40 / 77
ヤクザの事情
しおりを挟む
本座にスタンディングヘッドロックからのフライングメイヤーを決めてから、甲斐は宣言した。
「お前ら、今日は朝から、灰野総長が来て気疲れしたじゃろ。気晴らしに遊んで来い。幸い、金はある。」
立ち上がった本座に、灰野からの金を渡した。
「今日一日自由に遊んで来い。本座、お前が責任もって皆を連れて帰って来いよ。」
「わかりました。親父は?」
「俺も気疲れした。正直、気力も残っとらん。寝かせてくれ。」
そう言って甲斐は、階段を昇った。
「副組長は?」
「組長が寝込んで、お前たちが遊びに行って、誰が留守番をするんだ?」
「あ、えっと…。」
「組長が遊びに行けと命じたんだ。お前たちはさっさと遊んで来い!」
「し、しかし。」
「口答えすんな!とっとと行け!」
「はいっ!」
皆が出かけた後、姫乃が一人事務所で待ったのは3分だった。
「姫乃、食堂でコーヒーでも飲もう。」
寝かせてくれ、と言ったはずの甲斐が降りてきた。
静かな食堂にコーヒーの香りが漂う。
「今日は朝からお疲れさまでした。」
「あぁ、まさか総長が直々に来るとは思ってもなかったぜ。」
「それだけ、あなたが存在感を発揮しているということです。」
「前も言った通りなんじゃがの。俺は、今は基盤固めに専念したい。」
「そう言っても認めてもらえないでしょう。新星会を運営しつつ、基盤を固めろ。それで終わりです。」
「それならいいがの。俺の構想を破棄させられるかもしれん。『使用者責任』でパクられるリスクは、避けたいのは誰も同じ。俺の構想を完成させる中での抗争が発生する可能性がある以上、それを避けたいだろう。」
甲斐の構想を遂行する中で、半グレを取り合う可能性がある。それが抗争に発展する可能性もある。甲斐は承知の上でやっているが、上の人間が承知してくれるかは不明だ。
「やっかいな言葉ですね。俺もその言葉で、ヤクザとしての矜持を捨てさせられるところでしたから。」
姫乃は、生まれ育った関西を捨てた事件を思い出していた。
縄張りでの喧嘩を仲裁しようと姫乃は、歓楽街に出向いた。だが、喧嘩の一方が仲間を呼び10人に膨れ上がった。
もう一方も、仲裁しようとする姫乃もまとめて叩きのめされた。空手をやり腕に自信はあったが、数の暴力には勝てなかった。
しかし、負けたままでは面子に関わる。姫乃はやり返すべく組事務所で警棒などの凶器を準備していると、親分である組長に止められた。『使用者責任』での逮捕を組長は恐れ、姫乃にやり返さぬよう命じた。
何度かの言葉の応酬の末、姫乃は盃を組長に返した。
「これで親でもなければ子でもない!」
そう言い捨てて事務所を飛び出した。酔っぱらっていた10人を見つけ、全員這いつくばらせた。
そのまま、始発の新幹線であてもなく上京。いつの間にか甲斐と知り合い、盃を交わし舎弟となっていた。
「後5年、いや3年あればな。」
あるはずだった。先代が急死せず跡目争いが無ければ、こんなに状況は急変していないだろう。4次団体の長という目立ちにくいポジションでヤクザを頂点として半グレを仕切るシステムを作り上げる。
今だってかなりうまくいっている。3つの半グレのグループを支配下に置いた。そのグループも別のグループを支配下に置いている。上納金は増える一方だ。
「借金だって耳をそろえて返し終わってるはずだった。中国系や韓国系との関係も清算して、堂々と上を狙うつもりだったんだ。」
「中国系や韓国系からの借金ですね。」
新井組の不文律、外国の組織との深い関係の禁止に抵触する可能性があることを姫乃は口にした。
「あぁ、あの人は違うと思っているのか、あえて無視しようとしているのかはわからんが、上で活動すれば、どこかでバレる恐れがある。そうなれば、ヤバいことになる。」
「ただの金銭での付き合いと主張しては?」
「それが通ればいいが前例がないからの。前に幇に組の情報を流していた奴は、絶縁じゃったが。」
「組の情報を売ったわけではありません。その辺りはキチンと主張すべきでしょう。」
