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「うう~~ん。」
「負けたことが、そんなに悔しいのか。」
帰りの馬車の中でウーゴさんが話しかけてきます。
「そりゃ、まぁ。」
負けたお金は全てジャネスの懐に入るんだし。
「それにしても……。」
あれから私は、負けまくりました。
たまに勝つんですけど、基本的に負け続け、気がついたらすってんてんでした。
さすがにお金は借りません。
「ほほほ、門限がそろそろなので。」
と言ってお暇しました。
「それにしてもひどいところだったわね……。」
思い出すだけでもう……。
バジリオ君のお父さん、私に気が付いたみたいで、近くに寄ってきます。
「おい、あんた、前にアズナールと一緒に来たお嬢さんだろ。」
「アズナール?誰それ?リンダ知らない。」
「とぼけるな……。」
それ以上は、マスク越しでも怖い、ウーゴさんのにらみに沈黙します。
「マスクした客の素性は詮索しない。そのマナーは守れ。」
「へ、へへっ、そうだった。酒に酔っちまったかな……。」
確かにアルコールの匂いはしますが、かすかです。
そんなに酔ってはないこと、飲まない私でもわかります。
「飲んでおるのか、一つおごろう。」
ウーゴさんが、グラスを取り寄せ、押し付けます。
「へへっ、こりゃ、どうも……。」
ウーゴさんにビビったバジリオ君のお父さん、私から離れていきます。
そんなバジリオ君のお父さんに近寄ったのが、ベロベロになっているカリスト君のお父さん。
「おー、あんたも飲んでんの。」
「あんたこそ、結構飲んでんね。」
「あ~、親不孝なガキのせいでね。」
「カリストの奴のこと?」
「そう、あのガキ、今まで育ててもらった恩を忘れやがって。」
育てた?
稼いだ金をほとんど博打と酒につっこみ、家族にほとんど使わず暴力ふるってたこと?
「えっと、偶数に銅貨3枚、2つゾロ目に1枚」
ふざけるな、と思いながら賭けを続行します。
そうしないと、怒鳴っちゃいそう。
「あんたはいいよな、ガキを売れて。」
「おー、金貨10枚だぜ金貨10枚。あんなガキを買ってくれるとは思わなかったぜ。」
「うらやましい話だぜ。」
う、うらやましい!?
我が子を借金の、それも博打の借金のカタに差し出したのが!?
「1!3!5!9の奇数です!」
「あ~~~ん、もう。」
怒りを博打の負けのせいに偽装できたのは、不幸中の幸いでしょうか。
「ええい!次は勝つわよ!もう一回偶数と出目11以上。それぞれ銅貨2枚。」
「いいよな、まだガキ、それも女の子がいる。」
「でも、まだまだ子供だ。売れねえよ。」
「そうかぁ、アナちゃんみてえな子を欲しがる奴もいるって噂があるぜ。」
「へえ。高く売れるなら売るがよ。」
「1!1!5!7の奇数です。」
「え~~、おかしくなーい!」
ほんと、自分の子を売りものにするなんて!
「ははは、サイコロの出目は神の御意志ですよ。」
はいはい。
私は、そういうこと言いたいんじゃないから。
「売れるらしいぜ、そういう奴に限って金持ちらしいからよ。」
「本当か?いくらだよ。」
「なんだ、オイラのとこにも娘がいるけど高く売れんのか?」
別の人が二人の会話に割って入ります。
「いくらなんだよ?」
さらに増えます。
「額も買い手も知らねえよ。そういう話を聞いたことがあるってだけ。」
「くぅ~~。わかりゃ売りに行くのによ。」
行くな!
「しかし、ちっこい女がいいなんてのがいるのか。」
そんな人……近いのがいたなぁ。
恋焦がれてる対象は、立派な成人女性だけど。
「じゃあ奇数と2つゾロ目に銅貨2枚。」
それはそれとして、博打を継続。
「しかし、あんた、息子がジャネス親分の片腕だろ。わかんねえ?」
「無理だ。確かにカリストはジャネス親分の片腕にまで出世した。そしたらあのガキ、俺のことバカにしやがって。金貸せって言っても貸しやがらねえ。」
「あそこで借りれねえのか?」
バジリオ君のお父さんが、あごで金を貸す男を示します。
「ダメだ。カリストの名を出したらかえってヒドイ目に合う。」
「ひどい目って?」
「他の子分によってたかって袋叩き。息子の名前出すなってな。」
「それは……。」
ざまぁ。
「2!2!6!10の偶数です!」
「やったぁ!5
ばーい!」
今度は、ちょっと冷静に。
もちろん足を上げるなんて真似はしません。
「あれ、お嬢ちゃん、足見せてくんねえの。」
「そーだそーだ。」
「みっせろっ!みっせろっ!」
なっ……。
「減るもんじゃねえだろ。」
減るわっ!色々、私の尊厳とかが。
「やめねえか。」
ウーゴさんの一にらみで男達は沈黙。
さすがは、ヤクザの親分。
「こんな小娘に絡んでるんじゃねぇ。そんなガキじゃねえだろ。」
ウーゴさんの迫力にビビった男達は、サイコロの方に向き直ります。
「すいません、オレじゃビビってくれなくて。」
私の後ろから、オラシオが小声でウーゴさんにお礼言ってます。
ん?オラシオひょっとしてにらみきかそうとしてくれてた?
