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第5.5章 モリオン
第135歩目 はじめての別れの挨拶!①
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前回までのあらすじ
ニケさんとアルテミス様の間でなにかあったらしい!
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本日より『5.5章』がスタートとなります。
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□□□□ ~挨拶は基本です~ □□□□
ニケさんとのデートの翌日。
早速、アテナが希望する海都ベルジュに向けて旅の準備を始めることにした。
王都から海都に向けては船旅となる。
何気に船旅は人生においても初めてなのでちょっと楽しみだ。
まずは船の手配をすべく冒険者ギルドに立ち寄った。
コシーネさん曰く、出港は3日後とのことなので、その間に色々と所用を済ませてしまおう。
すると、
───くいくいっ!
「ねぇー。はやくいこー(・ω・´*)」
「はいはい」
もう既に飽きてしまったのか、はたまた、この後の買い物が楽しみなのか、アテナが急かしてきた。
ギルドに到着してまだ5分かそこらしか経っていないというのにこの有り様.....。耐え性なさすぎっ!
「はーやーくー!はーやーくー!!」
「ちょっと待てって!.....と言うか、鬱陶しいんだよ!このくそ駄女神がっ!!」
その後も何度も俺の服の袖を引っ張って、しつこく急かしてくるアテナ。
さすがにいい加減ウザくなってきたので払いのけることにした。
いつも食っちゃ寝しているだけの存在だ。
ニケさんのようにステータスが高い訳でもないこの駄女神は、俺に払いのけられると、まるで「おむすびコロリン♪コロコロリン♪」と、某漫画のように華麗にころころと転げ回っていった。
そして、
「げべっ!?」
ギルドの壁に衝突するとともに女の子が出しちゃいけない声で喘いだ。
まぁ、それはいいのだが、せめてめくれてしまったワンピースをなんとかして欲しい。
大事な部分がモロ見えになっていて、冒険者の視線を一心に集めてしまっている。特に男の!
「い、いたーい.....。ふつー、女の子を払いのけるー?」
「いいから前を隠せよ。丸見えだぞ.....。
と言うか、そもそもお前なんかただのおっぱいとしてしか見ていないからな?」
「だれがおっぱいよおおおおおヽ(`Д´#)ノ」
頬を膨らませ、ぷんぷんと憤るアテナを無視して乗船手続きを進めていく。
バカに構っていたら乗船手続きだけで日が暮れてしまう。
この後も買い物があるのだから、バカに構っている暇などない。
そんな俺とアテナのやり取りを見て、
「お二人は相変わらずですね。騒々しいですが、微笑ましくもあります。
しかし、数日後にはこのギルドも静かになってしまうと思うとなんだか寂しいですね」
「.....HAHAHA。毎度毎度、お騒がせしてすいません」
てきぱきと乗船手続きをしているコシーネさんは能面ながらも寂しさを漂わせている。
アテナは普段はうるさい厄介者に扱われてはいるものの、なんだかんだ言って、この王都のギルドでもみんなから愛されているのは事実だ。
天真爛漫で裏表のない性格が、ギルド職員から冒険者まで幅広く可愛がられている要因なのだろう。
───ぱんぱん
「これでいいー(。´・ω・)?」
ワンピースに付いた埃を叩いて衣服を整え終わったアテナが問題ないかと尋ねてくる。おぉ.....。
ここまでの過程を、あのアテナが、あの駄女神が、あのおっぱいが一人でやり遂げたのだ。
出会った当初から考えればもの凄い進歩である。思わず、うるっと涙ぐんでしまった。
本来、衣服を整えることぐらい付き人である俺がやればいいことだ。.....あれ?これが既に付き人脳なのか!?
しかし、ドールが昨日より『姉さま補完計画』を立ち上げたらしく、自分で出来ることは自分でやらせるようにしているらしい。
とは言え、アテナのことだから、どうせ長続きはしないだろう。
全く期待してはいないのだが、それでも、やる気がある内はやらせてみようと思う。
「いいぞ。よく出来たな。えらいぞ!」
「ありがとー( ´∀` )b」
良くできました◎とアテナにサムズアップ。
それを見たアテナも、えへんっと胸を張りドヤ顔でサムズアップ返し。かわいい。
『子供は誉めて伸ばせ!』
これは俺とドールの間での共通の認識だ。
だから、アテナが頑張ったらどんどん誉めるつもりだ。
調子に乗りやすいアテナを誉めに誉め、おだてにおだて、このやる気を維持してもらう高等かつ陳腐な作戦という訳だ。
・・・。
そう、ドールと綿密に話し合った訳なのだが.....。
「.....」
ドールからの誉め言葉が一向に聞こえてこない。
なにもドールを連れてきていない訳ではない。
今日も忠誠バカらしく、しっかりと俺に付いてきている。
では、何をしているかというと.....。
───ふぁさふぁさ!
