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江戸川 和夫
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白野達が、渋谷に向かった後、江戸川と吉良は応接セットで向かい合っていた。
蔵良もlineで甲斐組の住所を送った後、吉良の隣に座っている。
「組事務所に顔を出してきたよ。甲斐の野郎とも話をしてきた。」
「お疲れ様です。」
「今更、組に顔を頻繁に出すことになろうたぁ思わなかったよ。」
「仕方ないでしょう。新星会はあなたが創った組だ。跡目が心不全で急死して未亡人に頼られちゃ、無視もできない。」
「本来なら、儂の出る幕はねえ。阿部の跡目は組の連中が決める。隠居の出番じゃねえんだよ。」
新星会の設立人は湯呑を手にして、2か月前のことを思い出す。
江戸川がヤクザを引退するにあたり組を任せた阿部 真司の急死。その跡目は若頭を務めていた久島 幸助あたりが継ぐかと思えば、組員から若頭補佐の甲斐 史郎を推す声があがり、分裂の様相を呈し始める。
「跡目をめぐって新星会が割れようが儂には、もう関係ねえ話だ。だが、甲斐の野郎だけはヤバイ。あいつをほっとくことだけはできねぇ、って今日会って改めて感じたぜ。跡目を決める選挙を半年後にやるって言っておいてよかったと思う。」
「後4か月後ですね。」
「その4か月で甲斐の野郎をどうにかしなきゃいけねぇ。」
「甲斐も嫌われたものですな。」
「嫌っちゃいねえよ。きな臭く思ってるだけだ。もしあいつが阿部と同世代なら跡目を継がせてる。新井組のためにもそれがいいだろうさ。」
「おや、意外な。新星会の会長にしたと。」
「あいつはそこで収まらず、しまいにゃ本家の跡目争いまでいくだろう。何代目かの新井組組長甲斐史郎。驚きはしねぇ。」
「それなら、跡目を継がせてもいいんじゃないですか?」
「そういう声は、組の外からも出てる。だが、こいつは儂の勘でしかないが、一つ間違うと新星会のみならず、新井組まで傾けかねねえ。そんな気がするんだ。半グレとか言ったか、最近のチンピラどもにチャカを流してるだの、新大久保の在日マフィアや池袋の幇との付き合いの噂もあるのが根拠だがな。」
「噂が根拠の勘ですか。」
「勘さ。だが、こいつに従って儂はヤクザの世界を生き延びた。」
「新井組の直参にならなかったのも勘ですか?」
「そうかもしれねぇな。今の法律見てると引退して正解だったと思うぜ。」
江戸川は過去の栄光を懐かしむ顔になった。3次団体の組長ながら、本家の若頭の懐刀として存在感を示し、本家の運営に参加の要望がかかる中引退。悠々自適の生活を送っていた男は、湯呑の茶をすすった。
「今の法律があるってのも甲斐を危なく思う理由かもな。あの野郎、今時武闘派を目指していやがる。ヤクザ自体が流行らなくなりつつあるってえのが、こんな老いぼれにもわかるってのにな。」
「昔のあなたもそうでした。大学で出会った時、私が1年であなたが8年。学生運動にどっぷりつかり、ヤクザを革命の戦力にするんだとイキこんだあなたは、武闘派だったと思います。」
「言うな。あん時は、まだガキだったんだ。」
江戸川は、苦虫をかみつぶした顔になった。
「ちょいとトイレ借りるぜ。」
「どうぞ。」
江戸川がトイレに入ると蔵良が口を開いた。
「ウソは言ってないんですか?」
「言ってないね。全くの本音だろう。」
返す吉良の声は小さい。蔵良も声を小さくした。
「新星会の跡目争い、どうなるんですかね?」
「さぁね、どうでもいいよ。渋谷発の銃犯罪の増加防止と依頼人の依頼に応えることだけが私の目的さ。」
吉良は湯呑を手にした。
「あの人だって、新星会はどうだっていいと言った。残された余生を安楽に生きたいだけの老人さ。甲斐は、それを脅かしかねないと思っているんだろう。」
lineの着信が鳴った。蔵良はスマホをチェックする。
「先生、お嬢ちゃんから連絡です。甲斐が拳銃を若い男性に突き付けているそうです!」
「なんだって?場所は?」
「聞いてみます。」
lineで「場所は?」と送信する。返事はすぐに帰ってきた。
「事務所の中だそうです!」
「なんじゃね、携帯なんぞいじりおって。」
トイレから出てきた江戸川が咎めてきた。
「いや、今あの子たちから連絡がありまして、甲斐が若い男に拳銃を事務所で突き付けているそうです。」
「なんだと?」
江戸川の目が鋭くなった。
「どういう状況だ?」
「詳細は不明です。」
「電話で聞けねえか?」
「止めておきましょう。あの子たちの状況がわかりません。」
「そうか。そいつはしょうがねぇ。」
江戸川はソファに座った。
「しかし、あの坊主、潜入のような荒事できるようには見えなかったが、儂の目も曇ったかな。あの嬢ちゃんもそういうタイプには見えなかった。ありゃ御両親に大事に育てられた箱入り娘だ。老眼だが、人を見る目だけは、まだまだ大丈夫と思ってたんだがな。」
「黒江ちゃんに関しては間違ってないと思いますよ。」
「そうかい、しかし、お前さんどうやって潜入のようなマネのできるヤツを見つけてくるんだ。」
「それは営業秘密にしろと亡き妻から遺言されております。」
「死んだ嫁の尻にひかれるのが、そんなに自慢かい。」
すました顔の吉良に江戸川は、苦笑で返した。
「状況に変化がありました。甲斐は男を殺しておらず、笑いながら拳銃を渡したそうです。」
「どんな状況の変化だ?」
「ちょっと待って下さい、追伸がありました。『お金を渡す様子は無かった』ときました。」
「チャカを渡して金のやり取りがねえ?全くわからねえな。ただ、男は半グレだろう。半グレにチャカを流しているのは確定したわけだな。」
「金をもらわないだけ、恩を売るつもりかもしれませんな。」
「ただより高いものはないってか。」
「それにしてもあの子たち。」
蔵良は含み笑いの表情になった。
「どうしたい?」
「いえ、ちょっと。」
その時スマホの着信が鳴った。
「先生、甲斐のパソコンのPINコード、ですか。入手成功したそうです。」
「そうか、あの二人下見だけと言っていたのに。」
「仕事が早えのはいいことじゃねえか。」
「そうですね。」
言いながら蔵良はlineでメッセージを送った。
「ご苦労様。ところでさ、今ホテルにいるんでしょ。ゆっくりしておいでw延長しまくっても、なんなら宿泊しても経費で落としたげるよw」
どんな返事が返ってくることやら。
蔵良もlineで甲斐組の住所を送った後、吉良の隣に座っている。
「組事務所に顔を出してきたよ。甲斐の野郎とも話をしてきた。」
「お疲れ様です。」
「今更、組に顔を頻繁に出すことになろうたぁ思わなかったよ。」
「仕方ないでしょう。新星会はあなたが創った組だ。跡目が心不全で急死して未亡人に頼られちゃ、無視もできない。」
「本来なら、儂の出る幕はねえ。阿部の跡目は組の連中が決める。隠居の出番じゃねえんだよ。」
新星会の設立人は湯呑を手にして、2か月前のことを思い出す。
江戸川がヤクザを引退するにあたり組を任せた阿部 真司の急死。その跡目は若頭を務めていた久島 幸助あたりが継ぐかと思えば、組員から若頭補佐の甲斐 史郎を推す声があがり、分裂の様相を呈し始める。
「跡目をめぐって新星会が割れようが儂には、もう関係ねえ話だ。だが、甲斐の野郎だけはヤバイ。あいつをほっとくことだけはできねぇ、って今日会って改めて感じたぜ。跡目を決める選挙を半年後にやるって言っておいてよかったと思う。」
「後4か月後ですね。」
「その4か月で甲斐の野郎をどうにかしなきゃいけねぇ。」
「甲斐も嫌われたものですな。」
「嫌っちゃいねえよ。きな臭く思ってるだけだ。もしあいつが阿部と同世代なら跡目を継がせてる。新井組のためにもそれがいいだろうさ。」
「おや、意外な。新星会の会長にしたと。」
「あいつはそこで収まらず、しまいにゃ本家の跡目争いまでいくだろう。何代目かの新井組組長甲斐史郎。驚きはしねぇ。」
「それなら、跡目を継がせてもいいんじゃないですか?」
「そういう声は、組の外からも出てる。だが、こいつは儂の勘でしかないが、一つ間違うと新星会のみならず、新井組まで傾けかねねえ。そんな気がするんだ。半グレとか言ったか、最近のチンピラどもにチャカを流してるだの、新大久保の在日マフィアや池袋の幇との付き合いの噂もあるのが根拠だがな。」
「噂が根拠の勘ですか。」
「勘さ。だが、こいつに従って儂はヤクザの世界を生き延びた。」
「新井組の直参にならなかったのも勘ですか?」
「そうかもしれねぇな。今の法律見てると引退して正解だったと思うぜ。」
江戸川は過去の栄光を懐かしむ顔になった。3次団体の組長ながら、本家の若頭の懐刀として存在感を示し、本家の運営に参加の要望がかかる中引退。悠々自適の生活を送っていた男は、湯呑の茶をすすった。
「今の法律があるってのも甲斐を危なく思う理由かもな。あの野郎、今時武闘派を目指していやがる。ヤクザ自体が流行らなくなりつつあるってえのが、こんな老いぼれにもわかるってのにな。」
「昔のあなたもそうでした。大学で出会った時、私が1年であなたが8年。学生運動にどっぷりつかり、ヤクザを革命の戦力にするんだとイキこんだあなたは、武闘派だったと思います。」
「言うな。あん時は、まだガキだったんだ。」
江戸川は、苦虫をかみつぶした顔になった。
「ちょいとトイレ借りるぜ。」
「どうぞ。」
江戸川がトイレに入ると蔵良が口を開いた。
「ウソは言ってないんですか?」
「言ってないね。全くの本音だろう。」
返す吉良の声は小さい。蔵良も声を小さくした。
「新星会の跡目争い、どうなるんですかね?」
「さぁね、どうでもいいよ。渋谷発の銃犯罪の増加防止と依頼人の依頼に応えることだけが私の目的さ。」
吉良は湯呑を手にした。
「あの人だって、新星会はどうだっていいと言った。残された余生を安楽に生きたいだけの老人さ。甲斐は、それを脅かしかねないと思っているんだろう。」
lineの着信が鳴った。蔵良はスマホをチェックする。
「先生、お嬢ちゃんから連絡です。甲斐が拳銃を若い男性に突き付けているそうです!」
「なんだって?場所は?」
「聞いてみます。」
lineで「場所は?」と送信する。返事はすぐに帰ってきた。
「事務所の中だそうです!」
「なんじゃね、携帯なんぞいじりおって。」
トイレから出てきた江戸川が咎めてきた。
「いや、今あの子たちから連絡がありまして、甲斐が若い男に拳銃を事務所で突き付けているそうです。」
「なんだと?」
江戸川の目が鋭くなった。
「どういう状況だ?」
「詳細は不明です。」
「電話で聞けねえか?」
「止めておきましょう。あの子たちの状況がわかりません。」
「そうか。そいつはしょうがねぇ。」
江戸川はソファに座った。
「しかし、あの坊主、潜入のような荒事できるようには見えなかったが、儂の目も曇ったかな。あの嬢ちゃんもそういうタイプには見えなかった。ありゃ御両親に大事に育てられた箱入り娘だ。老眼だが、人を見る目だけは、まだまだ大丈夫と思ってたんだがな。」
「黒江ちゃんに関しては間違ってないと思いますよ。」
「そうかい、しかし、お前さんどうやって潜入のようなマネのできるヤツを見つけてくるんだ。」
「それは営業秘密にしろと亡き妻から遺言されております。」
「死んだ嫁の尻にひかれるのが、そんなに自慢かい。」
すました顔の吉良に江戸川は、苦笑で返した。
「状況に変化がありました。甲斐は男を殺しておらず、笑いながら拳銃を渡したそうです。」
「どんな状況の変化だ?」
「ちょっと待って下さい、追伸がありました。『お金を渡す様子は無かった』ときました。」
「チャカを渡して金のやり取りがねえ?全くわからねえな。ただ、男は半グレだろう。半グレにチャカを流しているのは確定したわけだな。」
「金をもらわないだけ、恩を売るつもりかもしれませんな。」
「ただより高いものはないってか。」
「それにしてもあの子たち。」
蔵良は含み笑いの表情になった。
「どうしたい?」
「いえ、ちょっと。」
その時スマホの着信が鳴った。
「先生、甲斐のパソコンのPINコード、ですか。入手成功したそうです。」
「そうか、あの二人下見だけと言っていたのに。」
「仕事が早えのはいいことじゃねえか。」
「そうですね。」
言いながら蔵良はlineでメッセージを送った。
「ご苦労様。ところでさ、今ホテルにいるんでしょ。ゆっくりしておいでw延長しまくっても、なんなら宿泊しても経費で落としたげるよw」
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