「仕方あんめえ、おめえさん、戦士としちゃ一流だろうが、顔が優しすぎる。」
そうかなぁ、ただ、顔にしまりがないだけのような。
「修羅場をくぐれば、実力と相まってにらみ効かせられるようになんだろうよ。」
「それは、お嬢様が危険ってことなんで遠慮したいっす。」
「わけえのに、なかなか。嬢ちゃん、いい護衛がついてるな。」
なんかウーゴさん、喜んでる。
「お嬢さん、何に賭けますか?」
あぁそうだった、ここは賭場。
賭けなきゃ。
「んっと、出目11以上に銅貨3枚。3つゾロ目に銅貨1枚。」
「3つゾロ目でございますか?」
「うん、ここんとこゾロ目が出てるから、3つゾロ目も出るんじゃない。」
適当なこと言ってディーラーの反応を見ます。
「出るかもしれませんな。」
笑みを崩さず、カップにサイコロを入れます。
「出してよ、カッコイイおじさん。」
「カッコイイなんて言われると、出してあげたいんですけどね。サイコロの目は神の御意志ですから。」
このくらいじゃ、動じないか。
サイコロが振られます。
「5!5!…6!12の偶数です!」
ん?今6をいう時ちょっと間が空いた。
「カミそうになったんでしょうか?」
ウーゴさんに小声で聞きます。
「ありえんことではあるまい。どんなディーラーでも人間。ちょっと舌がまわらないことくらいあるだろう。」
「惜しかったなぁ。」
「残念です。」
カリスト君のお父さんの言葉に一応返事。
「2つゾロ目で足なんだから、3つなら下着までいくだろうよ。」
だ、誰が見せるかぁっ、バジリオ父!
こ、こんのドスケベェ!!
嫁入り前の娘に何期待しとる!?
「いや、もっと脱ぐんじゃねえ?」
「俺も、おべべを脱ぐと思う。」
「オラは、下着も脱いでのすっぽんぽんだよ。」
「御開帳かい?さすがに3つゾロ目で数字も当てねえと無いだろ。」
こ、このヘンタイども……。
「ほほほ、こんな小娘なんかより、もっと大人の女性がいいんじゃないの?」
言い返してみますが。
「いや、ニョウボと家は新しい方がええ、ちゅうからな。」
「そうそう、あんな口うるさいカカアより、若い嬢ちゃんの方がええ。」
口うるさいって。
「そうそう。口を開けば『家に金を入れろ』わしらどんだけ苦労して稼いだ思うてるんか。」
「そうだ!ちょっとくらい博打や酒、女に使わせろ。」
「いや、俺が稼いだ金は俺が使う。子供や女房に使えるかっての。稼いだのは俺だぞ。」
こ、こやつら……。
家族を養うって考えないんかい!
さすがに誰が誰の旦那かなんてわかんないけど、ここの客は貧民街の人だから、化粧品の工房で働いている人の旦那のはず。
「ええ~い、3の3つゾロ目!」
怒りのあまり、まず、あり得ない目に賭けちゃいました。
もちろん外れ。
「惜しい。」
「そうそう簡単に当たらねえだろうけどよ。」
「御開帳、と期待したんだけどな。」
ええ~い、ヘンタイどもが。
「頑張んな、嬢ちゃん。」
「妹がいれば売るといいぜ。」
無茶苦茶な囃したてを無視して博打を続けました。
そこから、すってんてん一直線でしたけど。
「まったく……。」
家族のことなど微塵も考えない言葉の数々。
思い出しただけでも腹がたちます。
「やるしかないなぁ……。」
「何をかね?」
私の独り言にウーゴさんが反応します。
「ジャネス親分とその本拠地を潰すのを、です。」
「負けたことが、そんなに悔しいのか。」
帰りの馬車の中でウーゴさんが話しかけてきます。
「そりゃ、まぁ。」
負けたお金は全てジャネスの懐に入るんだし。
「それにしても……。」
あれから私は、負けまくりました。
たまに勝つんですけど、基本的に負け続け、気がついたらすってんてんでした。
さすがにお金は借りません。
「ほほほ、門限がそろそろなので。」
と言ってお暇しました。
「それにしてもひどいところだったわね……。」
思い出すだけでもう……。
バジリオ君のお父さん、私に気が付いたみたいで、近くに寄ってきます。
「おい、あんた、前にアズナールと一緒に来たお嬢さんだろ。」
「アズナール?誰それ?リンダ知らない。」
「とぼけるな……。」
それ以上は、マスク越しでも怖い、ウーゴさんのにらみに沈黙します。
「マスクした客の素性は詮索しない。そのマナーは守れ。」
「へ、へへっ、そうだった。酒に酔っちまったかな……。」
確かにアルコールの匂いはしますが、かすかです。
そんなに酔ってはないこと、飲まない私でもわかります。
「飲んでおるのか、一つおごろう。」
ウーゴさんが、グラスを取り寄せ、押し付けます。
「へへっ、こりゃ、どうも……。」
ウーゴさんにビビったバジリオ君のお父さん、私から離れていきます。
そんなバジリオ君のお父さんに近寄ったのが、ベロベロになっているカリスト君のお父さん。
「おー、あんたも飲んでんの。」
「あんたこそ、結構飲んでんね。」
「あ~、親不孝なガキのせいでね。」
「カリストの奴のこと?」
「そう、あのガキ、今まで育ててもらった恩を忘れやがって。」
育てた?
稼いだ金をほとんど博打と酒につっこみ、家族にほとんど使わず暴力ふるってたこと?
「えっと、偶数に銅貨3枚、2つゾロ目に1枚」
ふざけるな、と思いながら賭けを続行します。
そうしないと、怒鳴っちゃいそう。
「あんたはいいよな、ガキを売れて。」
「おー、金貨10枚だぜ金貨10枚。あんなガキを買ってくれるとは思わなかったぜ。」
「うらやましい話だぜ。」
う、うらやましい!?
我が子を借金の、それも博打の借金のカタに差し出したのが!?
「1!3!5!9の奇数です!」
「あ~~~ん、もう。」
怒りを博打の負けのせいに偽装できたのは、不幸中の幸いでしょうか。
「ええい!次は勝つわよ!もう一回偶数と出目11以上。それぞれ銅貨2枚。」
「いいよな、まだガキ、それも女の子がいる。」
「でも、まだまだ子供だ。売れねえよ。」
「そうかぁ、アナちゃんみてえな子を欲しがる奴もいるって噂があるぜ。」
「へえ。高く売れるなら売るがよ。」
「1!1!5!7の奇数です。」
「え~~、おかしくなーい!」
ほんと、自分の子を売りものにするなんて!
「ははは、サイコロの出目は神の御意志ですよ。」
はいはい。
私は、そういうこと言いたいんじゃないから。
「売れるらしいぜ、そういう奴に限って金持ちらしいからよ。」
「本当か?いくらだよ。」
「なんだ、オイラのとこにも娘がいるけど高く売れんのか?」
別の人が二人の会話に割って入ります。
「いくらなんだよ?」
さらに増えます。
「額も買い手も知らねえよ。そういう話を聞いたことがあるってだけ。」
「くぅ~~。わかりゃ売りに行くのによ。」
行くな!
「しかし、ちっこい女がいいなんてのがいるのか。」
そんな人……近いのがいたなぁ。
恋焦がれてる対象は、立派な成人女性だけど。
「じゃあ奇数と2つゾロ目に銅貨2枚。」
それはそれとして、博打を継続。
「しかし、あんた、息子がジャネス親分の片腕だろ。わかんねえ?」
「無理だ。確かにカリストはジャネス親分の片腕にまで出世した。そしたらあのガキ、俺のことバカにしやがって。金貸せって言っても貸しやがらねえ。」
「あそこで借りれねえのか?」
バジリオ君のお父さんが、あごで金を貸す男を示します。
「ダメだ。カリストの名を出したらかえってヒドイ目に合う。」
「ひどい目って?」
「他の子分によってたかって袋叩き。息子の名前出すなってな。」
「それは……。」
ざまぁ。
「2!2!6!10の偶数です!」
「やったぁ!5
ばーい!」
今度は、ちょっと冷静に。
もちろん足を上げるなんて真似はしません。
「あれ、お嬢ちゃん、足見せてくんねえの。」
「そーだそーだ。」
「みっせろっ!みっせろっ!」
なっ……。
「減るもんじゃねえだろ。」
減るわっ!色々、私の尊厳とかが。
「やめねえか。」
ウーゴさんの一にらみで男達は沈黙。
さすがは、ヤクザの親分。
「こんな小娘に絡んでるんじゃねぇ。そんなガキじゃねえだろ。」
ウーゴさんの迫力にビビった男達は、サイコロの方に向き直ります。
「すいません、オレじゃビビってくれなくて。」
私の後ろから、オラシオが小声でウーゴさんにお礼言ってます。
ん?オラシオひょっとしてにらみきかそうとしてくれてた?