先程から、ずっと俺の腕に二本の尻尾を激しく打ち付けて、まるで「早くせいっ!」とでも主張しているかのような愛らしい行動を見せている。もっふもふ~。
「.....」
「わかった!わかったから!!.....もう少し待ってろ。な?」
落ち着きがなくそわそわしているドールもアテナに劣らず、この後の買い物を楽しみにしているようだ。
今回の買い物は旅支度と先日のアテナの面倒を見てもらったお礼も兼ねている。
だから、早く買い物に行きたい気持ちはよくわかるのだが.....。
「お前ら。お世話になった人達、とりわけコシーネさんにはちゃんと挨拶をしろよ.....」
今回ギルドに立ち寄ったのは、なにも船の手配をしに来ただけではない。
旅に出るに辺り、お世話になった人々、特にコシーネさんに別れの挨拶をしにきたのもある。
ただ俺とは違い、アテナやドールがコシーネさんに直接なにかをしてもらったことは何もない。
それでも、立ち寄る度に能面ながらも二人に気さくに話し掛けてくれていたのは事実だ。挨拶ぐらいするのは礼儀だろう。
「竜殺し様。私は構いませんので、お気になさらず」
「いえ、ダメです。礼儀ですから」
コシーネさんが遠慮するも俺が認めず。
こういうのは疎かにしていると将来に悪影響を及ぼす。なぁなぁであってはいけないと思う。
ニケさんからアテナを預かっている以上、更にはドールの主人である以上、二人の教育は俺の責務だ。
二人に視線を飛ばして挨拶を促す。
「まだー?はやくしてよー」
「.....。(そわそわ)」
だが、反応はイマイチだった。
と言うよりも、完全にシカトこきやがった。
(こ、このくそガキどもがっ!!)
だから、
「.....挨拶しないなら買い物はなし」
「えっ Σ(・ω・*ノ)ノ 」
「むむむっ!?」
小憎たらしい表情をしているアテナとドールに死刑宣告を突き付けた。
俺が財布を握っている以上、俺の意見に従ってもらうのが道理だ。
例えるなら、料理を作る人がメニューを決める訳で、そのメニューに文句があるなら自分で作れや!ってやつだ。
(そもそも、挨拶なしとか.....。コシーネさんに失礼だろ!)
譲る気のない俺は二人に再度挨拶を促す。
これで挨拶をしなかったら、買い物は本当に中止にしよう。
いや、旅支度は必要だから、二人にはお留守番をさせよう。
「ほら、挨拶」
「ぶー(´-ε -`).....ばいばーい」
「.....ふん。世話になったのじゃ」
ぶー垂れ、めんどくさそうに挨拶をするアテナ。
コシーネさんには興味がないと謂わんばかりにぞんざいな挨拶をするドール。
(こ、こいつら.....)
結局、買い物をしたい二人は折れるしかなかった。
折れるしかなかったのだが、その折れかたがあまりにも酷すぎる。
「なんかすいません。どうしようもないやつらで.....」
「いえいえ。お気になさらず」
申し訳なさそうに謝る俺に、コシーネさんも能面ではあるが、どこか苦笑しているようだ。
別れの挨拶をしに来たというのに本当に申し訳ない。
後で二人にはおしおきとして、ほっぺたをおもいっきりつねってやろう。
・・・。
なんやかんやあったが、無事乗船手続きが完了したようだ。
アテナが鬱陶しいので、手早くコシーネさんと別れの挨拶を交わす。
「今までお世話になりました」
「こちらこそ。竜殺し様には『王都発の大英雄』として随分と貢献して頂き誠に感謝しております」
「.....HAHAHA。とりあえず、また立ち寄る機会がありましたら、その時はよろしくお願いします」
「その時はギルドをあげて歓迎させて頂きます。本当にありがとうございました」
さて、別れの挨拶ならばこれぐらいで十分だろう。
ただ、最後ぐらいはコシーネさんの能面を崩してみたいと思うのが人情ではないだろうか。
だから、ここでとっておきを繰り出そうと思う。
「再び立ち寄ったその時は、コシーネさんはギルド長または本部の幹部ですかね?
聞きましたよ?昇進されるとか。おめでとうございます」
「耳が早いですね。ありがとうございます。これも竜殺し様のおかげです」
うぐぐっ!さすがプロ。
嬉しそうな雰囲気は伝わるものの、この情報ではコシーネさんの能面を崩すこと能わず。手強いっ!
───くいくいっ!
───ふぁさふぁさ!
───くいくいっ!
───ふぁさふぁさ!
「.....」
アテナとドールの催促が強まってきた。
これ以上待たせるのはさすがに忍びない。だから、ここで秘中の秘を繰り出すことにした。
「仕事を頑張るのもいいですが、ほどほどにしてくださいよ?お腹の赤ちゃんにも響きますからね」
「!!!」
なんで知ってるの!?とでも言いたげな表情で驚くコシーネさん。
ついにその能面の牙城を崩すことに成功した。よっしゃあああああ!
しかし、ここは敢えて大物ぶる。
竜殺しとしての威厳ってやつがあるからね。
「俺の情報網を甘く見ないで頂きたいですね」
「さ、さすがは竜殺し様です.....」
大物ぶったのが功を奏したのか、コシーネさんは素直にヨイショしてくれたがなんてことはない。
偶々酒場でコシーネさんの旦那さんと出会い、その時コシーネさんのおめでたを聞いただけなのだから。
何はともあれ、コシーネさんの人間らしい部分を引き出すことができて大満足だ。
これで思い残すことなくスッキリとした気分で旅に出ることができる。
「それでは失礼します」
「どうかお気をつけて。.....竜殺し様の旅に女神様のご加護があらんことを」
「んー?わたしー(。´・ω・)?」
「黙れ」
こうして、乗船手続きとコシーネさんへの別れの挨拶を済ますことができた。
残る挨拶は時尾夫妻とナイトさん。それと.....、嫌だけどサキだけだ。
「はやくいくよー( ´∀` )」
「主!主!妾は既に欲しいものに目星をつけてあるのじゃ!早速買いにいくのじゃ!」
(本当に欲望に忠実なやつらだなぁ.....)
出港までにはまだまだ時間はある。旅の準備も含めて、この3日間でしっかりと済ませてしまおう。
アテナとドールに引っ張られつつ、俺はそう計画立てていくのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、本編『はじめての別れの挨拶!②』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日のひとこま
~海都の次はどこに行く?~
「主!主!これはどうじゃ?似合うかの?」
「うん。似合うな。いい感じだ」
「そうであろう。そうであろう。これはどうじゃ?」
「それもいいな。.....と言うか、ドールは何を着てもかわいいと思うが?」
コシーネさんに別れの挨拶を済ませた俺は旅支度も兼ねて買い物に来ていた。
そこで先日の礼も兼ねて、ドールのオシャレに付き合っている訳だ。
「むっ!?そ、そうか?ならばこれも買いじゃな」
「お、おう。(しまった!これはもしや.....誉めれば誉めただけ買わされるやつか!?)」
「船内ではパーティーとやらがあるのであろう?ならば主の奴隷として主を辱しめぬ服を探さねばな」
「あ~、なるほど。.....あれ?上手く丸め込まれた?」
「知らぬな」
「まぁ、先日の礼もあることだし、好きに選んでくれ」
「言われずともそうするのじゃ」
「はいはい。さいですか」
奴隷という身分にも関わらず、相変わらず遠慮のないことだ。
だが、如何にもドールらしい。それに俺としてもこのほうが気を遣わずに済む。
「ところで、海都の次はどこに行くのじゃ?ここのように長滞在する訳ではないのであろう?」
「そうだな。食べるもん食べたら旅に出ようと思う。行き先は.....。ドール、尻尾触ってもいいか?」
「唐突じゃな。まぁ良かろう」
「ありがとう」
───もふもふ
「やっぱりドールの尻尾は最高だ」
「くふふ。そうであろう。そうであろう。至高の尾に触れられることを感謝せよ」
「はは~。ドール様ありがとうごぜえます~。.....ごほん。それで行き先なんだがな」
「うむ」
「帝国アクアリオだっけ?そこを目指そうと思う」
「!!」
「ドールも早く母親に会いたいだろ?どうなるかはわからないが、とりあえず行ってみようと思う」
「主.....」
ドールの主人として、ドールを幸せにしてあげたい。子作り以外で!
