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バジリオ君の先導に従い30分くらい歩いたでしょうか。
ランプ以外の光が下水道に入るようになりました。
「そろそろ外に出れるよ。」
そう言うバジリオ君は、角を曲がりました。
私達も曲がると、日の光が入って来ます。
「出口だ!」
流石に声が出ました。
じめじめと臭くて、虫が這いずる下水道から出れると思うと。
それは、皆同じ気持ちだったようで自然と足が速くなります。
排水口から外に出ると、空が白み始めていました。
「もう朝なんだ。」
結構長い時間、賭場で勝負してたな。
「徹夜しちゃったね。皆、付き合ってくれてありがと。」
一度、頭をさげます。
「これからオラシオ引き受けに行かなきゃならないけど、ね。」
「その必要はないっすよ。」
なんとオラシオが現れました。
「オラシオ、あんた衛兵に捕まらなかったの?」
「ウジェーヌだっけ、あいつが強硬に抵抗するもんだから、衛兵は、俺の方に来なかったんすよね。」
「へえ~、あの人捕まるの嫌だったんだ。」
雇い主であるジャネスに見捨てられた以上、無駄に剣を振るわないと思ったけど。
「あいつは、負けず嫌いですよ。剣を交えたぼくはわかります。」
「次の雇い主を探すためかもしれんな。衛兵相手に大立回りすれば、次の雇い主も探しやすい、と考えたのかもしれん。」
就職活動ですか。ウーゴさんの方が当たっているかもしれませんが、どうでもいいことです。
「おかげで、素人の相手だけで済みました。モップの柄で何人かノシたら、俺を取り巻くばっかになりまして。おかげで、壁塞いで逃げられました。」
オラシオの武勇伝は続いてます。
それはいいんですけど、疑問が。
「オラシオ、あんたよく追いつけたわね。」
「バジリオだったか。その子が分岐でちゃんと目印書いてくれてましたからね。」
「気が付いてくれたんだ。」
「おぅ、おかげで迷わず走れたよ。」
あの狭い下水道を走ったって。
「オラシオ、くっさぁ~~。」
ウルファが鼻をつまみます。
あちこちに汚水の飛沫がしみ込んでるもんね。
「くっせえって、みんな一緒っしょ。」
「そうね。」
そう、私もその辺はあまりオラシオのこと言えない。
女の子と思えない匂いが、身体のあちこちから発してる。
他の皆も、ウルファだって例外じゃない。
「ま、しょうがない。無事逃げ切ったことでヨシとしましょ。それより、これからどうするかよ。」
「お風呂ぉ。」
「服も替えたいですね。」
「オイラ、はらへった。なんでもいいから食べたい。」
皆、口々に希望を口にします。
「ここは、城壁の外じゃな。」
ウーゴさんが、辺りを見て言います。
昇る朝日に目を細めます。
「ここからワシの家が近い。来るといい。風呂と食事は準備させる。」
「いいんですか?」
「お嬢さん達をそのザマで放り出すことはできん。着替えは、ワシの子分をお宅まで取りに行かせる。メイア家の使用人が適当に見繕ってくれるだろう。」
それくらいは、甘えようかな。
「ついでにみんなの分もお願いしていいですか?」
「もちろん、2、3人走らせればいいだけだ。」
「あ、あのおじさん、オイラもいいかな。」
おずおずと、バジリオ君がウーゴさんにお願いします。
「構わねえさ、ボウズ。ただ着替えはこっちで用意する。」
「い、いや母ちゃんに連絡してくれれば。」
「それは無理だな、なぁ嬢ちゃん。」
「そうね。」
「えっ!?」
バジリオ君驚いてる。
そりゃ、今夜の計画のこと何にも知らないもんね。
「バジリオ君、あなたの家引っ越しちゃったから無いわよ。」
「えっ!バジリオんちが引っ越したなんて俺聞いてないぜ。」
驚きの声を上げたのは、カリスト君。
そりゃ、昨晩までジャネスの片腕として貧民街を仕切ろうとしていたんだもんね。
貧民街のことを把握してる、という自負があるわよね。
「引っ越したの、バジリオ君の家だけじゃないわよ。カリスト君の家も、全部の家が引っ越したわよ。」
「そ、そんな馬鹿な。なんで!?」
「みんな、貧民街から抜け出そうともせず、賭博に明け暮れる旦那を見放したの。」
そう、それも私が昨晩ジャネスの賭場で派手に振る舞った理由の一つ。
男達を賭場に引き付け、家を長く留守にする。
その間に、奥さんたちは荷物をまとめ、家を出る。
幸い貧しい暮らしのせいで荷物は少ない。
服や身の回りの品をまとめるのにそれほど時間はかかりません。
鍋や食器などのかさばり重くなりそうな品は、引っ越した先で入手するよう説得しています。
必要なだけのお金は支払うということで、皆さん説得に応じてくれました。
おかげで、旦那がいない間に皆、貧民街を出れたはずです。
「衛兵を賭場に入れたことだけは、ジャネスに感謝するわ。」
私は、話をそう締めくくりました。
衛兵に捕縛されれば、簡単には釈放されません。
その間にも逃げられるので。
「姉ちゃん、母ちゃんは、アナは、どこに引っ越したの?」
「それは、ここじゃ教えられない。」
カリスト君の方を見ます。
「ジャネスの子分の前では言えない。知ったら、旦那達に告げ口するでしょ。せっかく捨てた旦那たちがそこに殺到させるわけにはいかないの。」
「そ、それは……。」
さぁ、どうする、カリスト君。
もし、ジャネスに義理立てするなら……。
見捨てて構わない、とグラシアナさんは言いましたが。
見捨てたくはないんですよね。
ジャネスの勢力の急激な伸張は、間違いなくカリスト君の手腕。
それを捨てるのは惜しい。
そう思う私の前で、カリスト君は流れる下水に手を付けました。
「姉さん、俺を使ってくれ!!」
ランプ以外の光が下水道に入るようになりました。
「そろそろ外に出れるよ。」
そう言うバジリオ君は、角を曲がりました。
私達も曲がると、日の光が入って来ます。
「出口だ!」
流石に声が出ました。
じめじめと臭くて、虫が這いずる下水道から出れると思うと。
それは、皆同じ気持ちだったようで自然と足が速くなります。
排水口から外に出ると、空が白み始めていました。
「もう朝なんだ。」
結構長い時間、賭場で勝負してたな。
「徹夜しちゃったね。皆、付き合ってくれてありがと。」
一度、頭をさげます。
「これからオラシオ引き受けに行かなきゃならないけど、ね。」
「その必要はないっすよ。」
なんとオラシオが現れました。
「オラシオ、あんた衛兵に捕まらなかったの?」
「ウジェーヌだっけ、あいつが強硬に抵抗するもんだから、衛兵は、俺の方に来なかったんすよね。」
「へえ~、あの人捕まるの嫌だったんだ。」
雇い主であるジャネスに見捨てられた以上、無駄に剣を振るわないと思ったけど。
「あいつは、負けず嫌いですよ。剣を交えたぼくはわかります。」
「次の雇い主を探すためかもしれんな。衛兵相手に大立回りすれば、次の雇い主も探しやすい、と考えたのかもしれん。」
就職活動ですか。ウーゴさんの方が当たっているかもしれませんが、どうでもいいことです。
「おかげで、素人の相手だけで済みました。モップの柄で何人かノシたら、俺を取り巻くばっかになりまして。おかげで、壁塞いで逃げられました。」
オラシオの武勇伝は続いてます。
それはいいんですけど、疑問が。
「オラシオ、あんたよく追いつけたわね。」
「バジリオだったか。その子が分岐でちゃんと目印書いてくれてましたからね。」
「気が付いてくれたんだ。」
「おぅ、おかげで迷わず走れたよ。」
あの狭い下水道を走ったって。