「まぁ、まだ、バレると決まったわけじゃないからの。」
「そうですが、新星会の跡目を継げばあなたの資金源に関する人間も増えます。ましてや、あなたのことを快く思う人間ばかりでない。」
「そうなんじゃよな。」
秘密を共有する人間は少ないに限る。全員遊びに行くようにしたのは、こうして姫乃と密談するためなのだから。本座たちを信用してないわけではないが、秘密はどう漏れるかわからない。細心の注意が必要だった。
「選挙に負ければいいが、灰野総長が納得するよう全力を尽くさねばならん。尽くしても負けるかもしれんが。」
「負けた場合、あなたを直接子にする可能性がありますね。あなたを懐刀にするために。」
「子になるのは構わんが、その場合、先代の舎弟方の一部がうちに来る可能性がある。受け入れないわけにはいかんだろうし、受け入れて肩書を与えんわけにもいかん。運営にかかわる人間が増えるのは、今はまずい。」
「どうしたものでしょうか。 」
「一つ考えているのは、お前に甲斐組を任せる。さすがに、お前の下に着くという舎弟方はいないだろうから、秘密は守れる。」
「組長は?」
「勝った場合は新星会の運営に専念、負けて灰野総長の子になった場合は、一組員として総長の下で勉強すると言う。」
「そんなところでしょうか。」
「そうするしかあるまい。出世は望むべきことなんだが。」
「負けて現状維持がベストですか。妙な話ですな。」
「そうだな。」
甲斐は立ち上がりカップにコーヒーを注いだ。
「お前ら、今日は朝から、灰野総長が来て気疲れしたじゃろ。気晴らしに遊んで来い。幸い、金はある。」
立ち上がった本座に、灰野からの金を渡した。
「今日一日自由に遊んで来い。本座、お前が責任もって皆を連れて帰って来いよ。」
「わかりました。親父は?」
「俺も気疲れした。正直、気力も残っとらん。寝かせてくれ。」
そう言って甲斐は、階段を昇った。
「副組長は?」
「組長が寝込んで、お前たちが遊びに行って、誰が留守番をするんだ?」
「あ、えっと…。」
「組長が遊びに行けと命じたんだ。お前たちはさっさと遊んで来い!」
「し、しかし。」
「口答えすんな!とっとと行け!」
「はいっ!」
皆が出かけた後、姫乃が一人事務所で待ったのは3分だった。
「姫乃、食堂でコーヒーでも飲もう。」
寝かせてくれ、と言ったはずの甲斐が降りてきた。
静かな食堂にコーヒーの香りが漂う。
「今日は朝からお疲れさまでした。」
「あぁ、まさか総長が直々に来るとは思ってもなかったぜ。」
「それだけ、あなたが存在感を発揮しているということです。」
「前も言った通りなんじゃがの。俺は、今は基盤固めに専念したい。」
「そう言っても認めてもらえないでしょう。新星会を運営しつつ、基盤を固めろ。それで終わりです。」
「それならいいがの。俺の構想を破棄させられるかもしれん。『使用者責任』でパクられるリスクは、避けたいのは誰も同じ。俺の構想を完成させる中での抗争が発生する可能性がある以上、それを避けたいだろう。」
甲斐の構想を遂行する中で、半グレを取り合う可能性がある。それが抗争に発展する可能性もある。甲斐は承知の上でやっているが、上の人間が承知してくれるかは不明だ。
「やっかいな言葉ですね。俺もその言葉で、ヤクザとしての矜持を捨てさせられるところでしたから。」
姫乃は、生まれ育った関西を捨てた事件を思い出していた。
縄張りでの喧嘩を仲裁しようと姫乃は、歓楽街に出向いた。だが、喧嘩の一方が仲間を呼び10人に膨れ上がった。
もう一方も、仲裁しようとする姫乃もまとめて叩きのめされた。空手をやり腕に自信はあったが、数の暴力には勝てなかった。
しかし、負けたままでは面子に関わる。姫乃はやり返すべく組事務所で警棒などの凶器を準備していると、親分である組長に止められた。『使用者責任』での逮捕を組長は恐れ、姫乃にやり返さぬよう命じた。
何度かの言葉の応酬の末、姫乃は盃を組長に返した。
「これで親でもなければ子でもない!」
そう言い捨てて事務所を飛び出した。酔っぱらっていた10人を見つけ、全員這いつくばらせた。
そのまま、始発の新幹線であてもなく上京。いつの間にか甲斐と知り合い、盃を交わし舎弟となっていた。
「後5年、いや3年あればな。」
あるはずだった。先代が急死せず跡目争いが無ければ、こんなに状況は急変していないだろう。4次団体の長という目立ちにくいポジションでヤクザを頂点として半グレを仕切るシステムを作り上げる。
今だってかなりうまくいっている。3つの半グレのグループを支配下に置いた。そのグループも別のグループを支配下に置いている。上納金は増える一方だ。
「借金だって耳をそろえて返し終わってるはずだった。中国系や韓国系との関係も清算して、堂々と上を狙うつもりだったんだ。」
「中国系や韓国系からの借金ですね。」
新井組の不文律、外国の組織との深い関係の禁止に抵触する可能性があることを姫乃は口にした。
「あぁ、あの人は違うと思っているのか、あえて無視しようとしているのかはわからんが、上で活動すれば、どこかでバレる恐れがある。そうなれば、ヤバいことになる。」
「ただの金銭での付き合いと主張しては?」
「それが通ればいいが前例がないからの。前に幇に組の情報を流していた奴は、絶縁じゃったが。」
「組の情報を売ったわけではありません。その辺りはキチンと主張すべきでしょう。」
「まぁ、まだ、バレると決まったわけじゃないからの。」
「そうですが、新星会の跡目を継げばあなたの資金源に関する人間も増えます。ましてや、あなたのことを快く思う人間ばかりでない。」
「そうなんじゃよな。」
秘密を共有する人間は少ないに限る。全員遊びに行くようにしたのは、こうして姫乃と密談するためなのだから。本座たちを信用してないわけではないが、秘密はどう漏れるかわからない。細心の注意が必要だった。
「選挙に負ければいいが、灰野総長が納得するよう全力を尽くさねばならん。尽くしても負けるかもしれんが。」
「負けた場合、あなたを直接子にする可能性がありますね。あなたを懐刀にするために。」
「子になるのは構わんが、その場合、先代の舎弟方の一部がうちに来る可能性がある。受け入れないわけにはいかんだろうし、受け入れて肩書を与えんわけにもいかん。運営にかかわる人間が増えるのは、今はまずい。」
「どうしたものでしょうか。 」
「一つ考えているのは、お前に甲斐組を任せる。さすがに、お前の下に着くという舎弟方はいないだろうから、秘密は守れる。」
「組長は?」
「勝った場合は新星会の運営に専念、負けて灰野総長の子になった場合は、一組員として総長の下で勉強すると言う。」
「そんなところでしょうか。」
「そうするしかあるまい。出世は望むべきことなんだが。」
「負けて現状維持がベストですか。妙な話ですな。」
「そうだな。」
甲斐は立ち上がりカップにコーヒーを注いだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
【完結】かみなりのむすめ。
みやこ嬢
キャラ文芸
【2022年2月5日完結、全95話】
少女に宿る七つの光。
それは守護霊や悪霊などではなく、彼女の魂に執着する守り神のような存在だった。
***
榊之宮夕月(さかきのみや・ゆうづき)は田舎の中学に通う平凡でお人好しな女の子。
夢は『可愛いおばあちゃんになること』!
しかし、ある日を境に日常が崩壊してしまう。
虚弱体質の兄、榊之宮朝陽(さかきのみや・あさひ)。謎多き転校生、八十神時哉(やそがみ・ときや)。そして、夕月に宿る喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲の七つの魂。
夕月のささやかな願いは叶うのか。
***
怪異、神様、友情、恋愛。
春の田舎町を舞台に巻き起こる不思議。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる