おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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お説教(2)

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「蔵良君、そろそろ白野君からどいてあげたまえ。」
「座り心地がいいんですけどねぇ。坊や、私のお尻の感触はどう?」
「なんともありません、すいませんがどいてくれませんか?」
「あら、愛想がないわね。」
 そういいながら蔵良は立ち上がった。
 吉良が手を差し伸べてくる。白野はその手を握った。「パワードスーツ」は発動しておらず、握り返す手の力は普通だった。
 立ち上がり、服の埃をはらった。
「あたしは、痩せてるからねぇ、お嬢ちゃんみたいな肉付きのいい方が好みかい?」
 白野がつい、黒江のスーツの後姿を思い出したのは仕方ないことかもしれない。
「お嬢ちゃんのお尻のことでも考えてる?」
「考えてません!」
「白野君、赤く光ってるな。」
「~~っ!」
「くっくっく。」
 蔵良は、吹き出していた。吉良はすました顔だ。
「ま、このように嘘をついたら赤く光るのを利用して一種の自供をとり、そこから捜査を時に強引に進めていたのが、検事時代の私だった。」
「そして、奥さんと子供さんを殺された。」
「さっきの会話を聞いた以上わかるか。そうだ。事故当時、私は公共事業の入札に関する収賄事件の捜査を指揮していた。役所やゼネコンの関係する人間の事情聴取を行い、贈賄の事実を突き止めた。だが、まだ物証を得ていなかった。物証を得るため、強引に家宅捜査の令状を取るなどして捜査を進めていた。」
「それに対する妨害として事故を起こしたと?」
「警告のつもりだったらしい。捜査に手心を加えないと再度事故が起こるかもしれませんというゼネコンにつながるヤクザからの、ね。」
「ひどい話だ。」
「私は職場復帰後、さらに強引に捜査を進め収賄事件の全容を明らかにするとともに、仕掛けたヤクザを破滅に追い込んだ。」
「どうやってですか?」
「そのヤクザを別件で逮捕させた。難しくはなかった。幸いなことに1回だけだが覚せい剤に手を出していたからね。その後所属する組の組長の愛人に手を出していたことをリークしてやった。」
「それだけですか?」
「それだけだがね。君は意外に思うかもしれないが、ヤクザは覚せい剤を扱うことを表向きは違法としている。表向きだけだが、これを理由にそのヤクザは破門された。」
「そうなるとどうなるんですか?」
「どこの組にも相手にしてもらえない。破門した組は全国のヤクザに組織関わらず回状を回し、誰それをこのような理由で破門しました、と知らせるからね。そんな人間を相手にしないのはヤクザの慣習だ。別の組にも入れず、まともな仕事に就くのも難しい。そんなヤクザがどうなるか。」
 生きる限り苦しむということか。
「それにしても、その事故を再捜査させて、ヤクザの関与を暴く方がよかったんじゃないですか?」
「自身が関連する事件には関われないのだよ。収賄事件の捜査からも外されただろうし、事故の際調査の中で不審な点を再調査されたくもなかった。妻や子には、黒幕の不幸で勘弁してもらうしかない。」
「ダンプの運転手は?復讐しないのですか?」
「後日、自殺した。私には真相を書いた手紙を送ってきた。殺すつもりはありませんでした、ヤクザからも軽くぶつけるだけにしろと言われてましたが、失敗しましたとあった。これを握り潰し、ただの事故にすることで無視した形にしたのがせめてもの復讐か。」
「なぜ、あの日そのことを教えてくれなかったのですか?」
「さすがに、ここまでどす黒い自分を見せたくなかった。」
 吉良の表情は苦々しげだった。自身のどす黒さに改めて向き合ったからだろう。
「私は復讐に手を染めた。全ては、自身が強引な捜査をしていたからだ。」
「相手だって不法だったじゃないですか。」
「そうだ、だがその摘発の理由が私欲であるというのが問題なのだ。妻子を守れなかった恨みのためだけにヤクザを破滅させ、運転手の最後の願いも無視した。君は、銃犯罪を未然に防ぐという大義なら行動するが、江戸川さんの私情に基づく行動は拒絶した。それは正しい。願わくば正しくあり続けてもらいたい。これは、あり続けられなかった年寄りのわがままだがね。」
「だから、反撃に備えよ、と?」
「そうだ、私は愛する妻子を守れなかった。君には守り抜いてもらいたい。黒江ちゃんのこと好きだろう。」
「……はい。」
「ならば守り抜き、正しい道を行けるような人間になりたまえ。正義という美酒を味わえても酔うことは許されない苦しい道ではあるがね。経験者として君を鍛えよう。」
 これからは、自分のなしたことに満足はしても、愛する人を守るためにすぐに捨てなければならない。そんな人生だと吉良は語ったことを白野は悟った。
 白野は、大きく息を吐いた。
 両肩に過去の自分が考えもしていなかった重いものが乗ったことを知った。
「もし、苦しければまだ間に合う。逃げても構わない。」
「いえ、逃げませんよ。黒江さんに言ったんです。正義の味方になれなくても超能力を人の役に立てるって。ただ、それは自分で考えている以上に重いことだったんだなって認識して。黒江さんに嘘はつきたくない。」
「それならね、坊や……。」
 白野の携帯が鳴った。
「黒江さんからだ、歓迎会の最中だろうに。」
「出たまえ。」
 言われるまでもない。応答のボタンをタップする。
「あ、もしもし黒江ですけど。今大丈夫?」
 黒江の声が、白野には清涼剤のように感じられた。
「ああ、大丈夫だけど、黒江さん歓迎会じゃ?」
「そうだけど、白野さん合コンの幹事お願いできない、っていうか一緒にやろ。」
「合コン?」
 視界の片隅で蔵良がにやっと笑うのが見えた。
「そう、女子寮の人とやろ。」
「いいけど、急にどうしたの?」
「いや、話してて合コンをやることになっちゃって、一緒に幹事やろ。」
「うん、まぁいいけど。」
「じゃあ一緒に幹事やろうね。決まりだよ。」
「わかった、先生たちと話があるから、明日また電話するね。」
「うん、じゃあ頑張ってね。」
 電話は切れた。
「なんだい、坊や、合コンだって?」
「はい、歓迎会で話をしててやることになって、一緒に幹事やろうと。」
「ふぅ~ん。」
「なんですか?」
「こりゃ、あんた見限られたかもね。」
「そんな、超能力者として付き合えるのは、ここにいる人間だけなんですよ、見限られるなんて。」
「そりゃ超能力者仲間としては付き合えるかもしれないけど、男と女としては、また別かもね。」
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