「仕方あんめえ、おめえさん、戦士としちゃ一流だろうが、顔が優しすぎる。」
そうかなぁ、ただ、顔にしまりがないだけのような。
「修羅場をくぐれば、実力と相まってにらみ効かせられるようになんだろうよ。」
「それは、お嬢様が危険ってことなんで遠慮したいっす。」
「わけえのに、なかなか。嬢ちゃん、いい護衛がついてるな。」
なんかウーゴさん、喜んでる。
「お嬢さん、何に賭けますか?」
あぁそうだった、ここは賭場。
賭けなきゃ。
「んっと、出目11以上に銅貨3枚。3つゾロ目に銅貨1枚。」
「3つゾロ目でございますか?」
「うん、ここんとこゾロ目が出てるから、3つゾロ目も出るんじゃない。」
適当なこと言ってディーラーの反応を見ます。
「出るかもしれませんな。」
笑みを崩さず、カップにサイコロを入れます。
「出してよ、カッコイイおじさん。」
「カッコイイなんて言われると、出してあげたいんですけどね。サイコロの目は神の御意志ですから。」
このくらいじゃ、動じないか。
サイコロが振られます。
「5!5!…6!12の偶数です!」
ん?今6をいう時ちょっと間が空いた。
「カミそうになったんでしょうか?」
ウーゴさんに小声で聞きます。
「ありえんことではあるまい。どんなディーラーでも人間。ちょっと舌がまわらないことくらいあるだろう。」
「惜しかったなぁ。」
「残念です。」
カリスト君のお父さんの言葉に一応返事。
「2つゾロ目で足なんだから、3つなら下着までいくだろうよ。」
だ、誰が見せるかぁっ、バジリオ父!
こ、こんのドスケベェ!!
嫁入り前の娘に何期待しとる!?
「いや、もっと脱ぐんじゃねえ?」
「俺も、おべべを脱ぐと思う。」
「オラは、下着も脱いでのすっぽんぽんだよ。」
「御開帳かい?さすがに3つゾロ目で数字も当てねえと無いだろ。」
こ、このヘンタイども……。
「ほほほ、こんな小娘なんかより、もっと大人の女性がいいんじゃないの?」
言い返してみますが。
「いや、ニョウボと家は新しい方がええ、ちゅうからな。」
「そうそう、あんな口うるさいカカアより、若い嬢ちゃんの方がええ。」
口うるさいって。
「そうそう。口を開けば『家に金を入れろ』わしらどんだけ苦労して稼いだ思うてるんか。」
「そうだ!ちょっとくらい博打や酒、女に使わせろ。」
「いや、俺が稼いだ金は俺が使う。子供や女房に使えるかっての。稼いだのは俺だぞ。」
こ、こやつら……。
家族を養うって考えないんかい!
さすがに誰が誰の旦那かなんてわかんないけど、ここの客は貧民街の人だから、化粧品の工房で働いている人の旦那のはず。
「ええ~い、3の3つゾロ目!」
怒りのあまり、まず、あり得ない目に賭けちゃいました。
もちろん外れ。
「惜しい。」
「そうそう簡単に当たらねえだろうけどよ。」
「御開帳、と期待したんだけどな。」
ええ~い、ヘンタイどもが。
「頑張んな、嬢ちゃん。」
「妹がいれば売るといいぜ。」
無茶苦茶な囃したてを無視して博打を続けました。
そこから、すってんてん一直線でしたけど。
「まったく……。」
家族のことなど微塵も考えない言葉の数々。
思い出しただけでも腹がたちます。
「やるしかないなぁ……。」
「何をかね?」
私の独り言にウーゴさんが反応します。
「ジャネス親分とその本拠地を潰すのを、です。」
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