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51 リク ソフィーを案じる
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「いや無かった。」
「何の痕跡もですか?人の生活の跡もありませんでしたか?」
「何も無いってば。やけにこだわるね。」
さすがに疑問に感じたらしい。
「なんかさ、あの村に関係があるの?」
「何故そうお考えで?」
「当てずっぽうだよ。あの村の旗、ガリア王国の旗じゃないから、ひょっとしてと思ってさ。」
エドアルトは、勘の鋭い人物らしい。
「言ってみたらどう?こっちもさ力になれるかもしんないし。」
リクは迷ったが切り出すことにした。
「実は……。」
リクは、ライエン王国のことを、かいつまんで説明した。
「なるほど、あの島を領有してバーデン帝国への反攻の拠点にしようとしたんだ。」
「えぇ、スヴァールが領有を宣言してない以上問題はありませんので。」
「自分たち以外の者が行ってると思ったら、行ってないか。状況からして……。」
「言いにくいですが。」
クロードなど北方航路で働く船長達は、皆ライエン王国の船がイェーリングの船を残して全滅した可能性を指摘していた。
ただ、イェーリング達は、自身が難破した嵐を仲間は乗り切っている、と考えている。
「大事な仲間が死んでる、なんて考えたくねえよな、そりゃ。」
エドアルトの快活そうな顔が苦いものに覆われる。
「しかし彼らは殿下達が北方の無人島に向かったことを知っています。」
「隠せるはずもねえか。」
エドアルトは足元の石を蹴飛ばした。
「彼らも可能性は想定しています。殿下が気に病む必要は無いでしょう。」
「そうかもしれねえけどよ、何かな、目の前で人が落ち込むのは見たかねえ。」
優しい人柄が見える発言だった。
「エドアルト君、彼らのことを配慮するのは結構ですが、事実は事実として告げた方がいいですよ。」
引き返してきたヴァレンチンが会話に加わってきた。
「ヴァレンチン兄貴……。」
「いらぬ希望を抱かせ続けるのもどうかと思います。」
「そうかもしれないけどさ。」
「それに君が伝える必要もありません。」
ヴァレンチンはリクの方を向いた。
「辺境伯、あちらの木、メイプルを頂戴したいのですが。」
イェーリング達に無人島に誰もいなかったことを伝えるよう依頼する、と思っていたリクは肩透かしをくらった気持ちになった。
「……一本くらいなら構いませんが。」
「ありがとうございます。」
「ちょっちょっと、兄貴、俺が伝える必要は無いって……。」
「無いと思います、エドアルト君、許可は得ました。あの木を伐り倒して下さい。」
「いいけど。」
話しが成立しねえ、という表情になってエドアルトは、剣を構える。
刀身が赤い光を帯びていく。
「闘気刃。」
闘気を操る戦闘術の技の名をリクは、口にした。
「でやぁっ!」
エドアルトが剣を振るうと、あっさりメイプルは伐り倒された。
「兄貴、これでいいのかい?」
「結構ですよ。」
ヴァレンチンは、収納空間を展開し、伐り倒されたメイプルを収納する。
「メイプルなどどうするのですか?」
「加工次第でしょうが、使えそうです。」
ニコニコと笑うヴァレンチンにリクは、なんと言ったものかわからず黙るしかなかった。
何に使うのかさっぱり見当がつかない。木に関する知識に自信のあるリクとしては、プライドを傷つけられる思いだった。
「さ、一旦海岸の方に戻りましょう。兵達もベースキャンプの設営を終えたでしょうし。」
海岸の方に戻ってみると、船の数が4隻に増えていた。
「随伴の船が追い付いてきたんだな。」
「風が強くなったのでしょう。」
そう言えばランベルトは「艦隊」と言っていた。
そう呼ぶ以上複数の船で構成される。
考えてみれば王族二人が参加する探検隊の人員を運ぶ船が一隻で済むはずもない。
新型船の試験航海を兼ねるのであればなおのことだ。