「オラシオ、くっさぁ~~。」
ウルファが鼻をつまみます。
あちこちに汚水の飛沫がしみ込んでるもんね。
「くっせえって、みんな一緒っしょ。」
「そうね。」
そう、私もその辺はあまりオラシオのこと言えない。
女の子と思えない匂いが、身体のあちこちから発してる。
他の皆も、ウルファだって例外じゃない。
「ま、しょうがない。無事逃げ切ったことでヨシとしましょ。それより、これからどうするかよ。」
「お風呂ぉ。」
「服も替えたいですね。」
「オイラ、はらへった。なんでもいいから食べたい。」
皆、口々に希望を口にします。
「ここは、城壁の外じゃな。」
ウーゴさんが、辺りを見て言います。
昇る朝日に目を細めます。
「ここからワシの家が近い。来るといい。風呂と食事は準備させる。」
「いいんですか?」
「お嬢さん達をそのザマで放り出すことはできん。着替えは、ワシの子分をお宅まで取りに行かせる。メイア家の使用人が適当に見繕ってくれるだろう。」
それくらいは、甘えようかな。
「ついでにみんなの分もお願いしていいですか?」
「もちろん、2、3人走らせればいいだけだ。」
「あ、あのおじさん、オイラもいいかな。」
おずおずと、バジリオ君がウーゴさんにお願いします。
「構わねえさ、ボウズ。ただ着替えはこっちで用意する。」
「い、いや母ちゃんに連絡してくれれば。」
「それは無理だな、なぁ嬢ちゃん。」
「そうね。」
「えっ!?」
バジリオ君驚いてる。
そりゃ、今夜の計画のこと何にも知らないもんね。
「バジリオ君、あなたの家引っ越しちゃったから無いわよ。」
「えっ!バジリオんちが引っ越したなんて俺聞いてないぜ。」
驚きの声を上げたのは、カリスト君。
そりゃ、昨晩までジャネスの片腕として貧民街を仕切ろうとしていたんだもんね。
貧民街のことを把握してる、という自負があるわよね。
「引っ越したの、バジリオ君の家だけじゃないわよ。カリスト君の家も、全部の家が引っ越したわよ。」
「そ、そんな馬鹿な。なんで!?」
「みんな、貧民街から抜け出そうともせず、賭博に明け暮れる旦那を見放したの。」
そう、それも私が昨晩ジャネスの賭場で派手に振る舞った理由の一つ。
男達を賭場に引き付け、家を長く留守にする。
その間に、奥さんたちは荷物をまとめ、家を出る。
幸い貧しい暮らしのせいで荷物は少ない。
服や身の回りの品をまとめるのにそれほど時間はかかりません。
鍋や食器などのかさばり重くなりそうな品は、引っ越した先で入手するよう説得しています。
必要なだけのお金は支払うということで、皆さん説得に応じてくれました。
おかげで、旦那がいない間に皆、貧民街を出れたはずです。
「衛兵を賭場に入れたことだけは、ジャネスに感謝するわ。」
私は、話をそう締めくくりました。
衛兵に捕縛されれば、簡単には釈放されません。
その間にも逃げられるので。
「姉ちゃん、母ちゃんは、アナは、どこに引っ越したの?」
「それは、ここじゃ教えられない。」
カリスト君の方を見ます。
「ジャネスの子分の前では言えない。知ったら、旦那達に告げ口するでしょ。せっかく捨てた旦那たちがそこに殺到させるわけにはいかないの。」
「そ、それは……。」
さぁ、どうする、カリスト君。
もし、ジャネスに義理立てするなら……。
見捨てて構わない、とグラシアナさんは言いましたが。
見捨てたくはないんですよね。
ジャネスの勢力の急激な伸張は、間違いなくカリスト君の手腕。
それを捨てるのは惜しい。
そう思う私の前で、カリスト君は流れる下水に手を付けました。
「姉さん、俺を使ってくれ!!」
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