次の目的地は決まった。海都ベルジュに、帝国アクアリオだ。
ニケさんとアルテミス様の間でなにかあったらしい!
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本日より『5.5章』がスタートとなります。
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□□□□ ~挨拶は基本です~ □□□□
ニケさんとのデートの翌日。
早速、アテナが希望する海都ベルジュに向けて旅の準備を始めることにした。
王都から海都に向けては船旅となる。
何気に船旅は人生においても初めてなのでちょっと楽しみだ。
まずは船の手配をすべく冒険者ギルドに立ち寄った。
コシーネさん曰く、出港は3日後とのことなので、その間に色々と所用を済ませてしまおう。
すると、
───くいくいっ!
「ねぇー。はやくいこー(・ω・´*)」
「はいはい」
もう既に飽きてしまったのか、はたまた、この後の買い物が楽しみなのか、アテナが急かしてきた。
ギルドに到着してまだ5分かそこらしか経っていないというのにこの有り様.....。耐え性なさすぎっ!
「はーやーくー!はーやーくー!!」
「ちょっと待てって!.....と言うか、鬱陶しいんだよ!このくそ駄女神がっ!!」
その後も何度も俺の服の袖を引っ張って、しつこく急かしてくるアテナ。
さすがにいい加減ウザくなってきたので払いのけることにした。
いつも食っちゃ寝しているだけの存在だ。
ニケさんのようにステータスが高い訳でもないこの駄女神は、俺に払いのけられると、まるで「おむすびコロリン♪コロコロリン♪」と、某漫画のように華麗にころころと転げ回っていった。
そして、
「げべっ!?」
ギルドの壁に衝突するとともに女の子が出しちゃいけない声で喘いだ。
まぁ、それはいいのだが、せめてめくれてしまったワンピースをなんとかして欲しい。
大事な部分がモロ見えになっていて、冒険者の視線を一心に集めてしまっている。特に男の!
「い、いたーい.....。ふつー、女の子を払いのけるー?」
「いいから前を隠せよ。丸見えだぞ.....。
と言うか、そもそもお前なんかただのおっぱいとしてしか見ていないからな?」
「だれがおっぱいよおおおおおヽ(`Д´#)ノ」
頬を膨らませ、ぷんぷんと憤るアテナを無視して乗船手続きを進めていく。
バカに構っていたら乗船手続きだけで日が暮れてしまう。
この後も買い物があるのだから、バカに構っている暇などない。
そんな俺とアテナのやり取りを見て、
「お二人は相変わらずですね。騒々しいですが、微笑ましくもあります。
しかし、数日後にはこのギルドも静かになってしまうと思うとなんだか寂しいですね」
「.....HAHAHA。毎度毎度、お騒がせしてすいません」
てきぱきと乗船手続きをしているコシーネさんは能面ながらも寂しさを漂わせている。
アテナは普段はうるさい厄介者に扱われてはいるものの、なんだかんだ言って、この王都のギルドでもみんなから愛されているのは事実だ。
天真爛漫で裏表のない性格が、ギルド職員から冒険者まで幅広く可愛がられている要因なのだろう。
───ぱんぱん
「これでいいー(。´・ω・)?」
ワンピースに付いた埃を叩いて衣服を整え終わったアテナが問題ないかと尋ねてくる。おぉ.....。
ここまでの過程を、あのアテナが、あの駄女神が、あのおっぱいが一人でやり遂げたのだ。
出会った当初から考えればもの凄い進歩である。思わず、うるっと涙ぐんでしまった。
本来、衣服を整えることぐらい付き人である俺がやればいいことだ。.....あれ?これが既に付き人脳なのか!?
しかし、ドールが昨日より『姉さま補完計画』を立ち上げたらしく、自分で出来ることは自分でやらせるようにしているらしい。
とは言え、アテナのことだから、どうせ長続きはしないだろう。
全く期待してはいないのだが、それでも、やる気がある内はやらせてみようと思う。
「いいぞ。よく出来たな。えらいぞ!」
「ありがとー( ´∀` )b」
良くできました◎とアテナにサムズアップ。
それを見たアテナも、えへんっと胸を張りドヤ顔でサムズアップ返し。かわいい。
『子供は誉めて伸ばせ!』
これは俺とドールの間での共通の認識だ。
だから、アテナが頑張ったらどんどん誉めるつもりだ。
調子に乗りやすいアテナを誉めに誉め、おだてにおだて、このやる気を維持してもらう高等かつ陳腐な作戦という訳だ。
・・・。
そう、ドールと綿密に話し合った訳なのだが.....。
「.....」
ドールからの誉め言葉が一向に聞こえてこない。
なにもドールを連れてきていない訳ではない。
今日も忠誠バカらしく、しっかりと俺に付いてきている。
では、何をしているかというと.....。
───ふぁさふぁさ!
