21 / 77
帰宅する二人
しおりを挟む
「すいません、つらいことを思い出せたみたいで。」
「気にしなくていい。年寄りは孫をかわいがるものだ。」
「孫ですか。」
「そうだ、さっき言っただろう。息子が生きて子をなせば君たちと同級生だったかもしれんと。そう思うとなんでもしてやろうという気持ちになる。」
吉良の表情は穏やかだった。
「あぁ、もう食べるものが無いじゃないか。蔵良君、料理の追加を頼んでくれ。」
「はい。」
酒は切らさないよう蔵良が適宜注文していた。
「それとそろそろ焼酎のキープを持ってこさせましょうか?」
「そうしてくれ。」
「すいません、申し訳ないのですが、黒江さん、寮の用事があるんですよ。そろそろ失礼したいのですが。」
黒江が、えっ?という表情をするが、白野に目配せされ黙った。
「そうか、新入生に用事をさぼらせるわけにはいかんな。しょうがない。」
「すいません、おいくらでしょうか?」
「馬鹿を言うな。今日は君たちの歓迎会だぞ。君たちに出させるわけにはいかん。」
「しかし…。」
「こういう場では年長者を立てるものだ。御馳走さまだけ言いたまえ。」
「はい、先生、ご馳走さまでした。」
「ありがとうございました、おいしかったです。」
「あぁ、そうだ、明日は土曜だが事務所に昼の1時に来てくれたまえ。今後の話をしたい。」
「わかりました。」
二人は立ち上がった。
「気を付けてな。白野君がいれば大丈夫か。」
「どうでしょう、それが一番ヤバイような気がしますが。」
蔵良は笑いながら黒江に言う。
「お嬢ちゃん、いざという時は『おまわりさんこの人痴漢です』だよ。」
「はい。」
「蔵良さん、もうやめて下さい!」
「ははは、新宿駅へは店を出て右に曲がって大きな通りに出たら左に曲がって進みなさい。高架が見えるから後は酔っていてもわかるだろう。」
「ねぇ、どうして寮の用事なんて嘘ついたの?」
「いや、これ以上呑んで大丈夫かなと思うと怖くなってね。」
黒江には白野が危ないようには見えなかった。足取りはしっかりしている。
「全く飲まなくてもよかったんじゃない。」
「いや、どうせこれから飲まないでやっていくのは無理だろう。どこかで試したかった。先生の言う脳にダメージは負ってるだろうという言葉に背を押されたのは確かだけど。」
「そうか、私も月曜の入学式の後、寮で新入生歓迎会があるんだよね。呑んでみようかな。」
「女子寮でも呑むんだ。」
「うん、チューハイの缶をゴミ捨て場で見かけるよ。」
そんな話をしてるうちに高架が見えてきた。
「人が多いね。」
「都庁が見えたから、公務員とか都の関連の仕事をするサラリーマンとか多そう。」
「これだけ人がいるんだから、まだ他に超能力者がいるんじゃないかな、って思っちゃう。」
「まだ、会いたいんだ。今日2人も会えたのに。十分じゃない?」
「十分なんだけどね。でも、できれば、まだ他の人にも話を聞いてみたい。」
黒江は伸びをした。
「ただ、あの2人は私たちなんかと比べ物にならない状況で目覚めて、その上で受け入れて生きてきてる。別に超能力者であることに悩んでは来たけど、死にたいとか考えたことはない。生活も家も学校も超能力以外は、悩むようなことはあんまりなく幸せに生きてこれた。」
「それは、俺も同じだよ。身近で死んだのは、爺ちゃんだけだ。爺ちゃんも80超えてたからな。学校はいいやつらばっかだった。親父は怖いけど、間違ったことしなけりゃいい親父だ。」
「色んな人生があって、その中で超能力に目覚めて、超能力をどう思うか。色んな考えがあるんだって思う。自分がどうするかは、まだわからないけど。」
新宿駅に入り、切符を買って改札を通る。ちょうどホームに止まっている電車にぎりぎり間に合った。
扉が閉まり、電車が動き始めた。
「いや、間に合った。」
「そうだね…。」
そう言って黒江はうつむいた。
「?」
不思議に思い白野が黒江を改めて見直すと、わずかに震えている。
「どうしたの?」
「なんでもないよ…。」
電車が揺れた。わずかに黒江の体が動く。黒江の後ろに立つ酔ったサラリーマンの左手が見えた。
「てめえ!」
カッとなって、白野は黒江とサラリーマンの間に割り込んだ。黒江を座席と扉の間に押し込みカバーする。
そのままサラリーマンを睨みつけた。
