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打ちのめされた気分で中庭に戻りました。
ウーゴさんも同じ気分のようで、俯いてしまってます。
「オビエスの奴が……。」
言葉に力がありません。
どういう関係かは知りませんが、相当近い間柄だったのでしょう。
ただただ沈黙が中庭に満ちます。
「にしてもわかんねえな。」
沈黙に耐えかねたのか、オラシオが口を開きます。
「どうしたの、オラシオ。」
「いやね、お嬢様。あいつら、オビエスとかいう一家を下した。方法はわかんねえけど、それなりにやりあったはず。それなのに、あいつらケガとかしてるようには見えなかった。そこがわかんねえな、と思いまして。」
確かに、オラシオの言う通りです。
服に血の跡などありませんでした。
負傷者は、早急に医者に連れて行ったのでいないにしても、やりあった疲労や跡は残るはずです。
それにカリスト君。
腕っぷしが強いタイプではありません。
それなら、ジャネスの子分にならずとも、力でお父さんを黙らせることができます。
できないからこそ、ジャネスの子分になり、そして何らかの手段でオビエス一家を下すのに貢献した。
「あぁ、ちょっと誤解しているようだな、我々ヤクザというものを。」
「ウーゴさん、何がおっしゃりたいのですか?」
「我々ヤクザは、時として暴力をふるうこともある。それは否定せん。」
それって犯罪の告白ですよね、ウーゴさん。
そうつっこもうかと思いましたが、黙って聞くことにします。
「だが、同じヤクザ同士の抗争において、争う手段は別にある。」
「なんですか?」
「ギャンブルだ。」
「えっと、それって……。縄張りだとかをかけてサイコロを振るってことですか?」
「カードの時もあるがな。」
……理解できません。
縄張りとかそういうのって大事じゃないんですか?
「なるほど、どこかの屋敷でサイコロを振って縄張り争いをしたと。」
アズナールは、理解したみたい。
「なんだよ、お前納得いったみたいだな。」
「あぁ、もしあのジャネスとかいう親分がどこかで抗争していたら、鎮圧に最初衛兵が投入され、彼らの手に負えなければ軍が投入される。その気配が無かったのが不思議だったんだ。」
アズナールはアズナールなりに、疑問を持ってたみたい。
「でも、それでいいんですか?縄張りって大事なんでしょう。それをサイコロに託すなんて。」
「確かに大事だ。しかし、勝負せねば縄張りを広げることはできん。ジャネスの奴は、賭けに出て勝利した、ということだ。」
「サイコロの目なんて、操作できないじゃないですか。100%とはいかないまでもある程度の勝算が無いと。」
「勝算?なら暴力で争えば確実に勝てるのかね?」
「えっと、相手より多い人数を揃えれば勝てるんじゃないですか。」
ちょっとかじった知識だと、敵より兵を多く揃えることが勝利の手段だったはず。
あのクルス王子でも、知ってることです。
侵攻した相手が、自分より少ない兵しかいないことを知っていたから、侵攻に踏み切ったのですから。
返り討ちにあってるんですけどね。
「そうかもしれん。だがね、殺し合いもギャンブルも本質的に変わりないと考えておるよ。卓上にのせるものが、金か命かの違いでしかない。」
「……えっと……。」
こんな激しい言葉初めて聞きました。
ウーゴさん、淡々と語ってますけど、無茶苦茶ですよ。
私も、商人ですからお金は大事です。
でも、やっぱりそれ以上に命は大事。
同じ感覚で扱うなんてできません。
「だからヤクザの間では、ギャンブルで縄張り争いにケリをつけることもありえるんだよ。」
「それで納得できるんですか?」
「できる。できぬものはヤクザなどなれんよ。少なくともヤクザの間でそのような者はつまはじきにされる。」
ヤクザ間のルールでしょうか。
ヤクザ者であれば、そのルールを守る。守らねば認められず追放同然の扱いを受けると。
「で、でもですよ、ジャネス親分の縄張りって貧民街じゃないですか。オビエスさんの縄張りがどんなところか知りませんが、同等の価値があるんですか?」
商人として気になります。
土地の価値が、同じ広さならば等しいわけではありません。
貧民街という縄張りは、おそらく縄張りとして最底辺ではないでしょうか。
金貨一枚を銅貨一枚と交換する者はいないように、最底辺の縄張りと自身の縄張りを等価値と認めて、ギャンブルの卓上にのせるのでしょうか。
「金貨などを加えれば等価とみなすこともある。」
「不足する価値を現金などで補えるんですね。」
「そうだ。」
「なるほど、そこであの少年が役立ったわけですな。」
お父様がここで話に割り込んできました。
「ニールスさん、何かあのカリストとかいう小僧のことをご存じなのですかな?」
そう、お父様、カリスト君に言ってましたね。
「金を遊ばせるな、金を働かせて金を産ませろ」って。
何か知ってて言ったのは、間違いありません。
「シャイロック商会は、ご存じでしょう。」
私も知っています。
金融専門の商会です。
物を商ううちと違い、金や債券などを扱うだけに、商会員に金融の知識を要求します。
それだけに雇われた商会員は、勉強に追われ、それに耐えかねて脱落する者が大勢いるそうです。
「前にシャイロックが、貧民街の子を雇った、と言っていたのを思い出しましてね。結構優秀な子だったと言ってました。一を聞いて十を知る賢い子だったそうです。」
そう言えば、前食事をした時、カリスト君、商会で雇ってもらったことがあるって言ってたわね。
カリスト君を雇った商会ってシャイロック商会だったんだ。
「そんな小僧だったのですか。」
「えぇ、金融の知識、といっても初歩的なものでしょうが、それを応用して金を作ったとすれば。」
「オビエスとかいう親分を下すのに役立ったと言える。」
「そんなところだろう。あの子は、金を作る才能をジャネスに評価され、片腕と呼ばれているのだろうね。」
お父様は、グラスに残っていたワインを口にしました。
「あのカリストとかいう小僧をどうにかすれば……。」
「ウーゴさん!!!」
私はテーブルを叩きました。
「その言葉、どういう意味ですか?」
もし、カリスト君に危害を加える気なら……。
「怖い顔しなさんな、お嬢さん。」
「しますよ、カリスト君はいい子なんです。もし何かあったらただではおきません。」
「お嬢さん、どうしてあの小僧に肩入れする。」
「商売のためです!!」
もしカリスト君に何かあれば、グラシアナさんが悲しむでしょう。
そうなれば、化粧品製造の取り纏めに影響が出ます。
それじゃ困るんです。
カリスト君だって、優秀な子だとわかりました。
お父様に推薦するのでなく、私が直接雇ってもいい。
「ウーゴさん、ヤクザのギャンブルについて教えて頂けますか?」
「な、何を?」
「ウーゴさん、ジャネスが目障りなんでしょう。私がジャネスを潰します。」
「お嬢さん、何を言っているかわかっているのかね。」
「えぇ、幸い潰すための戦略は、教えて頂けました。後は具体的なところを。」
「具体的なところとは……。」
「ギャンブルです!ギャンブルで、相手を自分の手下にできるんでしょ。勝ち方を教えて下さい。」
「お嬢さん、そんな深入りすることは……。」
「教えて頂けないなら、結構です。他に伝手をたどってみます。」
無いわけじゃないんです。
ヒメネス伯爵家に借金取り立てにくる人の中には、ヤクザにつながる人もいました。
そこからたどっていけば、教えてもらえるでしょう。
「……危険に飛び込まずともいいだろう。」
「商売のためです!!何度も言わせないで下さい。教えるんですか、教えないんですか!」
「お嬢さん、落ち着いて。ヤクザと争うと言うのかね。無茶だよ。」
「無茶は承知です。でも暴力でないなら、何とかできます。」
うん、そりゃ喧嘩なんてできないけど、サイコロやカードくらい持てます。
「……教えてやって下さい。」
「ニールスさん、よろしいのか?」
「こうなったら止まらない娘です。下手なヤクザに接近されるよりマシでしょう。貴方ならまだ、信用できますから。」
お父様は深いため息をつきました。