先程から、ずっと俺の腕に二本の尻尾を激しく打ち付けて、まるで「早くせいっ!」とでも主張しているかのような愛らしい行動を見せている。もっふもふ~。
「.....」
「わかった!わかったから!!.....もう少し待ってろ。な?」
落ち着きがなくそわそわしているドールもアテナに劣らず、この後の買い物を楽しみにしているようだ。
今回の買い物は旅支度と先日のアテナの面倒を見てもらったお礼も兼ねている。
だから、早く買い物に行きたい気持ちはよくわかるのだが.....。
「お前ら。お世話になった人達、とりわけコシーネさんにはちゃんと挨拶をしろよ.....」
今回ギルドに立ち寄ったのは、なにも船の手配をしに来ただけではない。
旅に出るに辺り、お世話になった人々、特にコシーネさんに別れの挨拶をしにきたのもある。
ただ俺とは違い、アテナやドールがコシーネさんに直接なにかをしてもらったことは何もない。
それでも、立ち寄る度に能面ながらも二人に気さくに話し掛けてくれていたのは事実だ。挨拶ぐらいするのは礼儀だろう。
「竜殺し様。私は構いませんので、お気になさらず」
「いえ、ダメです。礼儀ですから」
コシーネさんが遠慮するも俺が認めず。
こういうのは疎かにしていると将来に悪影響を及ぼす。なぁなぁであってはいけないと思う。
ニケさんからアテナを預かっている以上、更にはドールの主人である以上、二人の教育は俺の責務だ。
二人に視線を飛ばして挨拶を促す。
「まだー?はやくしてよー」
「.....。(そわそわ)」
だが、反応はイマイチだった。
と言うよりも、完全にシカトこきやがった。
(こ、このくそガキどもがっ!!)
だから、
「.....挨拶しないなら買い物はなし」
「えっ Σ(・ω・*ノ)ノ 」
「むむむっ!?」
小憎たらしい表情をしているアテナとドールに死刑宣告を突き付けた。
俺が財布を握っている以上、俺の意見に従ってもらうのが道理だ。
例えるなら、料理を作る人がメニューを決める訳で、そのメニューに文句があるなら自分で作れや!ってやつだ。
(そもそも、挨拶なしとか.....。コシーネさんに失礼だろ!)
譲る気のない俺は二人に再度挨拶を促す。
これで挨拶をしなかったら、買い物は本当に中止にしよう。
いや、旅支度は必要だから、二人にはお留守番をさせよう。
「ほら、挨拶」
「ぶー(´-ε -`).....ばいばーい」
「.....ふん。世話になったのじゃ」
ぶー垂れ、めんどくさそうに挨拶をするアテナ。
コシーネさんには興味がないと謂わんばかりにぞんざいな挨拶をするドール。
(こ、こいつら.....)
結局、買い物をしたい二人は折れるしかなかった。
折れるしかなかったのだが、その折れかたがあまりにも酷すぎる。
「なんかすいません。どうしようもないやつらで.....」
「いえいえ。お気になさらず」
申し訳なさそうに謝る俺に、コシーネさんも能面ではあるが、どこか苦笑しているようだ。
別れの挨拶をしに来たというのに本当に申し訳ない。
後で二人にはおしおきとして、ほっぺたをおもいっきりつねってやろう。
・・・。
なんやかんやあったが、無事乗船手続きが完了したようだ。
アテナが鬱陶しいので、手早くコシーネさんと別れの挨拶を交わす。
「今までお世話になりました」
「こちらこそ。竜殺し様には『王都発の大英雄』として随分と貢献して頂き誠に感謝しております」
「.....HAHAHA。とりあえず、また立ち寄る機会がありましたら、その時はよろしくお願いします」
「その時はギルドをあげて歓迎させて頂きます。本当にありがとうございました」
さて、別れの挨拶ならばこれぐらいで十分だろう。
ただ、最後ぐらいはコシーネさんの能面を崩してみたいと思うのが人情ではないだろうか。
だから、ここでとっておきを繰り出そうと思う。
「再び立ち寄ったその時は、コシーネさんはギルド長または本部の幹部ですかね?
聞きましたよ?昇進されるとか。おめでとうございます」
「耳が早いですね。ありがとうございます。これも竜殺し様のおかげです」
うぐぐっ!さすがプロ。
嬉しそうな雰囲気は伝わるものの、この情報ではコシーネさんの能面を崩すこと能わず。手強いっ!
───くいくいっ!
───ふぁさふぁさ!
───くいくいっ!
───ふぁさふぁさ!
「.....」
アテナとドールの催促が強まってきた。
これ以上待たせるのはさすがに忍びない。だから、ここで秘中の秘を繰り出すことにした。
「仕事を頑張るのもいいですが、ほどほどにしてくださいよ?お腹の赤ちゃんにも響きますからね」
「!!!」
なんで知ってるの!?とでも言いたげな表情で驚くコシーネさん。
ついにその能面の牙城を崩すことに成功した。よっしゃあああああ!
しかし、ここは敢えて大物ぶる。
竜殺しとしての威厳ってやつがあるからね。
「俺の情報網を甘く見ないで頂きたいですね」
「さ、さすがは竜殺し様です.....」
大物ぶったのが功を奏したのか、コシーネさんは素直にヨイショしてくれたがなんてことはない。
偶々酒場でコシーネさんの旦那さんと出会い、その時コシーネさんのおめでたを聞いただけなのだから。
何はともあれ、コシーネさんの人間らしい部分を引き出すことができて大満足だ。
これで思い残すことなくスッキリとした気分で旅に出ることができる。
「それでは失礼します」
「どうかお気をつけて。.....竜殺し様の旅に女神様のご加護があらんことを」
「んー?わたしー(。´・ω・)?」
「黙れ」
こうして、乗船手続きとコシーネさんへの別れの挨拶を済ますことができた。
残る挨拶は時尾夫妻とナイトさん。それと.....、嫌だけどサキだけだ。
「はやくいくよー( ´∀` )」
「主!主!妾は既に欲しいものに目星をつけてあるのじゃ!早速買いにいくのじゃ!」
(本当に欲望に忠実なやつらだなぁ.....)
出港までにはまだまだ時間はある。旅の準備も含めて、この3日間でしっかりと済ませてしまおう。
アテナとドールに引っ張られつつ、俺はそう計画立てていくのだった。
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後書き
次回、本編『はじめての別れの挨拶!②』
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今日のひとこま
~海都の次はどこに行く?~
「主!主!これはどうじゃ?似合うかの?」
「うん。似合うな。いい感じだ」
「そうであろう。そうであろう。これはどうじゃ?」
「それもいいな。.....と言うか、ドールは何を着てもかわいいと思うが?」
コシーネさんに別れの挨拶を済ませた俺は旅支度も兼ねて買い物に来ていた。
そこで先日の礼も兼ねて、ドールのオシャレに付き合っている訳だ。
「むっ!?そ、そうか?ならばこれも買いじゃな」
「お、おう。(しまった!これはもしや.....誉めれば誉めただけ買わされるやつか!?)」
「船内ではパーティーとやらがあるのであろう?ならば主の奴隷として主を辱しめぬ服を探さねばな」
「あ~、なるほど。.....あれ?上手く丸め込まれた?」
「知らぬな」
「まぁ、先日の礼もあることだし、好きに選んでくれ」
「言われずともそうするのじゃ」
「はいはい。さいですか」
奴隷という身分にも関わらず、相変わらず遠慮のないことだ。
だが、如何にもドールらしい。それに俺としてもこのほうが気を遣わずに済む。
「ところで、海都の次はどこに行くのじゃ?ここのように長滞在する訳ではないのであろう?」
「そうだな。食べるもん食べたら旅に出ようと思う。行き先は.....。ドール、尻尾触ってもいいか?」
「唐突じゃな。まぁ良かろう」
「ありがとう」
───もふもふ
「やっぱりドールの尻尾は最高だ」
「くふふ。そうであろう。そうであろう。至高の尾に触れられることを感謝せよ」
「はは~。ドール様ありがとうごぜえます~。.....ごほん。それで行き先なんだがな」
「うむ」
「帝国アクアリオだっけ?そこを目指そうと思う」
「!!」
「ドールも早く母親に会いたいだろ?どうなるかはわからないが、とりあえず行ってみようと思う」
「主.....」
ドールの主人として、ドールを幸せにしてあげたい。子作り以外で!
次の目的地は決まった。海都ベルジュに、帝国アクアリオだ。
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