事故などに備えて、普通の帆船が随伴するのは、当然だろう。
「『ドィーム』は先ほども言ったように風の強さなどに左右されませんから、風が凪いだ時などは、帆船を置き去りにして航行していたんです。合流する海域などを指示して。」
スヴァールの新型船の航行能力は、帆船以上らしい。
新型だが量産が始まっているようだし、結構技術自体は熟成しているようだ、とリクは判断した。
「随伴の船の兵士達も上陸しているようですね。」
海岸にテントがいくつも設営されているのが見てリクは指摘した。
かなりの人数が上陸しているとみて間違いあるまい。
「彼らも航海に疲れているのです。今日一日上陸しての休息をご許可頂きたい。」
「対価は支払いいただきますよ。」
今更船に戻れ、と言っても聞きはすまい。
それなら水や薪などの代金を受け取った方がいいであろう。
「それにしてもやけに盛り上がってますね。」
ヴァレンチンが疑問を口にする。
確かに歓声が大きい。
揺れぬ大地に足をつけることは、船乗りであっても喜びではあるが。
「あ、あいつら!」
エドアルトが声を上げた。
「女性がいる。村に迷惑かけてんじゃないだろうな。」
「まさか、士官たちには住民がいた場合迷惑をかけぬよう注意していたのですが。」
久しぶりの上陸と女性に兵士達が暴走した可能性がある。
「失礼ですが、状況によっては実力を行使させて頂きますよ。」
言葉だけは丁寧にリクは、駆け出す。
ソフィーは?
彼女もエルフだ。並みの人間男性にも負けはしない。
しかし、今回の相手は戦闘訓練を受けた多数の人間だ。最悪の事態も想定される。
「ヴァレンチン兄貴、オレも行って来らあ。」
エドアルトもエルフであるリクに及ばないながらも駆け出す。
「えぇ、行って下さい。僕も追いついたら魔法で支援します。」
身体能力に劣るスヴァール王家の次兄は、二人に遅れながらも足を速く動かそうと試みる。
「村の住人と接触する可能性は考慮していましたが、どうしてああも女性を連れ出すような真似を?」
士官は言うに及ばず、下士官兵もそれなりに人間性を考慮して探検隊を編成したのに。
「何の痕跡もですか?人の生活の跡もありませんでしたか?」
「何も無いってば。やけにこだわるね。」
さすがに疑問に感じたらしい。
「なんかさ、あの村に関係があるの?」
「何故そうお考えで?」
「当てずっぽうだよ。あの村の旗、ガリア王国の旗じゃないから、ひょっとしてと思ってさ。」
エドアルトは、勘の鋭い人物らしい。
「言ってみたらどう?こっちもさ力になれるかもしんないし。」
リクは迷ったが切り出すことにした。
「実は……。」
リクは、ライエン王国のことを、かいつまんで説明した。
「なるほど、あの島を領有してバーデン帝国への反攻の拠点にしようとしたんだ。」
「えぇ、スヴァールが領有を宣言してない以上問題はありませんので。」
「自分たち以外の者が行ってると思ったら、行ってないか。状況からして……。」
「言いにくいですが。」
クロードなど北方航路で働く船長達は、皆ライエン王国の船がイェーリングの船を残して全滅した可能性を指摘していた。
ただ、イェーリング達は、自身が難破した嵐を仲間は乗り切っている、と考えている。
「大事な仲間が死んでる、なんて考えたくねえよな、そりゃ。」
エドアルトの快活そうな顔が苦いものに覆われる。
「しかし彼らは殿下達が北方の無人島に向かったことを知っています。」
「隠せるはずもねえか。」
エドアルトは足元の石を蹴飛ばした。
「彼らも可能性は想定しています。殿下が気に病む必要は無いでしょう。」
「そうかもしれねえけどよ、何かな、目の前で人が落ち込むのは見たかねえ。」
優しい人柄が見える発言だった。
「エドアルト君、彼らのことを配慮するのは結構ですが、事実は事実として告げた方がいいですよ。」
引き返してきたヴァレンチンが会話に加わってきた。
「ヴァレンチン兄貴……。」
「いらぬ希望を抱かせ続けるのもどうかと思います。」
「そうかもしれないけどさ。」
「それに君が伝える必要もありません。」
ヴァレンチンはリクの方を向いた。
「辺境伯、あちらの木、メイプルを頂戴したいのですが。」
イェーリング達に無人島に誰もいなかったことを伝えるよう依頼する、と思っていたリクは肩透かしをくらった気持ちになった。
「……一本くらいなら構いませんが。」
「ありがとうございます。」
「ちょっちょっと、兄貴、俺が伝える必要は無いって……。」
「無いと思います、エドアルト君、許可は得ました。あの木を伐り倒して下さい。」
「いいけど。」
話しが成立しねえ、という表情になってエドアルトは、剣を構える。
刀身が赤い光を帯びていく。
「闘気刃。」
闘気を操る戦闘術の技の名をリクは、口にした。
「でやぁっ!」
エドアルトが剣を振るうと、あっさりメイプルは伐り倒された。
「兄貴、これでいいのかい?」
「結構ですよ。」
ヴァレンチンは、収納空間を展開し、伐り倒されたメイプルを収納する。
「メイプルなどどうするのですか?」
「加工次第でしょうが、使えそうです。」
ニコニコと笑うヴァレンチンにリクは、なんと言ったものかわからず黙るしかなかった。
何に使うのかさっぱり見当がつかない。木に関する知識に自信のあるリクとしては、プライドを傷つけられる思いだった。
「さ、一旦海岸の方に戻りましょう。兵達もベースキャンプの設営を終えたでしょうし。」
海岸の方に戻ってみると、船の数が4隻に増えていた。
「随伴の船が追い付いてきたんだな。」
「風が強くなったのでしょう。」
そう言えばランベルトは「艦隊」と言っていた。
そう呼ぶ以上複数の船で構成される。
考えてみれば王族二人が参加する探検隊の人員を運ぶ船が一隻で済むはずもない。
新型船の試験航海を兼ねるのであればなおのことだ。
事故などに備えて、普通の帆船が随伴するのは、当然だろう。
「『ドィーム』は先ほども言ったように風の強さなどに左右されませんから、風が凪いだ時などは、帆船を置き去りにして航行していたんです。合流する海域などを指示して。」
スヴァールの新型船の航行能力は、帆船以上らしい。
新型だが量産が始まっているようだし、結構技術自体は熟成しているようだ、とリクは判断した。
「随伴の船の兵士達も上陸しているようですね。」
海岸にテントがいくつも設営されているのが見てリクは指摘した。
かなりの人数が上陸しているとみて間違いあるまい。
「彼らも航海に疲れているのです。今日一日上陸しての休息をご許可頂きたい。」
「対価は支払いいただきますよ。」
今更船に戻れ、と言っても聞きはすまい。
それなら水や薪などの代金を受け取った方がいいであろう。
「それにしてもやけに盛り上がってますね。」
ヴァレンチンが疑問を口にする。
確かに歓声が大きい。
揺れぬ大地に足をつけることは、船乗りであっても喜びではあるが。
「あ、あいつら!」
エドアルトが声を上げた。
「女性がいる。村に迷惑かけてんじゃないだろうな。」
「まさか、士官たちには住民がいた場合迷惑をかけぬよう注意していたのですが。」
久しぶりの上陸と女性に兵士達が暴走した可能性がある。
「失礼ですが、状況によっては実力を行使させて頂きますよ。」
言葉だけは丁寧にリクは、駆け出す。
ソフィーは?
彼女もエルフだ。並みの人間男性にも負けはしない。
しかし、今回の相手は戦闘訓練を受けた多数の人間だ。最悪の事態も想定される。
「ヴァレンチン兄貴、オレも行って来らあ。」
エドアルトもエルフであるリクに及ばないながらも駆け出す。
「えぇ、行って下さい。僕も追いついたら魔法で支援します。」
身体能力に劣るスヴァール王家の次兄は、二人に遅れながらも足を速く動かそうと試みる。
「村の住人と接触する可能性は考慮していましたが、どうしてああも女性を連れ出すような真似を?」
士官は言うに及ばず、下士官兵もそれなりに人間性を考慮して探検隊を編成したのに。
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