46 / 77
お説教(2)
しおりを挟む
「蔵良君、そろそろ白野君からどいてあげたまえ。」
「座り心地がいいんですけどねぇ。坊や、私のお尻の感触はどう?」
「なんともありません、すいませんがどいてくれませんか?」
「あら、愛想がないわね。」
そういいながら蔵良は立ち上がった。
吉良が手を差し伸べてくる。白野はその手を握った。「パワードスーツ」は発動しておらず、握り返す手の力は普通だった。
立ち上がり、服の埃をはらった。
「あたしは、痩せてるからねぇ、お嬢ちゃんみたいな肉付きのいい方が好みかい?」
白野がつい、黒江のスーツの後姿を思い出したのは仕方ないことかもしれない。
「お嬢ちゃんのお尻のことでも考えてる?」
「考えてません!」
「白野君、赤く光ってるな。」
「~~っ!」
「くっくっく。」
蔵良は、吹き出していた。吉良はすました顔だ。
「ま、このように嘘をついたら赤く光るのを利用して一種の自供をとり、そこから捜査を時に強引に進めていたのが、検事時代の私だった。」
「そして、奥さんと子供さんを殺された。」
「さっきの会話を聞いた以上わかるか。そうだ。事故当時、私は公共事業の入札に関する収賄事件の捜査を指揮していた。役所やゼネコンの関係する人間の事情聴取を行い、贈賄の事実を突き止めた。だが、まだ物証を得ていなかった。物証を得るため、強引に家宅捜査の令状を取るなどして捜査を進めていた。」
「それに対する妨害として事故を起こしたと?」
「警告のつもりだったらしい。捜査に手心を加えないと再度事故が起こるかもしれませんというゼネコンにつながるヤクザからの、ね。」
「ひどい話だ。」
「私は職場復帰後、さらに強引に捜査を進め収賄事件の全容を明らかにするとともに、仕掛けたヤクザを破滅に追い込んだ。」
「どうやってですか?」
「そのヤクザを別件で逮捕させた。難しくはなかった。幸いなことに1回だけだが覚せい剤に手を出していたからね。その後所属する組の組長の愛人に手を出していたことをリークしてやった。」
「それだけですか?」
「それだけだがね。君は意外に思うかもしれないが、ヤクザは覚せい剤を扱うことを表向きは違法としている。表向きだけだが、これを理由にそのヤクザは破門された。」
「そうなるとどうなるんですか?」
「どこの組にも相手にしてもらえない。破門した組は全国のヤクザに組織関わらず回状を回し、誰それをこのような理由で破門しました、と知らせるからね。そんな人間を相手にしないのはヤクザの慣習だ。別の組にも入れず、まともな仕事に就くのも難しい。そんなヤクザがどうなるか。」
生きる限り苦しむということか。
「それにしても、その事故を再捜査させて、ヤクザの関与を暴く方がよかったんじゃないですか?」
「自身が関連する事件には関われないのだよ。収賄事件の捜査からも外されただろうし、事故の際調査の中で不審な点を再調査されたくもなかった。妻や子には、黒幕の不幸で勘弁してもらうしかない。」
「ダンプの運転手は?復讐しないのですか?」
「後日、自殺した。私には真相を書いた手紙を送ってきた。殺すつもりはありませんでした、ヤクザからも軽くぶつけるだけにしろと言われてましたが、失敗しましたとあった。これを握り潰し、ただの事故にすることで無視した形にしたのがせめてもの復讐か。」
「なぜ、あの日そのことを教えてくれなかったのですか?」
「さすがに、ここまでどす黒い自分を見せたくなかった。」
吉良の表情は苦々しげだった。自身のどす黒さに改めて向き合ったからだろう。
「私は復讐に手を染めた。全ては、自身が強引な捜査をしていたからだ。」
「相手だって不法だったじゃないですか。」
「そうだ、だがその摘発の理由が私欲であるというのが問題なのだ。妻子を守れなかった恨みのためだけにヤクザを破滅させ、運転手の最後の願いも無視した。君は、銃犯罪を未然に防ぐという大義なら行動するが、江戸川さんの私情に基づく行動は拒絶した。それは正しい。願わくば正しくあり続けてもらいたい。これは、あり続けられなかった年寄りのわがままだがね。」
「だから、反撃に備えよ、と?」
「そうだ、私は愛する妻子を守れなかった。君には守り抜いてもらいたい。黒江ちゃんのこと好きだろう。」
「……はい。」
「ならば守り抜き、正しい道を行けるような人間になりたまえ。正義という美酒を味わえても酔うことは許されない苦しい道ではあるがね。経験者として君を鍛えよう。」
これからは、自分のなしたことに満足はしても、愛する人を守るためにすぐに捨てなければならない。そんな人生だと吉良は語ったことを白野は悟った。
白野は、大きく息を吐いた。
両肩に過去の自分が考えもしていなかった重いものが乗ったことを知った。
「もし、苦しければまだ間に合う。逃げても構わない。」
「いえ、逃げませんよ。黒江さんに言ったんです。正義の味方になれなくても超能力を人の役に立てるって。ただ、それは自分で考えている以上に重いことだったんだなって認識して。黒江さんに嘘はつきたくない。」
「それならね、坊や……。」
白野の携帯が鳴った。
「黒江さんからだ、歓迎会の最中だろうに。」
「出たまえ。」
言われるまでもない。応答のボタンをタップする。
「あ、もしもし黒江ですけど。今大丈夫?」
黒江の声が、白野には清涼剤のように感じられた。
「ああ、大丈夫だけど、黒江さん歓迎会じゃ?」
「そうだけど、白野さん合コンの幹事お願いできない、っていうか一緒にやろ。」
「合コン?」
視界の片隅で蔵良がにやっと笑うのが見えた。
「そう、女子寮の人とやろ。」
「いいけど、急にどうしたの?」
「いや、話してて合コンをやることになっちゃって、一緒に幹事やろ。」
「うん、まぁいいけど。」
「じゃあ一緒に幹事やろうね。決まりだよ。」
「わかった、先生たちと話があるから、明日また電話するね。」
「うん、じゃあ頑張ってね。」
電話は切れた。
「なんだい、坊や、合コンだって?」
「はい、歓迎会で話をしててやることになって、一緒に幹事やろうと。」
「ふぅ~ん。」
「なんですか?」
「こりゃ、あんた見限られたかもね。」
「そんな、超能力者として付き合えるのは、ここにいる人間だけなんですよ、見限られるなんて。」
「そりゃ超能力者仲間としては付き合えるかもしれないけど、男と女としては、また別かもね。」
「座り心地がいいんですけどねぇ。坊や、私のお尻の感触はどう?」
「なんともありません、すいませんがどいてくれませんか?」
「あら、愛想がないわね。」
そういいながら蔵良は立ち上がった。
吉良が手を差し伸べてくる。白野はその手を握った。「パワードスーツ」は発動しておらず、握り返す手の力は普通だった。
立ち上がり、服の埃をはらった。
「あたしは、痩せてるからねぇ、お嬢ちゃんみたいな肉付きのいい方が好みかい?」
白野がつい、黒江のスーツの後姿を思い出したのは仕方ないことかもしれない。
「お嬢ちゃんのお尻のことでも考えてる?」
「考えてません!」
「白野君、赤く光ってるな。」
「~~っ!」
「くっくっく。」
蔵良は、吹き出していた。吉良はすました顔だ。
「ま、このように嘘をついたら赤く光るのを利用して一種の自供をとり、そこから捜査を時に強引に進めていたのが、検事時代の私だった。」
「そして、奥さんと子供さんを殺された。」
「さっきの会話を聞いた以上わかるか。そうだ。事故当時、私は公共事業の入札に関する収賄事件の捜査を指揮していた。役所やゼネコンの関係する人間の事情聴取を行い、贈賄の事実を突き止めた。だが、まだ物証を得ていなかった。物証を得るため、強引に家宅捜査の令状を取るなどして捜査を進めていた。」
「それに対する妨害として事故を起こしたと?」
「警告のつもりだったらしい。捜査に手心を加えないと再度事故が起こるかもしれませんというゼネコンにつながるヤクザからの、ね。」
「ひどい話だ。」
「私は職場復帰後、さらに強引に捜査を進め収賄事件の全容を明らかにするとともに、仕掛けたヤクザを破滅に追い込んだ。」
「どうやってですか?」
「そのヤクザを別件で逮捕させた。難しくはなかった。幸いなことに1回だけだが覚せい剤に手を出していたからね。その後所属する組の組長の愛人に手を出していたことをリークしてやった。」
「それだけですか?」
「それだけだがね。君は意外に思うかもしれないが、ヤクザは覚せい剤を扱うことを表向きは違法としている。表向きだけだが、これを理由にそのヤクザは破門された。」
「そうなるとどうなるんですか?」
「どこの組にも相手にしてもらえない。破門した組は全国のヤクザに組織関わらず回状を回し、誰それをこのような理由で破門しました、と知らせるからね。そんな人間を相手にしないのはヤクザの慣習だ。別の組にも入れず、まともな仕事に就くのも難しい。そんなヤクザがどうなるか。」
生きる限り苦しむということか。
「それにしても、その事故を再捜査させて、ヤクザの関与を暴く方がよかったんじゃないですか?」
「自身が関連する事件には関われないのだよ。収賄事件の捜査からも外されただろうし、事故の際調査の中で不審な点を再調査されたくもなかった。妻や子には、黒幕の不幸で勘弁してもらうしかない。」
