か弱い力を集めて

久保 倫

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「う~~ん。」

 悩んでいたら足を踏まれました。

「何をしておる。」
 ウーゴさんの小声。

 いけないいけない。

「負けろ。そう約束しただろう。」

 そうでした、ギャンブルしに来たんじゃない。
「どうしまやした?」
「いいえ。今度は11以上に。」

 銅貨2枚。

 賭けの額を下げるのはどうかな、と思っての額。

「おや、流れは10以下が出ますぜ。」
「そろそろ11以上になるかなって。」
「どうでしょう。」
「そうそう何度も10以下続かないでしょ。」

 そうなるはず。
 10以下になる確率は50%ですが、それが5回も続く確率は、2%以下。

 そう考える私の前でディーラーがサイコロを振ります。

「2!3!3!8の偶数です!」

 賭けた銅貨が回収されます。

「そんな……。」

 別に負けたのはいいんです。
 でも確率的に10以下が続くでしょうか……。

「お嬢ちゃん、だから言ったろ。10以下が出る流れだって。」
「……。」

 どう答えたものかわからず、ウーゴさんの方を見ます。

「気にするな。次に行きなさい。」

 小声でなく、普通の大きさの声。
 ジャネスにも聞こえているでしょうが、構わないと考えているのでしょう。

 ……負けるのはいいんですけどね。
 お金が、ジャネスの懐に入るのは、気に食わないですが。

「ええい、偶数に銅貨1枚。」

 ここ2回は偶数です。
 偶数が続くか。

 ディーラーがサイコロを振りました。

「4!5!5!の奇数です!」

 うう~ん。
 負けるのはいいんですけど。

 正直、額だって大したことない。

「どうした嬢ちゃん、さっきから、外してるが。」
「うぅ、どうして当たらなくなったんでしょう。」
「そりゃ、流れを無視して賭けたからよ。」
「流れ?」
「そう、物事にゃ、流れってもんがある。それに逆らったら最後、流れは離れていく。」

 どういうことなんでしょう。

 この場合は……。

「もう私が勝てないってこと?」
「勝てねえとは言わねえが、勝ち続けることはできねえだろうな。」

 今迄みたいに連続で当てられないと?

「そんな……。リンダ、お小遣い少ないんですから……。」

 そう言いながら2つゾロ目のマスと奇数のマスに銅貨1枚づつを置きます。

「おやおや、勝負するね。」
「ゾロ目が続いてるから、次もゾロ目が出るでしょう。」
「そうなるかな。」

 ディーラーがサイコロ振って……。

「4!4!6!14の偶数です!」
「やった、ゾロ目当てた!」

 銅貨が10枚ディーラーが滑らせてきます。

「偶数の目は外したな。」
「ゾロ目で儲けたからいいの!」

 ガッツポーズ。

「おい、嬢ちゃん。」
 ウーゴさんがささやいてきます。
「わかってます。でも勝ったのにはしゃがないのもおかしいじゃないですか。」
「いやそうじゃなくてな、足の方だ。」

 足?

「お嬢様、はしたないって。ウルファが見たら怒るぜ。」
 オラシオに注意されて気が付きました。

 私、足を他の開いた椅子の上にあげてます。

 つまりスカートも持ち上がっているわけで……。

 周囲の視線が私の素足に……。
 
「おいおい。」
 ジャネスが苦笑いしてます。
「ほほほ、ちょっとサービス、サービス。」
 慌てずに足を下ろします。
「ほら、大勝したら周囲にお金巻いたりするでしょ。私は貧乏だから、ちょっとお色気で……。」

 あははは。

「目の……。」
 ぼそっと何か言おうとしたカリスト君の口をジャネスが塞ぎます。

 何よ……まさか「目の毒」なんて、言おうとしたんじゃないでしょうね。
 そりゃ、今はエルゼみたいな脚線美ないけど、後1年か2年もすれば、負けず劣らぬ美脚になるんだからね。
 将来の美貌の王妃の生足、拝めた幸運を感謝しなさいよ!


 なんて言えるはずもなく、愛想笑いをマスクに張り付かせます。

 うぅ、下着見えてなかったかな……。
 さすがに、それは恥ずかしい。
 
「ま、この賭場にゃチト色気が欠けるからな。そういうのも悪くはねえ。」
 ジャネスのフォローでしょうか。
 この辺はさすが親分、と言っておきましょうか。
「嬢ちゃんみてえなのが来てくれると、場が華やぐんでな。」
 おぉ、いいことを言う。
「ま、楽しんでいってくれ。」
「教えて下さらないんですか?」
「すまねえがな、オレもヒマな身じゃない。ここにいるのは、博打を打つためじゃない。お客が楽しめているか、その様子を見に来てるのさ。」

 わかります。
 商売人として、顧客の反応は大事ですもんね。
 ましてや接客業となれば。

 でも。

「そんな、リンダだって客でしょ、ちがいます?」

 自分でも寒くなるんですけど、ぶりっ子。

 オラシオ、笑いをこらえるんじゃない。
 ウーゴさんも、ポーカーフェイス保ってるけど、ももつねってるのバレバレですよ。

「すまねえがな、一人の客だけをひいきにできねえのさ。まぁ、小遣いが足りなきゃ貸すからよ、楽しんでいってくれ。」

 そう言ってジャネスは、立ち上がりました。
 肩震えてますよ。

 そんなにおもろいか、私のぶりっ子ぶり。

「かわいくね。」

 聞こえてるわよ、カリスト君。

 くそう。

「貸してくれるんですか?」
「おうよ、そこの……。」

 部屋の片隅でじっとしている男を指さします。

「あの男に声をかければ、それなりの額を貸すぜ。」
「それなり?」
「ま、銅貨200、いや300枚貸すか。」

 ふうん。

「もっと貸して。そうすれば、服やアクセサリー買えるんだけど。」
「おいおい、そんな金は親に相談してくれ。ここで借りた金は博打で使うもんだ。」
「借りて、博打で増やせばいいんですね?」
「そういうこった。ただ、返すのは忘れんでくれ。」

 そう言ってジャネスは、カリスト君を連れて立ち去りました。

「よぉし、やるぞぉ。」

 そう言って、4の3つゾロ目に銅貨1枚乗せ、ゾロ目2つ(目は不問)に銅貨2枚、11以上に銅貨3枚。

「よろしいですかな。」
「お願い!」

 サイコロが振られます。
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