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吉良の過去
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真面目な顔になった吉良に白野は沈黙した。黒江も黙る。蔵良も、卓をたたく手を止めた。
「30年以上前になるな。夏の暑い日だった。」
たまには家族で出かけましょう。妻の主張に吉良はハンドルを握った。
官舎から最寄りの遊園地で閉園まで遊び、帰る途中、ダンプに追突された。
バックミラーに急速に迫るダンプから逃れるべくスピードを上げようとしたが、T字路を曲がるために減速しようとした時追突された。
何もできぬまま、T字路のフェンスとダンプの間で吉良の車は潰された。具体的には後部が。
「『助ける』、苦痛はあったがその一念だった。」
車に食い込んでいるダンプを引きはがし、変形している後部座席のドアを開けようと引っ張ったら取れた。
「声をかけようとして息をのんだよ。妻と子供は後部座席で折り重なっていた。とにかく引き出そうと潰れて邪魔になっている屋根を持ち上げてどかし、子供と妻を引き出し、声をかけたが反応はない。」
「ひょっとしてその時…。」
「あぁ、超能力を使っていたんだろうね。その時は無我夢中だった。下りてきたダンプの運転手に救急車を呼ぶよう言って、駆けつけてきた救急車で病院に私も搬送された。」
「すいません、さっき俺がゴルフクラブで殴ったのになんともなかったのに、なんでその時はダメージがあったんですか?」
「超能力を使っていない時は、普通にダメージを受ける。そのダメージは超能力を使っても消えない。」
「そうですか、すいません、話の腰を折って。」
「酔ったかね。まぁ、いい。結局妻と子は助からなかった。内臓破裂で死亡した。その後警察の捜査やら葬儀やらあったはずだが覚えていない。気がついた時は官舎は広くなっていたよ。」
奥さんと子供の品を整理したんだ。黒江はバッグからハンカチを出し目じりをぬぐった。
「漫画の好きな子だった、生きていれば43くらいか。」
「私のお父さんが45ですから、私たちの親くらいなんですね。」
「そうだな、息子が25で子をなせば、孫は君たちと同級生になるのか。私が大学の後輩だった妻と結婚したのが25だから、ありえないことではないな。」
吉良はビールをあおった。
「年を取ったと痛感するね。世間ではこんな大きな孫のいるのが普通な歳になったか。」
「でも先生、正義のためにまだヤクザと戦う元気があるじゃないですか。まだ、お若いですよ。」
「白野君ありがとう。」
吉良の表情が優しくなった。
「ところで、超能力を使えると自覚した時はいかがでした?」
「黒江ちゃんは、そこが気になるか。今更、だよ。」
「今更、ですか?」
「妻と息子は助からなかった。死んだ後に超能力が使えてもどうにもならん。」
吉良のグラスを握る手に力が入る。握りつぶさないか蔵良は、気になって手をそっとおさえた。
それに気づいた吉良は、力を抜いた。
「職場復帰後、自分の事故の調書を読んだ上で担当官と接触した。担当官は私の車の破損状況がおかしいと言ったよ。例えば私が開けた後部ドア。私は取れたと思っていたが、担当官は重機か何かでもぎ取ったようだと言ったよ。ほかにも車体は一度潰れた後、ジャッキか何かで持ち上げたような変形箇所があると。」
「それで?」
「担当官は、さすがに私が超能力者なんて調書は上げなかった。後部ドアは事故の際破損、車体の変形もうまくぼやかしたものにしていた。ダンプの運転手も弁護士も事実関係で特に争わず、事故は誰も触れることなく粛々と処理されていった。私以外はね。」
「そして、自分の能力に気が付いた。」
「あぁ、『助ける』と強く念じることで発動し、集中する限り持続する。この能力うまく使えばあの事故の時妻と子を助けられたと思わないでもない。」
車を急加速してダンプと距離をとってから、迫るダンプの前に立ちはだかり止める。フロントを持ち上げてタイヤを空転させるとか、横から持ち上げて横転させるなどできたろう。無論、ダンプに衝突してノーダメージではないだろうが、生きて食らいつければなんとかできる、できた。