「ダンプの運転手は?復讐しないのですか?」
「後日、自殺した。私には真相を書いた手紙を送ってきた。殺すつもりはありませんでした、ヤクザからも軽くぶつけるだけにしろと言われてましたが、失敗しましたとあった。これを握り潰し、ただの事故にすることで無視した形にしたのがせめてもの復讐か。」
「なぜ、あの日そのことを教えてくれなかったのですか?」
「さすがに、ここまでどす黒い自分を見せたくなかった。」
吉良の表情は苦々しげだった。自身のどす黒さに改めて向き合ったからだろう。
「私は復讐に手を染めた。全ては、自身が強引な捜査をしていたからだ。」
「相手だって不法だったじゃないですか。」
「そうだ、だがその摘発の理由が私欲であるというのが問題なのだ。妻子を守れなかった恨みのためだけにヤクザを破滅させ、運転手の最後の願いも無視した。君は、銃犯罪を未然に防ぐという大義なら行動するが、江戸川さんの私情に基づく行動は拒絶した。それは正しい。願わくば正しくあり続けてもらいたい。これは、あり続けられなかった年寄りのわがままだがね。」
「だから、反撃に備えよ、と?」
「そうだ、私は愛する妻子を守れなかった。君には守り抜いてもらいたい。黒江ちゃんのこと好きだろう。」
「……はい。」
「ならば守り抜き、正しい道を行けるような人間になりたまえ。正義という美酒を味わえても酔うことは許されない苦しい道ではあるがね。経験者として君を鍛えよう。」
これからは、自分のなしたことに満足はしても、愛する人を守るためにすぐに捨てなければならない。そんな人生だと吉良は語ったことを白野は悟った。
白野は、大きく息を吐いた。
両肩に過去の自分が考えもしていなかった重いものが乗ったことを知った。
「もし、苦しければまだ間に合う。逃げても構わない。」
「いえ、逃げませんよ。黒江さんに言ったんです。正義の味方になれなくても超能力を人の役に立てるって。ただ、それは自分で考えている以上に重いことだったんだなって認識して。黒江さんに嘘はつきたくない。」
「それならね、坊や……。」
白野の携帯が鳴った。
「黒江さんからだ、歓迎会の最中だろうに。」
「出たまえ。」
言われるまでもない。応答のボタンをタップする。
「あ、もしもし黒江ですけど。今大丈夫?」
黒江の声が、白野には清涼剤のように感じられた。
「ああ、大丈夫だけど、黒江さん歓迎会じゃ?」
「そうだけど、白野さん合コンの幹事お願いできない、っていうか一緒にやろ。」
「合コン?」
視界の片隅で蔵良がにやっと笑うのが見えた。
「そう、女子寮の人とやろ。」
「いいけど、急にどうしたの?」
「いや、話してて合コンをやることになっちゃって、一緒に幹事やろ。」
「うん、まぁいいけど。」
「じゃあ一緒に幹事やろうね。決まりだよ。」
「わかった、先生たちと話があるから、明日また電話するね。」
「うん、じゃあ頑張ってね。」
電話は切れた。
「なんだい、坊や、合コンだって?」
「はい、歓迎会で話をしててやることになって、一緒に幹事やろうと。」
「ふぅ~ん。」
「なんですか?」
「こりゃ、あんた見限られたかもね。」
「そんな、超能力者として付き合えるのは、ここにいる人間だけなんですよ、見限られるなんて。」
「そりゃ超能力者仲間としては付き合えるかもしれないけど、男と女としては、また別かもね。」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
【完結】かみなりのむすめ。
みやこ嬢
キャラ文芸
【2022年2月5日完結、全95話】
少女に宿る七つの光。
それは守護霊や悪霊などではなく、彼女の魂に執着する守り神のような存在だった。
***
榊之宮夕月(さかきのみや・ゆうづき)は田舎の中学に通う平凡でお人好しな女の子。
夢は『可愛いおばあちゃんになること』!
しかし、ある日を境に日常が崩壊してしまう。
虚弱体質の兄、榊之宮朝陽(さかきのみや・あさひ)。謎多き転校生、八十神時哉(やそがみ・ときや)。そして、夕月に宿る喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲の七つの魂。
夕月のささやかな願いは叶うのか。
***
怪異、神様、友情、恋愛。
春の田舎町を舞台に巻き起こる不思議。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる