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「オラシオ、頼む。」
「あいよ。」
オラシオさんとやり取りしながら、アズナールさんは椅子ごと倒れて、エルゼの突きを回避しました。
オラシオさんは、机の上に飛び上がってエルゼを蹴ろうとしますが、
それより早く、エルゼは机を飛び越えています。
オラシオさんは、エルゼを蹴り損ねたことを気にする様子もなく、その勢いのまま、机を飛び越え私の横に立ちます。
「はい、そこまでね、お嬢ちゃん。」
何を言っているのかと思い、オラシオさんの方を見たら、左手一本で、メスを持つイシドラの頭を押さえています。
「何やってるの。イシドラ?」
「お嬢様模擬戦です。」
「何言ってるの、ウルファ?それは、エルゼがやっていることでしょう。」
「へぇ、ウルファさんか。」
「アタシは無視か。」
「ごめんねお嬢ちゃん、大人のことだからさ。」
「何が大人じゃ。あたしは25歳!おそらくお前さんより年上じゃ!」
「えっ!?」
驚くオラシオさんは、イシドラを押して、間合いを取ります。
「アニキとおない年?」
「えぇ、イシドラは25歳です。」
オラシオさん、お兄さんいるんだ。
「ロザリンドお嬢様以下だと思ってた。」
よく言われるんですよね、イシドラの外見。私より背が低いので。
「それにしても模擬戦って?」
「模擬戦です、ロザリンド嬢。エルゼさん達とアズナール君達との。エルゼさん達がロザリンド嬢を襲う仮想敵役で す。」
バルリオス将軍が解説してくれますが。
「なんで?」
「この人達が護衛として働けるか試す。」
エルゼが高速の突きを繰り出しながら言いました。
「護衛と戦闘は違うから。」
「それは、わかってるよ。」
その突きをさばきながら、アズナールさんが答えます。
「戦略目標が違うってことくらい。」
アズナールさんは、バックステップして、ポールハンガーに近寄りました。
「アズナール、どうよ?」
「強いよ、エルゼさん。剣じゃ勝てない。」
「そいつは大変だな。」
「お前の方はどうだ?」
「やっぱ盾が欲しいわ。何持ってるかわからんのがやりにくい。」
そう言ってオラシオさんは、片手で私の傍らの台に置かれていた花瓶をエルゼの前方に投げつけます。
アズナールさんと対峙していたエルゼは、それを知ってか知らずか前進し、思いっきり水をかぶり、肩に花瓶を受けてます。
「なっ。」
それはアズナールさんにとっては、予想外だったようで。
ポールハンガーを手に驚いてます。
「花瓶じゃ死なない。」
「痛いだろ。」
「我慢。」
そう言いながらアズナールさんに猛攻を加えます。
アズナールさんは、ポールハンガーを巧みに操ってしのぎます。
「何をしてる?」
「君に剣じゃ勝てないから。」
そう言って、アズナールさんは、一瞬の隙をついて逆襲に転じます。
それなりに重量のあるポールハンガーで、エルゼに劣らぬスピードの突きを繰り出し、エルゼを防戦に追い込みます。
「ぼくは、槍が得意なんでね。」
「くっ。」
エルゼも反撃のチャンスをうかがうけど、アズナールさんにその隙は無いみたい。
「イシドラ、ウルファ、そっちは?」
「駄目じゃ。隙を見せん。」
「見られ損。」
私は見てなかったけど、ウルファが色仕掛けで隙を作って、その隙をイシドラがつく作戦だったみたいだけど、不発だったようで。
花瓶を置いていた一本足の台を構えるオラシオさんと、ウルファ、イシドラが対峙しています。
「いやいや、隙作りたかったらもっとガバッといかないと。そしたら絶対隙ができるっす。」
ガバッとって、ウルファにもっと脱げと。
ウルファは、身持ち固いんだけど。
「嘘じゃな。」
「やだ、お嫁にいけなくなっちゃうぅ。」
「責任は、とるっす。」
「絶対やだ!」
「オラシオ……。」
バルリオス将軍が、哀れみの目を向けます。
「オヤジ、まだまだ、オレの戦いは、これからだって。」
何の戦いなのやら。
「戦いは、これから、ね。」
エルゼが、マンゴーシュでハンガーポールを受け止めた状態で、レイピアから手を離しました。
当然、レイピアは床に倒れます。
「服の中に花が。」
そう言ってエルゼは、ボタンを外し、服の中に右手を入れました。
エルゼの白い肌が見えて……。
「し、失礼。」
アズナールさんが、慌てて目を反らします。
アズナールさん、紳士だな、と思った瞬間、エルゼが動きました。
左足でハンガーポールの服をかける所を踏んで懐に入り、左手のマンゴーシュでアズナールさんを狙います。
アズナールさんは、ポールハンガーから右手を離して、振りました。
一瞬、エルゼの表情が変わりますが、突進は止まらず、アズナールさんにエルゼは押し倒され、すぐにエルゼが立ち上がりました。
「私の負け。」
そう宣言してエルゼは、アズナールさんに手を差し出しました。
「エルゼ、負けって?」
「これ。」
エルゼが示したのは、襟元に刺さっている細く薄いナイフ。
「油断せず、ちゃんとワタシを見てた証拠。実戦なら死んでる。」
なるほど、見てなきゃ襟にナイフを刺すなんて無理よね。どこに刺さるか、下手をすれば死ぬもの。
「二人とも合格ですかな?」
バルリオス将軍が声をかけてきました。
「合格。」
「うむ、こっちのデカイのもアタシら相手に油断せず、お嬢様を守ろうとしたからな。」
「すぐにお嬢様の側に移動したのもポイント高い。」
「ちょっと視線がやらしかったけどぉ、まぁいいかなぁ。」
ちょっとじゃない気がするけど。
「ところでさ、どうしてイシドラ達どうしてこんなことを。」
エルゼならともかく。
「アタシらもお嬢様に危険が及べば助けてやってくれ、とニールス様に頼まれたのじゃ。」
「だけどぉ、あたし達戦闘訓練してないからぁ。」
「できることをやろうと。」
「それでメスを振り回したり、色仕掛けしてきたっすか。」
台を片付けながら、オラシオさんが言います。
「素人の生兵法は、ケガの元っすよ。」
「承知しておるが。」
「これからは任せて欲しいっす。」
そう言いながらオラシオさんは、アズナールさんを見ます。
「アズナール、大丈夫か?」
「大丈夫?」
エルゼが、手を差し出したままの姿勢で呼びかけます。
「なんで手を取ってくれない?」
「起こそうとしてくれるのはありがたいんだけど。」
アズナールさんは、エルゼから目をそらしたままです。
「服を整えてくれないかな。」
さっき胸元を開いたままですから……。
エルゼって、手足が長いからすらっとして見えるけど、出るとこ出てるんだよね。
顔を真っ赤にしてエルゼは、胸を隠します。
アズナールさんは、自力で立ち上がりました。
「色仕掛けは、あたしの仕事ぉ、エルゼ。」
「その気はない。戦闘終了と見せかけ油断を誘うつもりだった。」
「それでレイピアを離したのか。」
「マンゴーシュで仕留めるつもりだった。」
エルゼは、話しながら服を整えます。
「貴方は、私から目を離さなかった。」
「戦闘の基本だから。」
「胸見た。えっち。」
「ぐっ……。」
エルゼの不意打ちにアズナールさん、やられてます。
「い、いや、あのだね。」
「許す。これから一緒に仕事する仲間だから。」
改めてエルゼが手を差し出します。
アズナールさんも握り返しました。
「よろしく。」
「ぼく達こそよろしく。」
「というわけで。」
オラシオも両手を差し出します。
「よろしくぅ。」
「荒事は任せる。治療はしてやるでな。」
オラシオさんとウルファ、イシドラが握手します。
なんかスポーツの試合の後みたい。終了後は、お互い仲良く和気あいあいって感じで。
私はスポーツの経験はありませんが、いいものですね。
「じゃ、みんな、仲良くなったところで、お昼一緒に食べよ。私が主としておごっちゃうよ。」
「いいんすか?」
「年下の子に……。」
「大丈夫、お父様からご馳走することもあるだろうからって、お金貰ってるの。任せて、アズナールさん、オラシオさん。」
「では、その前に一つお願いを。」
「何?」
「オレ達、部下として認めてくれるなら呼び捨てにして欲しいっす。」
「エルゼ達と同じ扱いを希望します。」
そっか、エルゼ達を呼び捨てにして、男性だけ敬称もおかしいよね。
「わかりました、アズナール、オラシオ。」
「はい、剣にかけて忠誠を誓います。」
「以後、よろしくお願いするっす。」
頼もしい人たちが来てくれたなぁ。
「じゃ、ご飯食べたら、さっそく一仕事だから、よろしくね。」
「あいよ。」
オラシオさんとやり取りしながら、アズナールさんは椅子ごと倒れて、エルゼの突きを回避しました。
オラシオさんは、机の上に飛び上がってエルゼを蹴ろうとしますが、
それより早く、エルゼは机を飛び越えています。
オラシオさんは、エルゼを蹴り損ねたことを気にする様子もなく、その勢いのまま、机を飛び越え私の横に立ちます。
「はい、そこまでね、お嬢ちゃん。」
何を言っているのかと思い、オラシオさんの方を見たら、左手一本で、メスを持つイシドラの頭を押さえています。
「何やってるの。イシドラ?」
「お嬢様模擬戦です。」
「何言ってるの、ウルファ?それは、エルゼがやっていることでしょう。」
「へぇ、ウルファさんか。」
「アタシは無視か。」
「ごめんねお嬢ちゃん、大人のことだからさ。」
「何が大人じゃ。あたしは25歳!おそらくお前さんより年上じゃ!」
「えっ!?」
驚くオラシオさんは、イシドラを押して、間合いを取ります。
「アニキとおない年?」
「えぇ、イシドラは25歳です。」
オラシオさん、お兄さんいるんだ。
「ロザリンドお嬢様以下だと思ってた。」
よく言われるんですよね、イシドラの外見。私より背が低いので。
「それにしても模擬戦って?」
「模擬戦です、ロザリンド嬢。エルゼさん達とアズナール君達との。エルゼさん達がロザリンド嬢を襲う仮想敵役で す。」
バルリオス将軍が解説してくれますが。
「なんで?」
「この人達が護衛として働けるか試す。」
エルゼが高速の突きを繰り出しながら言いました。
「護衛と戦闘は違うから。」
「それは、わかってるよ。」
その突きをさばきながら、アズナールさんが答えます。
「戦略目標が違うってことくらい。」
アズナールさんは、バックステップして、ポールハンガーに近寄りました。
「アズナール、どうよ?」
「強いよ、エルゼさん。剣じゃ勝てない。」
「そいつは大変だな。」
「お前の方はどうだ?」
「やっぱ盾が欲しいわ。何持ってるかわからんのがやりにくい。」
そう言ってオラシオさんは、片手で私の傍らの台に置かれていた花瓶をエルゼの前方に投げつけます。
アズナールさんと対峙していたエルゼは、それを知ってか知らずか前進し、思いっきり水をかぶり、肩に花瓶を受けてます。
「なっ。」
それはアズナールさんにとっては、予想外だったようで。
ポールハンガーを手に驚いてます。
「花瓶じゃ死なない。」
「痛いだろ。」
「我慢。」
そう言いながらアズナールさんに猛攻を加えます。
アズナールさんは、ポールハンガーを巧みに操ってしのぎます。
「何をしてる?」
「君に剣じゃ勝てないから。」
そう言って、アズナールさんは、一瞬の隙をついて逆襲に転じます。
それなりに重量のあるポールハンガーで、エルゼに劣らぬスピードの突きを繰り出し、エルゼを防戦に追い込みます。
「ぼくは、槍が得意なんでね。」
「くっ。」
エルゼも反撃のチャンスをうかがうけど、アズナールさんにその隙は無いみたい。
「イシドラ、ウルファ、そっちは?」
「駄目じゃ。隙を見せん。」
「見られ損。」
私は見てなかったけど、ウルファが色仕掛けで隙を作って、その隙をイシドラがつく作戦だったみたいだけど、不発だったようで。
花瓶を置いていた一本足の台を構えるオラシオさんと、ウルファ、イシドラが対峙しています。
「いやいや、隙作りたかったらもっとガバッといかないと。そしたら絶対隙ができるっす。」
ガバッとって、ウルファにもっと脱げと。
ウルファは、身持ち固いんだけど。
「嘘じゃな。」
「やだ、お嫁にいけなくなっちゃうぅ。」
「責任は、とるっす。」
「絶対やだ!」
「オラシオ……。」
バルリオス将軍が、哀れみの目を向けます。
「オヤジ、まだまだ、オレの戦いは、これからだって。」
何の戦いなのやら。
「戦いは、これから、ね。」
エルゼが、マンゴーシュでハンガーポールを受け止めた状態で、レイピアから手を離しました。
当然、レイピアは床に倒れます。
「服の中に花が。」
そう言ってエルゼは、ボタンを外し、服の中に右手を入れました。
エルゼの白い肌が見えて……。
「し、失礼。」
アズナールさんが、慌てて目を反らします。
アズナールさん、紳士だな、と思った瞬間、エルゼが動きました。
左足でハンガーポールの服をかける所を踏んで懐に入り、左手のマンゴーシュでアズナールさんを狙います。
アズナールさんは、ポールハンガーから右手を離して、振りました。
一瞬、エルゼの表情が変わりますが、突進は止まらず、アズナールさんにエルゼは押し倒され、すぐにエルゼが立ち上がりました。
「私の負け。」
そう宣言してエルゼは、アズナールさんに手を差し出しました。
「エルゼ、負けって?」
「これ。」
エルゼが示したのは、襟元に刺さっている細く薄いナイフ。
「油断せず、ちゃんとワタシを見てた証拠。実戦なら死んでる。」
なるほど、見てなきゃ襟にナイフを刺すなんて無理よね。どこに刺さるか、下手をすれば死ぬもの。
「二人とも合格ですかな?」
バルリオス将軍が声をかけてきました。
「合格。」
「うむ、こっちのデカイのもアタシら相手に油断せず、お嬢様を守ろうとしたからな。」
「すぐにお嬢様の側に移動したのもポイント高い。」
「ちょっと視線がやらしかったけどぉ、まぁいいかなぁ。」
ちょっとじゃない気がするけど。
「ところでさ、どうしてイシドラ達どうしてこんなことを。」
エルゼならともかく。
「アタシらもお嬢様に危険が及べば助けてやってくれ、とニールス様に頼まれたのじゃ。」
「だけどぉ、あたし達戦闘訓練してないからぁ。」
「できることをやろうと。」
「それでメスを振り回したり、色仕掛けしてきたっすか。」
台を片付けながら、オラシオさんが言います。
「素人の生兵法は、ケガの元っすよ。」
「承知しておるが。」
「これからは任せて欲しいっす。」
そう言いながらオラシオさんは、アズナールさんを見ます。
「アズナール、大丈夫か?」
「大丈夫?」
エルゼが、手を差し出したままの姿勢で呼びかけます。
「なんで手を取ってくれない?」
「起こそうとしてくれるのはありがたいんだけど。」
アズナールさんは、エルゼから目をそらしたままです。
「服を整えてくれないかな。」
さっき胸元を開いたままですから……。
エルゼって、手足が長いからすらっとして見えるけど、出るとこ出てるんだよね。
顔を真っ赤にしてエルゼは、胸を隠します。
アズナールさんは、自力で立ち上がりました。
「色仕掛けは、あたしの仕事ぉ、エルゼ。」
「その気はない。戦闘終了と見せかけ油断を誘うつもりだった。」
「それでレイピアを離したのか。」
「マンゴーシュで仕留めるつもりだった。」
エルゼは、話しながら服を整えます。
「貴方は、私から目を離さなかった。」
「戦闘の基本だから。」
「胸見た。えっち。」
「ぐっ……。」
エルゼの不意打ちにアズナールさん、やられてます。
「い、いや、あのだね。」
「許す。これから一緒に仕事する仲間だから。」
改めてエルゼが手を差し出します。
アズナールさんも握り返しました。
「よろしく。」
「ぼく達こそよろしく。」
「というわけで。」
オラシオも両手を差し出します。
「よろしくぅ。」
「荒事は任せる。治療はしてやるでな。」
オラシオさんとウルファ、イシドラが握手します。
なんかスポーツの試合の後みたい。終了後は、お互い仲良く和気あいあいって感じで。
私はスポーツの経験はありませんが、いいものですね。
「じゃ、みんな、仲良くなったところで、お昼一緒に食べよ。私が主としておごっちゃうよ。」
「いいんすか?」
「年下の子に……。」
「大丈夫、お父様からご馳走することもあるだろうからって、お金貰ってるの。任せて、アズナールさん、オラシオさん。」
「では、その前に一つお願いを。」
「何?」
「オレ達、部下として認めてくれるなら呼び捨てにして欲しいっす。」
「エルゼ達と同じ扱いを希望します。」
そっか、エルゼ達を呼び捨てにして、男性だけ敬称もおかしいよね。
「わかりました、アズナール、オラシオ。」
「はい、剣にかけて忠誠を誓います。」
「以後、よろしくお願いするっす。」
頼もしい人たちが来てくれたなぁ。
「じゃ、ご飯食べたら、さっそく一仕事だから、よろしくね。」
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