おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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吉良の根回し

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「それはどういう意味でしょう?」
「そのままだ。もう君にできることは無い。」
「俺はクビですか?」
「何故そうなる。今後もバイトは続けてくれ。ただ、今日は、黒江ちゃんのそばにいたまえ。彼女も緊張で疲れているだろうし。」
「わかりました。」
「今日は、自室に帰りなさい。甲斐も襲撃してこない。黒江ちゃんも寮に帰るよう伝えてくれたまえ。」 
「何故、襲撃が無いと?」
「甲斐は解散届を出すことで自分に万が一のことがあれば、下の者が自分に脅されたと主張できるようにしたい。とすれば、この解散届が警察に届くまでことを起こすのを控える必要がある。」
「なる程、わかりました。」

 吉良は、白野と別れてから駅に足を向けた。渋谷に向かうためだ。
 駅に行く道すがら、姉田弁護士に電話をかける。
「はい、姉田です。」
「もしもし、吉良ですが。」
「吉良先生、何かご用でしょうか?」
「うちの若いのが甲斐と接触して、組の解散届をもらって来た。甲斐は、君に届けるよう依頼したようだ。それを、私が君の代理人として渋谷署に提出するが、よろしいかね?」
「わかりました。それにしてもどこで?」
「八王子だそうだ。大学をサボって何をしていたのやら。」
 遊んでいたかのように言う。
「地方の子でしたら、ドラマかアニメの聖地巡りというところではないでしょうか。」
「聖地巡礼と言うやつか。ニュースで見たことくらいはあるが。」
「それより、逮捕された後の話ですが。」
「わかっている。弁護団には参加する。」
「よろしくお願いします。では、メッセンジャーの方も。」
 電話は切れた。
 ちょうど新宿駅に着いた。改札を通り山手線のホームへの階段を上る。
 ホームで電車を待ちながらもう一つ電話をかける。
「はい渋谷署です。」
「弁護士の吉良と申します。甲斐組組長甲斐史朗の件でお話ししたいことがありますので、4係につないで頂けますか。」
 電話が切り替えるのにさほど時間はかからなかった。
「4係係長の富井です。甲斐の件でお電話だそうですが。」
「初めまして、弁護士の吉良と申します。甲斐組の解散届を預かっておりますのと、甲斐史朗の居場所についてお話ししたいことがあります。」
「電話で済む話でなさそうですな。今どちらですか?」
「新宿駅です。そちらに伺ってよろしいでしょうか?」
「結構です。お待ちしております。」
 電話は切れた。
 ホームに入ってきた電車に乗った。
 外を見ながら白野の話でわかったことを頭の中で箇条書きにしてみる。

 ・甲斐は八王子に潜伏中である。
 ・甲斐は武装しており警察相手に死者を出すレベルの戦闘を行う意志と用意がある。
 ・甲斐は新星会に敵意は無いが、江戸川や自分、白野をはじめとする職員にも殺意がある。

「女性陣には死んだ方がマシな扱いをするかもしれん。」
 黒江の魅力を認めている以上、その可能性はある。

 白野に事態は離れていると言ったが、吉良にとっても既に事態は、処理能力を越えている。
 もはや警察に委ねる以外手は無い。もともと甲斐を逮捕させるつもりだったのだ。白野は、銃撃戦で死傷者が出ることを恐れているようだが、では如何に対処するのか、問いただしたところで答えはあるまい。
 ここに至るに自分にも責任なしと言えぬ以上白野にとやかく言わなかったが、危険なことをしてと、一発殴りつけたい気持ちもあった。

 渋谷署に着くと、2人の男が待っていた。白いものの混じった角刈りの、いかにもたたき上げといった風情の男が声をかけてきた。
「お待ちしておりました。4係の富井です。」
「芹野です。」
「弁護士の吉良です。夜分遅くにご対応いただきありがとうございます。」
 すぐに応接室に案内された。
 名刺交換をして、話を切り出した。
「こちらが甲斐組の解散届です。」
「3代目甲斐史朗か。」
 富井は封を切った。中の書状を改める。
「血判とは。」
 そう言う表情は、心なしか寂しげに見える。
「その解散届は、八王子で受け取りました。具体的な住所は……。」
「ありがとうございます。早急に確認します。」
「通報が遅れたのは、脅されたからです。その辺はご承知おき願います。」
「どのように?」
「通報すれば警察は当然出動します。その警官相手に銃撃戦をやり、殺害すると。優しい子でしてね、人が死ぬのに耐えられないのですよ。」
「わかりました。現場に向かう警官には防弾チョッキを着用するよう伝えます。」
「それだけでなく、手榴弾などで武装しています。相応の対策を。」
「本当ですか?何故そのようなことまでご存知なのですか?」
「独自の情報源とだけ。」
「ひょっとして新星会の江戸川さんですかな。」
「……コメントは差し控えさせて頂きます。」
「貴重な情報に感謝します。昨今、暴力団から直接情報をとることは、至難ですので。」
 間を取ることで、情報源を誤解させることに成功した。いくらなんでも甲斐のパソコンからファイルをコピーしたなど言えない。
「そうなるともはや所轄の能力を超えておりますな。本庁に情報を上げます。」
 そう言って傍らの芹野に指示を出した。
 支持を受けた芹野が応接室を出ると富井は煙草を咥え火を点けた。
 紫煙をくゆらす。
「お疲れのようですな。」
「甲斐が消えて渋谷の裏社会のパワーバランスが揺らぎました。お陰で半グレどものみならず、暴力団まで色々と動きを見せています。おかげで仕事が増える一方です。」
「ご苦労さまです。」
「正直、新法やらなんやらで旧来のヤクザが力を失い、半グレ共が幅を利かそうとする中で、あいつだけがその半グレ共を統制できていたんです。3件あいつがらみの拳銃チャカを摘発しましたが、あいつが破門になっても口を割らなかったのがいますよ。鳶井という男ですけど。」
「ほう。」
「厳しくはあったが気前が良く、堅気には礼儀正しい。ある意味昔のヤクザ像を体現するようなところがあった。私も最初出会ったときは、いけすかないインテリヤクザと思ったんですが、なかなかどうして大した男ですよ。」
 確かに、甲斐が一角の男であることは認める。直接会ったのは事務所に来た一度だけだが、誇りを持って自分をヤクザと断言した姿勢は好感を持てた。後20年若ければ今のような陣容な事務所であっても顧問を引き受けたかもしれない。
 だが、拳銃を流すことは許せない。武装し、己を陥れたと恨んで人を襲うことを許容できない。
 ましてや、闇に潜み、暴力をもって社会と相対することなど、言語道断である。
「最悪は……。」
 己が手を見た。  
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