「面倒なことになったかなぁ……。」
ウーゴさんも同じ気分のようで、俯いてしまってます。
「オビエスの奴が……。」
言葉に力がありません。
どういう関係かは知りませんが、相当近い間柄だったのでしょう。
ただただ沈黙が中庭に満ちます。
「にしてもわかんねえな。」
沈黙に耐えかねたのか、オラシオが口を開きます。
「どうしたの、オラシオ。」
「いやね、お嬢様。あいつら、オビエスとかいう一家を下した。方法はわかんねえけど、それなりにやりあったはず。それなのに、あいつらケガとかしてるようには見えなかった。そこがわかんねえな、と思いまして。」
確かに、オラシオの言う通りです。
服に血の跡などありませんでした。
負傷者は、早急に医者に連れて行ったのでいないにしても、やりあった疲労や跡は残るはずです。
それにカリスト君。
腕っぷしが強いタイプではありません。
それなら、ジャネスの子分にならずとも、力でお父さんを黙らせることができます。
できないからこそ、ジャネスの子分になり、そして何らかの手段でオビエス一家を下すのに貢献した。
「あぁ、ちょっと誤解しているようだな、我々ヤクザというものを。」
「ウーゴさん、何がおっしゃりたいのですか?」
「我々ヤクザは、時として暴力をふるうこともある。それは否定せん。」
それって犯罪の告白ですよね、ウーゴさん。
そうつっこもうかと思いましたが、黙って聞くことにします。
「だが、同じヤクザ同士の抗争において、争う手段は別にある。」
「なんですか?」
「ギャンブルだ。」
「えっと、それって……。縄張りだとかをかけてサイコロを振るってことですか?」
「カードの時もあるがな。」
……理解できません。
縄張りとかそういうのって大事じゃないんですか?
「なるほど、どこかの屋敷でサイコロを振って縄張り争いをしたと。」
アズナールは、理解したみたい。
「なんだよ、お前納得いったみたいだな。」
「あぁ、もしあのジャネスとかいう親分がどこかで抗争していたら、鎮圧に最初衛兵が投入され、彼らの手に負えなければ軍が投入される。その気配が無かったのが不思議だったんだ。」
アズナールはアズナールなりに、疑問を持ってたみたい。
「でも、それでいいんですか?縄張りって大事なんでしょう。それをサイコロに託すなんて。」
「確かに大事だ。しかし、勝負せねば縄張りを広げることはできん。ジャネスの奴は、賭けに出て勝利した、ということだ。」
「サイコロの目なんて、操作できないじゃないですか。100%とはいかないまでもある程度の勝算が無いと。」
「勝算?なら暴力で争えば確実に勝てるのかね?」
「えっと、相手より多い人数を揃えれば勝てるんじゃないですか。」
ちょっとかじった知識だと、敵より兵を多く揃えることが勝利の手段だったはず。
あのクルス王子でも、知ってることです。
侵攻した相手が、自分より少ない兵しかいないことを知っていたから、侵攻に踏み切ったのですから。
返り討ちにあってるんですけどね。
「そうかもしれん。だがね、殺し合いもギャンブルも本質的に変わりないと考えておるよ。卓上にのせるものが、金か命かの違いでしかない。」
「……えっと……。」
こんな激しい言葉初めて聞きました。
ウーゴさん、淡々と語ってますけど、無茶苦茶ですよ。
私も、商人ですからお金は大事です。
でも、やっぱりそれ以上に命は大事。
同じ感覚で扱うなんてできません。
「だからヤクザの間では、ギャンブルで縄張り争いにケリをつけることもありえるんだよ。」
「それで納得できるんですか?」
「できる。できぬものはヤクザなどなれんよ。少なくともヤクザの間でそのような者はつまはじきにされる。」
ヤクザ間のルールでしょうか。
ヤクザ者であれば、そのルールを守る。守らねば認められず追放同然の扱いを受けると。
「で、でもですよ、ジャネス親分の縄張りって貧民街じゃないですか。オビエスさんの縄張りがどんなところか知りませんが、同等の価値があるんですか?」
商人として気になります。
土地の価値が、同じ広さならば等しいわけではありません。
貧民街という縄張りは、おそらく縄張りとして最底辺ではないでしょうか。
金貨一枚を銅貨一枚と交換する者はいないように、最底辺の縄張りと自身の縄張りを等価値と認めて、ギャンブルの卓上にのせるのでしょうか。
「金貨などを加えれば等価とみなすこともある。」
「不足する価値を現金などで補えるんですね。」
「そうだ。」
「なるほど、そこであの少年が役立ったわけですな。」
お父様がここで話に割り込んできました。
「ニールスさん、何かあのカリストとかいう小僧のことをご存じなのですかな?」
そう、お父様、カリスト君に言ってましたね。
「金を遊ばせるな、金を働かせて金を産ませろ」って。
何か知ってて言ったのは、間違いありません。
「シャイロック商会は、ご存じでしょう。」
私も知っています。
金融専門の商会です。
物を商ううちと違い、金や債券などを扱うだけに、商会員に金融の知識を要求します。
それだけに雇われた商会員は、勉強に追われ、それに耐えかねて脱落する者が大勢いるそうです。
「前にシャイロックが、貧民街の子を雇った、と言っていたのを思い出しましてね。結構優秀な子だったと言ってました。一を聞いて十を知る賢い子だったそうです。」
そう言えば、前食事をした時、カリスト君、商会で雇ってもらったことがあるって言ってたわね。
カリスト君を雇った商会ってシャイロック商会だったんだ。
「そんな小僧だったのですか。」
「えぇ、金融の知識、といっても初歩的なものでしょうが、それを応用して金を作ったとすれば。」
「オビエスとかいう親分を下すのに役立ったと言える。」
「そんなところだろう。あの子は、金を作る才能をジャネスに評価され、片腕と呼ばれているのだろうね。」
お父様は、グラスに残っていたワインを口にしました。
「あのカリストとかいう小僧をどうにかすれば……。」
「ウーゴさん!!!」
私はテーブルを叩きました。
「その言葉、どういう意味ですか?」
もし、カリスト君に危害を加える気なら……。
「怖い顔しなさんな、お嬢さん。」
「しますよ、カリスト君はいい子なんです。もし何かあったらただではおきません。」
「お嬢さん、どうしてあの小僧に肩入れする。」
「商売のためです!!」
もしカリスト君に何かあれば、グラシアナさんが悲しむでしょう。
そうなれば、化粧品製造の取り纏めに影響が出ます。
それじゃ困るんです。
カリスト君だって、優秀な子だとわかりました。
お父様に推薦するのでなく、私が直接雇ってもいい。
「ウーゴさん、ヤクザのギャンブルについて教えて頂けますか?」
「な、何を?」
「ウーゴさん、ジャネスが目障りなんでしょう。私がジャネスを潰します。」
「お嬢さん、何を言っているかわかっているのかね。」
「えぇ、幸い潰すための戦略は、教えて頂けました。後は具体的なところを。」
「具体的なところとは……。」
「ギャンブルです!ギャンブルで、相手を自分の手下にできるんでしょ。勝ち方を教えて下さい。」
「お嬢さん、そんな深入りすることは……。」
「教えて頂けないなら、結構です。他に伝手をたどってみます。」
無いわけじゃないんです。
ヒメネス伯爵家に借金取り立てにくる人の中には、ヤクザにつながる人もいました。
そこからたどっていけば、教えてもらえるでしょう。
「……危険に飛び込まずともいいだろう。」
「商売のためです!!何度も言わせないで下さい。教えるんですか、教えないんですか!」
「お嬢さん、落ち着いて。ヤクザと争うと言うのかね。無茶だよ。」
「無茶は承知です。でも暴力でないなら、何とかできます。」
うん、そりゃ喧嘩なんてできないけど、サイコロやカードくらい持てます。
「……教えてやって下さい。」
「ニールスさん、よろしいのか?」
「こうなったら止まらない娘です。下手なヤクザに接近されるよりマシでしょう。貴方ならまだ、信用できますから。」
お父様は深いため息をつきました。
「面倒なことになったかなぁ……。」
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