「いいよ、白野さん。」
「いいって。」
小声で言う黒江に気を取られた隙にサラリーマンは、離れていった。追いかけたいが黒江が気になる。
黒江は、白野の上着の背中を握っている。
「大丈夫、大丈夫だから。」
それ以上何も言えず、動けずにいるうちに大学前駅についた。
駅に下り、改札を出ても黒江はうつむいたままだった。
「黒江さん、警察に突き出した方がよかったんじゃ?」
「そうかもしれない。でも怖くて。」
「怖いかもしれないけど、俺もいるし、駅や車内にだって痴漢は勇気も持って訴えろってポスターあるし。」
「うん、そうなんだけど、やっぱり怖かった。白野さんがいなかったらどうなってたか。」
黒江は顔を上げた。やっと顔が見れたと白野は嬉しかった。
「ごめんね、怖いし、恥ずかしくもあった。白野さんが助けてくれたけど、追いかけるの止めたの恥ずかしかったのもある。」
「そうなんだ。」
「さわられた瞬間、頭が真っ白になったよ。何にも考えられなかった。白野さん、助けてくれてありがとう。」
「気にしなくていいよ。たださ、帰り送っていくよ。」
「ありがと。」
「ところでさ、明日はどうする?12時に駅に待ち合わせる?」
「11時半にしましょ。今日案内しようかと思ってたお店でお昼食べていこう。」
その後、2人はたわいもないことをしゃべりながら歩いているうちに寮についた。
「白野さん、送ってくれてありがとう。」
振り返って笑う黒江を白野は、かわいいと思った。
「気にしなくていい。年寄りは孫をかわいがるものだ。」
「孫ですか。」
「そうだ、さっき言っただろう。息子が生きて子をなせば君たちと同級生だったかもしれんと。そう思うとなんでもしてやろうという気持ちになる。」
吉良の表情は穏やかだった。
「あぁ、もう食べるものが無いじゃないか。蔵良君、料理の追加を頼んでくれ。」
「はい。」
酒は切らさないよう蔵良が適宜注文していた。
「それとそろそろ焼酎のキープを持ってこさせましょうか?」
「そうしてくれ。」
「すいません、申し訳ないのですが、黒江さん、寮の用事があるんですよ。そろそろ失礼したいのですが。」
黒江が、えっ?という表情をするが、白野に目配せされ黙った。
「そうか、新入生に用事をさぼらせるわけにはいかんな。しょうがない。」
「すいません、おいくらでしょうか?」
「馬鹿を言うな。今日は君たちの歓迎会だぞ。君たちに出させるわけにはいかん。」
「しかし…。」
「こういう場では年長者を立てるものだ。御馳走さまだけ言いたまえ。」
「はい、先生、ご馳走さまでした。」
「ありがとうございました、おいしかったです。」
「あぁ、そうだ、明日は土曜だが事務所に昼の1時に来てくれたまえ。今後の話をしたい。」
「わかりました。」
二人は立ち上がった。
「気を付けてな。白野君がいれば大丈夫か。」
「どうでしょう、それが一番ヤバイような気がしますが。」
蔵良は笑いながら黒江に言う。
「お嬢ちゃん、いざという時は『おまわりさんこの人痴漢です』だよ。」
「はい。」
「蔵良さん、もうやめて下さい!」
「ははは、新宿駅へは店を出て右に曲がって大きな通りに出たら左に曲がって進みなさい。高架が見えるから後は酔っていてもわかるだろう。」
「ねぇ、どうして寮の用事なんて嘘ついたの?」
「いや、これ以上呑んで大丈夫かなと思うと怖くなってね。」
黒江には白野が危ないようには見えなかった。足取りはしっかりしている。
「全く飲まなくてもよかったんじゃない。」
「いや、どうせこれから飲まないでやっていくのは無理だろう。どこかで試したかった。先生の言う脳にダメージは負ってるだろうという言葉に背を押されたのは確かだけど。」
「そうか、私も月曜の入学式の後、寮で新入生歓迎会があるんだよね。呑んでみようかな。」
「女子寮でも呑むんだ。」
「うん、チューハイの缶をゴミ捨て場で見かけるよ。」
そんな話をしてるうちに高架が見えてきた。
「人が多いね。」
「都庁が見えたから、公務員とか都の関連の仕事をするサラリーマンとか多そう。」
「これだけ人がいるんだから、まだ他に超能力者がいるんじゃないかな、って思っちゃう。」
「まだ、会いたいんだ。今日2人も会えたのに。十分じゃない?」
「十分なんだけどね。でも、できれば、まだ他の人にも話を聞いてみたい。」
