでしたが、戦士としては一級品です。軽装歩兵として勤務しておりました。」
不肖って、魔術師になれなかったことを卑下してるのかな。
魔術師、特に宮廷魔術師の地位は、親から子に代々受け継ぐものらしいけど。
「どうして護衛に志願されたのですか?」
「オラシオ同様、バルリオス将軍にお願いされました。」
二人ともバルリオス将軍が手配して下さったんだ。
「バルリオス将軍、本当にすいません。そこまでして下さって。」
「メイア家といえど平民。誰もがしりごみしているのです。こうやって先鞭をつければ志願は増えるでしょう。」
そうかな。
婚約披露の日に知ったけど、国王は子供を作ってクルス王子を廃立しようとしてるんだよね。
廃立されれば当然、私は王妃になれないわけで。
志願する人なんているのかな。
「でもよろしいのですか、お二人とも?下手をすれば、私のせいで無職ですよ。」
考え直してもらってもいい。
そう思って言ってみます。
護衛は、お父様がつけてくれたエルゼがいるし。
「オレはいいっす。正直、軍人あんまり向いてねえみたいなんで。もし無職になったら、その時考えるっす。」
「バルリオス将軍の依頼を受けたのは、自分の選択です。男一人、どうにでも生きられますよ。」
私に責任を負わす気は、ないみたいだけど。
「ロザリンド嬢、あまり気にしなくても結構です。廃立されても護衛が不要になるわけではありません。」
そうかもしれないけど。
廃立という事態について調べると、ろくでもない事態になる可能性もあるんだよね。
「すいません、もし無職になるようなことがあれば、お父様に頼んで雇ってもらいます。商会の隊商に護衛は必要ですから。そこならお二人の力を生かせるでしょう。」
「護衛ですか。それはありがたいお話ですね。」
「待って、護衛を甘く見ないで。」
無口であんまりしゃべらないエルゼが、珍しく口をはさんできました。
「貴方に護衛ができるの。」
「オヤジが戦闘力は保証してるぜ。」
「それは単純な戦闘の話。護衛はまた違う。」
もともと隊商の護衛をしていたエルゼは、護衛に誇りを持っています。
「軍人は敵を倒す。護衛は対象を護る。わかってる?」
「わかってるつもりだよ、ええと……。」
「名前教えて。話しにくいっす。」
名前を知らないので、口ごもったアズナールさんをオラシオさんがフォローします。
「エルゼ・シェーラー。」
「エルゼさんか、いい名前だね。」
「ありがとう。でも話は別。」
「それなら模擬戦でもやってみるかね。」
バルリオス将軍が提案してきました。
「それで君らが満足しなければ、彼らの志願を取り消そう。」
「いいのですか?」
将軍が志願させてくれた人を、追い返すのはちょっと。
「このお嬢さん達を、納得させられない二人ではありません。」
「お嬢さんじゃない、エルゼ。」
エルゼって女性であることをバカにされた過去があるから、お嬢さんとか言われるの嫌うんだよね。
「わかった。エルゼさん。この二人を貴女達と戦わせる。それでよろしいかな。」
「了解。」
「ここではなんだな。外に出ては?」
妙に「ここ」という言葉を強調しながら、バルリオス将軍は立ち上がり扉近くに立ちます。
「いや、ここでやる。」
そう言うや、エルゼはダッシュしながら、流れるような動きでレイピアを抜刀し、アズナールさんに突きかかるのでした。
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