「だがね、その時できなければ意味は無いのだ。虚しさしかないよ。」
「30年以上前になるな。夏の暑い日だった。」
たまには家族で出かけましょう。妻の主張に吉良はハンドルを握った。
官舎から最寄りの遊園地で閉園まで遊び、帰る途中、ダンプに追突された。
バックミラーに急速に迫るダンプから逃れるべくスピードを上げようとしたが、T字路を曲がるために減速しようとした時追突された。
何もできぬまま、T字路のフェンスとダンプの間で吉良の車は潰された。具体的には後部が。
「『助ける』、苦痛はあったがその一念だった。」
車に食い込んでいるダンプを引きはがし、変形している後部座席のドアを開けようと引っ張ったら取れた。
「声をかけようとして息をのんだよ。妻と子供は後部座席で折り重なっていた。とにかく引き出そうと潰れて邪魔になっている屋根を持ち上げてどかし、子供と妻を引き出し、声をかけたが反応はない。」
「ひょっとしてその時…。」
「あぁ、超能力を使っていたんだろうね。その時は無我夢中だった。下りてきたダンプの運転手に救急車を呼ぶよう言って、駆けつけてきた救急車で病院に私も搬送された。」
「すいません、さっき俺がゴルフクラブで殴ったのになんともなかったのに、なんでその時はダメージがあったんですか?」
「超能力を使っていない時は、普通にダメージを受ける。そのダメージは超能力を使っても消えない。」
「そうですか、すいません、話の腰を折って。」
「酔ったかね。まぁ、いい。結局妻と子は助からなかった。内臓破裂で死亡した。その後警察の捜査やら葬儀やらあったはずだが覚えていない。気がついた時は官舎は広くなっていたよ。」
奥さんと子供の品を整理したんだ。黒江はバッグからハンカチを出し目じりをぬぐった。
「漫画の好きな子だった、生きていれば43くらいか。」
「私のお父さんが45ですから、私たちの親くらいなんですね。」
「そうだな、息子が25で子をなせば、孫は君たちと同級生になるのか。私が大学の後輩だった妻と結婚したのが25だから、ありえないことではないな。」
吉良はビールをあおった。
「年を取ったと痛感するね。世間ではこんな大きな孫のいるのが普通な歳になったか。」
「でも先生、正義のためにまだヤクザと戦う元気があるじゃないですか。まだ、お若いですよ。」
「白野君ありがとう。」
吉良の表情が優しくなった。
「ところで、超能力を使えると自覚した時はいかがでした?」
「黒江ちゃんは、そこが気になるか。今更、だよ。」
「今更、ですか?」
「妻と息子は助からなかった。死んだ後に超能力が使えてもどうにもならん。」
吉良のグラスを握る手に力が入る。握りつぶさないか蔵良は、気になって手をそっとおさえた。
それに気づいた吉良は、力を抜いた。
「職場復帰後、自分の事故の調書を読んだ上で担当官と接触した。担当官は私の車の破損状況がおかしいと言ったよ。例えば私が開けた後部ドア。私は取れたと思っていたが、担当官は重機か何かでもぎ取ったようだと言ったよ。ほかにも車体は一度潰れた後、ジャッキか何かで持ち上げたような変形箇所があると。」
「それで?」
「担当官は、さすがに私が超能力者なんて調書は上げなかった。後部ドアは事故の際破損、車体の変形もうまくぼやかしたものにしていた。ダンプの運転手も弁護士も事実関係で特に争わず、事故は誰も触れることなく粛々と処理されていった。私以外はね。」
「そして、自分の能力に気が付いた。」
「あぁ、『助ける』と強く念じることで発動し、集中する限り持続する。この能力うまく使えばあの事故の時妻と子を助けられたと思わないでもない。」
車を急加速してダンプと距離をとってから、迫るダンプの前に立ちはだかり止める。フロントを持ち上げてタイヤを空転させるとか、横から持ち上げて横転させるなどできたろう。無論、ダンプに衝突してノーダメージではないだろうが、生きて食らいつければなんとかできる、できた。
「だがね、その時できなければ意味は無いのだ。虚しさしかないよ。」
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