黒江は伸びをした。
「ただ、あの2人は私たちなんかと比べ物にならない状況で目覚めて、その上で受け入れて生きてきてる。別に超能力者であることに悩んでは来たけど、死にたいとか考えたことはない。生活も家も学校も超能力以外は、悩むようなことはあんまりなく幸せに生きてこれた。」
「それは、俺も同じだよ。身近で死んだのは、爺ちゃんだけだ。爺ちゃんも80超えてたからな。学校はいいやつらばっかだった。親父は怖いけど、間違ったことしなけりゃいい親父だ。」
「色んな人生があって、その中で超能力に目覚めて、超能力をどう思うか。色んな考えがあるんだって思う。自分がどうするかは、まだわからないけど。」
新宿駅に入り、切符を買って改札を通る。ちょうどホームに止まっている電車にぎりぎり間に合った。
扉が閉まり、電車が動き始めた。
「いや、間に合った。」
「そうだね…。」
そう言って黒江はうつむいた。
「?」
不思議に思い白野が黒江を改めて見直すと、わずかに震えている。
「どうしたの?」
「なんでもないよ…。」
電車が揺れた。わずかに黒江の体が動く。黒江の後ろに立つ酔ったサラリーマンの左手が見えた。
「てめえ!」
カッとなって、白野は黒江とサラリーマンの間に割り込んだ。黒江を座席と扉の間に押し込みカバーする。
そのままサラリーマンを睨みつけた。
「いいよ、白野さん。」
「いいって。」
小声で言う黒江に気を取られた隙にサラリーマンは、離れていった。追いかけたいが黒江が気になる。
黒江は、白野の上着の背中を握っている。
「大丈夫、大丈夫だから。」
それ以上何も言えず、動けずにいるうちに大学前駅についた。
駅に下り、改札を出ても黒江はうつむいたままだった。
「黒江さん、警察に突き出した方がよかったんじゃ?」
「そうかもしれない。でも怖くて。」
「怖いかもしれないけど、俺もいるし、駅や車内にだって痴漢は勇気も持って訴えろってポスターあるし。」
「うん、そうなんだけど、やっぱり怖かった。白野さんがいなかったらどうなってたか。」
黒江は顔を上げた。やっと顔が見れたと白野は嬉しかった。
「ごめんね、怖いし、恥ずかしくもあった。白野さんが助けてくれたけど、追いかけるの止めたの恥ずかしかったのもある。」
「そうなんだ。」
「さわられた瞬間、頭が真っ白になったよ。何にも考えられなかった。白野さん、助けてくれてありがとう。」
「気にしなくていいよ。たださ、帰り送っていくよ。」
「ありがと。」
「ところでさ、明日はどうする?12時に駅に待ち合わせる?」
「11時半にしましょ。今日案内しようかと思ってたお店でお昼食べていこう。」
その後、2人はたわいもないことをしゃべりながら歩いているうちに寮についた。
「白野さん、送ってくれてありがとう。」
振り返って笑う黒江を白野は、かわいいと思った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私は貧しい家に生まれた
お母さんが作ってくれたパイを始めて食べて食の楽しさを知った
メイドとして働くことになれて少しすると美味しそうなパイが出される
王妃様への食事だと分かっていても食べたかった
そんなパイに手を出したが最後、私は王族に気に入られるようになってしまった
私はつまみ食いしただけなんですけど…
碧春
風まかせ三十郎
青春
碧色(へきいろ)。それは表面は澄んでいながら最奥までは見通すことのできない深い碧。毎日のように級友たちと顔を合わせているにも拘わらず、気心の知れた友達ですら、その心の奥底までは見透かすことができない。でも一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、それは深海の底から沸き上がる気泡のように目視できることがある。主人公わたしは電車内で不意に唇を奪われた。それも同じ学校の女生徒に。彼女の名前は瀬名舞子。今日転校してきたばかりの同級生。それ以後、わたしの受験生としての日常は彼女に翻弄されることになる。碧春(へきしゅん)。それはきらめく青春の断片。碧春。それは誰もが抱く永遠の思い出の欠片。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる