ずぼらなエルフは、森でのんびり暮らしたい

久保 倫

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67.マウノ、「ペルル」号を一瞥する

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 リクがアズレートとやり合っていたから一月後、ガリア王国の宮廷で、マウノはアルバン三世と対面していた。

「マウノよ、物資の集積などはどうなっておる?」
「順調でございます。」

 アルバン三世の問いにマウノは即答した。

 金は無論、盛大に使った。

 使わざるを得なかった。

 去年、相当不作であったため、輸入に頼ることになったが、相手も足元を見て吊り上げにかかってくる。
 無論、言い値で買うような真似はしなかったが、それでも量が量である。
 イスファハーン帝国との戦争には20万の兵力が動員される予定となっており、必要な食料や物資の量は、巨大なものとなる。
 それでも、マウノの計算では出陣が予定される今年の11月までには必要な食料や物資の集積は完了する予定であった。
 今年のガリア王国が昨年同様の不作であったとしても、東方のバーデン帝国や南方のティレニア王国などからの輸入を継続することで、完了できる。それだけの契約を信頼できる商会と結んでいる。
 バーデン帝国やティレニア王国とは陸続きの国境がなく、全てを海運に頼ることになるが、船の建造は順調に進んでおり、輸送力に問題は無い。
 イスファハーン帝国との戦争が11月に始まり、船を補給任務に従事させたとしても、計画通りに建造できれば、輸入しながら補給任務をこなすことも可能なだけの船が揃う。

 また、リノ杉で建造した船の耐久力などは、他国に高く評価され、引き合いが来ている。
 イスファハーン帝国の商会も接触してきているほどである。
 アルバン三世の言いなりになって拡張したせいで、供給過多になるのでは、と危惧していたが、それも解消されたかたちである。

「ま、リノ杉が材木として優れていることは、疑う余地の無いことだ。」

 マウノはそう考えている。

 まっすぐ育ち、強度もあり腐りにくく、しかも軽量。
 これほど材木にするにふさわしい木は、他にはない。

 他の国でもリノ杉の植林を始めるかもしれないが、すでに着手し、経験を積んだローレンツ商会の優位は動かない。

「ふふふ、供給を俺がコントロールできる商材だ。この機会に儲けさせてもらうぞ。」

 そう考えるマウノにアルバン三世が語りかける。

「マウノよ。今年の秋にはイスファハーン帝国との戦端を開こうと考えておる。」
「はっ、今年の秋でございますか。」
「そうだ、昨年は思いもよらぬ凶作で、食料が上手く確保できず開戦を締めたが、今年こそイスファハーンとの国境問題を解決しようと思っておる。」
「物資の調達はお任せ下さい。」
「頼りにしておるぞ。北方のスヴァールの新王アズレートは、即位するやビエールイ公国を併合し領土を拡張しおった。余も負けてはおれん。イスファハーンとの国境問題を解決し、ガリア王国の領域を拡大せねばならぬ。」
「いっそ、イスファハーン帝国そのものを併合しては?」

 マウノは、おべっかを使った。

「悪くは無いが、それはさすがに難しい。それより余は、南方のティレニアに手を延ばそうと思っておる。」
「ティレニアにございますか?」

 さっとマウノは頭の中で、地図を描く。

 南方のティレニアは、大小さまざまな島で構成される国だ。
 島の農耕生産力は高いが、それだけに島それぞれの独立性が高く、なかなか国としてまとまらない、という欠点を抱えている。

「貴族間の争いに上手く介入できれば、親ガリア派に力を持たせ、以後こちらの手駒とすることも可能と考えておる。」
「左様でございますか。」
「介入などにあたり、工作資金が必要となるであろう。」

 つまり金を出せと。
 マウノは、アルバン三世の意図を正確に読み取った。

「拡張政策をとるスヴァールとは、今の時点では国境を接しておらぬが、騎馬民族の動向によっては我が国に侵略の魔手を延ばす恐れもある。それを考えるとイスファハーン帝国との国境を我が国優位で策定した上で、守備隊を置いて北方に備えねばならん。」

 アズレートに拡張の意思は無いと、各国の大使などに折に触れ語っているが、拡張政策をとるアルバン三世は信じていない。
 自分がやっているのだから、他人もやると考えてしまうのだ。

「ティレニアの貴族に影響力を発揮できれば、海上戦力の強化も期待できる。そうすれば海から圧力をかけて、イスファハーンの力を削ぐこともできよう。」

 アルバン三世は、力強く言葉をつむぐ。

「海からの圧力は、無論ローレンツ候、そなたの力も期待している。」
「かしこまりました。」

 マウノは、一礼した。

「それでは、私は、領に戻り、船団の訓練状況などを確認いたします。」
「よろしく頼むぞ。」


 マウノは、それから1週間で領に戻り、自らの乗船「ヴォレ」号の甲板に立っていた。
 操船所の技術の粋を集めた新鋭艦であり、その性能に満足したマウノは、来たるイスファハーン帝国との戦争での旗艦に指定してたのだ。

「この船を量産できれば水上戦力は向上するのだろうが。」

 それができないことをマウノは、残念に思っている。
 建造に高い技術力と手間を必要とする「ヴォレ」号を量産しようとすれば、他の輸送船の建造スケジュールに影響する。
 必要な船舶を確保し、余裕を見るためにも断念せざるをえなかった。

 残念に思うマウノを乗せ、「ヴォレ」号は港の入り口に差し掛かる。
 そこで一隻の商会の船とすれ違った。

「『ペルル』号か。」

 船の名を読み取ってマウノはつぶやく。
 北方航路に従事している船であることくらいしか、記憶にない。

 船上から商会長であるマウノに敬礼する船員たちに、ぞんざいな答礼をしながらマウノは、進行方向に目を向けた。
 
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